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特集・調査2026年9月25日

SECの「イノベーション免除」とは何か|米国上場株のトークン取引に5年間の特例、その全条件と一連の措置

米国の株式市場を監督する証券取引委員会(SEC)は2026年9月17日、米国の上場株をトークンにしてブロックチェーン上で売買する新しい市場を、5年間の期限付きで認めました。取引所として登録しなくても、決められた条件を守れば運営できる特例で、SECはこれを「イノベーション免除」と呼んでいます(SECのプレスリリース)。対象は本物の株式に裏付けられたトークンだけで、銘柄数と出来高には上限があり、企業は自社株がそこで取引されることを拒否できます。日本の居住者がそのまま参加できるかは各市場の参加基準と日本の法令次第ですが、株式をブロックチェーン上で直接売買する市場を米国が公式に認めた転換点です。

本記事では、SECの命令書(Release No. 34-106402)をもとに、何が決まり、何を売買でき、どんな条件が付き、誰が使えるのかを整理し、最後に一連の措置の中での位置づけと残る論点をまとめます。

  1. 何が決まったのか|取引所の登録なしで運営できる5年間の特例
  2. 何を売買できるのか|本物の株式に裏付けられたトークンだけ
  3. 主な条件|小さめの上限、発行体の拒否権、10分以内の公開
  4. 誰が使えるのか|米国の許可制の市場。DeFiでも海外向け商品でもない
  5. どう見るか|一連の措置の中での位置づけと残る論点
  6. アナリストコメント

1. 何が決まったのか|取引所の登録なしで運営できる5年間の特例

SECは、株式トークンを売買する場を「トークン化証券ベニュー(TSV)」と名づけ、条件を守れば取引所として登録せずに5年間運営できるようにしました。TSVは、許可した参加者向けに売買のプールを提供し、誰がそこで取引できるかの基準を決める運営者です。命令は、TSVを証券取引所法上の「取引所」の定義から外すことで、取引所やATS(注3)としての登録を求めない形にしました。あわせて、自己資金でプールに株式トークンの流動性を供給する事業者を「ディーラー」の定義から外す免除も含まれています。命令書はこの事業者をCovered Firmと呼んでいます。効力は2026年9月17日から2031年9月17日までの5年間です。

TSVの売買の仕組みは、株式取引所のように注文板で売り手と買い手を突き合わせる方式ではありません。暗号資産の取引で使われている「自動マーケットメーカー(AMM、注1)」という仕組みを使います。あらかじめ資産を預けてあるプールが取引の相手になり、相手を探さずにその場で売買が成立します。両替所の窓口で手持ちの通貨を交換するのに近い仕組みで、レートは一般にプールの中の資産の比率をもとに決まり、売買のたびに動きます。

取引所の定義から外れる理由は、既存の株式市場のルールとAMMの相性にあります。米国の取引所には、他の市場のより良い価格を無視して約定してはならないといったRegulation NMS(注4)の規則が適用されます。命令書は、AMMの価格が一般にプール内の資産の比率で決まり外部の価格を直接は参照しないため、TSVがこの規則を守るのは難しいと例示したうえで、TSVを取引所の定義から外しました。取引所でもATSでもないTSVには、Regulation NMSは適用されません。命令書はこの免除を、将来のルール作りの要否をSECが検討する間の暫定措置と位置づけており、Atkins委員長は声明で「この暫定措置の後には、恒久的なルール作りが続かなければならない」と述べています(Atkins委員長の声明)。

免除されないものもあります。不正防止・相場操縦防止の規定はそのまま適用され、証券の募集・売出しに関する登録義務も免除されません。命令書は、TSVの利点になり得るものとして、24時間の取引、即時に近い決済、投資家自身による保管を挙げています。

2. 何を売買できるのか|本物の株式に裏付けられたトークンだけ

TSVで売買できるのは、米国の証券取引所に上場する株式やETF(命令書の用語では「NMS株」、注2)をトークンにしたものに限られます。発行体自身がトークン化した株式と、発行体と無関係の第三者がトークン化した株式の2種類が対象で、どちらも保有者が原株と同じ権利を持つことが条件です。第三者が自社の証券として発行し、株価に連動する値動きだけを与える「合成型」のトークンは対象外です。新株引受権とワラントも除かれています。

トークン化した株式と組み合わせて取引できる資産は3種類です。別の株式トークン、米ドルなどに価値を連動させたステーブルコインのように証券に当たらない暗号資産(注5)、トークン化したマネー・マーケット・ファンド(MMF、注6)です。TSVで新しく株式を発行したり公募したりすることはできず、既に発行済みの株式のトークンを流通させる場だけが想定されています。

対象を本物の株式型に限る整理は、2026年1月にSECのスタッフが出した「トークン化証券に関する声明」の類型分けに沿っています。この声明は、トークン化証券を発行体型、第三者保管型、第三者合成型の3つに分け、形式にかかわらず証券法が適用されると述べていました(SECスタッフの声明)。

3. 主な条件|小さめの上限、発行体の拒否権、10分以内の公開

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