オンチェーンとは、取引や処理をブロックチェーン上で直接実行し、その結果を台帳に記録することです。暗号資産の送金だけでなく、決済・証券・預金の記録をどこで処理するかを表す言葉として、金融や事業会社の資料にも登場するようになりました。
日本では2023年6月1日に電子決済手段の新しい制度が始まり、2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」には「オンチェーン金融の推進」が明記されました。人だけでなく、AIエージェントが銀行口座ではなくウォレットで支払う場面も想定され始めており、自社の支払い・精算・資産管理のどの記録をブロックチェーンに載せるかが検討項目になりつつあります。
- オンチェーンは、ブロックチェーン上での実行と記録を指す言葉
- オフチェーンとの差は、透明性と速度・コストの優先度
- 骨太の方針2026にオンチェーン金融の推進を明記
- 活用領域は決済、証券、預金、監査、AIエージェントの支払い
- 全処理を載せず、載せる記録の選定から始める検討
株式会社Pacific Metaが運営する編集チームです。ステーブルコイン、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン、NFTなどのトークン活用や、オンチェーン金融、AI×ブロックチェーン領域の事業開発・実装、暗号資産の基礎知識と国内取引所の使い方まで、ブロックチェーン事業の支援で得た知見をもとに記事の企画・執筆・監修を行っています。編集部や運営会社の詳細は公式サイトと編集方針をご覧ください。
オンチェーンとは
オンチェーンとは、取引や処理をブロックチェーン上で直接実行し、その結果を台帳に記録することです。処理と記録をどこで行うかの区分を表す言葉で、特定の技術や製品の名前を指すものではありません。
オンチェーンの意味と語源
オンチェーンは英語の「on-chain」で、ブロックチェーンの「チェーンの上で」という意味です。ブロックチェーンは取引をまとめたブロックを鎖のようにつないで記録する仕組みで、その台帳の上で送金や契約の処理を行うことを指します。
反対の言葉がオフチェーン(off-chain)で、チェーンの外で処理する方式を指します。たとえば「この取引はオンチェーンで決済する」と言えば、送金の実行と記録の両方がブロックチェーン上で完結することを意味します。
オンチェーンに記録された情報の特徴
公開型のブロックチェーンでは、参加者が同じ台帳を共有して取引を確かめる仕組みが取られています。そのため、オンチェーンに記録された取引は一社だけで書き換えることが難しく、第三者があとから記録を検証できる点が特徴です。
公開チェーンでは、取引履歴を閲覧できるサービスもあります。社内システムのように管理者だけが記録を見る形とは違い、記録の正しさを取引相手や監査人が自分で確かめられる点が、企業がオンチェーンに関心を持つ理由の一つです。
オンチェーンとオフチェーンの違い
オンチェーンとオフチェーンの違いは、処理と記録をブロックチェーンの上で行うか外で行うかです。使い分けは、透明性と、速度・コストのどちらを優先する処理かで決まります。
<table> <thead><tr><th>比較軸</th><th>オンチェーン</th><th>オフチェーン</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>処理場所</td><td>ブロックチェーンの台帳上</td><td>チェーンの外(社内システム等)</td></tr> <tr><td>記録の公開範囲</td><td>公開チェーンでは誰でも参照できる</td><td>管理者と関係者に限られる</td></tr> <tr><td>速度と処理件数</td><td>ネットワークの処理能力に左右される</td><td>自社システムの能力で決まる</td></tr> <tr><td>手数料</td><td>取引ごとにネットワーク手数料が発生</td><td>システム運用費として発生</td></tr> <tr><td>改ざん耐性と検証</td><td>第三者が台帳で検証できる</td><td>管理者の統制と監査に依存</td></tr> </tbody> </table>
違い①:記録の公開範囲
オンチェーンの取引は、公開型のブロックチェーンであれば送金元・送金先のアドレスや金額を誰でも参照できます。一方、オフチェーンの記録は社内データベースなどに置かれ、閲覧できるのは管理者と許可された関係者だけです。
ただし、公開されるのはアドレスであり、氏名や社名がそのまま載るわけではありません。誰がどのアドレスを使っているかが分かると取引が追えるため、企業が使うときは公開してよい情報の範囲を先に決める必要があります。
違い②:処理速度と処理件数
オンチェーンの処理は、ネットワーク全体で取引を確かめてからブロックに記録されるため、確定までに一定の時間がかかります。処理できる件数もネットワークの能力に左右されます。
オフチェーンの処理は自社システムの中で完結するため、大量の取引を短時間でさばく用途に向きます。チェーンの外でまとめて処理し、結果だけをブロックチェーンに記録する方式も使われており、両者を組み合わせる設計が一般的です。
違い③:手数料の発生の仕方
オンチェーンでは、取引のたびにネットワーク手数料が発生します。イーサリアムではこの手数料をガス代と呼び、取引が失敗した場合でも支払いが必要です。
オフチェーンには取引ごとのネットワーク手数料はなく、費用はシステムの開発・運用費として発生します。少額で件数の多い処理をすべてオンチェーンにすると手数料が積み上がるため、処理の単価と件数を見て載せ方を決めます。
違い④:改ざん耐性と検証の方法
オンチェーンの記録は参加者が共有する台帳に残るため、一社の判断で書き換えることが困難です。取引相手や監査人は、相手のシステムに頼らず台帳そのものを見て記録を検証できます。
オフチェーンの記録の正しさは、管理者の内部統制と外部監査で担保します。改ざんを防ぐ仕組みはありますが、検証には管理者側の協力が必要です。複数の会社が同じ記録を信頼して使う場面では、この差が設計の判断材料になります。
オンチェーンが日本で注目されている理由
オンチェーンという言葉は、暗号資産の売買の話から、決済・証券・預金を扱う金融インフラの話へと広がっています。日本では制度と政府方針の両面で事実が積み上がり、事業会社も検討対象になる段階に入りました。
- 電子決済手段の制度が整った
- 政府方針にオンチェーン金融が明記された
- 預金や証券のトークン化が進んでいる
- AIエージェントがオンチェーンで支払える
注目される理由①:電子決済手段の制度が整った
2022年6月の資金決済法改正で「電子決済手段」が新たに定義されました。日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。
金融庁の案内によると、2023年6月1日から電子決済手段等取引業などの新しい制度が始まり、国内でこうした仲介を営むには登録が必要になりました。さらに改正資金決済法が2026年6月1日に施行され、オンチェーンで円建ての決済を行うための法的な土台が整ってきています。
注目される理由②:政府方針にオンチェーン金融が明記された
2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針2026)には、アセットオーナーの機能向上や家計の資産形成促進と並んで、「オンチェーン金融の推進を図る」と明記されました。
政府の基本方針に書かれたことで、オンチェーンは一部の技術者や暗号資産の利用者だけの話ではなくなりました。金融機関や事業会社の経営資料でも、検討テーマとして取り上げやすくなっています。
注目される理由③:預金や証券のトークン化が進んでいる
骨太の方針2026の脚注では、オンチェーン金融を「ブロックチェーン上で、トークン化預金、ステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流等のデータ管理ともプログラムによって連動・一体化される金融」と定義しています。
証券の分野では、NTTとTCリースの第2回無担保セキュリティトークン社債が、デジタルアセットの発行・管理基盤「Progmat」を使って発行されました(2026年3月の共同リリース)。預金や社債といった既存の金融商品がオンチェーンで扱われ始めていることが、注目が高まる理由です。
注目される理由④:AIエージェントがオンチェーンで支払える
AIエージェントは銀行口座を開設できませんが、ウォレットを持つことはできます。ステーブルコインのようなオンチェーンの支払い手段であれば、プログラムが条件に応じて自動で支払いを実行することが可能です。
AIが調達や精算を代行する場面が増えると、人が振込操作をする前提の決済では間に合わなくなります。AIエージェント同士の取引までを視野に入れると、支払い手段をオンチェーンに置く意味は大きくなり、「経済の自動運転」と呼ばれる構想にもつながります。
オンチェーンの仕組み
オンチェーンの取引は、次の5つの段階を経て台帳に記録されます。
- 利用者がウォレットで取引内容に署名する
- 署名した取引をネットワークに送信する
- ネットワークの参加者が取引の正しさを検証する
- 検証された取引がブロックに格納される
- ブロックが台帳につながり、取引が確定する
この流れのなかで企業が設計するのは、誰が署名し、どの条件で自動実行され、手数料を誰が負担するかの3点で、それぞれをウォレット、スマートコントラクト、ガス代が担います。
構成要素①:ウォレットと署名
ウォレットは、ブロックチェーン上の資産を管理し、取引に署名するための仕組みです。署名には秘密鍵と呼ばれる暗証情報を使い、署名があることで「このアドレスの持ち主が取引を承認した」ことを台帳上で証明します。
企業で使う場合は、誰が秘密鍵を持ち、どの金額から複数人の承認を必要とするかを決めることが、社内の決裁ルールをオンチェーンに移す作業になります。秘密鍵を失うと資産を動かせなくなるため、管理方法の設計が欠かせません。
構成要素②:スマートコントラクト
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上に置かれ、あらかじめ決めた条件を満たすと処理を実行するプログラムです。たとえば「納品の記録が登録されたら代金を支払う」といった取り決めを、プログラムとして台帳上に置けます。
オンチェーン金融で言われる「資金決済と商流データの連動」は、このスマートコントラクトで実現します。人の確認作業を減らせる一方で、プログラムの誤りもそのまま実行されるため、事前の検証が重要です。
構成要素③:ガス代(手数料)
オンチェーンの取引にはネットワーク手数料がかかり、イーサリアムではガス代と呼びます。ガス代は「使用したガス量×ガス単価」で決まり、ETHの単純な送金に必要なガス量は21,000です。
手数料はプロトコルが決める基本手数料と、優先して処理してもらうための優先手数料に分かれます。ネットワークが混雑すると手数料は上がるため、取引件数の多い業務では手数料の負担者と上限を決めておく必要があります。
オンチェーンを含む関連用語
「オンチェーン」は単独でも使われますが、データ・分析・金融・ガバナンスといった語と組み合わせて使われることが多い言葉です。社内で話すときは、どの用語の話かを特定してから議論すると認識のずれを防げます。
<table> <thead><tr><th>用語</th><th>意味</th><th>主に使う人</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>オンチェーンデータ</td><td>ブロックチェーンに記録された取引や残高のデータ</td><td>開発者、分析担当</td></tr> <tr><td>オンチェーン分析</td><td>オンチェーンデータを集計して資金の流れを把握する手法</td><td>投資家、調査・コンプライアンス担当</td></tr> <tr><td>オンチェーン金融</td><td>資金決済と商流・物流データをブロックチェーン上で連動させる金融</td><td>金融機関、政策担当、事業会社</td></tr> <tr><td>オンチェーンガバナンス</td><td>ブロックチェーン上の投票でルール変更などを決める仕組み</td><td>プロジェクト運営者、トークン保有者</td></tr> </tbody> </table>
関連用語①:オンチェーンデータ
オンチェーンデータとは、ブロックチェーンに記録された取引履歴やアドレスごとの残高などのデータです。公開型のチェーンでは誰でも取得できます。
企業から見ると、オンチェーンデータは取引先と共有できる記録になります。自社と取引相手が同じデータを見て照合できるため、請求と入金の突き合わせのような作業を減らす材料として検討されます。
関連用語②:オンチェーン分析
オンチェーン分析とは、アドレスの残高や送金履歴を集計し、資金の流れを把握する手法です。投資判断の材料として使われるほか、不審な資金の動きを調べる調査にも用いられます。
ステーブルコインやセキュリティトークンを扱う企業にとっては、受け取った資金の出どころを確認する手段になります。顧客の取引を監視する体制をどう組むかは、オンチェーンの事業を始めるときの論点の一つです。
関連用語③:オンチェーン金融
オンチェーン金融とは、骨太の方針2026の定義では「ブロックチェーン上で、トークン化預金、ステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流等のデータ管理ともプログラムによって連動・一体化される金融」です。
ポイントは、お金の移動と取引データの管理が一体化する点です。モノの受け渡しと代金の支払いを別々のシステムで管理し、あとで照合する現在の流れを、一つの台帳で完結させる構想と言えます。
関連用語④:オンチェーンガバナンス
オンチェーンガバナンスとは、ブロックチェーンのルール変更や資金の使い道を、トークン保有者による台帳上の投票で決める仕組みです。投票の結果も台帳に記録されます。
企業の業務利用で直接使う場面は限られますが、利用するチェーンのルールが投票で変わる可能性がある点は把握しておく必要があります。チェーンを選ぶ段階で、仕様変更がどのように決まるかを確認します。
企業におけるオンチェーンの活用領域
企業がオンチェーンを検討するときに考えるのは、既存の銀行送金・証券管理・社内承認記録のどれをオンチェーンに置き換えるかという業務単位の判断です。主な領域を整理すると次のとおりです。
<table> <thead><tr><th>領域</th><th>オンチェーンに載せる記録</th><th>置き換える既存の仕組み(旧から新へ)</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>決済と送金</td><td>支払い・送金の履歴</td><td>銀行振込からステーブルコイン送金へ</td></tr> <tr><td>証券の発行と管理</td><td>保有者・権利移転の記録</td><td>証券の名簿管理からセキュリティトークンへ</td></tr> <tr><td>預金の移転</td><td>預金の移転と決済</td><td>銀行間の振替からトークン化預金へ</td></tr> <tr><td>支払いの記録と監査</td><td>支払い・承認の記録</td><td>社内の承認ログと事後監査から台帳上の記録へ</td></tr> <tr><td>AIエージェントの支払い</td><td>エージェントの支払い履歴</td><td>人による振込操作からウォレットでの自動支払いへ</td></tr> </tbody> </table>
活用領域①:決済と送金(ステーブルコイン)
国内では、JPYC株式会社が資金移動業者として日本円建てのステーブルコイン「JPYC」を2025年10月27日に発行開始しました。JPYCは資金決済法上の電子決済手段で、発行残高の100%以上を日本円の預貯金と国債で保全しています。
対応チェーンはEthereum、Avalanche、Polygon、Kaiaの4つです。金融庁や三井住友銀行、JPYC、Circleなどが登壇したJapan Stablecoin Summit #2(Pacific Meta主催)のように、発行体・銀行・当局が同じ場で実務を議論する機会も増えています。銀行振込の代わりにオンチェーンで円を送る選択肢が、国内で現実のものになりました。
活用領域②:証券の発行と管理(セキュリティトークン)
セキュリティトークンは、社債や不動産の受益権などの証券をブロックチェーン上のトークンとして発行する仕組みです。国内では「Progmat」のような発行・管理基盤が稼働しています。
NTTとTCリースの第2回無担保セキュリティトークン社債は、このProgmatを使って発行されました。保有者の記録や権利の移転をオンチェーンで管理することで、証券の名簿管理や移転の手続きを台帳上で扱えるようになります。
活用領域③:預金の移転(トークン化預金)
トークン化預金は、銀行の預金をブロックチェーン上のトークンとして表し、移転や決済を行う仕組みです。骨太の方針2026の定義でも、ステーブルコインと並ぶオンチェーン金融の決済手段として挙げられています。
預金のまま台帳上で動かせるため、銀行の預金という信用を保ったままプログラムと連動した決済を目指す取り組みです。企業間の決済や資金管理で、ステーブルコインとどちらを使うかが今後の検討論点になります。
活用領域④:支払いの記録と監査
支払いや承認の記録をオンチェーンに残すと、記録があとから書き換えられていないことを第三者が確認できます。これにより、月末や期末にまとめて行っていた確認作業を、取引の時点で行う形に変えられます。
当社(Pacific Meta)の事例では、企業の支払い・承認をチェーン上に記録し、AIが全トランザクションを自動チェックする自社プロダクト「Onchain Audit」を開発しています。記録をオンチェーンに置くと、全件を確認する監査の設計が可能になります。
活用領域⑤:AIエージェントの支払い
AIエージェントが仕入れやサービスの利用料を自動で支払う場面では、銀行口座ではなくウォレットとステーブルコインが支払い手段の候補になります。支払いの上限や支払先をスマートコントラクトで制限すれば、エージェントに任せられる支払いの範囲を台帳上で管理できます。
人が振込を承認する前提の業務フローは、エージェントの処理速度に合いません。どの支払いをエージェントに任せ、どこで人が承認するかを決めることが、この領域の最初の論点です。
オンチェーンに関するよくある誤解
オンチェーンという言葉は、断片的な情報から実際と違う理解をされることがあります。よく見かける説明と実際を対にして確認すると、社内での誤った前提を防げます。
<table> <thead><tr><th>よくある誤解</th><th>実際</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>全情報が公開される</td><td>公開範囲はチェーンの種類と設計で変えられる</td></tr> <tr><td>暗号資産の取引だけを指す</td><td>決済・証券・預金の記録にも使われる</td></tr> <tr><td>載せれば記録は常に正しい</td><td>入力した内容が誤っていれば誤りが残る</td></tr> <tr><td>すべての処理を載せるべき</td><td>オフチェーンとの併用が一般的</td></tr> </tbody> </table>
誤解①:全情報が公開される
公開型のチェーンでは取引履歴を誰でも参照できますが、すべてのブロックチェーンが公開型ではありません。参加者を限定するチェーンもあり、どの情報を載せ、誰に見せるかは設計で決められます。
公開チェーンを使う場合でも、機密情報そのものではなく記録の証明だけを載せる方法があります。「オンチェーンにすると社外秘が漏れる」と一律に判断せず、載せる情報の中身で検討します。
誤解②:暗号資産の取引だけを指す
オンチェーンは暗号資産の送金の話として知られてきましたが、現在は社債や預金、支払いの承認記録までが対象になっています。骨太の方針2026が示すオンチェーン金融も、商流・物流のデータ管理と資金決済の連動を扱うものです。
自社が暗号資産を扱わない会社であっても、決済や記録の仕組みとして検討の対象になります。
誤解③:載せれば記録は常に正しい
オンチェーンの記録は改ざんが難しい一方で、最初に入力された内容が正しいかどうかまでは保証しません。誤った請求額を記録すれば、誤った記録がそのまま改ざんされにくい形で残ります。
記録の正しさは、入力の段階での確認や、外部データとの照合で担保する必要があります。オンチェーンが保証するのは「記録された後に書き換えられていないこと」です。
誤解④:すべての処理をオンチェーンにすべき
すべての処理をオンチェーンで行うと、手数料や処理時間、情報の公開範囲の面で無理が出ます。実際には、大量の処理はオフチェーンで行い、重要な結果だけをオンチェーンに記録する併用の設計が多く取られています。
オンチェーンにする価値があるのは、複数の会社が同じ記録を信頼して使う処理や、改ざんされていないことを示す必要がある記録です。
オンチェーンのリスクと設計上の注意点
オンチェーンの導入では、技術の不具合だけでなく、情報公開や法規制の面でも損失が生じえます。リスクごとに起きる損失と緩和策を対で把握することが設計の出発点になります。
<table> <thead><tr><th>リスク</th><th>起きる損失</th><th>緩和策</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>個人情報・機密情報の公開</td><td>取引先や取引条件の流出</td><td>証明のみ載せる、参加者限定チェーンの採用</td></tr> <tr><td>手数料と処理遅延の変動</td><td>想定外のコスト、決済の遅れ</td><td>オフチェーン処理との併用、手数料上限の設定</td></tr> <tr><td>スマートコントラクトの不具合</td><td>誤った送金、資産の流出</td><td>第三者による監査、段階的な導入</td></tr> <tr><td>秘密鍵の管理と法規制への対応</td><td>資産の喪失、業規制への抵触</td><td>複数人承認、規制の事前確認</td></tr> </tbody> </table>
リスク①:個人情報や機密情報の公開
公開チェーンに取引内容を載せると、アドレスと取引先が結び付いた時点で、取引の相手や金額、頻度が外部から分かるようになります。一度記録した情報はあとから消せません。
緩和策は、個人情報や契約条件をそのまま載せず、記録の存在を証明するデータだけを載せる方法や、参加者を限定したチェーンを選ぶ方法です。オフチェーンのデータベースと組み合わせ、公開する情報を最小限にします。
リスク②:手数料と処理遅延の変動
ネットワークが混雑すると手数料が上がり、処理の確定にも時間がかかります。イーサリアムでは需要が多いとき、優先手数料を高く設定しないと処理が後回しになります。
月末の支払いが集中する業務などでは、想定外のコストや決済の遅れにつながります。件数の多い処理はオフチェーンでまとめ、結果だけをオンチェーンに記録する設計や、手数料の上限を決める運用で備えます。
リスク③:スマートコントラクトの不具合
スマートコントラクトは条件を満たすと自動で実行されるため、プログラムに誤りがあると、誤った送金もそのまま実行されます。台帳に記録された取引は取り消しが難しく、不具合による損失を事後に戻せないことがあります。
公開前に第三者のセキュリティ監査を受け、少額・限定的な範囲から運用を始めることが一般的な対策です。
リスク④:秘密鍵の管理と法規制への対応
秘密鍵を失ったり盗まれたりすると、オンチェーンの資産を動かせなくなるか、不正に移される恐れがあります。一人の担当者に鍵を集中させない仕組みが必要です。
法規制の面では、電子決済手段の仲介には登録が必要です。また、2026年7月に成立した金融商品取引法等改正法により、暗号資産を金融商品取引法の対象に移す部分は公布済みですが未施行で、施行日は政令で定められます。事業スキームによって必要な登録や手続きが変わるため、検討の初期に規制を確認します。
オンチェーン導入を検討する進め方
オンチェーンの導入は、どの業務のどの記録を載せるかを決めるところから始め、技術の選定はその後に行います。検討は次の4段階で進めると、部門間の判断を整理しやすくなります。
- 載せる業務と記録を決める
- 規制と会計の扱いを確認する
- チェーンと運用体制を選ぶ
- PoCで事業化を判断する
進め方①:載せる業務と記録を決める
最初に、決済・証券管理・承認記録のうち、どの業務をオンチェーンに置き換えるかを決めます。判断の基準は、複数の会社が同じ記録を使うか、改ざんされていないことを示す必要があるかです。
社内だけで完結し、速度が重視される処理は、オフチェーンのままのほうが合理的な場合があります。事業部門と経理部門が一緒に、現在の業務フローのどこで照合や確認の手間がかかっているかを洗い出します。
進め方②:規制と会計の扱いを確認する
扱うものがステーブルコインか、セキュリティトークンか、暗号資産かで、関係する法律と必要な登録が変わります。電子決済手段の仲介には資金決済法などに基づく登録が必要で、暗号資産の扱いは金融商品取引法の改正で変わる予定です。
会計処理や税務の扱いも、扱う資産の種類で変わります。法務部門と経理部門を検討の初期から入れることで、設計をやり直す事態を避けられます。
進め方③:チェーンと運用体制を選ぶ
次に、公開型か参加者限定型か、どのチェーンを使うかを選びます。判断材料は、情報の公開範囲、手数料、処理件数、取引相手が使っているチェーンです。
あわせて、秘密鍵の管理方法、スマートコントラクトの監査、障害時の対応を誰が担うかを決めます。自社で運用するか、外部の事業者に委託するかも、この段階で決める論点です。
進め方④:PoCで事業化を判断する
PoC(概念実証)は、事業化するかを判断する材料として設計します。削減できる作業時間、手数料を含むコスト、取引相手の参加意向を、判断の基準として事前に決めておきます。
基準を決めずに始めると、PoCが終わっても次に進むかを判断できません。経営層に何を示せば判断できるかから逆算して、検証項目を絞ります。
目的別チェックリスト
<table> <thead><tr><th>検討の目的・論点</th><th>確認すること</th><th>確認先</th><th>完了の判定</th></tr></thead> <tbody> <tr><td>自社業務で使えるか</td><td>照合・確認の手間が大きい業務と記録</td><td>事業部門、経理部門の業務フロー</td><td>オンチェーンに載せる記録が1つ以上決まっている</td></tr> <tr><td>法務・規制上の要否</td><td>扱う資産の法的区分と必要な登録</td><td>金融庁の公表資料、資金決済法、金融商品取引法</td><td>自社スキームに必要な登録・手続きの一覧がある</td></tr> <tr><td>会計・税務の処理</td><td>保有・送金時の会計処理と税務</td><td>会計基準、顧問の会計士・税理士</td><td>仕訳の方針が経理部門で合意されている</td></tr> <tr><td>チェーンと委託先の選定</td><td>公開範囲、手数料、取引相手の利用チェーン、鍵管理</td><td>チェーンの公式資料、委託候補の提案</td><td>チェーンと運用の担当範囲が決まっている</td></tr> <tr><td>情報公開範囲の設計</td><td>台帳に載せる項目と載せない項目</td><td>法務部門、情報セキュリティ部門</td><td>公開項目の一覧が承認されている</td></tr> </tbody> </table>
オンチェーンの検討で難しいのは、どの記録を載せるかという判断が、規制・会計・システムの複数の部門にまたがる点です。扱う資産の法的区分が変われば必要な登録も会計処理も変わり、チェーンの選び方まで連動して見直しが必要になるため、社内の一部門だけでは結論を出しにくくなります。構想段階から論点を整理する進め方は、ブロックチェーン事業の構想支援で紹介しています。
Pacific Metaのサービス
ブロックチェーンの事業構想・戦略設計を支援します。
業務課題の特定から適合性判断・PoC設計まで、導入検討の最初の一歩を伴走します。
事業構想・戦略設計サービスの詳細を見るオンチェーンに関するよくある質問
オンチェーンとオフチェーンはどちらを選べばよいですか
何を守りたいかによって答えが変わります。記録の改ざんされにくさではオンチェーンが優れ、機密情報を外部に出さない点ではオフチェーンが向いています。重要な記録の証明だけをオンチェーンに残し、詳細なデータはオフチェーンで管理する組み合わせが多く使われます。
オンチェーンの取引記録は誰でも見られますか
公開型のブロックチェーンであれば、アドレスごとの送金履歴や残高を誰でも参照できます。ただし表示されるのはアドレスで、氏名や社名がそのまま載るわけではありません。参加者を限定したチェーンでは、閲覧できるのは許可された参加者に限られます。
オンチェーンデータはどこで確認できますか
公開チェーンには、アドレスや取引の識別番号を入力すると取引履歴を表示するサービスがあります。企業がデータを業務で使う場合は、こうした閲覧サービスのほか、ブロックチェーンのデータを取得する仕組みを自社システムにつなぐ方法も検討されます。
企業がオンチェーンを使うのに暗号資産の購入は必要ですか
取引にはネットワーク手数料がかかり、イーサリアムでは手数料をETHで支払います。そのため、自社で直接取引を送る場合は手数料分の暗号資産を用意する必要があります。手数料の支払いを外部の事業者に委ねる構成もあるため、運用体制とあわせて確認します。
オンチェーンのまとめと検討の次の一歩
オンチェーンとは、取引や処理をブロックチェーン上で実行し、その結果を台帳に記録することです。オフチェーンとの違いは透明性と速度・コストのどちらを優先するかにあり、重要な記録をオンチェーンに、大量の処理をオフチェーンに置く併用が実務の基本になります。
日本では電子決済手段の制度が整い、骨太の方針2026にオンチェーン金融の推進が明記されました。決済・証券・預金・監査に加え、AIエージェントの支払いまでが検討対象に入り、自社のどの記録を台帳に載せるかが新規事業と業務効率化の共通の論点になっています。
載せる記録を一つ選ぶだけでも、取引相手の参加、規制上の区分、会計処理、鍵の管理体制を同時に決める必要があります。どの業務から始めるかを社内で決めきれないときは、論点を外部の知見と照らし合わせながら整理すると、検討を前に進めやすくなります。