近年、中国のアニメ業界が急成長を遂げています。
2022年現在、中国アニメはネット配信プラットフォームが確立され、市場規模はさらに拡大し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。
一方これまで世界一と言われてきた日本のアニメ業界は、年々縮小している状況にあります。
中国と日本のアニメ業界はお互い切り離せない関係があり、色々な問題が絡んでいます。
そこでPacific Metaマガジンでは、中国のアニメ業界と日本のアニメ業界の関係について以下の内容でご紹介していきます。
- 日本のアニメーターが中国企業に流出していること
- 中国企業の下請け会社になる日本のアニメ制作会社が増えていること
- 中国企業が日本拠点となるアニメ制作会社を設立していること
- 中国企業が日本人アニメーターを囲い込みたい理由について
- 中国企業へのアニメーターの人材流出の背景
- 中国企業のアニメーターの待遇は本当に良いのか
- クオリティが高いと評判のアニメの紹介
併せて日本・中国でアニメーターを目指している方にオススメの専門学校もご紹介していこうと思います。
アニメ業界で進む、中国企業へのアニメーターの人材流出
アニメ業界では2008年頃から日本のアニメーター人材が中国のアニメ企業へ流出するようになりました。
そして2022年現在、人材の流出は歯止めが利かない状況にあります。
ここでは、どういうルートで人材が中国企業に流出しているのかをご紹介していきます。
中国企業による日本人アニメーターの引き抜き
アニメーター人材の流出のひとつに中国企業による日本人アニメーターの引き抜きがあげられます。
中国では、2000年代のはじめからモーションキャプチャーの施設を国が整備したり、国産アニメを制作する会社に税の優遇をする・奨励金を提供するなど、国を挙げてアニメ産業の発展に力を入れてきました。
さらに国策として、アニメ放送に対してテレビ番組に厳しい規定を設けています。
中国アニメを国民に知らしめるため、2004年には海外アニメを規制し、放送枠も中国アニメが7割以下にならないように指定しました。
2008年になるとゴールデンタイムでの海外アニメ放送を禁止し、2013年には衛星チャンネルで毎日30分以上の中国アニメの放送を義務付けるなど、徹底して放送局に介入しています。
結果、中国のアニメ業界は目覚ましい発展を遂げました。
とは言え、中国では未だに他国アニメのキャラクターを模倣するなど、著作権を侵害する行為が横行し、問題になっていることも事実です。
そこで、日本の技術を持ったアニメーターの引き抜き、国内のアニメ技術向上を試みているわけです。
中国の求人情報では能力のあるアニメーターには厚遇をしていて、日本のアニメーターの平均年収の3倍ほどだというデータもあるそうです。
アニメーターを仕事にしている人にすれば、同じ仕事をして給料が3倍になるのであれば、そちらを選択するのは当然ですよね。
「アニメーター 給料」について詳しく知りたいという方は、こちらの記事もあわせてご覧ください!
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中国人アニメーターが日本で技術を取得しUターンするケースも
人材流出のもうひとつは、中国人のアニメーターが日本で研修を受け、じゅうぶんな技術を取得したのちにUターンしていくというものがあります。
日本のアニメ業界は、過酷な労働条件もあって常に人材不足です。
そこで、海外からの研修生を使ってアニメーションを作ることも多く、中国から来るアニメーターも多数在籍しています。
彼らは日本で企画や脚本製作に至るまでの技術を取得した後、優秀なアニメーターになって帰国していきます。
このことで日本は慢性的な人材不足に陥り、中国に腕の良いアニメーターが流出していくという構図ができあがってしまいました。
中国企業の「下請け」をする日本のアニメ制作会社が増えている
これまでアニメ業界では、日本で原作をしたものの一部を下請けとして中国企業に発注し、アニメーションを制作することが主流でした。
つまり、日本のアニメ産業を中国が支えるという関係だったわけですね。
ところが、昨今ではその関係にも逆転化が起きています。
先にも述べましたが、中国アニメーターと日本のアニメーターの賃金の差は多いところで3倍ほど。
反対に言えば、中国から日本のアニメーターに仕事を依頼したら3分の1ほどの料金で済むわけですから、中国企業が日本を下請けに使うようになるのもうなずけます。
中国企業が日本拠点となるアニメ制作会社を設立
また、中国のアニメ企業が日本国内でアニメ制作会社を設立し、日本人のアニメーターを雇用、中国向けアニメを作成するという動きも出てきました。
代表的な企業に2018年6月6日に設立された中国のテンセントグループが出資する中国のアニメ制作会社「彩色鉛筆動画」の日本法人、株式会社カラードペンシル社があります。
カラードペンシル社は、代表取締役を中国の「鄧(トウ)志巍(シギ)」氏が、取締役を日本の「江口文次郎」氏が務め、中国と日本の懸け橋になりたいというコンセプトのもとに設立されています。
高い技術力を持った日本人アニメーターを採用するため、日本のアニメ制作会社にはないような待遇を掲げているのが特徴です。
日本のアニメーターは、ほとんどがフリーランスであることはご存じの方も多いと思いますが、カラードペンシル社ではアニメーターが安定した収入を得られるように正社員登用にしています。
また、条件に応じて家賃や交通費を補助したり、残業が少なくなるような環境を作ったりとスタッフの待遇に尽力していることもあり、入社を希望するアニメーターからも注目される企業となりました。
カラードペンシル社の代表作は「マスターオブスキル劇場版」をはじめ、アニメ「Obey Me!」やゲーム「一人之下」のOPなどがあります。
親会社の「彩色鉛筆動画」は中国でも最大手のアニメ制作会社なので、今後次々と話題になる作品を提供していくことは想像に容易いですよね。
中国企業が日本人アニメーターを囲い込みたい理由
中国アニメ制作会社は上記のように色々な手段を使って日本人アニメーター人材の確保に邁進(まいしん)しています。
中国企業同士で日本人アニメーターの争奪戦も繰り広げられることもあるそうです。
なぜそこまでして日本人アニメーターを囲みこみたいのでしょうか。
詳細をご紹介したいと思います。
中国では海外ネットコンテンツの流通規制・検閲が強化
先に述べた通り、中国では国を挙げて国内アニメを推進しています。
厳しい報道規制をすることでも知られている中国は、海外ネットコンテンツについても流通を規制し、検閲を強化させてきました。
例えば中国の有名ネットコンテンツ「bilibili動画」ではこれまで視聴できていた日本アニメが軒並み視聴不可能になっています。
これはbilibili動画が中国政府による流通規制で日本のアニメを買い控えていることが原因です。
エンターテイメント・コンテンツ企業やテレビ会社では、これまで人気が高かった日本アニメを放送できなくなることで、アニメの放送枠が減ってしまいました。
そこで次々にアニメを制作していく必要が出てきます。
中国アニメは急成長を遂げていますが、技術的には足りない部分があり、充実した作品を提供するためには優秀な日本人アニメーターが必要になってくるのです。
「自社配信コンテンツ」を拡充させたい大手動画プラットフォーム
中国の「テンセント」は付加価値サービスとオンライン広告サービスを提供するホールディングカンパニーです。
Apple・Google・Amazon・Microsoftに並ぶ世界五大企業のうちの一社で、超大手動画プラットフォームとして有名ですね。
テンセントの株式の大半は外国の投資家が保有していて、多国籍企業という形態をとっているため、中国当局からの締め付けは厳しくなっています。
そこでテンセントは自社の配信コンテンツを拡充させていく必要がありました。
オリジナル作品をひっさげて他社との差別化を図りつつ、中国アニメ作品を推進する動きを中国当局に示すことは企業の発展につながります。
オリジナル作品を制作するには知識と経験が豊富な日本人アニメーターの存在が要になってきます。
中国企業へのアニメーターの人材流出の背景【日本側の抱える問題】
日本アニメは、世界に誇るサブカルチャーとして知られています。
本来はその文化を守り発展させるのが理想なのですが、残念なことに日本のアニメ文化は少しずつ衰退してしまっています。
ここで日本のアニメ制作の問題点を記載し、なぜ中国企業に日本人アニメーターの人材が流出しているのかを考察したいと思います。
①日本の若手アニメーターは低賃金・激務が問題視されていた
日本のアニメ制作はアニメをこよなく愛する人、アニメに憧れを抱く人が支えてきました。
仕事としてアニメ制作に携わる人は、日本の人口で言えばあまり多くありません。
その上アニメーターは技術職であり、若手のうちは見習い扱いで賃金は相当低いというのが現状です。
日本に古くからある「見習い制度」は現在の給与体系にそぐわないものが多く、なりたいと思う若手が減ってきました。
慢性的な人手不足ということもあり、業務内容は激務になってしまいます。
一説によれば若手アニメーターの仕事を時給換算するとわずか100円ほどだったという話があるほど。
若手時にアニメーターだけでは生活ができず掛け持ちでアルバイトをする人もいるということは、雇用的には異常です。
このような現状では、人材が中国企業に流れてしまうのは仕方がありませんね。
②作品がヒットしても制作会社は儲からない「製作委員会」方式
日本のアニメは作品のヒットと制作会社の利益が比例しないという問題点があります。
日本のアニメは「製作委員会方式」という形式でつくられることが主流となっています。
日本では、複数の企業が出資をした出資金でアニメが製作されます。
製作委員会方式とは、アニメが利益を上げれば出資比率に応じて利益を各企業へ分配する方式です。
ここで出資をした企業は、そのアニメのテレビ放映はもちろん、キャラクターの版権や海外展開、関連書籍の出版やグッズ販売権利などの権利ビジネスができる権利を得られます。
つまり、アニメ制作会社はいくらアニメがヒットしても、それに関わる収益が増えることはなく、収益が入るのは政策委員会の出資企業ということになります。
さらに問題なのは製作委員会には幹事企業システムというものがあることです。
※幹事企業とはアニメ製作にかかる総予算に対して他の委員会企業より多額の出資をしている会社のこと。
幹事企業は強力な発言権を持つため、様々な思惑や事情から製作予算を制限することも多々あります。
アニメ制作会社側の視点でみれば、ひとつのアニメを制作するのに1クール12話で2億円以上の予算が必要だと言われています。
けれども、例えば幹事企業が予算制限をして1億円5000万円で製作するように決定した場合、予算は必然的にその決定額になってしまいます。
すると、そのしわ寄せは全てアニメ制作会社に…。
アニメ制作会社は、仕事を下請けに出しながら回すので、下請けになればなるほど価格が下がる悪循環に陥ります。
これでは、勤務するアニメーターの給与が上がることはありませんね。
③制作本数の減少や新型コロナの影響による日本アニメ市場規模の縮小
2020年、「鬼滅の刃」をはじめ、劇場アニメの記録的な大ヒットが相次ぎ、日本のアニメ業界は安定路線のように感じた方も少なくないと思います。
ところが、2020年のアニメ制作本数は3年前の2018年より18%減少、さらに過去7年で最も低い水準となってしまいました。
更に2022年現在も新型コロナの影響でTVアニメ制作の納品の遅れや延期が多発し、アニメ制作本数の減少に歯止めがきかない状況にあります。
中国企業へのアニメーターの人材流出の背景【中国側のアニメ業界の急成長】
次に、中国企業にアニメーター人材が流出していく背景を中国視点で考察していきます。
①アニメ人気が高まり中国アニメ市場規模は3兆円超
中国政府の尽力により、2020年には中国のアニメ市場規模が3兆1000億円以上に成長しています。
事実、中国のアニメ規制がスタートした世代(2004年頃)、現在20代半ば以前の年齢層では「日本のアニメは見たことがない、興味がない」という意見も多く、中国の政策は成功したと言えます。
中国の人口は2022年現在、14億人を超えました。
日本同様、中国でも高齢化が進んでいるとは言え、一人っ子政策(国民は子供の数を1人とするという中国の政策)は解消されているので、アニメ市場の規模は今後拡大していくと考えられます。
需要がある以上、アニメーター人材が中国へ流れていくのは当然です。
②これまでの「下請け」の経験から日本アニメのノウハウを獲得
中国はこれまで日本アニメ制作会社の下請け企業として活躍してきました。
日本アニメを数多く制作してきた実績から、アニメ制作のノウハウを獲得している企業も多くあります。
日本人アニメーターが中国の企業に入社しても、同じようなノウハウを取得している企業であれば働きやすいですね。
③豊富な資金でアニメ制作の設備投資や環境整備
中国の大手アニメ制作会社は現在バブル期ということもあり、資金が豊富にあります。
アニメ制作のための設備には相当の投資をしており、職場の環境整備も充実しています。
日本のアニメーターの職場環境は決して良いと言えないところも多く、より良い環境で仕事がしたいと思うのは自然なことです。
実際、中国企業のアニメーターは日本と比べ好待遇なのか?
これまで、中国のアニメ制作会社が日本よりも好待遇である、と述べてきましたが、Twitterなどでは「本当に待遇が良いのか?」という声もあります。
中国のアニメ制作会社は日本よりも多く存在しています。
大手企業から下請けの小さな零細企業まで、会社の規模は様々なので、必ずしも好待遇であると言い切れないことに留意すべきですね。
好待遇が可能な企業は資金を豊富に持った大手アニメ制作会社だけだと思った方が良さそうです。
クオリティが高い!日本でも話題になった中国アニメ
最後に、近年の中国アニメのクオリティがどれくらい高くなってきたのかが分かる中国アニメを3作ほどご紹介しておきます。
羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)
こちらの作品は2019年9月に中国で公開された劇場版アニメで、原作は2011年から配信されたWEBアニメシリーズです。
アニメ放送開始より少しずつ人気が上がり劇場版として本作が製作されると大ヒットを記録し、日本でも話題になりました。
日本版は2020年11月に全国公開されています。
魔道祖師
「魔道祖師」は中国のオンライン小説をアニメ化したものです。
アニメの公開は2018年7月に開始され、制作は「視美影業」が行いました。
2020年9月からは中国語での放送が、2021年1月には日本語吹き替え版が放送されています。
紅き大魚の伝説
「紅き大魚の伝説」は2016年7月に公開されています。
2DとCGを組み合わせた手法で製作され、注目を浴びました。
日本では2017年第16回東京アニメアワードで公開されたのち、Netflixで配信されています。
クオリティの高さから、2018年4月にアメリカとイギリスでも上映された作品です。
中国や世界で活躍できるアニメーターを目指すなら専門学校
ここに、世界で活躍できるアニメーターを目指したいという夢を持っている方にオススメする専門学校を記載しておきます。
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アニメーターと中国についてのまとめ
今回Pacific Metaマガジンでは中国のアニメ業界とアニメーターについて、以下の内容をご紹介してきました。
- 中国アニメ制作企業は日本人アニメーターを引き抜いて採用していること
- 中国人アニメーターは日本アニメ制作会社で技術を学んでUターン就職をしていること
- 中国のアニメ企業が日本でアニメ制作会社を設立し、日本人アニメーターを雇用していること
- 中国が日本人アニメーターを囲い込みたい理由を検証
- 中国へアニメーターの人材流出が起こる背景を日本・中国それぞれの立場から検証
- 中国企業のアニメーターの待遇は必ずしも良いわけではないこと
- クオリティが高いと話題になった中国アニメ3作を紹介
- 世界で通用するアニメーターを目指す人にオススメの専門学校3校を紹介
中国アニメが更なる成長を遂げ、世界を巻き込むブームとなる日も遠くないかもしれません。
日本のアニメは世界に誇るサブカルチャーです。
このまま衰退してしまうとなれば世界中のアニメファンの喪失感は計り知れません。
これを機に日本アニメ業界にはどんどん内部変革をしてもらいたいですね!