ステーブルコインとは、米ドルや日本円などの法定通貨に価値を連動させるよう設計された、ブロックチェーン上のデジタルな決済手段です。日本では円建てのJPYCが2025年10月に発行を始め、信託型のJPYSCが2026年6月に続きました。3メガバンクも2026年度中の実取引開始をめざす方針を公表しています。
変化は国内制度だけではありません。米国では2025年7月にステーブルコイン発行体を規律するGENIUS法が成立しました。決済の主体も人からAIエージェントへ広がりはじめており、銀行口座を持てないエージェントの支払い手段として使われているのがステーブルコインです。
本記事は2026年8月20日時点の公表資料に基づき、仕組み・種類・規制・企業導入の論点を整理します。
- 定義は「法定通貨などに価値を連動させたブロックチェーン上の決済手段」。投機資産ではなく決済インフラの入れ替わりとして捉える
- 改正資金決済法は2025年6月6日成立・2026年6月1日施行。信託型の裏付資産運用が柔軟化し、仲介業が新設
- 円建てはJPYC(資金移動業型・2025年10月27日発行開始)とJPYSC(信託型・2026年6月24日提供開始)が稼働済み
- 市場全体の流通額はDefiLlama集計で約3,087億ドル(2026年8月20日時点)。USDT・USDCの米ドル建て2銘柄が大半
- 企業の検討はスキーム選定・会計税務・体制設計の3点が入口
株式会社Pacific Metaが運営する編集チームです。ステーブルコイン、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン、NFTなどのトークン活用や、オンチェーン金融、AI×ブロックチェーン領域の事業開発・実装、暗号資産の基礎知識と国内取引所の使い方まで、ブロックチェーン事業の支援で得た知見をもとに記事の企画・執筆・監修を行っています。編集部や運営会社の詳細は公式サイトと編集方針をご覧ください。
ステーブルコインとは
ステーブルコインとは、法定通貨などの特定資産に価値を連動させるよう設計されたデジタル資産です。代表は米ドルや日本円に連動する法定通貨建てのタイプで、送金・決済・清算・担保管理に使いやすい形を目指しています。
価格が需給だけで決まる一般的な暗号資産と異なり、発行体が準備資産を保有し、額面での償還を約束する設計によって価値を安定させます。日本の法制度でも扱いは分かれており、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。
市場の規模はすでに投機の実験と呼べる水準ではありません。DefiLlamaの集計ではステーブルコイン全体の流通額が2026年8月20日時点で約3,087億ドルでした。米ドル建てのUSDT(約1,829億ドル・DefiLlama集計)とUSDC(約724億ドル・Circle公表)の2銘柄が大半を占めます。
企業利用では次のような役割で検討されます。
- ブロックチェーン上の決済手段
- 国際送金・BtoB決済の手段
- RWA(リアルワールドアセット)・トークン化資産の決済通貨
- スマートコントラクト上の支払い手段
- オンチェーン金融における担保・清算手段
- 決済待機資金の管理手段
- AIエージェントの支払い手段
つまりステーブルコインは「価格が安定しやすいトークン」というだけでなく、ブロックチェーン上で金融取引を成立させる決済レイヤーにあたります。
日本でステーブルコインはいつから使えるのか
円建てステーブルコインはすでに使えます。JPYCが2025年10月27日に発行を開始し、信託型のJPYSCが2026年6月24日に提供を始めました。制度整備を待つ段階は終わり、企業は「使える手段を選ぶ」段階にいます。
この数年で急速に進んだ背景は3つあります。
- 暗号資産の価格変動を切り離した決済手段への需要
- 国際送金のコストと時間の課題
- AIエージェントが自律的に支払いを行う経済圏の立ち上がり
エージェントの決済はカードや銀行口座の本人確認モデルと相性が悪く、ウォレットベースのステーブルコイン決済が受け皿として実装されはじめています。
制度と発行の時系列は次のとおりです。
| 時期 | できごと | 企業実務への意味 |
|---|---|---|
| 2022年5月 | アルゴリズム型のUST(TerraUSD)が米ドルとの連動を失い崩壊 | 裏付け設計の重要性が規制論の出発点に |
| 2023年6月1日 | 資金決済法上の「電子決済手段」の枠組みが施行 | 法定通貨建てステーブルコインの国内ルールが整備 |
| 2025年6月6日 | 改正資金決済法が成立 | 信託型の運用柔軟化・仲介業新設が確定 |
| 2025年10月27日 | JPYCが資金移動業型として発行開始 | 円建てで実際に受け払いできる選択肢が登場 |
| 2026年5月22日 | 改正資金決済法の施行政令が公布 | 施行日が2026年6月1日に確定 |
| 2026年6月1日 | 改正資金決済法が施行 | 信託型の裏付資産運用が柔軟化、仲介業の登録制が開始 |
| 2026年6月10日 | 3メガバンクが共同発行に向けた方針を公表 | 2026年度中の実取引開始をめざす信託型の受け皿が始動 |
| 2026年6月24日 | JPYSCが信託型として提供開始 | 法定の送金上限がない円建て手段が登場(利用はSBI VCトレードの口座内に限られ、外部ウォレットへの移転は不可) |
| 2026年7月15日 | 金融商品取引法・資金決済法の改正法が成立 | 暗号資産は金商法規制へ移管予定(大部分は未施行) |
改正資金決済法が2026年6月1日に施行
2025年6月6日に成立した改正資金決済法は2026年5月22日の政令公布を経て2026年6月1日に施行されました。企業実務に関わる変更は主に2点です。
第一の変更は信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)における裏付資産運用の柔軟化です。一定の国債や中途解約可能な定期預貯金での運用が運用対象・組入比率の上限・元本毀損防止の要件つきで認められます。
第二の変更は電子決済手段・暗号資産のサービス仲介業の新設です。利用者の資産を預からずに取引を仲介する事業者が登録制のもとで参入できます。自社サービスにステーブルコインの利用導線を組み込みたい事業会社にとって選択肢が増えた変更です。
暗号資産を金商法へ移す改正法は成立済み・未施行
「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」は2026年7月15日に成立し、7月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。暗号資産の取引規制を資金決済法から金融商品取引法へ移し、インサイダー取引規制の創設などを盛り込む内容です。
注意したいのは施行の状態です。無登録業者への罰則引き上げなど一部は2026年8月12日に施行済みである一方、暗号資産の金商法移管という本体部分は2026年8月20日時点で未施行です。施行日は公布から1年以内の政令で定められます。法定通貨建てで額面償還が想定されるステーブルコインは、この改正後も資金決済法上の電子決済手段として整理される枠組みが維持されます。
ステーブルコインの仕組みと円建て決済手段の3類型
法定通貨建てステーブルコインの基本構造は「発行体」「準備資産」「利用者」「償還」の4者の関係で理解できます。発行体は法定通貨や短期国債などの準備資産を保有し、その裏付けに応じてトークンを発行します。利用者は送金・決済・担保・清算に使い、一定の条件のもとで法定通貨への償還を受けます。裏付けと償還の設計が、そのまま信用力の設計です。
国内で企業が接する円建てのデジタル決済手段は、法的な枠組みで3つに分かれます。ステーブルコインとして電子決済手段にあたるのは前二者で、預金トークンは法的な性質が異なります。「どの銘柄か」より先に「どの枠組みの発行物か」で、送金上限や裏付けの規律といった実務要件が決まります。
| 項目 | 資金移動業型(1号) | 信託型(3号・特定信託受益権) | 預金トークン(トークン化預金) |
|---|---|---|---|
| 発行主体 | 資金移動業者 | 信託銀行・信託会社 | 銀行 |
| 法的な整理 | 資金決済法上の電子決済手段 | 資金決済法上の電子決済手段 | 預金債権とする理解が一般的(移転のたびに銀行が関与する形態は1号電子決済手段の要件を満たさない) |
| 1件あたりの法定上限 | 第二種資金移動業は100万円以下(第一種はこれを超える送金が可能) | 法定の送金上限なし | 預金としての扱いに準じる |
| 裏付け | 未達債務の全額保全など資金移動業の規律 | 信託財産(2026年6月から一定の国債等での運用も可能) | 銀行預金そのもの |
| 代表例 | JPYC | JPYSC、3メガバンク共同発行(準備中) | DCJPY |
| 主な想定用途 | 少額・高頻度の決済、個人向け送金 | 大口決済、トークン化資産の決済 | 銀行ネットワーク内の企業間決済 |
100万円という数字は資金決済法施行令で定められた第二種資金移動業の1件あたり上限で、第三種はさらに少額の5万円以下です。「資金移動業型は一律100万円まで」と丸めず、類型と、発行・償還・送金のどの工程に上限がかかるかを分けて確認します。信託型に法定の送金上限がない点は、大口決済やトークン化資産の決済を検討する際の分岐になります。
なお預金トークンの決済手段としての実質は預金債権とする理解が一般的です。移転のたびに銀行が関与する形態は1号電子決済手段の要件を満たさないと金融庁の事務ガイドラインで整理されており、同庁金融研究センターのディスカッションペーパー(執筆者個人の見解)もこの整理を紹介しています。ステーブルコインとは法的な性質が異なります。
ステーブルコインの主な種類
ステーブルコインは、価値を安定させる仕組みによって4つに分類されます。名称だけで判断せず、裏付け資産・償還条件・発行体・規制上の整理を確認したうえで選ぶ領域です。
| 種類 | 価値の裏付け | 代表例 | 企業利用での確認点 |
|---|---|---|---|
| 法定通貨担保型 | 法定通貨・短期国債など | USDT、USDC、JPYC、JPYSC | 発行体、準備資産の開示、償還条件、送金上限 |
| 暗号資産担保型 | 暗号資産(過剰担保) | DAI | 担保比率、自動清算ルール、プロトコル運営体制 |
| コモディティ担保型 | 金などの実物資産 | 金連動型トークン | 法定通貨建て価格は変動する点、保管・監査体制 |
| アルゴリズム型 | 供給量調整などの市場メカニズム | UST(2022年に崩壊) | 乖離時の耐性、流動性、緊急時の対応 |
種類①:法定通貨担保型
米ドルや日本円などの法定通貨、またはそれに近い資産を裏付けとして発行されるタイプです。流通額の規模でも中心にあり、DefiLlama集計ではUSDTが約1,829億ドル、Circle公表ではUSDCが約724億ドル(いずれも2026年8月20日時点)と、市場の大半をこの型の上位2銘柄が占めます。企業の決済・送金の実務対象は、事実上この型に絞られます。
同じ法定通貨建てでも、発行体・準備資産・償還条件・法的な整理はそれぞれ異なります。円建てなら資金移動業型か信託型かで前章の実務要件が変わるため、銘柄名の前にスキームを確認します。
種類②:暗号資産担保型
暗号資産を担保として発行されるタイプです。担保資産自体の価格が変動するため、過剰担保や自動清算の仕組みが使われます。DefiLlama集計ではDAIの流通額は約47.7億ドル(2026年8月20日時点)で、法定通貨担保型の上位とは規模の桁が異なります。オンチェーン金融の担保・借入の文脈で使われる型で、企業の決済用途で選ぶ場面は限られます。
種類③:コモディティ担保型
金など特定資産への連動を目指すタイプです。金価格そのものが変動するため、法定通貨建ての価格が常に安定するわけではありません。企業決済よりも資産保全の文脈で扱われる分類です。
種類④:アルゴリズム型
担保資産ではなく、供給量調整などの市場メカニズムで価格安定を目指すタイプです。2022年5月には、崩壊前の時価総額が約180億ドルだったUST(TerraUSD)が米ドルとの連動を失い、米議会調査局の記録では一時0.12ドルまで下落しました。米連邦準備制度理事会の金融安定報告書は、価値を裏付ける資産をほぼ欠いた設計に加え、関連レンディングサービスの貸出金利低下と流動性不足が数日での完全な崩壊を招いたと整理しています。米議会調査局の記録では、このサービスは年利20%を提示していました。
この教訓は後の規制に直結しており、米国のGENIUS法は準備資産の1対1保有を義務づけ、保有者への利回り付与を禁止しました。企業が主要な決済手段としてアルゴリズム型を採用するには、相応の検証が前提になります。
ステーブルコインと混同されやすい用語の違い
ステーブルコインの周辺には、CBDC・預金トークン・電子マネーなど似た言葉が並びます。判別の軸は名称ではなく「誰が発行し、法的に何として整理されるか」です。
| 項目 | ステーブルコイン(法定通貨建て) | CBDC(中央銀行デジタル通貨) | 預金トークン | 電子マネー | 暗号資産一般 |
|---|---|---|---|---|---|
| 発行主体 | 資金移動業者・信託銀行など民間 | 中央銀行 | 銀行 | 事業会社など | 発行者が存在しない場合もある |
| 法的な整理 | 資金決済法上の電子決済手段(該当するもの) | 発行の可否自体が未決定 | 預金債権とする理解が一般的 | 前払式支払手段など | 暗号資産(金商法への移管を定めた改正法が成立・大部分未施行) |
| 価値の裏付け | 準備資産と額面償還の設計 | 中央銀行の債務 | 銀行預金 | 前払いされた対価 | 裏付けなし(需給で変動) |
| 状態(2026年8月時点) | JPYC・JPYSCが稼働 | 日本銀行がパイロット実験中 | DCJPYが限定的に稼働 | 広く普及 | 取引所を通じ流通 |
日本銀行のCBDCは2023年4月からパイロット実験が続いていますが、同行の進捗報告書は、発行するかどうか自体が現時点で決まっておらず今後の国民的議論のなかで決まるとしています。発行は未決定であり、制度対応の前提ではなく動向を追う対象として扱う段階です。
預金トークンの国内事例DCJPYは、2024年7月にネットワークが稼働し、同年8月28日にGMOあおぞらネット銀行発行分で実取引が始まりました。2026年4月にはSBI新生銀行がセキュリティトークン決済での実発行検証を発表しています。銀行預金の信用をそのまま持ち込める一方、稼働はまだ限定的な範囲にとどまります。
電子マネーは資金決済法上の前払式支払手段などとして整理され、電子決済手段の定義からは除外されています。不特定の相手への譲渡や法定通貨への償還を前提としない点がステーブルコインとの違いです。
企業におけるステーブルコインの活用領域
活用の検討は「自社のどの業務プロセスに当てはめるか」の特定から始まります。企業での検討領域は国際送金からAIエージェント決済まで広がっています。
活用領域①:国際送金・BtoB決済の効率化
海外子会社への送金や海外取引先への支払いで、ブロックチェーン上で直接価値を移転できます。複数の銀行や決済ネットワークを経由する従来の送金に比べ、着金までの時間や中継コストを抑えられるケースがあります。ただし取引先の受け入れ体制・利用チェーン・入出金経路・規制対応によって結果は変わり、すべてのケースで安く早くなるわけではありません。試算では法定通貨との入出金、KYC・AML、会計処理、送金上限まで含めて設計します。
活用領域②:スマートコントラクトによる自動決済
納品確認後の自動支払い、担保差し入れと決済の連動、収益分配・償還の自動化など、取引条件と決済を一体で設計できます。人手による照合作業を減らせる点が、決済手段の置き換えを超えた価値になります。
活用領域③:RWA・トークン化資産の決済
不動産・債券・売掛債権などをトークン化する場合、売買・配当・償還に使う決済手段が要ります。資産の権利移転と決済を同じブロックチェーン基盤上で扱えるかが設計の分かれ目で、ステーブルコインはその決済・清算を担います。
活用領域④:決済待機資金(フロート)の管理
オンチェーンで資産を取引する場合、決済用の資金をあらかじめチェーン上に置く設計が要ります。入金から支払いまでの間に滞留する待機資金をステーブルコインで保持し、担保や流動性の管理に組み込む設計が検討されています。運用に接続する場合は、貸付先の信用リスクやスマートコントラクトの技術リスク、規制・会計上の取扱いが追加の論点になります。
活用領域⑤:AIエージェント決済
AIエージェントが自律的にAPIやデータを購入し、対価を支払う仕組みの決済レイヤーとしてステーブルコインの実装が進んでいます。エージェントは銀行口座の開設に必要な本人確認の主体になれませんが、ウォレットは保有できるためです。
具体的な動きはすでに数字になっています。HTTPベースの決済プロトコルx402では、Coinbaseの開発者基盤経由の決済処理数が累計1億回を超えました(2026年8月20日時点、同社ドキュメント。BaseとSolana上のUSDC決済)。金額規模はx402.orgの公開集計で2026年7月14日時点の直近30日が約2,400万ドルであり、件数に比べればまだ立ち上がり期です。それでも2025年9月にはCloudflareとCoinbaseがx402 Foundationの設立を発表し、GoogleもAdyen・Mastercard・PayPalなど60以上の組織が参画する決済プロトコルAP2を公開しました。AP2はカードや銀行送金と並んでステーブルコインを支払い手段に含めています。人間の決済で閉じず、その先にエージェントの決済が載ることを前提にインフラ選定を考える段階です。
Pacific Metaも当事者としてこの領域に取り組んでいます。2026年4月にステーブルコイン決済・AIエージェント決済の導入支援サービスを開始し(ユースケース設計から法務・監査対応まで一気通貫)、2026年5月には自社でのJPYC運用開始を公表しました。グループのKomlock labは、AIエージェントが自律的にウォレットを保有し決済・送金を実行するための基盤「Kova」をβ版として公開しており、エージェント決済の実装を試せる段階になっています。
ステーブルコインに関するよくある誤解
検討の初期に持ち込まれやすい誤解を整理します。いずれも本文の各章で確認した事実で答えられます。
| よく見かける説明 | 実際 |
|---|---|
| ステーブルコインは暗号資産と同じ規制で扱われる | 法定通貨建てで額面償還が想定されるものは資金決済法上の電子決済手段として整理され、暗号資産とは枠組みが分かれています。2026年成立の改正法で金商法へ移るのは暗号資産の側です(大部分未施行) |
| ドルや円との連動は外れない | 設計次第です。2022年にはアルゴリズム型のUSTが連動を失い崩壊しました。法定通貨担保型でも準備資産の中身と償還条件の確認は省けません |
| 国内では企業はまだ使えない | JPYCが2025年10月から、JPYSCが2026年6月から稼働しています。ただしスキームごとに送金上限や流通範囲が異なり、業務要件との突合が前提になります |
| 資金移動業型も信託型も実務上は同じ | 第二種資金移動業には1件100万円以下の上限があり、信託型には法定の送金上限がありません。大口決済の可否を分ける違いです |
国内外のステーブルコイン発行動向
円建ては複数のスキームが並走しはじめており、用途別に使い分ける前提で選定する段階です。国内の主な動きを整理します。
| 名称 | スキーム | 状態(2026年8月20日時点) | 主な想定用途 |
|---|---|---|---|
| JPYC | 資金移動業型(1号) | 2025年10月27日発行開始・稼働中 | 少額・高頻度決済、送金 |
| JPYSC | 信託型(3号) | 2026年6月24日提供開始(口座内の先行提供) | 実務決済、トークン化資産の決済 |
| 3メガバンク共同発行 | 信託型(3号) | 2026年6月10日に方針公表・準備中 | 大口決済、企業間決済 |
発行動向①:資金移動業型のJPYC
JPYCはJPYC株式会社が発行する円建てステーブルコインで、資金決済法上の電子決済手段(第2条第5項)にあたります。同社は2025年8月18日に第二種資金移動業の登録(関東財務局長第00099号)を受け、同年10月27日に発行・償還プラットフォームJPYC EXとあわせて正式リリースしました。裏付け資産は日本円の預貯金および国債で、発行残高の100%以上を保全します。
対応チェーンはEthereum・Avalanche(C-Chain)・Polygon・Kaiaの4つです(2026年6月時点)。発行・償還は1回あたり100万円が上限です。規模については、累計発行額が30億円を超え(2026年5月30日時点、同社発表)、オンチェーン流通額は20億円を超えました(2026年7月10日発表)。累計発行額と流通額は別の指標である点に注意が要ります。
発行動向②:信託型のJPYSC
JPYSCはSBI新生信託銀行が発行し、SBI VCトレードが流通を担う3号電子決済手段(特定信託受益権)です。2026年6月24日に提供が始まり、信託銀行が裏付け資産を管理する信託型の円建てステーブルコインとして国内初の発行とされています(2026年6月24日時点・各社調べ。円建てとして最初なのは資金移動業型のJPYCです)。
現時点の利用はSBI VCトレードの口座内に限定され、外部ウォレットへの移転はできません。信託型に法定の送金上限がない特性が実務でどこまで生きるかは、流通範囲の拡大とあわせて確認する論点です。
発行動向③:3メガバンクの共同発行構想
三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行の3行は2026年6月10日、共同発行ステーブルコインについて2026年度中の実取引開始をめざして取り組むことを決定し、共同検討の協議会を設置する基本合意を公表しました。3行を共同委託者とし、信託銀行等を受託者とする信託契約に基づき発行する信託型の設計です。金融庁のFintech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)の支援決定を受けた実証実験を通じて、実務的な協議が進められてきました。
発表時点で決まっているのは方針と協議会設置までで、発行はまだ始まっていません。時期の表現も「2026年度中」であり、導入計画に織り込む場合はこの粒度で扱います。
発行動向④:海外の規制と発行体の動き
米国では2025年7月18日にGENIUS法(Public Law 119-27)が成立しました。決済用ステーブルコインの発行体に対し、米ドル現金や短期国債などに限定した準備資産の1対1保有、償還手続と準備資産構成の月次公表、AML対応を義務づけ、保有者への利回り付与を禁じています。発行は免許制で、成立から3年後の2028年7月以降、デジタル資産サービス提供者は非適合の決済用ステーブルコインを提供できなくなります。米ドル建てが流通額の大半を占める市場に、発行体規律の共通の最低基準が設けられた形です。
国内の制度整備と海外の規制成立が同じ時期に重なり、円建て・米ドル建てのいずれについても、発行体の規律を確認したうえで業務へ組み込む前提が整いつつあります。
ステーブルコイン導入のリスクと会計・税務の入口
導入検討では、技術的に使えるかだけでなく、リスクの層と会計・税務の整理を同時に確認します。
導入リスクの3つの層
リスクは3つの層に分けると整理しやすくなります。
- 発行体レイヤー…価格乖離(ディペッグ)、発行体の信用、準備資産の中身と開示、償還条件
- チェーンレイヤー…スマートコントラクトの不具合、利用チェーンの障害
- 自社運用レイヤー…秘密鍵・ウォレットの管理(カストディ)、誤送金・不正送金、AML/CFT対応、社内統制
とくに自社運用レイヤーは制度が守ってくれない領域です。担当者個人のウォレットで管理する設計は避け、複数承認・権限分離・監査ログ・インシデント対応まで含めて設計します。
会計・税務の入口
会計・税務は「暗号資産と同じ」ではありません。電子決済手段には固有の整理があり、ここを混同すると検討の前提が崩れます。
会計では、企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」が、電子決済手段の会計処理と開示の当面の取扱いを定めています。自社の保有形態がどの処理に当たるかは、この報告と監査人への確認が出発点になります。
法人税では、国税庁のFAQ(令和7年12月最終改訂)が、期末に保有する電子決済手段について時価評価は不要と整理しています。券面額と同額での償還を約するもので、要求払預金に類似した金銭債権に該当するためです。期末時価評価の対象になるのは市場のある暗号資産の側で、ステーブルコイン関連で最も混同されやすい論点です。
消費税では、電子決済手段は消費税法施行令で支払手段に類するものと定められており、令和5年6月1日以後に国内で行われる電子決済手段の譲渡は非課税とされています(国税庁FAQ)。
なお個人の暗号資産取引の税制には次の動きがあります。暗号資産の売却益は、現時点では原則として雑所得(総合課税)として扱われます。2026年7月に成立した金融商品取引法の改正法に伴い、暗号資産取引業者が取り扱う暗号資産の売却など一定の取引から生じる所得は、改正法の施行日の翌年1月以降に申告分離課税へ移行する予定です(施行日は本記事の基準日時点で確定していません)。取引時点の取扱いは国税庁の公表資料で確認してください。
企業がステーブルコイン導入を検討する進め方
導入は、ユースケースを1つに絞って小さく検証する進め方が現実的です。検討の工程と分担の目安を示します。
| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 期間の目安 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ユースケースの特定と概算試算 | 事業部門・経営企画 | 財務 | 2〜4週間 | 対象業務・金額規模・期待効果が1枚で説明できる |
| 2 | スキーム・銘柄の選定(資金移動業型か信託型か) | 財務 | 法務 | 2〜4週間 | 送金上限・償還条件・流通範囲が自社要件と突合済み |
| 3 | 規制上の自社の立場の確認 | 法務 | 事業部門 | 4〜8週間 | 利用者・仲介者・サービス提供者のどれに当たるかの整理が済み、要登録なら手続き方針が決定 |
| 4 | 会計・税務処理の確認 | 経理 | 監査人・税理士 | 2〜4週間 | 保有・送金・決済の仕訳方針と消費税の扱いが確定 |
| 5 | ウォレット・統制設計 | 情報システム | 財務・内部監査 | 4〜8週間 | 承認フロー・権限分離・インシデント対応が規程化 |
| 6 | 限定範囲での検証(PoC) | 事業部門 | 全部門 | 8〜12週間 | 本番導入の可否とボトルネックが判定できる |
検証は技術デモで終わらせず、送金・償還・会計処理・承認フロー・取引先対応までを対象にします。着手前の確認事項は次のチェックリストで棚卸しできます。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先(一次情報) | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 自社の業務で使えるか | 対象業務の決済フロー、取引先の受け入れ可否、金額規模と送金上限の整合 | 取引先、各発行体の公表資料 | 対象業務1つについて現行フローとの差分表が作成済み |
| 法務・規制上の要否 | 自社の立場(利用者・仲介者・提供者)、電子決済手段への該当性、必要な登録 | 資金決済法・関係政令、金融庁公表資料、弁護士 | 該当条文と自社の整理が文書化され、法務レビュー済み |
| 会計・税務の処理 | 実務対応報告第45号の適用、法人税・消費税の取扱い | ASBJ公表物、国税庁FAQ、監査人 | 仕訳方針が監査人と合意済み |
| 体制・委託先管理 | カストディ方式、承認権限、委託先の登録状況と破綻時の扱い | 各事業者の登録情報・利用規約 | ウォレット規程と委託先評価が承認済み |
| 決済先の受け入れ体制 | 相手方の対応可否、換金経路、着金確認の方法 | 取引先、取扱事業者 | 対象取引先との受け払いテスト計画が合意済み |
この表を埋める過程で、スキーム選定は財務だけでは決まらず、規制の整理は法務だけでは閉じず、統制設計は情報システムだけでは完結しないことが見えてきます。発行体の選定・会計税務・社内統制が部門をまたいで絡み合うため、社内の検討が比較表づくりの段階で止まりやすいのがこの領域です。前例の少なさを埋める材料になるのが、実装まで進んだ事例の知見です。発行から決済・運用までを一体で設計する場合の進め方はステーブルコイン導入支援に整理しています。
Pacific Metaのサービス
ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。
自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。
ステーブルコインのよくある質問
ステーブルコインと暗号資産の違いは何ですか?
価値の設計が異なります。ステーブルコインは発行体が準備資産を保有し額面償還を約束することで価値を安定させ、一般的な暗号資産は価格が需給で決まります。規制も分かれており、法定通貨建てで額面償還が想定されるものは資金決済法上の電子決済手段、暗号資産は2026年成立の改正法で金融商品取引法の規制へ移る予定です(大部分は未施行)。
ステーブルコインはいつから日本で使えますか?
すでに使えます。制度面では2023年6月に電子決済手段の枠組みが施行済みで、実際の発行はJPYCが2025年10月27日、JPYSCが2026年6月24日に始まりました。3メガバンクの共同発行は2026年度中の実取引開始をめざす準備段階です。
ステーブルコインの価値はなぜ安定するのですか?
発行体が法定通貨や短期国債などの準備資産を保有し、額面での償還に応じる設計だからです。逆にいえば、準備資産を欠いた設計では安定しません。2022年に崩壊したUSTのようなアルゴリズム型の事例があり、米国のGENIUS法は準備資産の1対1保有を発行体に義務づけました。
企業がステーブルコインを保有すると会計処理はどうなりますか?
電子決済手段に該当するものは、ASBJの実務対応報告第45号が会計処理と開示の当面の取扱いを定めています。法人税では期末の時価評価が不要と整理されており、時価評価が問題になる暗号資産とは扱いが異なります。適用の当てはめは監査人・税理士への確認が前提です。
個人でもステーブルコインを使えますか?
使えます。たとえばJPYCは個人も利用でき、発行・償還は1回100万円が上限です。ただし本記事が扱う企業利用とは、統制設計や会計・税務の論点が大きく異なります。
ステーブルコインのまとめ
ステーブルコインは、ブロックチェーン上で送金・決済・清算・担保管理を担う決済レイヤーであり、その先にはAIエージェントの決済まで載りはじめています。日本では改正資金決済法の施行と円建て2銘柄の稼働が重なり、企業の論点は「使えるか」から「どのスキームを、どの業務に、どの体制で使うか」へ移りました。円建ての選定を具体的に進める場合は、日本円ステーブルコインの比較記事が判断材料になります。
一方で、スキーム選定・規制の整理・会計税務・社内統制は部門をまたいで同時に立ち上がる論点で、どれか1つの部門だけで結論を出せる構造になっていません。動きの速い領域だけに、社内の検討だけでは論点の抜けに気づきにくい局面では、実装・運用まで踏み込んだ外部の知見を早めに当てることが、設計のやり直しを避ける近道になります。
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ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。
自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。
免責事項
本記事は2026年8月20日時点の公表資料に基づく制度・市場の一般的な整理であり、特定のステーブルコイン、トークン、サービス、金融商品の購入・利用・投資を推奨するものではありません。個別の事業スキームが電子決済手段に該当するか、登録や許認可を要するかの判断は、弁護士・監査人・税理士や監督当局への事前相談で確認してください。掲載内容は基準日以降の法令改正・制度運用の変更により変わる可能性があります。