米国で暗号資産(仮想通貨)の包括的な規制枠組みを定める「Digital Asset Market Clarity Act(デジタル資産市場明確化法案)」の成立が難航しており、事実上の停滞状態に陥っています。政界での倫理規定を巡る対立や議会日程の影響から、上院多数党指導部より9月までの法案通過は見送られるとの見通しが示されました。本法案は規制の管轄を明確化しようとする一方で、複雑なトークン分類や開示負担、海外発行への税制対応など、業界の実務に適さない構造的課題も指摘されています。
法案審議が難航する政治的背景
政治的議論の大きな焦点となっているのは、大統領を含む特定の連邦政府高官に対し、在任中の暗号資産トークン発行を禁止する倫理規定の扱いです。この規定は民主党側の主要なアジェンダとなっていますが、過去に暗号資産トークンの発行を行ってきたトランプ大統領の存在もあり、共和党側にとって調整が難しい課題となっていました。共和党は提示された法案言語で合意し民主党側に送付したものの、ルーベン・ガレゴ上院議員ら民主党側から強い反発を受け、交渉は平行線をたどっています。
さらに、上院多数党院内総務のジョン・スーン氏が報道陣に対し、9月までに法案が通過することはないと発言しました。選挙運動が本格化する秋の議会日程や、今後の選挙結果による上下院の勢力図の変化を考慮すると、法案の成立は2029年まで持ち越される可能性があると見られています。
法案の分類体系と実務上の構造的課題
米国の暗号資産規制枠組みを提示する本法案では、資産を「デジタルコモディティ(デジタル商品)」「ネットワークトークン」「付随的資産(アンシラリー・アセット)」という3つのネストされたカテゴリに分類しています。付随的資産に該当しないネットワークトークンの一次販売は原則として証券取引とみなされませんが、発行体などの経営的努力に価値が依存する付随的資産にあたる場合、投資契約取引として扱われ情報開示ルールが適用されます。
しかし、付随的資産の扱いを避けるには開発者が協調的な管理権限をほぼ放棄しなければならず、実際のトークン開発において非現実的であると指摘されています。管理を継続する場合は「Regulation Crypto(レギュレーション・クリプト)」という独自の免除規定のもとで初期および半期ごとに広範な開示が必要となり、従来の「Regulation A(レギュレーションA)」と同様の重い負担が生じます。また、本規定は米国法人限定であり特例的な税務処理も用意されていないため、ケイマン諸島などの海外でトークンを発行する税制戦略を採用するプロジェクトにとって商業的に利用しにくいと見られています。
規制管轄の整理と業界への影響
米国の暗号資産業界では、法的措置を受けるまで自社の事業がSEC(米国証券取引委員会)とCFTC(米国商品先物取引委員会)のどちらの管轄下に置かれるのか判断できない状況が続いています。専門家のトレバー・オーバーコ氏は、こうした不透明さが責任ある事業者を国外へ追い出す一方で、悪質な事業者の抑止になっていないと指摘しています。
本法案は、資本調達取引に証券法が関与し得る一方で、原資産となるトークン自体が自動的に証券になるわけではないという整理を試みています。規制管轄の不透明感を解消しようとする方向性は評価されるものの、制度設計が現在のトークン発行の実務に適合していないため、実際の立法に向けたハードルは高いと見られています。
ポイント
- 政治的対立と秋の選挙日程により、法案の9月前成立が見送られ事実上の停滞状態となっています。
- 政府高官のトークン発行を制限する倫理規定を巡り、民主党と共和党の間で合意に至っていません。
- 法案は暗号資産を3カテゴリに分類しますが、付随的資産の回避条件が厳しく開発実務に適していないと指摘されています。
- 情報開示規定の重い負担や税制上の理由から、海外でトークン発行を行うプロジェクトでの活用が困難と見られています。
- 資金調達取引とトークン自体の法的性質を切り分け、SECとCFTCの二重規制を解消しようとする方向性は、業界の明確化に向けた重要な試みとして注目されます。