自社で開発するDApp(分散型アプリケーション)のユーザー体験を向上させたいけれど、ウォレット接続の複雑さが新規ユーザー獲得の障壁になっていませんか?
特に、PCでDAppを使いながらスマホのウォレットで署名したいユーザーや、ブラウザ拡張機能を持たないユーザーへの対応は、多くのプロダクト担当者が抱える課題です。
今回、Pacific Meta Magazineでは、WalletConnectについて以下の内容について紹介してます。
- WalletConnectの基本的な仕組みとアーキテクチャ
- 導入によるUX向上やセキュリティ強化といったメリット
- PCとスマホそれぞれでの具体的な接続・実装手順
- アカウントアブストラクションとの連携など今後の将来性
- MetaMaskとの本質的な違いと正しい使い分け方
- 導入時に必ず押さえるべき具体的なセキュリティ対策
この記事を最後まで読めば、WalletConnectの技術的な概要から実践的な導入ノウハウまでを網羅的に理解し、自社DAppのUXを一段階引き上げるための具体的なアクションプランを描けるようになります。
ぜひ、最後までご覧ください。
WalletConnectとは?

WalletConnectとは、DApp(分散型アプリケーション)と暗号資産ウォレットを安全に接続するためのオープンソースプロトコルです。
ユーザーは、PCのブラウザで開いているDAppを、手元のスマートフォンのウォレットアプリとQRコードを使って簡単に連携させることができます。
従来、DAppを利用するにはMetaMaskのようなブラウザ拡張機能型のウォレットが主流でしたが、すべてのユーザーがこれを利用しているわけではありませんでした。
特にモバイルユーザーや、セキュリティ上の理由から秘密鍵をPCブラウザから隔離したいユーザーにとって、接続は大きなハードルでした。
WalletConnectは、この問題を解決するために生まれました。特定のウォレットやブロックチェーンに依存しない「通信規約(プロトコル)」として機能し、DAppとウォレット間の橋渡し役を担います。
これにより、開発者は個々のウォレットごとに接続機能を実装する必要がなくなり、ユーザーは好みのウォレットを自由に選べるようになります。
公式ドキュメントでは、「WalletConnect is the web3 messaging layer, a protocol that allows wallets and apps to securely connect and interact.」と定義されており、単なる接続ツールではなく、Web3における安全なメッセージング層としての役割を強調しています。
2018年に登場して以来、数多くのDAppやウォレットに採用され、今やWeb3における標準的な接続方法の一つとして広く認知されています。
WalletConnectの基本アーキテクチャ
WalletConnectの通信は、主に3つの要素で構成されています。
- DApp(クライアント): ユーザーが利用するWebサイトやアプリケーション。
- ウォレット: ユーザーの秘密鍵を管理し、トランザクションに署名するモバイルアプリやデスクトップアプリ。
- リレーサーバー(Relay Server): DAppとウォレットの間の通信を中継するサーバー。
通信フローは以下のようになります。
まず、DAppが接続リクエストを生成し、リレーサーバーに送信します。
リレーサーバーはこの情報を元に一意の接続情報(URI)とQRコードを生成します。
次に、ユーザーがスマホのウォレットでこのQRコードをスキャンすると、ウォレットはリレーサーバーに接続し、DAppとの間で暗号化された通信チャネル(セッション)を確立します。
このセッションが確立されると、DAppからのトランザクション署名要求などのメッセージは、リレーサーバーを経由してウォレットに送信されます。ユーザーがウォレットで承認すると、署名済みの情報が再びリレーサーバーを介してDAppに返されます。
重要なのは、秘密鍵や署名の内容そのものはリレーサーバーを通過しないという点です。
通信はエンドツーエンドで暗号化されており、リレーサーバーはあくまで暗号化されたメッセージを中継するだけで、その内容を読み取ることはできません。これにより、高いセキュリティが担保されています。
QRコード・プロトコルの仕組み
ユーザーが目にするQRコードには、接続に必要な情報が含まれたURI(Uniform Resource Identifier)が格納されています。
このURIはwc:{topic}@{version}?bridge-url={relay-server-url}&key={encryption-key}
のような形式をしています。
- topic: この接続セッションを識別するための一意のIDです。
- version: 使用するWalletConnectプロトコルのバージョンを示します。
- bridge-url: 通信を中継するリレーサーバーのアドレスです。
- key: DAppとウォレット間で通信を暗号化するための共有鍵です。
ユーザーがウォレットアプリでQRコードをスキャンすると、アプリはこのURIを解釈し、指定されたリレーサーバーに接続します。
そして、URIに含まれる共有鍵を使ってDAppとの間に安全な通信経路を確立します。このプロセスを「ペアリング」と呼びます。
一度ペアリングが完了すれば、ユーザーはDAppの画面から「送金」や「承認」といった操作を行うだけで、スマホのウォレットに通知が届き、安全に署名を実行できるようになります。
プロトコルバージョンの違い(v1/v2)
WalletConnectにはv1.0とv2.0の2つの主要なバージョンが存在し、現在ではv2.0への移行が強く推奨されています。(v1.0は2023年6月28日にサポートを終了しました)。
v2.0の主な改善点は以下の通りです。
- マルチチェーン対応: 1つのセッションで複数のブロックチェーン(例:EthereumとPolygon)に同時に接続できるようになりました。
- 分散型リレーネットワーク: v1.0の中央集権的なリレーサーバーから、より分散化されたメッセージングネットワークへと進化し、耐障害性と信頼性が向上しました。
- セッション管理の改善: 接続セッションの有効期限設定など、より柔軟な管理が可能になりました。
これから新規に導入する場合は、必ずv2.0対応のライブラリを使用する必要があります。
WalletConnectのメリットとデメリット

WalletConnectの導入を検討する上で、そのメリットとデメリットを正確に把握することは、プロダクト担当者にとって不可欠です。
ユーザー体験の向上から開発コストまで、多角的な視点からその利点と注意点を解説します。
メリット
WalletConnectがもたらすメリットは多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の4点です。
セキュリティの向上(秘密鍵の隔離)
ユーザーは、秘密鍵を保管しているモバイルウォレットと、DAppを利用するPCブラウザを物理的に分離できます。
これにより、ブラウザの脆弱性を突いた攻撃やフィッシング詐欺によって、直接秘密鍵が盗まれるリスクを大幅に低減できます。これは「コールドウォレット」に近い運用を可能にし、ユーザーに高い安心感を提供します。
優れたUX(ユーザーエクスペリエンス)
QRコードをスキャンするだけ、という直感的で簡単な操作でDAppに接続できます。
ブラウザ拡張機能のインストールや設定といった手間が不要なため、Web3に不慣れな初心者でもスムーズにサービス利用を開始できます。
特に、PCの大画面でDeFiの複雑なチャートを見ながら、手元のスマホで取引を承認する、といったシームレスな体験は大きな魅力です。
マルチウォレット・マルチチェーン対応
WalletConnectは特定のウォレットに依存しないプロトコルであるため、ユーザーはMetaMask、Trust Wallet、Ledger Liveなど、100種類以上の対応ウォレットから自分の好きなものを選べます。
また、v2.0ではEthereum、Polygon、BNB Chainなど複数のチェーンに同時接続できるため、マルチチェーン展開するDAppのUXを損なうことがありません。
開発効率の向上
開発者は、WalletConnectのライブラリを一つ組み込むだけで、多数のウォレットへの接続機能を提供できます。ウォレットごとに個別のAPIを実装する必要がなくなり、開発工数とメンテナンスコストを大幅に削減できます。
デメリット
一方で、導入前に考慮すべきデメリットや注意点も存在します。
接続の遅延や不安定さ
DAppとウォレットの通信はリレーサーバーを経由するため、サーバーの負荷状況やネットワーク環境によっては、通知の遅延や接続の切断が発生する可能性があります。特に、多くのユーザーが同時にアクセスするようなNFTのミントイベントなどでは、この問題が顕在化することがあります。
サーバーへの依存
v2.0で分散化が進んだとはいえ、通信はリレーサーバーに依存しています。
WalletConnect財団が運営するデフォルトのリレーサーバーに障害が発生した場合、接続ができなくなるリスクはゼロではありません。(ただし、自前でリレーサーバーを立てることも可能です)
実装の複雑さ
単純な接続機能だけであれば容易ですが、接続エラー時のハンドリング、セッションの適切な管理、ユーザーへの分かりやすい通知など、UXを考慮した丁寧な実装には相応の知識と開発コストが必要です。
WalletConnect対応ウォレットと対応チェーン一覧

WalletConnectの大きな魅力の一つは、その幅広い互換性です。
非常に多くのウォレットとブロックチェーンに対応しており、ユーザーと開発者の双方に柔軟な選択肢を提供します。
ここでは、代表的な対応ウォレットとチェーンの一部をご紹介します。
対応ウォレット一覧
WalletConnectは、モバイルウォレット、デスクトップウォレット、ブラウザウォレット、ハードウェアウォレットなど、様々なタイプのウォレットに対応しています。
公式サイトの「Explorer」ページで最新の対応ウォレット一覧を確認できます。
カテゴリ | 代表的なウォレット例 |
---|---|
モバイル | MetaMask Mobile, Trust Wallet, Rainbow, Argent, SafePal |
デスクトップ | Exodus, Atomic Wallet, Ledger Live |
ブラウザ | MetaMask (QRコード接続機能) |
ハードウェア | Ledger (Ledger Live経由), Trezor (Trezor Suite経由) |
特にモバイルウォレットの対応数は非常に多く、ユーザーは自分の資産を管理している主要なウォレットのほとんどでWalletConnectを利用できると考えてよいでしょう。
対応チェーン一覧
WalletConnect v2.0は、EVM(Ethereum Virtual Machine)互換チェーンをはじめ、多くのブロックチェーンに対応しています。
開発者は、DAppが必要とするチェーンへの接続をユーザーに要求できます。
カテゴリ | 代表的なチェーン例 |
---|---|
EVM互換チェーン | Ethereum, Polygon, BNB Smart Chain, Avalanche, Arbitrum, Optimism |
その他 | Solana, Polkadot, Cosmos, Near Protocol など (各チェーンのエコシステム内での対応が進展中) |
v2.0のアーキテクチャはチェーンに依存しない(Chain-agnostic)設計になっているため、原理的にはあらゆるブロックチェーンに対応可能です。
DApp側で対応するチェーンを指定し、ウォレット側がそのチェーンをサポートしていれば接続が確立されます。
新規対応予定チェーン
WalletConnectの開発は継続的に行われており、今後は非EVMチェーンであるSuiやAptosなど、新しいエコシステムへの対応も拡大していくことが予想されます。
最新情報は公式GitHubのリポジトリやブログで確認することをお勧めします。
MetaMaskとWalletConnectの違いとは?

「MetaMaskとWalletConnectの違いがよくわからない」という声は、Web3初級者から中級者まで幅広く聞かれます。
両者はDApp利用時によく一緒に表示されるため混同されがちですが、その役割と技術的アーキテクチャは根本的に異なります。この違いを正確に理解することは、適切なUX設計の第一歩です。
技術的アーキテクチャの違い
最も本質的な違いは、その役割にあります。
MetaMask
MetaMaskは、それ自体が暗号資産を保管・管理する「ウォレット」です。
その主な形態はブラウザ拡張機能であり、ブラウザ内でDAppと直接通信する機能(プロバイダーのインジェクション)を持っています。つまり、MetaMaskは「ウォレットそのもの」であり、「DAppとの接続手段」も兼ね備えています。
WalletConnect
一方、WalletConnectはウォレットではありません。
これはDAppと様々なウォレットアプリを繋ぐための「通信プロトコル(規格)」です。
WalletConnect自体は秘密鍵を管理しません。
あくまで、DApp(例: PCブラウザ)と、ユーザーが実際に秘密鍵を管理しているウォレット(例: スマホアプリ)との間の安全な通信を仲介する「橋渡し役」に徹します。
簡単に言えば、MetaMaskは「お店(ウォレット)」そのものであり、WalletConnectは「お店とお客様を繋ぐための伝令係(プロトコル)」と例えることができます。
UX・セキュリティ比較
このアーキテクチャの違いが、UXやセキュリティの特性に直結します。
項目 | MetaMask (ブラウザ拡張機能) | WalletConnect |
---|---|---|
UX (手軽さ) | 非常に高い。一度設定すれば、ブラウザ内で完結し、クリック一つで接続・署名が可能。 | 高い。QRコードのスキャンというワンクッションが必要だが、直感的。 |
UX (柔軟性) | 低い。PCブラウザでの利用が基本。 | 非常に高い。PCとスマホの連携、100種類以上のウォレットの選択が可能。 |
セキュリティ | PCがマルウェアに感染した場合、秘密鍵が漏洩するリスクが相対的に高い。 | 秘密鍵がスマホ内に隔離されるため、PCブラウザが攻撃されても直接的な漏洩リスクは低い。 |
前提条件 | ユーザーがブラウザ拡張機能をインストールしている必要がある。 | ユーザーが対応ウォレットアプリをスマホにインストールしている必要がある。 |
利用シーンごとの使い分け
DApp開発者は、どちらか一方を選ぶのではなく、両方の接続オプションを提供することが理想的です。
- 推奨: 接続ボタンに「MetaMask」「WalletConnect」の両方を表示する。
- ターゲット: MetaMaskユーザーは手軽さを求めてそちらを選択し、それ以外のウォレットのユーザーや、セキュリティを重視するユーザーはWalletConnectを選択できる。
このように、ユーザーに選択肢を与えることが、幅広い層にリーチするための鍵となります。
スマホでWalletConnectに接続する方法とは?

プロダクト担当者やUXデザイナーにとって、ユーザーがスマートフォンでWalletConnectをいかにスムーズに利用できるかを理解することは極めて重要です。
ここでは、ユーザー視点での操作手順と、UXを向上させるためのヒントを解説します。
iOS/Androidアプリでの操作手順
ユーザーがPCのDAppにスマホのウォレットを接続する手順は、非常にシンプルです。
- PCでDAppを開き、接続オプションを選択: ユーザーはまず、利用したいDAppのサイトをPCのブラウザで開きます。サイト上にある「Connect Wallet」などのボタンをクリックし、接続方法の選択肢から「WalletConnect」を選びます。
- QRコードの表示: PCの画面に、接続用のQRコードが表示されます。
- スマホのウォレットアプリを起動: ユーザーは、自身のスマートフォンでWalletConnectに対応したウォレットアプリ(例: MetaMask Mobile, Trust Wallet)を起動します。
- QRコードのスキャン: ウォレットアプリ内にあるWalletConnect機能(多くは右上や設定メニューにカメラアイコンとして表示されています)をタップし、カメラを起動します。そして、PC画面に表示されているQRコードをスキャンします。
- 接続の承認: スキャンが成功すると、スマホの画面に「(DApp名)への接続を許可しますか?」といった確認画面が表示されます。ユーザーが内容を確認し、「接続」または「承認」ボタンをタップすると、セッションが確立されます。
この一連の流れを、実際のアプリのスクリーンショットを交えてガイドすることで、ユーザーの不安を解消し、オンボーディングを円滑に進めることができます。
モバイルブラウザ対応状況
ユーザーがPCを使わず、スマホだけでDAppとウォレットを利用するケースも増えています。
この場合、ユーザーはスマホのブラウザ(SafariやChrome)でDAppサイトを開き、「WalletConnect」を選択します。
すると、QRコードの代わりに、スマホにインストールされている対応ウォレットアプリの一覧が表示されます。ユーザーが利用したいウォレットを選択すると、自動的にそのアプリが起動し、接続承認画面に遷移します。この機能を「モバイル連携(Mobile Linking)」と呼びます。
この挙動は主要なモバイルブラウザでサポートされていますが、OSやブラウザのバージョン、ウォレットアプリの実装によっては稀にうまく動作しないケースもあるため、主要な環境での動作検証は重要です。
UX改善のTIPS
より良いUXを提供するために、以下の点を考慮すると効果的です。
- 接続待機中のフィードバック: QRコードを表示した後、ユーザーがスキャンして承認するまでの間、DApp側で「スマートフォンで承認してください」といったメッセージや、ローディングアニメーションを表示することで、ユーザーは何をすべきか迷わずに済みます。
- 明確なUI文言: 「WalletConnect」という専門用語だけでなく、「スマホアプリで接続」のような、より直感的に理解できる文言を併記することを検討しましょう。
- エラーメッセージの具体化: 接続がタイムアウトした場合や失敗した場合に、「接続に失敗しました」だけでなく、「QRコードを再表示してもう一度お試しください」のように、次に行うべきアクションを具体的に示すことが重要です。
WalletConnectをDApp開発者が使う方法とは?

ここでは、DApp開発者がPCブラウザ向けのアプリケーションにWalletConnectを導入する際の基本的な手順を解説します。
ユーザーとして利用するだけの場合は、DAppに表示される「WalletConnect」ボタンを押し、QRコードを対応ウォレットでスキャンするだけで完了します。
PCブラウザでの接続手順
DAppにWalletConnect v2.0を実装するには、公式が提供するライブラリを使用するのが一般的です。ここでは、@walletconnect/modal
を使った最もシンプルな実装例を紹介します。
Step 1: ライブラリのインストール
まず、npmやyarnを使って必要なパッケージをプロジェクトにインストールします。
npm install @walletconnect/modal @walletconnect/ethereum-provider
Step 2: インスタンスの生成と設定
次に、アプリケーションのコード内で、WalletConnectのプロバイダーを初期化します。
この時、projectId
が必須となります。これはWalletConnect Cloud (cloud.walletconnect.com)でプロジェクトを登録することで無料で取得できます。
import { EthereumProvider } from '@walletconnect/ethereum-provider'
const provider = await EthereumProvider.init({
projectId: 'YOUR_PROJECT_ID', // 自身のProject IDに置き換える
chains: [1], // 接続を要求するチェーンID (1はEthereumメインネット)
showQrModal: true, // 接続用のQRコードモーダルを自動で表示する
});
Step 3: 接続の開始
ユーザーが「接続」ボタンをクリックした際などに、以下のメソッドを呼び出すことで接続フローを開始します。
const connectButton = document.getElementById('connect-button');
connectButton.addEventListener('click', async () => {
await provider.connect();
});
showQrModal: true
と設定しているため、provider.connect()
が呼び出されると、画面上に自動でQRコードが表示されたモーダルウィンドウが現れます。ユーザーがこれをスキャンすれば接続が完了です。
DApp組み込みの初歩
ReactやVue.jsといったモダンなフロントエンドフレームワークに組み込む場合も、基本的な流れは同じです。
Reactの場合は、useEffect
フック内で初期化処理を行い、コンポーネントの状態(useState
)でプロバイダーのインスタンスや接続状態(接続済みのアドレスなど)を管理するのが一般的です。
Vue.jsであれば、onMounted
ライフサイクルフックで初期化し、ref
やreactive
を使って状態を管理します。
より簡単に実装するために、wagmi
(React Hooks for Ethereum) やWeb3Modal
といった高レベルなライブラリを利用することも強く推奨されます。これらのライブラリは、WalletConnectだけでなくMetaMaskなど他の接続方法も抽象化してまとめて扱えるため、コードを大幅に簡潔にできます。
開発者向けライブラリとバージョン対応
WalletConnect v2.0関連のライブラリは複数存在し、それぞれ役割が異なります。
- @walletconnect/ethereum-provider: Ethers.jsやWeb3.jsと互換性のあるプロバイダーを簡単に作成するためのライブラリ。
- @walletconnect/modal: 事前ビルドされたUI(QRコードモーダル)を提供するライブラリ。最も手軽に導入できます。
- @walletconnect/sign-client: UIを自前でフルカスタマイズしたい場合に使用するコアライブラリ。
ライブラリのバージョンは頻繁に更新されるため、開発時には公式ドキュメントで最新の推奨バージョンと、パッケージ間の依存関係を確認することが重要です。
よくあるエラーと対処
Q: projectId
がないというエラーが出る。
A: WalletConnect Cloudでプロジェクトを作成し、発行されたIDを初期化コードに設定してください。これはv2.0からの必須要件です。
Q: QRコードが表示されない。
A: showQrModal: true
の設定を確認してください。また、他のUIライブラリとの競合や、CSSのz-indexの問題でモーダルが隠れていないか確認が必要です。
WalletConnect導入時のセキュリティ対策

WalletConnectは秘密鍵を隔離することで高いセキュリティを実現しますが、それだけで万全というわけではありません。
DApp開発者とユーザー双方が、プロトコルの特性を理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。
特に、プロダクト担当者は、ユーザーを詐欺から守るためのUI/UX設計に責任を持つ必要があります。
フィッシング詐欺への対策
最も注意すべきはフィッシング詐欺です。
攻撃者は本物のDAppそっくりの偽サイトを作成し、ユーザーにウォレットを接続させようとします。
ユーザーが偽サイトとは知らずにWalletConnectで接続し、トランザクションに署名してしまうと、資産が盗まれる可能性があります。
開発者側の対策
- ドメインの明確化:WalletConnectの接続承認画面には、接続先のDAppのドメイン名が表示されます。開発者は、WalletConnect Cloudのプロジェクト設定で、このドメイン情報やサイトのメタデータ(アイコン、名称)を正確に登録することが極めて重要です。これにより、ユーザーは自分が意図したサイトに接続しているかを確認できます。
- 啓発活動:アプリ内やSNSで、ユーザーに対して「接続先のドメインを必ず確認してください」といった注意喚起を定期的に行うことが有効です。
ユーザー側の対策
- URLの確認:ブックマークからアクセスするなど、常に公式サイトのURLが正しいかを確認する癖をつけることが重要です。
- 承認画面の確認:ウォレットに表示される接続先のURLやDApp名が、自分が利用しているサイトと一致しているかを必ず確認します。
署名内容の可読性向上
WalletConnectを介してDAppから送られてくる署名要求(トランザクションデータ)は、そのままでは16進数の羅列であり、人間には理解できません。
悪意のあるDAppは、ユーザーに「NFTをリストする」と見せかけて、実際には資産の所有権を移転させるような悪質なトランザクションに署名させようとします。
開発者側の対策
- EIP-712の採用:可能な限り、EIP-712(型付き構造化データ署名)のような規格に対応することを検討します。これにより、署名内容を人間が読める形式(「何を」「誰に」「いくらで」など)でウォレット上に表示させることができます。
- 明確なUI:DAppの画面上で、「これから〇〇の操作を承認します」といったメッセージを明確に表示し、ユーザーが何に署名しようとしているのかを理解しやすくする工夫が必要です。
ユーザー側の対策
- ウォレットの警告機能を活用:多くのウォレットは、怪しいトランザクション(例:setApprovalForAllなど危険な関数の呼び出し)に対して警告を表示します。これらの警告を無視せず、内容を理解できない署名は決して承認しないことが重要です。
セッション管理の徹底
一度確立されたWalletConnectのセッションは、ユーザーが手動で切断するか、DApp側が切断処理を呼び出すまで有効な場合があります。
開発者側の対策
- 適切なセッション切断:ユーザーがDAppのサイトを離れたり、ブラウザを閉じたりした際に、
provider.disconnect()
のようなメソッドを呼び出して、セッションを能動的に切断する実装が推奨されます。 - セッションタイムアウト:長期間操作がない場合は、自動的にセッションが切れるような仕組みを導入することも有効です。
ユーザー側の対策
- 手動での切断:DAppの利用が終わったら、ウォレットアプリ側から能動的に接続セッションを切断する習慣をつけましょう。多くのウォレットアプリには、現在接続中のセッションを一覧表示し、個別に切断する機能が備わっています。
WalletConnectの今後の将来性は?

WalletConnectは、単なる接続プロトコルから、Web3全体のUXを支える重要なインフラへと進化を続けています。
その将来性を理解することは、今後のDApp開発戦略を立てる上で非常に重要です。
開発ロードマップ・v2以降の機能
WalletConnectの公式ロードマップや開発状況からは、いくつかの重要な方向性が見えてきます。
通知機能(Push Notifications)
現在、DAppからウォレットへの働きかけは、ユーザーがDAppを開いている時(セッション中)に限られます。将来的には、ウォレットに対して直接プッシュ通知を送る機能が計画されています。
例えば、DeFiでポジションが清算されそうな時や、DAOの投票が開始された時などに、ユーザーに直接通知できるようになり、エンゲージメントを大幅に高める可能性があります。
アカウント・アブストラクション(AA)への対応
EIP-4337などで標準化が進むアカウント・アブストラクションは、Web3のUXを根底から変える技術です。
WalletConnectは、スマートコントラクトウォレットとの連携を強化し、ソーシャルログインやガス代の肩代わり(Gasless Transaction)といった機能をDAppがシームレスに利用できるようなインターフェースを提供していくと考えられます。
これにより、Web2サービスと遜色のない体験の実現に貢献するでしょう。
リレーサーバーのさらなる分散化
パフォーマンスと検閲耐性を高めるため、リレーネットワークのアーキテクチャは継続的に改善されています。より多くの独立したサーバーがネットワークに参加することで、単一障害点がなくなり、より堅牢なインフラになることが期待されます。
業界トレンドとの連携
WalletConnectは、DeFi、GameFi、NFT、メタバースといったあらゆるWeb3分野で不可欠な存在です。
例えば、メタバース空間でPCからアバターを操作し、アイテムの購入承認は手元のスマホウォレットで行う、といった連携が当たり前になるでしょう。
また、DAOのガバナンスにおいても、安全な投票のためにWalletConnectは重要な役割を果たします。提案内容をPCでじっくり確認し、投票の署名だけをハードウェアウォレットと連携したモバイルウォレットで行う、といったセキュアな運用が標準となります。
国内外事例から読み解く展望
UniswapやOpenSeaといった海外の主要DAppがWalletConnectを標準搭載していることからも、その重要性は明らかです。
国内においても、多くのNFTマーケットプレイスやGameFiプロジェクトが、新規ユーザー獲得のためにWalletConnectを導入しています。
今後、企業が発行するNFTや会員証などを活用したWeb3マーケティングが一般化するにつれ、ITリテラシーが高くない層でも簡単に使えるWalletConnectの役割は、ますます重要になっていくと考えられます。
WalletConnectに関するFAQ
ここでは、WalletConnectの導入や利用を検討している方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
WalletConnectでQRコードをスキャンしても接続できません。なぜですか?
A: いくつかの原因が考えられます。
- ネットワークの問題: スマートフォンやPCのインターネット接続が不安定な場合、リレーサーバーとの通信がうまくいかないことがあります。Wi-Fiやモバイルデータの接続を確認してください。
- ウォレットアプリの不具合: ウォレットアプリが古いバージョンの場合、最新のプロトコルに対応していないことがあります。アプリを最新版にアップデートしてみてください。また、一度アプリを完全に終了させてから再起動すると解決することもあります。
- DApp側の問題: DAppが使用しているWalletConnectライブラリに問題があるか、リレーサーバーが一時的にダウンしている可能性も稀にあります。時間を置いてから再度試すか、DAppの運営者に問い合わせてみてください。
最新の対応ウォレットと対応チェーンの一覧はどこで確認できますか?
A: 最も信頼できる情報は公式サイトです。
- 対応ウォレット: WalletConnectの公式サイトにある「Explorer」セクションで、対応ウォレットを検索・確認できます。 (https://walletconnect.com/explorer)
- 対応チェーン: WalletConnect自体はチェーンに依存しない設計ですが、実際に接続できるかはDAppとウォレットの両方がそのチェーンをサポートしている必要があります。v2.0では、EVM互換チェーンの多くに標準で対応しています。具体的なリストは、各ウォレットの仕様や、利用するDAppの説明を確認するのが確実です。
PCを持っていないのですが、スマホだけでWalletConnectを使えますか?
A: はい、使えます。スマホのブラウザでDAppサイトを開き、「WalletConnect」ボタンをタップしてください。QRコードの代わりに、スマホにインストールされている対応ウォレットの一覧が表示されます。使いたいウォレットを選ぶと、アプリが自動で起動し、接続を承認できます。この仕組みは「モバイル連携(Mobile Linking)」と呼ばれています。
WalletConnectを使う上での攻撃リスクはありますか?
A: プロトコル自体の安全性は高いですが、利用方法によってはリスクが伴います。
最大の脅威は「フィッシング詐欺」です。偽サイトに接続してトランザクションに署名すると、資産を盗まれる可能性があります。対策として、接続先のURLを必ず確認し、内容が理解できない署名は絶対に承認しないことが重要です。詳しくは「WalletConnect導入時のセキュリティ対策」の章をご覧ください。
MetaMaskとWalletConnectは併用できますか?
A: はい、併用できますし、それが一般的です。
DAppは「MetaMaskで接続」ボタンと「WalletConnectで接続」ボタンの両方を用意することが推奨されます。ユーザーは、PCのブラウザ拡張機能のMetaMaskを使っても良いし、スマホのMetaMaskアプリをWalletConnect経由で使っても良い、というように好きな方法を選択できます。
WalletConnectについてまとめ
今回、Pacific Meta Magazineでは、WalletConnectについて以下の内容について紹介してきました。
- WalletConnectは、DAppと暗号資産ウォレットを安全に繋ぐための「通信プロトコル」であり、QRコードやモバイル連携でシームレスな接続を実現する。
- メリットは、秘密鍵をスマホに隔離できる高いセキュリティ、多くのウォレットやチェーンに対応する柔軟性、そして初心者にも分かりやすいUX。
- デメリットとして、リレーサーバーへの依存による遅延の可能性や、丁寧なエラーハンドリングなど実装面の考慮が必要な点が挙げられる。
- MetaMaskが「ウォレットそのもの」であるのに対し、WalletConnectはあくまで「橋渡し役の規格」という根本的な違いがある。
- 導入時には、フィッシング対策としてのドメイン情報の明記や、署名内容の可読性を高める工夫が、ユーザーを保護する上で極めて重要。
- アカウント・アブストラクションとの連携など、Web3全体のUXを向上させるインフラとして、今後の発展が大きく期待されている。
WalletConnectは、もはや単なる一技術ではなく、DAppのUXとセキュリティを両立させるための必須コンポーネントと言えます。
特に、多様なバックグラウンドを持つユーザーへサービスを届けたいプロダクト担当者にとって、その仕組みと利点、そして注意点を深く理解することは、プロジェクトの成否を分ける重要な要素となるでしょう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。