Web3を活用した新たなコミュニティ形成や組織運営の手法として「DAO」が注目されていますが、その実態や具体的な始め方が分からず、導入に踏み切れないでいませんか?
ブロックチェーンやトークンといった専門用語が多く、自社の事業や地域活性化にどう活かせるのか、具体的なイメージが湧きにくいと感じるスタートアップ経営者や自治体関係者の方は少なくありません。
今回、Pacific Meta Magazineでは、DAOコミュニティについて以下の内容について紹介してます。
- DAOコミュニティの基本概念と従来型組織との違い
- DAOを支える技術的な仕組み(スマートコントラクト・トークン)
- アイデア策定から資金調達までの具体的な立ち上げ手順
- 成功するDAO運営の鍵を握るコミュニティマネージャーの役割
- 国内外の成功事例(特に日本の自治体連携プロジェクト)
- 運営に伴う法的リスクと2024年以降の最新の規制動向
この記事を最後までお読みいただくことで、DAOコミュニティの本質を理解し、自組織で活用するための実践的な知識と具体的なアクションプランを得ることができます。ぜひ、最後までご覧ください。
DAOコミュニティとは?

DAOコミュニティは、Web3時代における新しい組織の形です。スタートアップや自治体が注目すべき概念です。ここでは、その基本的な定義から、従来型コミュニティとの違い、そして具体的なメリットまでを分かりやすく解説します。
DAOコミュニティの定義と特徴
DAOとは「Decentralized Autonomous Organization」の略で、日本語では「分散型自律組織」と訳されます。
これは、特定のオーナーや中央集権的なリーダーが不在のまま、ブロックチェーン上に記録されたプログラム(スマートコントラクト)に従って、参加者全員で意思決定を行いながら自律的に運営されるオープンなコミュニティ型組織です。
株式会社のようにCEOや取締役会がトップダウンで意思決定するのではありません。コミュニティのルールはコードとして記述され、誰にも改ざんできない形で実行されます。DAOコミュニティの主な特徴は以下の3つです。
- 分散型ガバナンス:組織の重要な意思決定は、ガバナンストークンと呼ばれる独自のトークンを持つ参加者の投票によって行われます。これにより、民主的でフラットな組織運営が可能になります。
- 透明性:取引履歴や組織のルールはすべてブロックチェーン上に公開されるため、誰でもその内容を確認できます。資金の流れも完全に可視化されており、不正や情報の隠蔽が極めて困難です。
- 自律性:一度設定されたスマートコントラクトは、人の介在なしに自動で実行されます。例えば、投票で可決された提案に基づき、プログラムによって自動的に資金が移動するなど、契約が自律的に履行されます。
DAOコミュニティの利点と活用シーン
DAOコミュニティは、従来の組織が抱える課題を解決するポテンシャルを秘めています。最大の利点は、参加者への強力なインセンティブ付与です。コミュニティへの貢献度に応じてトークンが付与されます。そのトークンが議決権や将来の収益分配に繋がるため、参加者は当事者意識を持って積極的に活動します。
これは、単なるファンコミュニティやボランティア活動とは一線を画す点です。また、国境を越えて誰でも参加できるため、地理的な制約なくグローバルに人材や資金を調達できるのも大きなメリットです。
この特性を活かした活用シーンは多岐にわたります。
- スタートアップの資金調達:株式発行に代わりトークンを発行することで、迅速かつ低コストで世界中から資金を集めることができます。出資者は株主ではなく、プロジェクトを共に推進するコミュニティメンバーとなります。
- 地方創生・地域活性化:近年、日本の自治体でもDAOを活用する動きが活発化しています。新潟県長岡市の旧山古志村で始まった「山古志DAO」は、錦鯉をモチーフにしたNFTを発行し、購入者を「デジタル村民」として迎え入れ、地域活性化プロジェクトを共同で推進しています。
- クリエイターエコノミー:アーティストやクリエイターがファンと共にDAOを設立し、作品の共同所有やプロジェクトの意思決定を行う事例も増えています。
- 公共財の管理:オープンソースソフトウェアの開発や、環境保護活動など、特定の管理者がいないプロジェクトの運営にもDAOは適しています。
このように、DAOコミュニティは透明で公正なルールに基づき、参加者のモチベーションを最大限に引き出す新しい組織モデルです。ビジネスから社会貢献まで幅広い分野での活用が期待されています。
DAOコミュニティの仕組みとは?

DAOコミュニティがなぜ自律的に機能するのか、その心臓部である技術的な仕組みを理解することは、立ち上げや運営において不可欠です。ここでは、スマートコントラクト、分散型ガバナンス、そしてトークンエコノミーという3つの要素に分けて、その仕組みを解説します。
スマートコントラクトと分散型ガバナンス
DAOの根幹をなすのが「スマートコントラクト」です。これは、ブロックチェーン上で実行されるプログラムであり、「もしAが起きたら、Bを実行する」という契約条件をあらかじめコードとして記述したものです。
このプログラムは一度ブロックチェーンにデプロイ(設置)されると、誰にも改ざんできません。条件が満たされれば自動的に実行されます。DAO運営においては、このスマートコントラクトが「組織の憲法」や「定款」の役割を果たします。
例えば、「コミュニティ資金の利用には、トークン保有者の51%以上の賛成が必要」といったルールをスマートコントラクトに記述しておくことで、管理者の恣意的な判断を排除し、ルールに基づいた透明な運営が保証されます。
このスマートコントラクトを活用した意思決定の仕組みが「分散型ガバナンス」です。実際にDAOを立ち上げる際には、ゼロから複雑なコードを書く必要はありません。AragonやColonyといったプラットフォームを利用すれば、テンプレートを使って比較的容易にDAOを設立し、ガバナンスのルールを設定できます。
また、投票プロセスにおいては、ガス代(ブロックチェーン利用手数料)がかからない「Snapshot」というオフチェーン投票ツールが広く利用されています。これにより、参加者が気軽に意思決定に参加できる環境が整っています。
トークンエコノミーと投票システムの仕組み
DAOにおける意思決定の根幹を担うのが「ガバナンストークン」です。これは株式会社の株式に似た役割を持ち、保有量に応じてコミュニティ内での議決権(投票権)の大きさが決まります。このトークンを軸に形成される経済圏を「トークンエコノミー」と呼びます。
意思決定の一般的な流れは以下の通りです。
- 提案:コミュニティメンバーが、資金利用やプロジェクトの方針転換などの提案をフォーラム(Discordなど)や専用ツールで行います。
- 議論:提案内容について、全メンバーが参加して議論を交わします。
- 投票:Snapshotなどの投票システムを使い、ガバナンストークン保有者が賛成・反対の票を投じます。多くの場合、1トークン=1票としてカウントされます。
- 実行:投票で可決条件(例:賛成多数、定足数の達成)が満たされると、スマートコントラクトが提案内容を自動的に実行します。例えば、資金移動の提案であれば、コミュニティの金庫(トレジャリー)から指定されたアドレスへ自動で送金が行われます。
このトークンは、コミュニティへの貢献者や初期の出資者に配布され、組織の所有権を分散させます。プロジェクトが成功し、コミュニティが成長すればトークンの価値も上がる可能性があります。そのため、トークンを持つこと自体が、参加者が積極的に貢献する強いインセンティブとなるのです。
DAOコミュニティの立ち上げ手順とは?

DAOコミュニティの立ち上げは、壮大なプロジェクトに思えるかもしれません。しかし、段階的なステップを踏むことで実現可能です。ここでは、「DAOコミュニティの作り方」に関心のある方向けに、構想からローンチまでの具体的な手順を4つのステップで解説します。
アイデアとビジョンの策定
すべての始まりは、強力なビジョンです。「このDAOは何を解決し、どのような世界を目指すのか?」という根本的な問いに答える必要があります。
参加者は共通の目的に共感して集まるため、ミッションが曖昧ではコミュニティは成長しません。
例えば、「耕作放棄地問題を解決し、持続可能な農業を実現するDAO」や「地域の伝統工芸を世界に発信し、職人を支援するDAO」といった、具体的で共感を呼ぶ目的を設定します。この段階で、ターゲットとなる参加者(ペルソナ)を明確にすることが重要です。彼らが何を求めているのかを深く理解することが、後のメンバー募集やインセンティブ設計の成功に繋がります。
初期メンバー募集とコミュニケーションツール選定
ビジョンが固まったら、共にDAOを立ち上げる初期メンバー(コアメンバー)を集めます。最初は少人数でも、ビジョンに強く共感し、情熱を持って取り組める仲間を見つけることが重要です。コミュニケーションの拠点として、多くのDAOではDiscordやTelegramが利用されます。
Discordは、議題ごとにチャンネルを分けて議論を整理しやすく、コミュニティ運営に適しています。
初期メンバーを集めるには、自身のSNSで発信したり、関連するWeb3イベントや他のDAOコミュニティに参加して人脈を広げたりする方法が有効です。
スマートコントラクトのデプロイとガバナンス設定
コミュニティの土台ができたら、技術的なセットアップに移ります。DAOのルールを記述したスマートコントラクトを作成し、ブロックチェーン上にデプロイ(設置)します。前述のAragonのようなプラットフォームを使えば、専門的なコーディング知識がなくても、投票ルールや資金管理の仕組みを設定できます。
重要なのは、本番のネットワークにデプロイする前に、テストネットと呼ばれる実験環境で十分に検証することです。バグや脆弱性は、コミュニティの資産を危険に晒すため、この段階でのテストは不可欠です。どのブロックチェーン(Ethereum, Polygon, Solanaなど)を選択するかは、手数料(ガス代)、処理速度、コミュニティの規模などを考慮して決定します。
資金調達方法とトークンのローンチ
最後に、DAOの活動資金を調達し、ガバナンストークンをローンチします。伝統的な株式発行とは異なり、DAOではトークンを販売することで資金を調達します(ICO: Initial Coin Offeringなど)。
近年では、NFTを発行し、その購入者にトークンを付与する形も一般的です。例えば「山古志DAO」は、NFTの販売収益を地域活性化の原資としています。この方法は、単なる資金調達に留まりません。初期の支援者をコミュニティのコアメンバーとして巻き込む強力な手段となります。
ただし、トークン発行には法的な留意点も多いため、特に日本では資金決済法などの規制を遵守する必要があります。専門家への相談も視野に入れるべきでしょう。
成功するDAOコミュニティの運営ポイント

DAOは自律的に運営される組織ですが、完全に放置して成功するわけではありません。特に初期段階では、コミュニティを活性化させ、円滑な運営を支える「仕掛け人」の存在が不可欠です。
ここでは、成功するDAO運営の鍵となる3つのポイントを解説します。
コミュニティマネージャーの役割とスキル
リーダー不在のDAOにおいても、「コミュニティマネージャー」の役割は極めて重要です。彼らは支配者ではありません。コミュニティが円滑に機能するためのファシリテーター(進行役)やサポーターであり、「陰のリーダー」とも言える存在です。
主な役割には以下のようなものがあります。
- モデレーション:Discordなどの議論の場を健全に保ち、建設的な対話を促進します。
- オンボーディング:新規参加者がスムーズにコミュニティに溶け込めるよう、案内やサポートを行います。
- コンテンツ企画:AMA(Ask Me Anything)セッションやオンライン勉強会、イベントなどを企画し、メンバー間の交流を活性化させます。
- 情報発信:議論の要約や決定事項を定期的に発信し、情報の透明性を確保します。
求められるスキルは、高いコミュニケーション能力、ファシリテーション能力、そして何よりもDAOのビジョンへの深い共感と情熱です。貢献に対しては、トークンによる報酬設計が不可欠とされています。
参加者のエンゲージメントを高める方法
コミュニティの熱量を維持し、参加者のエンゲージメントを高めるためには、継続的な働きかけが必要です。有効な施策としては、オンラインとオフラインの両面からアプローチすることが考えられます。
- バウンティプログラム:翻訳、デザイン、開発といった特定のタスクを提示し、達成したメンバーにトークンで報酬を支払う仕組み。貢献の機会を具体的に提供できます。
- 定期的なイベント:運営の進捗を共有するAMAセッションや、メンバー同士が交流するオンラインミートアップを定期的に開催します。
- オフラインイベント:実際にメンバーが顔を合わせる懇親会や勉強会は、コミュニティへの帰属意識を強固にします。
- 貢献の可視化:投票への参加や提案といったオンチェーン(ブロックチェーン上)での活動を記録し、貢献度に応じて特別なNFT(称号など)を付与することも有効です。
これらの施策の効果は、Discordのアクティブユーザー数や投票参加率、提案数などをKPI(重要業績評価指標)として測定し、改善していくことが重要です。
意思決定プロセスの透明性とフォローアップ
DAOの信頼性の根幹は「透明性」にあります。意思決定プロセスがブラックボックス化すると、参加者の信頼は失われ、コミュニティは衰退します。透明性を確保するためのベストプラクティスは以下の通りです。
- 議事録の公開:主要な議論や決定事項は、誰でもアクセスできる形で記録・公開します(Notionやフォーラムなど)。
- 投票プロセスの明確化:提案から投票、実行までの全プロセスを公開し、投票結果は理由とともに詳細に報告します。
- 定期レポート:財務状況(トレジャリーの資産状況)やプロジェクトの進捗について、定期的にレポートを作成し、コミュニティに共有します。
これらの丁寧なフォローアップは、コミュニティ内の信頼を醸成します。
たとえ意見が対立する場面があっても、健全な議論を通じて合意形成を図る文化を育みます。
国内外のDAOコミュニティ事例とその特徴

DAOは理論だけでなく、すでに国内外で多くの実践例が生まれています。ここでは、特にスタートアップ経営者や自治体関係者の参考となる、先進的なDAOコミュニティの事例を紹介します。そして、その成功要因を探ります。
国内自治体連携プロジェクト事例(日本の具体例)
日本国内では、特に「地方創生×DAO」の文脈で注目すべき事例が登場しています。
山古志DAO(新潟県長岡市)
日本初の地方創生DAOとして知られ、人口約800人の限界集落が舞台です。地域の象徴である錦鯉をモチーフにしたNFTアートを発行し、その保有者は「デジタル村民」としてコミュニティに参加できます。
NFTの売上は地域プロジェクトの資金となります。デジタル村民とリアル村民が協力して特産品開発やイベント企画などを進めています。地域外の人材やアイデアを巻き込む「関係人口」創出の新しいモデルとして大きな成功を収めています。
塩尻DAO(長野県塩尻市)
2024年5月に発足した、自治体が主体的に関与する先進的な事例です。会員証となるNFTを購入することで誰でも参加できます。地域課題の解決に向けたプロジェクトの提案や投票に参加できます。
行政とNPOが連携し、現実社会との接点を保ちながらDAOを運営している点が特徴です。持続可能な官民連携の形を模索しています。
おさかなDAO長崎
長崎の水産業振興を目的に、企業と有志が設立したDAOです。メンバーは長崎へのツアー企画や新商品開発など、多数のプロジェクトを同時並行で推進しています。
活動への貢献に応じてトークンが付与されます。地元の飲食店で使えるクーポンなどと交換できるインセンティブ設計が、楽しみながら地域貢献できるファンを増やしています。
海外の代表的DAOコミュニティ事例
海外では、さらに大規模で多様なDAOが活動しています。
MakerDAO
分散型金融(DeFi)の領域で最も成功しているDAOの一つです。米ドルにペッグされたステーブルコイン「DAI」を発行・管理しています。その運営方針はすべてガバナンストークンMKRの保有者による投票で決定されます。
数十億ドル規模の資産をコミュニティで管理しており、DAOの可能性を世に示しました。
Nouns DAO
毎日1体ずつ自動生成されるドット絵のNFT「Noun」がオークションにかけられます。その落札金がDAOの共有財産(トレジャリー)となるユニークな仕組みです。Nounの保有者は1保有あたり1票の議決権を持ちます。潤沢な資金を使って公共財への寄付や派生プロジェクトへの投資など、公益性の高い活動を展開しています。
「楽しみながら社会貢献できる」という強力なカルチャーが成功の要因とされています。
CityDAO
米国ワイオミング州の法律に基づき、DAOとして土地を所有した画期的なプロジェクトです。NFTを購入することで「市民」となります。DAOが所有する土地の利用方法について投票権を持ちます。
DAOが現実世界の資産を管理する先駆例として、世界中から注目を集めました。
DAOコミュニティにおけるトークンとインセンティブ設計

DAOコミュニティの持続的な成長を支える血液、それが「トークンエコノミー」です。巧妙なインセンティブ設計は、参加者の貢献意欲を最大限に引き出し、コミュニティを活性化させます。
ここでは、その根幹となるトークンの設計とインセンティブモデルについて解説します。
トークン設計の基本原則
トークンを設計する際には、いくつかの基本原則を考慮する必要があります。
- ユーティリティ(実用性):トークンにどのような価値を持たせるか。単なる議決権だけでなく、コミュニティ内のサービス利用料、限定コンテンツへのアクセス権、収益の分配を受ける権利など、複数の実用性(ユーティリティ)を持たせることで、トークンの需要を高めます。
- 供給量と配布計画:トークンの総供給量を有限にするのか、あるいはインフレモデルを採用するのか。また、初期メンバー、コミュニティ、開発チームへの配布割合をどうするか。この配分は、コミュニティの公平性と長期的な健全性に直結するため、透明性を持って慎重に決定する必要があります。中央集権的になりすぎないよう、配布はできるだけ分散させることが理想です。
失敗例としては、投機目的のみを煽り、実用性のないトークンを発行した結果、価格が暴落しコミュニティが崩壊するケースが挙げられます。
インセンティブモデルの種類と効果
参加者の貢献を促すインセンティブモデルには、様々な種類があります。
- エアドロップ:特定の条件を満たしたユーザー(例:初期からの貢献者)に対して、無料でトークンを配布する方法。コミュニティへの貢献に報い、初期の支持者を増やす効果があります。
- ステーキング報酬:トークンを特定の期間ロック(預け入れ)したユーザーに対し、報酬として追加のトークンを付与する仕組み。トークンの長期保有を促し、価格の安定に寄与します。
- バウンティプログラム:前述の通り、特定のタスクを完了したメンバーにトークンで報酬を支払う制度。具体的な貢献を促すのに非常に効果的です。
インセンティブ設計事例
成功しているDAOは、これらのモデルを巧みに組み合わせています。例えば、一部のDeFi系DAOでは、プロトコルが生み出す手数料収益の一部を、ガバナンストークンの保有者に分配する仕組みを取り入れています。
これにより、トークン保有者はDAOの成功が直接的な金銭的利益に繋がるため、ガバナンスへの参加意欲が高まります。また、日本の地方創生DAOの事例では、トークンを地域で使える商品券や特別な体験と交換できる仕組みを導入しています。
これは、金銭的価値だけでなく「楽しい」「嬉しい」といった感情的な報酬を提供することで、より幅広い層の参加を促す優れたインセンティブ設計と言えるでしょう。
DAOコミュニティ運営における法的留意点とリスク

DAOという新しい組織形態は、多くの可能性を秘める一方で、法的に未整備な領域も多く、運営には慎重な検討が求められます。スタートアップや自治体が安心してDAOを活用するためには、法的リスクとコンプライアンスについて正しく理解しておく必要があります。
法律上の位置づけと規制
これまで、法人格を持たないDAOは日本の法律上「組合」とみなされていました。何らかのトラブルが発生した場合、参加メンバー全員が無限責任を負うリスクがありました。
しかし、この大きな課題に対応するため、2024年4月の会社法改正により「合同会社(LLC)型DAO」の設立が可能になりました。これにより、DAOは法人格を持つことができ、参加メンバーの責任を有限に限定することが可能となります。日本国内でのDAO設立・運営のハードルが大きく下がりました。
一方で、海外では米国のワイオミング州がDAO法を整備したり、EUが暗号資産市場規制法(MiCA)を施行するなど、各国で規制整備が進んでいます。しかし、グローバルな統一基準はまだ存在しないのが現状です。DAOを運営する際は、こうした国内外の規制動向を常に注視する必要があります。
税務・資金決済法の留意点
トークンを発行・配布する際には、税務と資金決済法の観点から注意が必要です。日本では、法人が保有する暗号資産は期末に時価評価され、含み益にも課税されるという厳しい税制がありました。しかし、2023年度の税制改正により、自社発行のトークンについては期末時価評価課税の対象外となるなど、負担が緩和される動きが進んでいます。
さらに2025年度には個人の暗号資産利益を申告分離課税にする方向で検討が進められており、税環境は改善傾向にあります。また、発行するトークンが資金決済法上の「暗号資産」に該当する場合、交換業のライセンスが必要になる可能性があるため、専門家への相談が不可欠です。
セキュリティリスクとコンプライアンス対策
DAOの資産はスマートコントラクトによって管理されるため、そのコードに脆弱性があるとハッキングのリスクに晒されます。2016年に発生した「The DAO事件」では、脆弱性を突かれて巨額の資金が盗まれました。
この教訓から、スマートコントラクトをデプロイする前には、専門の監査企業によるセキュリティ監査を受けることが現在の標準的な対策となっています。
また、資金の不正利用を防ぐため、コミュニティの資金を複数の管理者が承認しないと動かせない「マルチシグウォレット」を利用することも有効なリスク管理手法です。コンプライアンス対策としては、マネーロンダリング防止(AML)の観点から、参加者の本人確認(KYC)をどの程度求めるかなども検討課題となります。
DAOコミュニティは今後どうなる?

黎明期にあるDAOコミュニティですが、その将来性は非常に大きいと考えられています。技術の進化と社会の需要が交差する中で、DAOは今後どのように発展していくのでしょうか。
今後の動向と社会に与えるインパクトについて考察します。
今後の技術トレンドと予測
DAOの運営をより効率的かつ安全にするための技術開発が急速に進んでいます。イーサリアムのガス代問題を解決するレイヤー2ソリューションの普及により、低コストで迅速な投票が可能になるでしょう。これにより、より多くの人がガバナンスに参加しやすくなります。
また、異なるブロックチェーン間で連携するクロスチェーン技術が発展すれば、複数のDAOが協力して大規模なプロジェクトを運営することも可能になります。
さらに、近年注目されているのがAI(人工知能)とDAOの融合です。大量の提案をAIが要約・分析して意思決定を支援したり、AIエージェントがDAOのメンバーとして自律的にタスクを実行したりする未来も予測されています。これは、組織運営のあり方を根本から変える可能性があります。
ガバナンスモデルの進化と社会的影響
現在の「1トークン=1票」というガバナンスモデルは、富の集中が議決権の集中に繋がるという課題を抱えています。今後は、個人の貢献度や評判を基に議決権を重み付けする新しいガバナンスモデルが普及していくと考えられます。
これにより、より公平で質の高い意思決定が可能になるでしょう。
社会的な影響としては、DAOが企業や自治体のあり方を変えていく可能性があります。例えば、企業が一部の事業をDAO化して顧客やファンを巻き込みながら運営する「ハイブリッドDAO」や、行政サービスの一部を住民参加型のDAOで運営するといったモデルが考えられます。
政府も「Web3ホワイトペーパー」などでDAOの活用を推進しています。DAOは単なるWeb3業界内のムーブメントに留まらず、社会全体の新しいインフラとして定着していく将来性が期待されています。
FAQ(よくある質問)
Q. DAOコミュニティとは何ですか?
A. DAO(分散型自律組織)とは、特定の管理者がいなくても、ブロックチェーン上のプログラム(スマートコントラクト)に従って自律的に運営されるコミュニティ組織のことです。
参加者の投票によって意思決定が行われ、運営の透明性が高いのが特徴です。
Q. DAOコミュニティの作り方を教えてください
A. 一般的には、1.ビジョンと目的を明確化し、2.初期メンバーを集めてDiscord等で議論の場を作り、3.Aragon等のツールでガバナンスルールを設定、4.トークンやNFTを発行して資金調達する、という流れで立ち上げます。
Q. DAOコミュニティマネージャーの役割は?
A. DAOを円滑に運営するための進行役(ファシリテーター)です。
新規参加者のサポート、イベント企画、議論の活性化などを通じて、コミュニティのエンゲージメントを高める重要な役割を担います。
Q. DAOコミュニティを見つける方法は?
A. 「DeepDAO」や「DAOlist」といったDAOの一覧サイトで探すのが一般的です。
また、X (旧Twitter)で「#DAO」などのハッシュタグを検索したり、Web3関連のイベントに参加して情報を集めるのも有効です。
DAOコミュニティについてまとめ
今回、Pacific Meta Magazineでは、DAOコミュニティについて以下の内容について紹介してきました。
- DAOコミュニティは、ブロックチェーン技術を活用した透明で民主的な新しい組織形態である。
- 立ち上げには「ビジョン策定」「メンバー募集」「ツール選定」「ガバナンス設定」というステップがある。
- 成功の鍵は、参加意欲を高める「インセンティブ設計」と、コミュニティを支える「マネージャー」の存在。
- 国内外で地方創生やプロジェクト資金調達の成功事例が生まれている。
- 運営には法的・税務・セキュリティのリスクがあり、専門家との連携が不可欠。特に日本では合同会社型DAOの道が開かれた。
DAOコミュニティは、単なる技術的なトレンドではありません。組織や社会のあり方を変革する大きな可能性を秘めています。特に、新たな資金調達やファンとの共創を目指すスタートアップ経営者や、住民参加型の新しい地域活性化モデルを模索する自治体関係者にとって、DAOは強力なツールとなり得ます。
この記事で紹介した知識や事例を参考に、まずは小規模なコミュニティからでも、DAOという新しい選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。