Espresso Systemsとは？”PoS×ZK-Rollup”で実現するクロスチェーンインフラを紹介！

複数のブロックチェーン（ロールアップ）を連携させるインフラを検討する中で、技術選定や将来性の判断に悩んでいませんか？

スケーラビリティやプライバシー、そして異なるチェーン間の分断は、Web3をビジネスに活用する上での大きな障壁です。

今回、Pacific Meta Magazineでは、Espresso Systemsとは何か、そしてその将来性について、以下の内容を詳しく解説します。

• PoSとZK-Rollupを組み合わせたEspresso Systemsの革新的な技術構造
• ロールアップの断片化を解決する「共有シーケンサー」の仕組みとメリット
• プライバシーを保護する「CAPE」など主要プロダクトの機能
• a16zなどがリードする大型資金調達の動向と将来性
• 最新テストネット「Cappuccino」の進捗と今後のロードマップ

ぜひ、最後までご覧ください。

Espresso Systemsとは？

Espresso Systemsは、ブロックチェーンのスケーラビリティと相互運用性を向上させるために設計された、分散型の「共有シーケンサー」ネットワークです。

今日のブロックチェーンエコシステムでは、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するために「ロールアップ」と呼ばれるレイヤー2技術が主流になっています。

しかし、ロールアップごとにトランザクションを処理する「シーケンサー」が独立しているため、流動性が分断され、ユーザー体験が損なわれるという新たな課題が生まれています。

Espresso Systemsは、この課題を解決するために、複数のロールアップが共同で利用できる中立的なシーケンシングレイヤーを提供します。

これにより、異なるロールアップ間でのシームレスな連携（コンポーザビリティ）と、分散化による高いセキュリティおよび耐検閲性を実現します。

DX担当者の視点からは、単一のチェーンに縛られることなく、複数のロールアップのメリットを享受できる、より柔軟で拡張性の高いインフラ基盤として導入を検討できる点が大きなメリットです。

定義と概要

Espresso Systemsの核心的なコンセプトは、「シーケンシングの分散化」です。
具体的には、イーサリアムなどのレイヤー1ブロックチェーン上に構築された複数のロールアップ（レイヤー2）に対して、トランザクションの順序付けを行う共有のインフラを提供します。

現在、多くのロールアップは中央集権的なシーケンサーによって運営されており、単一障害点や検閲のリスクを抱えています。

Espressoは、これを分散型のProof-of-Stake (PoS) ネットワークに置き換えることで、信頼性とセキュリティを向上させます。

プロジェクトが目指す価値は、Web3エコシステム全体の断片化を解消し、ユーザーや開発者が複数のアプリケーションやプロトコルをあたかも単一のチェーン上にあるかのように利用できる、統一された環境を構築することです。

これにより、UXの向上、流動性の集約、そしてクロスチェーンでの新たなイノベーション創出を促進します。

開発経緯とチーム構成

Espresso Systemsは、スタンフォード大学の暗号学、コンセンサスプロトコル、プログラミング言語の専門家チームによって2020年に設立されました。

CEOのBen Fisch氏、COOのCharles Lu氏、そしてチーフサイエンティストのBenedikt Bünz氏といったメンバーは、それぞれがゼロ知識証明や分散システムの研究で著名な実績を持っています。

特に、Benedikt Bünz氏は、Bulletproofs（ゼロ知識証明技術の一つ）の共同考案者としても知られています。

プロジェクトは、ブロックチェーンのプライバシーとスケーラビリティという根源的な課題を解決するという学術的な探求から始まりました。

その高い技術力とビジョンは、Andreessen Horowitz (a16z Crypto)やSequoia Capitalといったトップクラスのベンチャーキャピタルから注目され、初期段階から大規模な資金調達に成功しています。
これにより、世界中から優秀なエンジニアやリサーチャーが集結し、開発が加速しています。

PoS×ZK-Rollupで実現するEspresso Systemsの技術構造とは？

Espresso Systemsの技術的な根幹を成すのは、Proof-of-Stake (PoS) コンセンサスメカニズムと、ZK-Rollup技術への対応力です。

この2つの技術を組み合わせることで、分散性、セキュリティ、そしてスケーラビリティを高いレベルで両立させています。

アーキテクチャの全体像としては、まずPoSメカニズムによって、誰がトランザクションを順序付けするかの権利を決定し、ネットワーク全体の安全性を担保します。

そして、Espressoのシーケンサーが順序付けしたトランザクションのデータは、各ロールアップに送られます。

ロールアップ側は、そのデータを使って計算処理を実行し、その結果の正しさを証明する簡潔なデータ（ZK-Rollupの場合はゼロ知識証明）を最終的にイーサリアムなどのレイヤー1に書き込みます。
この分業体制により、レイヤー1の負担を大幅に軽減しつつ、分散型の信頼性を確保することが可能になります。

PoSコンセンサスメカニズム

Espresso Systemsは、HotShotと呼ばれる独自のPoSベースのコンセンサスプロトコルを採用しています。

HotShotは、高速性と高いスループットを実現します。
そして、数万のノードが参加する大規模な分散環境でも機能するように設計されています。
運用フローは以下のようになります。

1. ステーキング: ネットワークのセキュリティに参加したいノード運用者（バリデータ）は、ネイティブトークンをステーク（預け入れ）します。
2. リーダー選出: バリデータの中から、次のブロックのトランザクションを提案する「リーダー」がランダムに選出されます。
3. 提案と投票: リーダーは、受け取ったトランザクションを順序付けてブロックとして提案し、他のバリデータがその正当性を検証して投票します。
4. 合意形成: 十分な数の投票が集まると、ブロックは正式に承認され、チェーンに追加されます。

不正な行為を行ったバリデータはステークした資産を没収されるペナルティがあるため、正直に行動するインセンティブが働き、ネットワーク全体の安全性が保たれます。

ZK-Rollupによるスケーラビリティ向上

ZK-Rollup（Zero-Knowledge Rollup）は、レイヤー2スケーリング技術の一種で、Espresso Systemsが連携する主要な対象です。

その仕組みは、「計算」と「検証」を分離することにあります。
まず、大量のトランザクションをオフチェーン（イーサリアム本体の外）で実行します。

次に、そのすべての計算が正しく行われたことを証明する、非常にコンパクトな「ゼロ知識証明（ZK-SNARKsなど）」を生成します。

最終的に、この証明と最小限のトランザクションデータのみをイーサリアム（レイヤー1）に記録します。

レイヤー1は、個々のトランザクションを一つずつ検証する代わりに、この「証明」を検証するだけで済むため、ブロックチェーン全体の負荷が劇的に減ります。結果として処理能力（スループット）が大幅に向上し、手数料（ガス代）も削減できるのです。

Espressoは、このZK-Rollupを含む様々なロールアップに対して、信頼性の高いトランザクションの順序付けを提供します。

Espresso Systems共有シーケンサーの仕組みと利点

Espresso Systemsの中核をなす「共有シーケンサー」は、ロールアップエコシステムが抱える断片化の問題を解決する画期的なソリューションです。

現在のロールアップはそれぞれが独自のシーケンサーを持つため、異なるロールアップ上のアプリケーションを跨いだ取引（アトミックコンポーザビリティ）が困難でした。

共有シーケンサーは、これらのロールアップに共通のトランザクション順序付けサービスを提供することで、あたかも一つのブロックチェーンのように連携させることができます。

これにより、ユーザーはAというロールアップの資産を、BというロールアップのDeFiプロトコルでシームレスに利用できるようになります。

企業にとっては、特定のロールアップ技術にロックインされることなく、複数のエコシステムにまたがるサービスを展開できるという戦略的なメリットがあります。

また、分散化されたシーケンサーを利用することで、中央集権的な運営者に依存するリスクを排除し、より堅牢なシステムを構築できます。

シーケンサーの役割とアーキテクチャ

Espressoシーケンサーの役割はシンプルです。ユーザーやロールアップから送られてきたトランザクションを受け取り、それらを公平な順序で並べ、確定したリストを各ロールアップに配信することです。

アーキテクチャは分散型で、世界中に配置されたバリデータノードによって運営されます。
トランザクション配信フローは、ユーザーがトランザクションを送信すると、それがEspressoのバリデータネットワークにブロードキャストされます。

前述のHotShotコンセンサスにより、リーダーが選出され、トランザクションが順序付けられたブロックが生成されます。

重要なのはフォールバック（代替）メカニズムです。
万が一、Espressoシーケンサーがダウンした場合でも、各ロールアップはイーサリアムなどのレイヤー1を直接利用する「エスケープハッチ」と呼ばれる仕組みを通じて、資産の安全性を確保できます。そして自前のシーケンサーに切り替えることができます。

この設計により、Espressoへの依存がリスクにならないようになっています。

高速処理とコスト削減メカニズム

Espressoシーケンサーは、HotShotコンセンサスの採用により、理論上は非常に高速な処理能力を持ちます。

最終的なブロックの確定（ファイナリティ）までの時間が短く、レイテンシ（遅延）が改善されるため、特に高速な取引が求められるアプリケーションでメリットを発揮します。

コスト削減は、主に2つの側面から実現されます。
第一に、各ロールアッププロジェクトが自前でシーケンサーを開発・運用・保護するためのコストが不要になります。

第二に、シーケンシングサービスが市場原理に基づいて提供されるため、競争が生まれ、利用料金が最適化されることが期待されます。
以下は、概念的なコスト構造の比較です。

項目	個別シーケンサー（従来型）	Espresso共有シーケンサー
開発・運用コスト	各プロジェクトが個別負担（高）	不要（Espressoが提供）
セキュリティコスト	各プロジェクトが個別負担（高）	共有インフラのため分散（低）
クロスチェーン連携コスト	複雑なブリッジが必要（高）	ネイティブに連携可能（低）

現時点ではテストネット段階であり、実際の商用環境でのベンチマーク結果は今後公開される予定です。

セキュリティとフェールセーフ設計

Espressoのセキュリティは、PoSによる経済的なインセンティブと、技術的な分散化によって担保されています。

想定される攻撃モデルは、悪意のあるバリデータによるトランザクションの検閲や順序操作（MEV）です。

これに対しては、バリデータを多数に分散させることで単独での攻撃を困難にします。そして不正行為にはステークした資産を没収するという罰則を設けることで対抗します。

フェールセーフ設計の核心は、前述のフォールバックメカニズムです。
ロールアップは、Espressoシーケンサーから送られてくるデータの可用性を常に監視しています。

もしデータが一定時間提供されないなどの異常を検知した場合、ロールアップのスマートコントラクトは自動的にイーサリアムL1を直接のシーケンサーとして利用するモードに切り替わります。
これにより、プラットフォーム全体のダウンタイムやデータの損失リスクを最小限に抑えています。

CAPEなどEspresso Systemsの主要プロダクト一覧

Espresso Systemsは共有シーケンサーという中核インフラを開発していますが、その能力を実証し、活用するための具体的なアプリケーションも提供しています。

その代表例が「CAPE (Configurable Asset Privacy for Ethereum)」です。
これは、企業や個人が求めるプライバシー要件をブロックチェーン上で実現するための重要なプロダクトです。

企業がブロックチェーンを導入する際、取引情報などの機密データをどのように扱うかが大きな課題となります。

CAPEは、この課題に対する一つの答えを提供します。そしてパブリックブロックチェーンの透明性と、ビジネスで求められる機密性を両立させる道筋を示します。

ここでは、CAPEの機能と、その他企業導入時に注目すべきコンポーネントについて解説します。

CAPEの機能と特徴

CAPE (Configurable Asset Privacy for Ethereum) は、イーサリアム上で動作するスマートコントラクトベースのプライバシーソリューションです。

その最大の特徴は、資産の発行者が、その資産に関するプライバシーポリシーを自由に「設定（Configure）」できる点にあります。

具体的には、以下のような機能を提供します。

• カスタマイズ可能なプライバシー: 資産の発行者は、「誰が、どのような条件下で、どの情報（保有者、金額など）を閲覧できるか」というルールを細かく設定できます。例えば、規制当局のみが監査目的で取引履歴を閲覧できる、といった設定が可能です。
• 匿名性: ゼロ知識証明を活用することで、送信者、受信者、金額を隠したまま、正当な取引であることだけを証明して資産を移転できます。
• 資産のラッピング: 既存のERC-20トークンなどをCAPEのコントラクトで「ラップ」することで、プライバシー機能を追加できます。

CAPEはクロスチェーンメッセージング機能自体を持つわけではありません。しかし、Espressoの共有シーケンサー上で動作することで、異なるロールアップ間でプライベートな資産をシームレスにやり取りする将来的なユースケースの基盤となります。

その他主要プロダクト解説

Espresso Systemsのプロダクトは、共有シーケンサーというコアインフラを中心に展開されています。
企業が導入を検討する際に注目すべきは、このインフラを自社のシステムに統合するためのツール群です。
具体的には、以下のものが挙げられます。

• ロールアップ統合用SDK: 各ロールアップ（OptimismのOP Stack、Arbitrum Stylus、Polygon zkEVMなど）がEspressoシーケンサーに容易に接続できるようにするための開発者向けキットです。これにより、既存のロールアッププロジェクトは、最小限の変更で共有シーケンサーのメリットを享受できます。
• バリデータ向けツール: Espressoネットワークのバリデータとして参加するためのノードソフトウェアや、ステーキング、監視ツールなどが提供されます。これにより、パーミッションレスで分散化されたネットワークの構築を促進します。
• Espressoブロックエクスプローラー: Espressoシーケンサーが処理するトランザクションの順序やステータスを可視化するためのツールです。ネットワークの透明性を確保し、開発者がデバッグしやすくするために不可欠です。

これらのプロダクトは現在も活発に開発が進められています。そしてメインネットのローンチに向けて、より多くのツールやドキュメントが整備されていくと考えられます。

Espresso Systemsの資金調達と投資家動向

Espresso Systemsは、その革新的な技術と強力なチームを背景に、Web3業界でもトップクラスのベンチャーキャピタルから大規模な資金調達を成功させています。

これは、プロジェクトの将来性に対する市場の高い期待を反映しています。
企業のDX担当者やテクニカルコンサルにとって、資金調達の状況はプロジェクトの信頼性や持続性を判断する上で重要な指標となります。

潤沢な資金は、長期的な開発体制の維持、優秀な人材の確保、そしてエコシステムの拡大を可能にするからです。

ここでは、Espresso Systemsの資金調達ラウンドの詳細と、その背後にいる主要な投資家やパートナーについて解説します。

資金調達ラウンド詳細

Espresso Systemsは、これまでに複数の大規模な資金調達ラウンドを実施しています。
これらの資金は主に、研究開発体制の強化、エンジニアリングチームの拡大、そしてビジネス開発とエコシステム構築のために活用されています。
以下に主要な資金調達ラウンドの概要を示します。

ラウンド	完了時期	調達額	主要投資家
シード	2020年	現時点では詳細は不明	–
シリーズA	2022年3月	3,200万ドル	Greylock Partners, Electric Capital, Sequoia Capital
シリーズB	2024年3月	2,800万ドル	Andreessen Horowitz (a16z Crypto)

特に、2022年のシリーズAでは、Web3分野で豊富な実績を持つGreylockやElectric Capitalがリードし、伝統的なトップVCであるSequoiaも参加したことで大きな注目を集めました。

続く2024年のシリーズBでは、暗号資産分野で絶大な影響力を持つa16z Cryptoがリードインベスターとなり、プロジェクトの評価をさらに高めました。

評価額の正確な推移は公開されていませんが、これだけの一流投資家が継続的に支援していることから、非常に高い評価を受けていると考えられます。

主な投資家とパートナーシップ

Espresso Systemsを支援する投資家は、資金提供だけでなく、そのネットワークや知見を通じてプロジェクトの成長を後押ししています。

• Andreessen Horowitz (a16z Crypto): Web3分野における最も影響力のあるVCの一つ。技術的な知見と強力なネットワークでプロジェクトを支援します。
• Sequoia Capital: AppleやGoogleなど、数々の巨大IT企業を初期から支援してきた伝説的なVC。その参加は、技術がIT業界全体に与える潜在的なインパクトを示唆します。
• Greylock Partners & Electric Capital: 共に暗号資産・ブロックチェーン分野への深い理解と投資実績を持つ専門VCです。
• Polychain Capital: 暗号資産に特化した投資ファンドで、プロトコルレベルのプロジェクトへの投資を得意としています。

パートナーシップにおいては、特定の企業との提携というよりも、エコシステム全体との連携を重視しています。

具体的には、OptimismのOP Stack、PolygonのzkEVM、Arbitrumなど、主要なロールアップ開発基盤との技術的な統合を進めています。

これにより、これらの基盤を使って開発を行うプロジェクトが、簡単にEspressoの共有シーケンサーを選択できるようになることを目指しています。

Espresso Systemsと他L1プロジェクトの違いとは？

Espresso Systemsを検討する上で、Ethereum、Solana、Avalancheといった既存のレイヤー1（L1）ブロックチェーンとどう違うのかを理解することは非常に重要です。

結論から言うと、Espresso SystemsはこれらのL1と競合するのではなく、補完する役割を担います。

L1ブロックチェーンが国家の基盤となる「憲法」や「土地」だとすれば、ロールアップは特定の目的のために作られた「特区」のようなものです。

そしてEspresso Systemsは、これらの特区間を結びつけ、人やモノの行き来をスムーズにする「高速交通網」に例えられます。

このセクションでは、技術的な設計思想の違いを明確にし、Espresso Systemsがブロックチェーンエコシステムの中でどのような独自のポジションを築こうとしているのかを分析します。

比較対象（Ethereum, Solana, Avalanche等）

Espresso Systemsと主要L1プロジェクトとの最も大きな違いは、その「役割」にあります。

L1は、コンセンサス（合意形成）、データ可用性（データの保管）、実行（スマートコントラクトの処理）というブロックチェーンの主要な機能をすべて単独で担う「モノリシック」な設計思想を持っています。

一方、Espressoはこれらの機能のうち「コンセンサス（特にトランザクションの順序付け）」に特化した「モジュラー」な設計思想です。
以下に、その違いをまとめた比較表を示します。

項目	Espresso Systems	Ethereum (L1)	Solana	Avalanche (C-Chain)
役割	共有シーケンサー (L2支援)	スマートコントラクト基盤 (L1)	高性能スマートコントラクト基盤 (L1)	スマートコントラクト基盤 (L1)
設計思想	モジュラー	モジュラー化へ移行中	モノリシック	サブネットによるモジュラー
主な機能	トランザクションの順序付け	実行、データ可用性、コンセンサス	実行、データ可用性、コンセンサス	実行、データ可用性、コンセンサス
主な用途	ロールアップ間の連携強化	DeFi, NFTなど万能な基盤	高頻度取引(DeFi, GameFi)	DeFi, 企業向けサブネット
処理能力(TPS)	ロールアップに依存 (理論上は高)	約15 (L2でスケール)	数千 (理論値は65,000)	数百〜数千

このように、EspressoはL1と直接スループットを競うのではありません。L1（特にイーサリアム）の上でスケールするロールアップ群を、より効率的かつ安全に連携させるためのインフラとして機能します。

優位性とリスク比較

Espresso Systemsの優位性は、L1が直接は解決できない「ロールアップの断片化」という課題に特化している点にあります。

優位性

• クロスロールアップの相互運用性: 異なるロールアップ間でアトミックなトランザクションを可能にし、UXと資本効率を劇的に改善します。
• シーケンサーの分散化: 多くのロールアップが抱える中央集権的なシーケンサーのリスク（検閲、単一障害点）を排除し、信頼性を高めます。
• コスト効率: 各ロールアップが個別にシーケンサーを運用する必要がなくなり、エコシステム全体のコストを削減できる可能性があります。
• 中立性と信頼性: 特定のロールアップに偏らない中立的なインフラであるため、多くのプロジェクトから信頼を得やすいです。

一方で、新しいコンセプトのインフラであるため、いくつかのリスクや課題も存在します。

リスク

• ネットワーク効果の不確実性: 価値を発揮するためには、多くの主要なロールアップに採用される必要があります。採用が進まなければ、その利便性は限定的になります。
• 技術的な複雑さ: 共有シーケンサーという新しいレイヤーが加わることで、システム全体の複雑性が増し、未知の脆弱性が存在する可能性があります。
• 実績の欠如: まだメインネットが稼働しておらず、大規模な商用環境での安定性やパフォーマンスは証明されていません。
• 競合の存在: AstriaやRadiusなど、同様の共有シーケンサーを開発するプロジェクトも存在し、競争が激化する可能性があります。

これらのリスクを乗り越え、エコシステムに広く受け入れられるかどうかが、Espresso Systemsの成功の鍵となります。

Espresso Systemsが解決するスケーラビリティとプライバシー課題とは？

ブロックチェーンが社会インフラとして普及するためには、「スケーラビリティ（拡張性）」と「プライバシー（機密性）」という2つの大きな課題を乗り越える必要があります。

スケーラビリティは一度に多くの取引を処理する能力を指します。プライバシーは取引内容を意図しない他者から保護する能力を指します。

これらはしばしばトレードオフの関係にあり、両立は困難とされてきました。
Espresso Systemsは、モジュラーアーキテクチャとゼロ知識証明という最先端の技術を駆使して、この2つの課題に同時にアプローチします。

共有シーケンサーによってロールアップ間の連携を強化しエコシステム全体のスケーラビリティを向上させます。それと同時に、CAPEのようなプライバシー技術をその上で展開することで、企業ユースにも耐えうる信頼性の高いプラットフォームを目指しています。

スケーラビリティ課題の詳細と解決策

イーサリアムにおけるスケーラビリティの課題は、単にトランザクション処理能力（TPS）が低いことだけではありません。

レイヤー2ロールアップの登場によってTPS自体は向上しました。しかし、その結果「流動性の断片化」と「ユーザー体験の分断」という新たな問題が発生しました。

ユーザーは、ロールアップAからロールアップBへ資産を移動するために、時間とコストのかかるブリッジを使わなければなりません。

Espresso Systemsの解決策は、このロールアップ間に共有の高速道路、すなわち「共有シーケンサー」を建設することです。

すべてのロールアップが同じシーケンサーを参照することで、トランザクションの順序がグローバルに確定します。

これにより、例えば「ロールアップAのDEXでトークンをスワップし、その結果得られたトークンを即座にロールアップBのレンディングプロトコルに貸し出す」といった一連の操作を、一つのトランザクション（アトミックトランザクション）として実行できるようになります。
これは、エコシステム全体の資本効率とUXを飛躍的に向上させる解決策です。

プライバシー機能とゼロ知識証明

パブリックブロックチェーンの取引は基本的にすべて公開されています。そのため、企業のサプライチェーン管理や金融取引など、機密性を要するユースケースには不向きでした。

Espresso Systemsは、この課題に対してゼロ知識証明（ZK証明）を用いたプライバシー機能を提供します。

その代表がプロダクト「CAPE」です。
ZK証明は、「ある命題が真であることを、それ以外の情報を一切明かすことなく証明する」技術です。
CAPEでは、これを利用して、取引の当事者（誰が誰に）や金額を暗号化したまま、その取引がルールに従って正しく行われたことだけをネットワークに証明します。

ユースケースの例：

• 機密決済: 競合他社に知られたくない企業間の支払いを、取引内容を秘匿したまま実行する。
• プライベートな資産運用: 個人の資産ポートフォリオを他者に知られることなく、DeFiで運用する。
• サプライチェーン金融: サプライヤーへの支払い情報などの機密データを保護しつつ、ブロックチェーン上で取引を記録・自動化する。

このように、Espressoはスケーラビリティとプライバシーの両方を満たすことで、Web3の新たな可能性を切り拓こうとしています。

Espresso SystemsロードマップとCappuccinoテストネットの展望

Espresso Systemsは、壮大なビジョンを実現するために、段階的なロードマップに沿って着実に開発を進めています。

プロジェクトの進捗と将来性を判断する上で、このロードマップと最新のテストネットの状況を理解することは不可欠です。

現在は、メインネットのローンチに向けた最終段階ともいえる5番目のテストネット「Cappuccino」が稼働しており、多くのロールアップエコシステムとの統合が進められています。

ここでは、今後の開発計画とマイルストーン、そして現在のテストネットで何が検証され、企業や開発者がどのように関わることができるのかを詳しく解説します。

今後の開発予定とマイルストーン

Espresso Systemsのロードマップは、コーヒーの名前が付けられた一連のテストネットを通じて、徐々に機能を追加し、分散化を進めていく計画になっています。

1. Americano (完了): CAPEプライバシーアプリケーションの概念実証。
2. Gibraltar (完了): Espressoシーケンサーの最初のバージョンを導入。
3. Kyoto (完了): 主要なロールアップ（OP Stack, Arbitrum Nitro）との統合を実証。
4. Cappuccino (現在稼働中): ネットワークの分散化を推進。より多くのバリデータが参加し、Polygon zkEVMなど、さらに多くのエコシステムとの統合をテスト。インセンティブ設計の検証も開始。
5. Mainnet (将来): 完全な機能を備えた、パーミッションレスで分散化された共有シーケンサーネットワークの正式稼働。

今後の主要なマイルストーンは、Cappuccinoテストネットでの安定性とパフォーマンスの証明です。そして経済的なインセンティブモデル（トークノミクス）を確立し、完全な分散化を実現することです。

最終的な目標は、誰でもバリデータとして参加でき、あらゆるロールアップが自由に接続できる、中立的で信頼性の高い公共財としてのインフラを構築することにあります。

メインネットの具体的なローンチ時期はまだ明言されていません。
しかし、テストネットの進捗状況から、着実にその日に近づいていると考えられます。

Cappuccinoテストネットの現状と参加方法

現在稼働中の「Cappuccino」は、Espressoシーケンサーの5番目のイテレーションであり、メインネットに最も近い環境です。

機能概要

• 多様なロールアップとの統合: Optimism, Arbitrum, Polygon zkEVMといった主要なロールアップフレームワークと接続し、実際にトランザクションをシーケンスしています。
• 分散化の推進: これまでのテストネットよりも多くの外部バリデータが参加し、分散環境でのパフォーマンスと安定性をテストしています。
• データ可用性レイヤーとの連携: EigenLayerなどのデータ可用性ソリューションとの連携も視野に入れたテストが行われています。

参加方法

テクニカルコンサルや開発者は、Cappuccinoテストネットに積極的に関わることができます。

1. ドキュメントの確認: まずはEspresso Systemsの公式ウェブサイトにある開発者向けドキュメントを参照し、技術仕様やチュートリアルを確認します。
2. ロールアップのデプロイ: サポートされているロールアップフレームワーク（OP Stackなど）を使い、Cappuccinoに接続された独自のテスト用ロールアップをデプロイできます。
3. コミュニティへの参加: 公式のDiscordサーバーに参加し、開発チームや他の参加者と情報交換を行ったり、質問したりすることが推奨されます。
4. フィードバックの提供: テスト中に発見したバグや改善点を、GitHubやDiscordを通じて報告することで、プロジェクトに貢献できます。

Cappuccinoに参加し、その性能や使い勝手を早期に評価することは、将来的な導入を検討する上で貴重な知見となるでしょう。

Espresso Systemsについてまとめ

今回、Pacific Meta Magazineでは、Espresso Systemsとは何か、その技術から将来性まで、以下の内容を紹介してきました。

• Espresso Systemsは、ロールアップ間の断片化を解決する「共有シーケンサー」を提供する分散型ネットワークである。
• PoSコンセンサス（HotShot）とZK技術への対応により、セキュリティ、分散性、スケーラビリティを両立させる。
• 共有シーケンサーは、クロスロールアップの相互運用性を実現し、UXと資本効率を向上させる。
• プライバシー技術「CAPE」により、企業が求める機密性をパブリックチェーン上で実現する道を開く。
• a16zやSequoiaなどトップVCから大型調達を成功させており、プロジェクトの信頼性と将来性が高く評価されている。
• 最新テストネット「Cappuccino」が稼働中で、主要ロールアップとの統合を進め、メインネットローンチに向けた最終準備段階にある。

ブロックチェーン技術が進化し、複数のチェーンやレイヤーが共存するマルチチェーン時代が本格化する中で、それらを「つなぐ」技術の重要性はますます高まっています。

Espresso Systemsは、その中核を担うインフラとして、Web3のユーザー体験を根本から変え、企業がより複雑で高度なアプリケーションを構築するための土台となる可能性を秘めています。

まだ開発途上のプロジェクトではありますが、そのビジョンと技術、そして強力な支援体制は、今後の動向を注視するに値します。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。