第2回の本記事では、メタバースの歴史や興隆について、具体的な作品や商品を紹介しながら説明していきます。
第1回の「メタバースの市場規模と最新動向」については、Pacific Metaマガジンの以下の記事をご覧ください。
メタバースの誕生とその語源
メタバース(Metaverse)とは、超える(meta)と宇宙(universe)を組み合わせた造語で、「リアルタイムに大規模多数の人が参加できるオンラインの三次元空間」①を意味します。
世間がメタバースに関心を持つようになったのは、2021年の旧フェイスブック社(旧Facebook,Inc.)による「Meta」への社名変更が大きな理由であると考えられます。
近年特にバズワードとなりその動向に注目が集まっているメタバースですが、メタバース(Metaverse)という「ことば」の誕生は約30年前、仮想空間という「概念」はなんと約40年前に打ち出されており、メタバースの歴史は意外にも長いのです。
①バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』(技術評論社、2022年)25頁図より引用
メタバース:言葉の誕生
メタバース(Metaverse)という言葉は、1992年にアメリカ人のSF小説家ニール・スティーブンスンが著した『スノウ・クラッシュ』で誕生しました。小説内に登場するメタバースはVRゴーグルの使用が前提となっており、現在のメタバースとは少し相違する部分もありますが、概ね現代人のイメージする三次元仮想空間に近しいものだと言えるでしょう。アバターという概念も登場しています。
メタバースの原典とされるこの小説は、旧フェイスブック社(旧Facebook,Inc.)による「Meta」への社名変更で急激に注目が集まり、2022年1月に復刻出版されるに至りました。『スノウ・クラッシュ』 はVR開発業界に大きな影響を与えており、現に、VR開発業界を牽引する「Oculus(オキュラス)」(Metaが買収)の創業者パルマ・ラッキーは、本小説に大きな影響を受けたと公言しています。②
②バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』(技術評論社、2022年)25頁
仮想空間:概念の誕生
仮想空間という概念が初めて登場したのは、1981年にアメリカ人数学者でありSF作家のヴァーナー・ヴィンジが著した『マイクロチップの魔術師(原題:True Name)』であると言われています。この作品以降、漫画や映画、アニメを通じて世界中に仮想空間という概念が広まっていきました。
次の章では、具体的な作品名と共に詳しく紹介していきます。
歴史と変遷
1981年~1999年
仮想空間の概念が初めて登場したとされる、ヴァーナー・ヴィンジの『マイクロチップの魔術師』(1981年)を皮切りに、ウィリアム・ギブソンの『クローム襲撃』(1982年)や『ニューロマンサー』(1984年)、ニール・スティーブンスンの『スノウ・クラッシュ』(1992年)が発表されました。
特に、サイバーパンクを初めて描いた『ニューロマンサー』に登場する「マトリックス」という電脳空間は、その後の『攻殻機動隊』(1991年)や映画『マトリックス』(1999年)に大きな影響を与えました。
このように、SF小説や映画等のフィクションで描かれた世界は、人々が実際に仮想空間を体験できるようになる前の時代から、人々に仮想空間・メタバースを身近な存在と感じさせてきたのです。
空想の世界から体験できる世界へ①ウルティマ オンライン(1997年)
その後、メタバースの走りとも称されるMMORPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)の『ウルティマ オンライン』(1997年)が世界的な大ヒットとなり、これに続いて、様々なMMORPGが国内外で人気を博しました。
空想の世界から体験できる世界へ②セカンドライフ(2003年)
次いでメタバースサービスの始祖となったアメリカのリンデンラボ社が運営する『セカンドライフ』(2003年)は、2007年に社会現象を巻き起こしました。
ユーザはセカンドライフという名前通りに、アバターを操作して他ユーザとコミュニケーションをはかることはもちろん、イベントへの参加や家の建築等々、各々の好きなように二つ目の人生を楽しむことができるほか、当時は斬新だった現実のUSドルと連動したリンデンドルという通貨で行われる経済活動は目覚ましいものでした。その後SNSの普及やインターネット環境の制約等の理由で一時衰退したものの、サービスは継続しています。③
③岡嶋裕史『メタバースとは何か-ネット上の「もう一つの世界」-』(光文社、2022年)81-86頁
VRデバイスの一般化:VR元年(2016年)
そして「VR元年」こと2016年、一般ユーザ向けVRデバイスの販売を皮切りに「VRChat」や「cluster」といったサービスが誕生し、現在も続くメタバースブームの先駆けとなりました。
メタバース・仮想空間はこのような歴史を辿って、現在の姿まで成長してきました。
世の中への普及
メタバースが注目され、世の中に広く普及した時期が2つあります。それぞれを第一次メタバースブーム、第二次メタバースブームと名付けて紹介します。
第一次メタバースブーム
上:引用:ソーシャルアイランド10|セカンドライフの目的地 (secondlife.com)
下:引用:Java Sprockets|セカンドライフの目的地 (secondlife.com)
2007年に『セカンドライフ』が社会現象となったことが引き金となり、第一次メタバースブームが到来しました。
『セカンドライフ』の仮想空間内の土地を転売する者や、建築する者が1億円以上の収入を得ることもありました。その経済的効果は目覚ましく、一般ユーザだけでなく企業も目を向け、富を築くべく仮想空間内の土地を購入し運営を始めるといった動きも見られました。
莫大なユーザと経済的効果を持った『セカンドライフ』でしたが、リンデンドルのインフレやサーバ整備の遅延等により大量の離脱者が出て、このブームは2009年に衰退しました。
第二次メタバースブーム
引用:https://about.meta.com/ja/metaverse/
2021年10月、旧フェイスブック社(旧Facebook,Inc.)による「Meta」への社名変更で再びメタバースに注目が集まり、第二次メタバースブームが到来しました。
Meta社のメタバースへの積極的な参入に加え、新型コロナウィルスの流行でテレワークやオンラインでのコミュニケーションの需要の高まったこと、及びVR・AR技術の発展もこのブームの後押しとなりました。
「あつまれ どうぶつの森」の世界的大ヒットや「Roblox」の上場(2021年3月)、H&Mや伊勢丹によるバーチャルECの構築など、第二次メタバースブームは第一次メタバースブームよりも沢山の企業や人を巻き込んで大きな影響力を見せています。
様々な意見や予測が飛び交うメタバースですが、今後どのような展開を見せるのか、期待が高まりますね。
次回予告
第3回では、メタバースの活用例やビジネス例をご紹介いたします。