JSS(Japan Stablecoin Summit)は、Pacific Meta・Progmat・KDDI共同主催によるステーブルコインに特化した国内最大級のビジネスイベントである。二回目となる今回では金融機関、ブロックチェーン企業、金融庁など幅広いプレイヤーが一堂に会し、最新動向から具体的なユースケースまで、多角的な議論が行われた。本イベントには、金融庁やJPYCをはじめ、メガバンク、国内外のブロックチェーン企業、有名法律事務所などが集結した。

初回の2025年9月から約4ヶ月が経過したこの間にも、制度設計や実装検討は前進し、議論はより「実装」を強く意識した内容へと深まっていた。
当日は300名近い参加者が来場し、会場は終始、熱量の高い賑やかな雰囲気に包まれた。
本レポートでは、各セッションで共有された論点を「いま何が起きているのか」「どこが次の実装ポイントか」という観点で整理する。
ステーブルコインは単なる“新しい決済手段”ではなく、送金・決済・資本市場アクセスの摩擦を減らすインフラになり得る。議論を通じて繰り返し確認されたのは、この共通認識であった。一方で、日本市場では制度設計や運用体制、リスク対応が普及のボトルネックになり得る。実装が見え始めた今だからこそ、どこに課題があり、どこに伸びしろがあるのか。以下、当日の議論を振り返る。
Pacific Meta Keynote「オンチェーン金融界がもたらす未来」
- Pacific Metaは、キリフダの子会社化により「戦略×実装」を一気通貫で担うブロックチェーン総合コンサルグループへと拡張する方針を示した。
- ブロックチェーンは「人の介在」を減らし、スマートコントラクトと共通台帳によって取引コストと決済リスクを圧縮し得る、という見立てが提示された。
- オンチェーン金融の基盤として、ステーブルコインが「決済・担保の基盤」=経済圏を循環させる血液になる点が強調された。

Pacific Meta、キリフダ子会社化でブロックチェーン総合コンサルグループへ
本セッションでは、当社が掲げる「オンチェーン金融がもたらす未来」と、その実現に向けた事業方針が主な論点となった。
当社Pacific Metaは、ブロックチェーン領域において、コンサルティングから開発までを一気通貫で提供できる「国内最大級のブロックチェーンコンサルグループ」へと進化する方針を示した。あわせて、ブロックチェーンに特化したシステム開発・コンサルティング企業であるキリフダ株式会社の子会社化を発表した。
今回のグループインにより、Pacific Metaの「戦略策定力」とキリフダの「高い技術力・開発力」が統合され、「戦略×実装」を包括的に支援する体制が強化される。支援実績は国内外合わせて260社以上に拡大し、チームメンバーも総勢80名へと増加。グローバルネットワークも41カ国に広がり、多様な業界・地域・経歴を持つメンバーで構成される点が紹介された。
オンチェーン金融は「金融の民主化」を支えるインフラになり得る
また、当社のビジネスディレクターによるプレゼンテーションでは、ブロックチェーンが「金融の民主化をもたらすインフラ」になり得る、というビジョンが提示された。導入が進むほど、従来の取引モデルにおける「人の介在」が減り、膨大な社会的・経済的コストを圧縮できる、という整理である。これは、スマートコントラクトによる厳格な条件設定と自動執行、共通台帳による二重決済リスクの回避などによって実現される。
コスト削減は利回りの改善として現れ得るほか、取引コストの低下による小口債権化や、インターネット接続さえあれば誰もが資産を保管できる新興国での資産アクセス向上といったメリットにもつながる。最終的に、金融資産のオンチェーン化が進むことで、24時間365日取引、高速・低コスト決済、AIによる自動アセットマネジメントなどが実現する未来が描かれた。
最後に、このオンチェーン金融時代において経済活動の基盤となるのがステーブルコインであり、「決済・担保の基盤」としてオンチェーン経済圏を循環させる「血液」の役割を果たす、という点が強調された。
Progmat Keynote「金融トークン化とDeFiの現状と展望」
- トークン化は“資産のデジタル化”ではなく、金融インフラの再設計という前提が共有された
- 決済レールとしてステーブルコインが不可欠で、特にホールセール/クロスボーダーに白地があるという整理であった
- 規制変化とDeFi接続、さらにAIエージェントによる取引体験まで含む将来像が示された

トークン化は「資産のデジタル化」ではなく、金融インフラの再設計である
本セッションでは、ST発行に携わる業界の第一人者として齊藤達哉氏が招かれ、金融トークン化の現在地と、DeFi接続を含む今後の展望が主な論点となった。
まず提示されたのは、トークン化がグローバルで大きな潮流となり、日本でもSTを起点に金融機関主導の取り組みが進んでいるという現状である。トークン化は“資産をデジタル化する思想実験”に留まらず、金融インフラそのものの設計を問い直す動きであることが、前提として共有された。
市場規模感と「決済レール」の不足
セッション内では、資産のトークン化がグローバルで巨大なトレンドであること(規模感として2033年までに「2800兆円」級になると言及された)や、国内でもST市場が年末にかけて拡大していく見通しが示され、こうしたトークン化資産の決済手段として、ステーブルコインが“欠かせないパーツ”になっていくとProgmatの代表取締役である齊藤氏が述べた。特に、リテール向けの取り組みが見え始める一方で、ホールセールのクロスボーダーで”大きな資金を動かす領域”はまだホワイトスペースとして挙げられた。
講演の中で繰り返し強調されたのが、トークン化資産の決済手段としてステーブルコインが不可欠なパーツである、という点である。リテールでは一定の動きが見え始める一方、ホールセールやクロスボーダーで大きな資金を動かす領域には、まだホワイトスペースが残っている。ここが次の拡大余地であり、同時に“決済レール”が問われる領域でもある。
また、金融機関の視点では、トークン化の進展が既存の金融機関の守備範囲をどこまで揺らすのかという緊張感も共有された。ステーブルコインは決済インフラとして期待される一方で、預金を扱うプレイヤーにとっては競争圧力にもなり得る。そうした複雑な力学が、実装フェーズでは避けて通れない論点として浮かび上がってきた。

さらに、レギュレーションの変化も重要である。暗号資産の派生領域が金融商品取引法の世界へ近づく中で、DeFi側も適応を迫られる可能性がある。STが「金融機関のプライベート領域」から「DeFiの流動性」へどう接続していくのかは、今後の焦点として提示された。
将来像としては、AIエージェンティックファイナンスにも言及があった。インフラが整うことで、金融取引がAIプログラムにより個人最適化され、24時間365日・1円単位といった新しい取引体験が現実味を帯びるという展望である。トークン化、ステーブルコイン、DeFiが交差する領域は、技術・規制・UXの三つ巴で進化していくことになりそうである。
Solana Keynote「ブロックチェーン技術と社会利益についての講演」
- ブロックチェーンを“社会課題にアプローチし得る設計空間”として捉え、金融不平等への問題意識が提示された
- Western UnionやYouTubeなど、大手が実運用で使い始めている事例が紹介された
- UBIに加えて資本アクセスを広げる「Universal Basic Ownership」という発想が骨子であった
ブロックチェーンは「金融不平等」への構造的アプローチになり得るか

本セッションでは、ST領域にて金融機関からのアダプションが急拡大しているSolanaにてHead of APAC を務めるLu Yin氏が登壇し、ブロックチェーン技術が社会にもたらし得る価値、とりわけ金融における不平等の是正に向けた可能性が主な論点となった。
ブロックチェーンが“社会課題にアプローチし得る設計空間”として捉えられた。従来の金融システムは仲介者が多く、複雑さがコストや摩擦を生んでいる。デジタル資産を活用することで、よりシンプルにアクセス可能な仕組みを構築し、価値移転の効率を高められる可能性が示された。
既存大手が「実運用」で使い始めている

抽象論に留めず、実際に大規模企業がブロックチェーンを決済・金融インフラに組み込む事例が紹介された。たとえば、
- Western UnionがSolana上でステーブルコインを発行する取り組み
- YouTubeがSolanaを利用してクリエイターへの支払いを実施している事例
- JP MorganがSolana上で債券系の商業手形(コマーシャルペーパー)を発行し、稼働しているという言及
といった話が挙げられ、「社会実装に必要なツールが揃い始めている」という文脈につながった。
背景にある問題意識として語られたのが、グローバル課題としての金融不平等である。資本と労働のギャップが拡大し、社会的緊張を生む構造が強まっているという指摘は、金融インフラを“誰のためのものか”という問いへ直結する。
加えて、AIの進展が資金・資産の集中を加速させ得るという見立ても提示された。そこで提案されたのが、UBIに加えて資本そのものへのアクセスを広げる「Universal Basic Ownership」という発想である。ブロックチェーンは、この方向性に対して技術的な選択肢を提供し得る。これが本セッションの骨子であった。
最後に、既存金融のスケールと比較しながら、ブロックチェーン側でも大規模トランザクション処理が進みつつあることが紹介された。社会実装に必要なツールが揃い始めている、という前向きなトーンでまとめられた点も印象的である。
パネルディスカッション1:ステーブルコインとブロックチェーン金融の現状と展望
- 国内の円建てステーブルコインは「構想」から「実装」へ移りつつある、という認識が共有された
- 制度対応と実装設計(役割分担、KYC・モニタリング、24/7運用など)を同時に詰める必要がある
- 価値は“コイン単体”よりも、送金・決済の摩擦を減らすレールとして語られる場面が多いセッションであった

本セッションでは、ステーブルコインとブロックチェーン金融の現状に加え、国内の円建てステーブルコイン実装に向けた論点が整理された。議論からは、もはや「勉強」から「実装」へとフェーズが移りつつあるという認識がうかがえた。実際、本パネルにはJPYCの代表取締役である岡部典孝氏や金融庁の今泉参事官をはじめとした、制度面と事業面の両輪で“実装”を前に進める当事者が一堂に会しており、官民の対話が具体性と現実味を帯びてきたことが明確に示された。同じ顔触れによるパネルディスカッションが開催された去年9月以降、ステーブルコインを取り巻く環境は着実に動いており、JPYCは2025年10月に発行を開始して以来、累計発行総額はすでに10億円を超えている。

JPYCのアップデートと「LINE上で使える」展開
セッションの冒頭、JPYCの岡部氏は円建てステーブルコインの具体的な進捗として、JPYCが発行開始後の成長(累計発行額の伸長)に触れつつ、LINE NEXTとの協業により、近いうちにLINEアプリ上でJPYCを利用できるようにする構想が共有された。ユースケースが一気に生活導線へ近づく例として、会場でも象徴的なトピックとなった。
「制度対応」と「実装設計」が同時に求められるフェーズへ

円建てステーブルコインは、事業者・銀行など複数の立場から検討が進む一方で、ライセンス形態や運用要件によって動き方が分かれるという整理も示される。制度とオペレーションは切り離せず、どこまでを誰が担うのかという設計次第で、実装スピードも変わってくる局面である。
具体例として、銀行サイドでは「各行がバラバラに動くより、標準化したほうがユーザー利便性が高い」という問題意識のもと、3メガバンクが共同でのステーブルコイン発行に向けて議論を進めていることが共有された。三菱商事の協力を得た実証実験を並行しつつ、担当者レベルで高頻度の打ち合わせを重ねているという“実装の手触り”まで言及され、検討が机上の段階を超え始めていることが示された。
特に焦点となったのは、規制要件を満たしながら“実務で回る”形に落とす際の論点であった。
- 発行体、仲介者、利用者の役割分担(どの主体がKYC、モニタリング、凍結・解除を担うか)
- トラベルルールや不正対策を含むコンプライアンス運用の設計
- 24時間365日運用に近づくときの監視体制、障害時対応、カットオフの考え方
加えて、制度面の“伴走支援”として、金融庁が決済高度化プロジェクトを立ち上げ、ステーブルコインやトークン化預金、ブロックチェーンを使った決済の高度化を支援する枠組みが動き始めている点も、今泉氏によって具体的に挙げられた。
ステーブルコインは「単体の価値」より“レール”として語られる
また、ステーブルコインが単体で価値を持つというより、既存決済・送金の課題(時間、コスト、カットオフ、クロスボーダーの摩擦)を解消するレールとして語られる場面が多かった点も特徴である。
議論の中では、特にクロスボーダー領域における改善余地が繰り返し示唆された。現行の送金は、中継銀行や為替・清算プロセスが重なり、着金までのリードタイムと手数料が企業側の大きな負担になり得る。ステーブルコインが普及すると、着金時間の短縮だけでなく、送金状況の可視化や事務作業の削減(確認、照合、例外処理の減少)まで含めた“業務全体の効率化”につながり得るという見立てである、と三井住友銀行の下入佐氏は述べた。
相互運用性と信用の土台
さらに、今後の実装を進める上では「どのチェーンで、どのように相互運用するか」「裏側の信用・流動性をどう担保するか」が重要な論点となることも共有された。チェーンの選択は性能やセキュリティだけでなく、相互接続、運用の標準化、監督対応まで含めた総合設計の問題であり、単一プレイヤーで完結しないからこそ、官民・業界横断でのルール作りが鍵になる。こうした方向性が浮かび上がる。
パネルディスカッション2:国内ステーブルコインユースケース
- ステーブルコインの価値は「T+0(即時性)」「コスト削減」「プログラマビリティ」の3点に整理された
- 実証とプロダクトが同時多発しており、検討から“並走して作る”フェーズに入っている
- 実装が進むほど、KYCだけでなく信用・流動性・オペリスクまで含む設計とガバナンスが重要になる

本パネルには、トークン化(RWA)とデポジットトークンという隣接領域の実務者が同席し、ユースケース議論を「具体的な実装」の視点から深められた点が特徴的である。パネルディスカッションではトークン化預金を進めるみんなの銀行渋谷氏、RWA領域で急成長を遂げているSecuritizeの日本ヘッドである小林氏、USDCの発行体であるCircle社の榊原氏、Fireblocks社の牧野氏が参加し、制度・技術・業務設計を横断した「現実解」に近づく議論が行われた。こうした多面的な視点の持ち寄りによって、ステーブルコインの価値(T+0、コスト削減、プログラマビリティ)が、具体化されていった。
実証・プロダクトが同時多発的に動いている

議論の前提として、国内でも「検討中」ではなく、具体的な取り組みが並走していることが共有された。たとえば以下のような事例が挙げられた。
- みんなの銀行は、SolanaブロックチェーンやFireblocks等と連携し、トークン化預金(デポジットトークン)の実証実験を推進
- Securitizeは、RWA領域でT+0を前提にしたポートフォリオ戦略(リバランスやDeFi戦略の高度化など)の可能性に言及
- Circleは、USDCの実需(海外送金、キャッシュマネジメント、トークン化MMFの決済など)に触れつつ、エンタープライズ向けの取り組みが水面下で進んでいる点や、独自チェーンの計画(テストネット展開など)について言及
T+0は「速い」だけではなく、リスクと業務コストを同時に下げる

T+0がもたらすのは「速い」だけではない。決済リスクの低減に加え、バックオフィス作業や中間業者のオペレーションを減らし得るという意味で、社会的意義も含めて語られた。
特に、企業間取引やクロスボーダーの文脈では、着金が早いことそのものよりも、次のような“周辺業務”まで含めて最適化できる可能性が注目される。
- 入金確認、照合、消込の作業負荷軽減
- 取引先への支払条件の柔軟化(例:納品・検収と連動した即時支払い)
- 中継プロセスの簡素化による例外処理の減少
コスト削減とプログラマビリティ:既存手段との差分が評価軸となる
また、各社の立ち位置からは、実装フェーズならではの論点が浮かぶ。銀行側は、既存のオープンAPI等で実現できる範囲との比較を踏まえつつ、ステーブルコインが“より低コストで即時”かつ“条件付き処理(プログラマビリティ)”を可能にする点を強調した。インフラ事業者側は、海外送金など既に需要が立つ領域を引き合いに、運用設計や導入障壁の現実論へ議論を接続した。
プログラマビリティについては、単なる自動化ではなく「条件を満たした時にだけ支払う」「複数当事者への分配を同時に走らせる」といった、取引条件と決済を一体化する発想として語られる。これにより、契約実務と決済実務の“ねじれ”を減らし、事務負荷や紛争コストの低減につながり得る点が、ユースケース検討の中核として位置づけられた。
実装が進むほど、KYCだけでは足りない
そして実装が進むほど、KYCだけでは足りないという認識も共有される。資本健全性や信用・流動性、オペレーショナルリスクなど、監督上のリスク管理を含めた設計が重要になる、という論点は、今後の社会実装を占うポイントになりそうである。
加えて、ユースケースが広がるほど「誰がどのリスクを負担し、どの情報をどの範囲で共有するのか」というガバナンス設計が不可欠になる。技術的には送れるようになっても、業務・監督・責任分界まで含めて整備されて初めて“使えるインフラ”となる。国内でのユースケース拡大は、この現実的な積み上げと並走して進んでいくことになると締めくくられた。
CUDIS:ウェルネス領域の「データ×インセンティブ」実装例
- AIスマートリングで取得するヘルスデータを起点に、コーチングとインセンティブで行動変容を促す事例である
- ユーザー主権のデータ活用(暗号化・分散ストレージ・オンチェーン管理)を前提に設計されている
- ステーブルコイン/ブロックチェーンが金融以外の生活領域にも広がる可能性を示した

本セッションはCUDISによるスポンサーKeynoteであり、ウェルネス領域における「データ×インセンティブ」の実装例としてCUDISが紹介され、金融以外への広がりも視野に論点が整理された。
CUDISは、AIスマートリングとモバイルアプリを中核に、心拍・睡眠・活動量・HRVなどのバイタルデータを取得し、AIコーチングとトークン/ポイントのインセンティブで行動変容につなげる「Longevity(長寿)プロトコル」を掲げるWeb3プロジェクトである。リング販売とユーザー獲得で一定のトラクションを持ち、ヘルスデータをユーザー主権のもとで活用・マネタイズできる設計(暗号化+分散ストレージ+オンチェーンでのインデックス管理)を特徴とする。
本イベントの文脈で見ると、ステーブルコイン/ブロックチェーンが「決済・送金」といった金融領域に留まらず、生活者の行動データや実世界の体験価値と結びつきながらユースケースを広げていく可能性を示す事例として位置づけられる。ユーザーが日常的に使うウェアラブルを起点に、データの所有・活用、報酬設計、そしてエコシステム形成までを一気通貫で設計するアプローチは、今後「金融×非金融」の接続点が増える中で注目すべき方向性と言える。
パネルディスカッション3:世界のステーブルコイン環境とブロックチェーン
- 市場は米ドル建て中心で、規制フレーム整備が市場の方向性を大きく左右する前提が共有された
- Terra/LUNAや銀行破綻の経験を踏まえ、安定性と信頼性を担保する規制の重要性が強調された
- 企業採用は許可型で始めてパブリックへ移行し、相互接続と選択的開示などの条件が鍵になる

本セッションでは、世界のステーブルコイン市場を取り巻く環境変化と、規制・チェーン選択が企業採用に与える影響が主な論点となった。ゲストにはRWA領域の主要プレイヤーであるEthereum Foundationにてエコシステムデベロッパーを務めるLi氏と、先日テザーと協業し世界初となるGENIUS法準拠型ステーブルコインであるUSATを発行したアンカレッジ社のLee氏、Nethermindにてディレクターを務めるFoo氏が登壇し、グローバルな視点でステーブルコインにまつわる議論が行われた。
世界のステーブルコイン市場は米ドル建てが中心であり、規制フレームワークの整備が市場の方向性に大きく影響するという前提が共有された。Terra/LUNAの破綻や銀行破綻などを踏まえ、安定性と信頼性を担保する規制フレームの重要性が改めて強調された。市場の大半が米ドル建てである以上、米国の規制動向がグローバル市場に与える影響が特に大きいという見立ても、現実的なポイントである。
具体例として繰り返し参照されたのが、Terra/LUNAの崩壊やSVB破綻を経て「規制フレームが不可欠」という認識が強まった点である。さらに、米国で成立したステーブルコイン規制(GENIUS Act)が、発行体やエコシステムの動き方に影響を与える“転換点”として語られた。APACでも、香港や韓国を含む複数地域で、発行体がライセンス取得を進めている状況が紹介され、制度整備と市場参入が連動し始めていることが強調された。
企業採用は「許可型で始めて、結局パブリックへ」

あわせて議論されたのが、エンタープライズ領域におけるブロックチェーン採用の“移行の型”である。企業が当初はHyperledger等の許可型環境で内部テストを行いつつも、ネットワーク効果や接続性の価値が限定的であることから、Ethereum(L1→L2)などパブリック領域へ寄っていく、という流れが具体的に語られた。「パブリック領域に移るほど、相互接続(ブリッジ等)と、コンプライアンスを前提にしたプライバシー技術(選択的開示など)が採用条件になる」とLi氏は述べる。
チェーン選択については用途次第であり、最終的には相互接続(ブリッジ等)が必要になるという結論に収斂していく。EthereumとSolanaについては、それぞれの思想と強みが対比された。歴史的な信頼性とネットワーク効果を重視するのか、実用アプリケーション向けの性能・コスト最適化を重視するのか。いずれにせよ「適材適所」と「つなぐ設計」が重要である。
また、機関投資家や企業ユースケースでは、プライバシーとコンプライアンスを担保しながら採用を進めるための技術・運用論が鍵になる。許可型→公開型へと進む流れの中で、選択的開示などのプライバシー技術が次の採用条件になるという論点も提示された。
パネルディスカッション4:ステーブルコイン普及の最大の壁
- 普及の壁は「制度」だけでなく、制度を前提にした運用設計(責任分界、不正対策、監視体制)にある
- 日本では既存決済が便利な分、利便性訴求だけでは動きにくく、狙うユースケースの絞り込みが重要である
- 海外では切実さ(インフレ等)で普及が進む例があり、日本は“既存が苦手な領域”で勝ち筋を作る見立てである

最後のパネルディスカッションとなる本セッションでは、日本でのステーブルコイン普及を阻む要因と、その打ち手が主な論点となった。ゲストとして、法務領域のスペシャリストであるアンダーソン・毛利事務所の梅津弁護士や、ブロックチェーン・セキュリティ領域を手がけるチェイナリシスの内田氏、JOCのファウンダーである近藤氏が登壇し、モデレーターには、Web3領域に精通し、一橋大学で特任教授を務める森・濱田松本法律事務所の増田弁護士が登場した。
特に、普及を阻む要因が「制度」だけでなく、制度を前提にした運用設計(誰が何を担い、どこまで責任を負うか)にあることが強調された。日本では既存の決済がすでに便利である分、単純な利便性訴求だけでは普及が進みにくく、ユースケースの絞り込みとリスク対応をセットで設計する必要がある。
制度面のボトルネック(送金上限・スキームの重さ・収益性)

議論の出発点は、日本の制度制約が“普及の上限”を規定し得る、という点であった。まず、ステーブルコインを発行できる主体が制度上限定されることが、そもそも供給の広がりを制約し得る。さらに資金移動業型では送金上限がボトルネックになり得るため、大口の送金や機関投資家ニーズに対して現行枠組みが噛み合いにくい、という問題意識が梅津氏によって共有された。信託型は安定性の面で望ましい一方で、運用・コスト・責任分界の設計が重くなりやすい点も論点となる。
また、預かった資金を運用できないことが普及の収益モデルを難しくし、結果として「誰が普及をドライブするのか」という主体の不明確さを生みやすい、という指摘もあった。
不正利用データが示す“現実の前提条件”

暗号資産における実運用のリスクが、実データに基づく論点として内田氏によって提示された。内田氏によると、昨年一年間で不正利用された暗号資産の額は23兆円に上るものの、その額はトランザクションの総量の1%未満であった。「普及すればするほど、不正対策が“必須の前提条件”として立ち上がる」という現実が確認された。
この論点が重要なのは、リスクが発行体だけで完結しないためである。発行・流通に関与する銀行、仲介、取引所、ウォレット、決済事業者など、複数レイヤーにまたがってトランザクション監視と対応(アラート運用、追加確認、必要に応じた凍結・解除、当局連携)が求められる。つまり、ステーブルコインは「速く送れる」だけでは成立せず、運用面ではAML/CFTを前提にした継続的なモニタリング体制が要件として重くのしかかる、と内田氏は述べた。
さらに、制裁・詐欺・ハッキング等の不正カテゴリは、資金の流れが複数ホップで分散・集約されるほど追跡と判断が難しくなる。実装が進む局面では、単発のKYCに加えて「オンチェーン上の振る舞いを踏まえたリスク評価」と「関係者間での情報共有・責任分界」の設計が不可欠になる、という示唆につながった。
JOC(Japan Open Chain)の文脈で見ると「運用の設計」が勝負になる

近藤氏によると、ステーブルコインの普及は制度を“クリアする”だけではなく、実務として回す設計が不可欠である。JOCのような国内チェーン/エコシステムに引きつけるなら、論点はより具体的になる。たとえば、発行・流通に関与する主体(発行体、仲介、ウォレット、取引所など)の役割分担をどう切り、誰がどこまでの責任を負うのかを明確にする必要がある。同時に、不正対策としてのモニタリングや凍結・解除、制裁・詐欺対応をどのレイヤーで担保するのかも設計論点となる。さらに、現場の導入を進めるには、既存の決済導線や事業者オペレーションに「無理なく乗る」形に落とし込めるかどうかが、普及の実現可能性を左右する、と結論づけた。
海外事例:普及は“便利さ”よりも「切実さ」で進むことがある
海外では、インフレ等を背景に法定通貨への信頼が揺らぐ国で、DeFiやステーブルコインが生活インフラとして入り込んでいる例が共有された。
特にアルゼンチンでは、ペソの高インフレを背景に、米ドル建てステーブルコインが“価値保存”と“日常決済”の両方で実務的に使われていることが現地観察として整理されている。既存のQR決済インフラに暗号資産決済が溶け込み、街中で「普通に使える」状態が生まれている、という点が示唆的である。
この対比が示すのは、日本では「便利さ」だけでは動機が弱くなりがちな一方で、企業間取引やクロスボーダー、RWA/トークン化資産の決済、そして24時間365日運用を前提とした新しい業務設計といった、既存インフラが苦手な領域に当てに行くことで初めて勝ち筋が立つ、という見立てである。
従来の金融コンプライアンスの発想をそのまま当てはめるのではなく、ブロックチェーン特有のリスクベースアプローチが必要である。こうした問題提起が本セッションの核であった。
加えて、海外ステーブルコインの国内流通には分析コストがかかること、相互主義(海外で認められたものを国内でも認める仕組み)を取り入れることでハードルを下げられる可能性があること、国際標準化と官民連携が重要であることも、今後の方向性として示された。
まとめ・感想
JSS#2を通じて改めて共有されたのは、ステーブルコインが「単体のプロダクト」ではなく、決済・送金・資本市場アクセスに伴う摩擦を減らす“レール”として位置づけられている点である。加えて、多くの日本企業が参加した事実は、国内でも実装に向けた関心とアダプションの機運が高まりつつあることを示している。
一方で、普及の成否を左右するのは技術だけではない。送金上限、責任分界、不正対策といった論点は、実装が進むほど具体的な運用課題として立ち上がる。相互主義や標準化、官民連携を含むルール整備が進むことで、国内ユースケースの拡大と、グローバル市場との接続がより現実的になっていくだろう。
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