量子コンピュータによるビットコイン暗号解読の進展とセキュリティへの影響

独立系研究者のジャンカルロ・レッリ氏が、量子コンピュータを用いて公開鍵から秘密鍵を導き出すことに成功し、プロジェクト・イレブン(Project Eleven)より1 BTCの賞金「Q-Dayプライズ」を授与されました。今回の成果は15ビットの楕円曲線暗号(ECC)を対象としたもので、ビットコインが採用する256ビットの暗号を直ちに脅かすものではありませんが、量子技術による解読の進展速度について業界内で議論を呼んでいます。暗号資産の長期的な安全性と、ポスト量子暗号(量子コンピュータでも解読が困難な暗号技術)への移行の緊急性を再認識させる出来事となりました。

量子コンピュータによる公開鍵解読の実証実験

量子コンピュータによるビットコイン暗号解読の進展とセキュリティへの影響

今回の成果は、プロジェクト・イレブンが主催する「Q-Dayプライズ」の一環として発表されました。レッリ氏は、クラウド経由で利用可能な量子コンピュータを使用し、ショアのアルゴリズム(量子コンピュータで整数の因数分解などを高速に行うアルゴリズム)の変種を用いて、15ビットの楕円曲線暗号の秘密鍵を導き出しました。

この実験は、ビットコインやイーサリアムの署名スキームの数学的基礎である「楕円曲線離散対数問題(ECDLP)」を標的としたものです。2025年9月に記録された前回の公的な実証(6ビット)と比較して、探索空間の複雑さは512倍に拡大しており、量子ハードウェアを用いた公開デモンストレーションとしては過去最大規模とされています。

技術的背景とビットコインのセキュリティ

ビットコインは現在、256ビットの楕円曲線暗号を採用しています。今回解読された15ビットと、実用されている256ビットの間には依然として極めて大きな隔たりがあります。グーグル(Google)が2026年4月に発表したホワイトペーパーによると、ビットコインの256ビット暗号を完全に解読するには、約50万個の物理量子ビットが必要になると試算されています。

一方で、プロジェクト・イレブンのアレックス・プルデンCEOは、解読に必要なリソース要件が低下し続けていると指摘しています。かつては理論上の遠い脅威とされていた量子攻撃が、特殊な設備を持たない個人研究者がクラウド上の量子ハードウェアを利用して実行できる段階にまで進展したことは、技術的なハードルが「物理学の問題からエンジニアリングの問題」へと移行しつつあることを示唆していると見られます。

Web3業界への影響と今後の課題

この出来事は、特にパブリックキー(公開鍵)がブロックチェーン上に露出している古い形式のウォレット(P2PKなど)や、過去に送金履歴があるアドレスの脆弱性を浮き彫りにしています。市場データによれば、約690万BTCが公開鍵の露出した状態で保管されており、将来的に十分な性能を持つ量子コンピュータが登場した場合、これらが最初の標的になる可能性があります。

業界内では対応を急ぐ動きも見られます。グーグルは2029年までにポスト量子セキュリティを実現する目標を掲げており、ブロックチェーン業界でも量子耐性を持つ署名スキームへの移行(BIP-360など)に関する議論が加速しています。ただし、分散型ネットワークであるブロックチェーンにおいて、全ユーザーのセキュリティ規格を一斉にアップデートすることは、中央集権的な組織と比較して調整が困難であるという課題も指摘されています。

ポイント

  • 独立系研究者が15ビットの楕円曲線暗号を量子コンピュータで解読し、1 BTCの賞金を獲得しました。
  • 前回の公的実証(6ビット)からわずか7カ月で解読規模が512倍に拡大しており、進展の速さが注目されます。
  • ビットコインの標準である256ビットの解読には依然として高い壁がありますが、技術的ハードルは着実に低下していると見られます。
  • 公開鍵がブロックチェーン上に露出している約690万BTCが、将来的な量子攻撃の潜在的なリスクにさらされています。
  • この成果を契機に、ポスト量子暗号への移行に向けたインフラ整備と議論の重要性が高まっています。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

Pacific Metaマガジン編集部は、ブロックチェーン領域を中心に、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン(ST)、ステーブルコイン、NFTなどのトークン活用を専門とする編集チームです。Web3・ブロックチェーン領域に特化したコンサルティングファームである株式会社Pacific Metaが、国内外41カ国・150社以上のプロジェクトを支援してきた知見をもとに、記事の企画・監修を行っています。

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