米暗号資産取引所大手のコインベースは、連邦準備制度(FRB)が提案した暗号資産・フィンテック企業向けの限定的な「決済口座」の新設案に対し、改善点をまとめた意見書を提出しました。この提案は、フィンテック企業が仲介銀行を経由せずに中央銀行の決済インフラへ直接アクセスできるようにする重要な一歩ですが、実用性の面で課題があると指摘されています。従来の決済プロセスにおけるコストやリスクの削減に直結する内容であり、Web3業界における金融インフラ接続の進展として注目されています。
FRBの「決済口座」提案の背景と現在の課題
トランプ米大統領が5月19日に署名した、金融イノベーションの規制枠組みへの統合を促す大統領令を受け、FRBは5月20日にフィンテック企業向けの決済口座の新設案を発表しました。従来、暗号資産企業を含むフィンテック企業は、FRBとの直接取引口座である「マスター口座」の取得が困難であり、仲介役となるコルレス銀行(決済を中継する金融機関)を経由して決済を行う必要がありました。この構造は、時間的・経済的なコストに加え、取引相手が倒産等に陥るカウンターパーティ・リスクを生じさせていました。
FRBが今回示した案は、完全なマスター口座資格を持たない企業であっても、中央銀行のインフラを通じて直接決済を行えるようにするものです。ただし、連邦準備銀行や決済システム全体へのリスクを抑制するため、営業時間内の一時的な資金貸出制度(イントラデイ・クレジット)や短期貸出制度(ディスカウント・ウィンドウ)の利用を禁止し、口座残高に対する利息付与も行わない方針が盛り込まれています。
コインベースが求める3つの改善点と商業的実用性
コインベースの政策責任者であるファリアー・シルザド氏は7月28日、FRBの提示した規制案には不十分な点があるとして、以下の3つの改善要望を表明しました。
- 口座残高のうち、少なくとも一定額までの部分には利息を付与すること
- 翌日持ち越し(オーバーナイト)残高の上限を、各機関の実際の決済ニーズに合わせて設定すること
- 監督体制を過度な制限ではなく、実際のリスク実態に見合ったものに調整すること
コインベースは2月にもFRBへ意見書を提出しており、企業が商業的に実用性のある口座を利用できるようにすることを求めていました。決済口座を利用する事業者は、すでにマネーロンダリング防止、制裁遵守、プライバシー保護、サイバーセキュリティに関する厳格なリスク管理とコンプライアンス要件を課されており、事前の審査も受けています。そのため、追加的かつ不当な制限を課すことは避けるべきであると主張しています。
また、FRBのケビン・ウォーシュ議長が7月14日の米下院公聴会で「仮想通貨業界が危機に陥った場合でも救済しない」と証言するなど、米金融当局の慎重なスタンスも窺えます。しかし、コインベースが指摘するように決済環境が適切に整備されれば、コスト削減と市場の競争促進がもたらされ、米国が世界の決済分野での主導権を維持することにつながると期待されています。
ポイント
- FRBはトランプ大統領の大統領令を受け、フィンテック企業が仲介銀行なしで中央銀行決済を利用できる制限付き「決済口座」の新設案を提示しました。
- 米取引所大手のコインベースはFRBの案に対し、残高への利息付与、持ち越し残高上限の緩和、リスクに即した監督体制という3つの改善要求を提出しました。
- 現在のコルレス銀行を経由する決済プロセスは、暗号資産企業にとって費用や時間の負担だけでなく、カウンターパーティ・リスクの要因となっています。
- 利用企業はすでに厳格なコンプライアンス審査を受けているため、不必要な利用制限を外して商業的実用性を高めることが業界の成長にとって重要とされています。