ステーブルコイン「USDC」の発行元であるCircle(サークル)社は2026年4月2日、同社が開発を進めるレイヤー1ブロックチェーン「Arc」において、量子コンピューターの脅威に対抗するための「量子耐性(ポスト量子)ロードマップ」を公開しました。この計画は、将来的に量子コンピューターが現在の暗号技術を打破する可能性を見据え、ネットワークの設計段階から対策を組み込むものです。ブロックチェーンの持続可能性と安全性を担保する上で、インフラ設計の新たな基準となる可能性があります。
4段階で進めるArcの量子耐性実装
Circle社が発表したロードマップは、ウォレット認証からインフラ全体に至るまでを4つの段階に分けて整備する計画です。
まず、メインネットの立ち上げ時点では、量子耐性を持つ署名スキームを「オプトイン形式(利用者が選択できる方式)」で導入します。これにより、既存ユーザーに強制的な移行を強いることなく、前方互換性を保った形での移行経路が提供されます。
続く短中期的なフェーズでは、機密状態を保護するための「プライベートVM」の整備と、HSM(ハードウェア・セキュリティ・モジュール)やTLS(トランスポート・レイヤー・セキュリティ)といった量子耐性インフラの構築が進められます。最終的な長期的フェーズでは、バリデーター署名の堅牢化を段階的に実施する方針です。
この取り組みの大きな特徴は、既存のチェーンのような事後的な改修ではなく、メインネットのリリース時からEVM(イーサリアム仮想マシン)互換を維持しつつ、量子耐性を設計に織り込んでいる点にあります。
加速するブロックチェーン業界の量子対策
量子コンピューターによる暗号解読の脅威は、Arc以外の主要プロジェクトでも重要な課題として認識されています。
Solana Foundation(ソラナ財団)は、Project Eleven(プロジェクト・イレブン)と連携してネットワークの量子準備状況を評価しており、テストネット上でポスト量子デジタル署名の展開を進めています。また、Aptos(アプトス)においても、NIST(米国国立標準技術研究所)の標準であるSLH-DSAサポートを追加する提案「AIP-137」が進行中です。
イーサリアム財団についても、2026年3月25日にポスト量子セキュリティの取り組みに特化したサイトを公開するなど、業界全体で対策が急がれています。
2030年以前の「Qデイ」到来リスクと規制当局の動き
こうした対策が加速している背景には、量子コンピューターが現在の公開鍵暗号を突破できる「Qデイ」が2030年以前に訪れるという研究結果があります。
特に懸念されているのが「Harvest now, decrypt later(今収集し、後で解読)」と呼ばれる攻撃手法です。これは、現時点で暗号化されたデータを収集しておき、将来的に量子コンピューターが実用化された段階で復号を試みるもので、現在進行形の脅威と見なされています。
こうした状況を受け、日本でも金融庁が金融機関に対してPQC(ポスト量子暗号)への移行着手を要請するなど、各国で制度面からの対応も進められています。量子脅威への対応は、ブロックチェーンインフラにおける必須の要件となりつつあります。
ポイント
1. Circle社が開発するL1「Arc」は、設計段階から量子耐性を組み込み、EVM互換を維持したまま4段階のロードマップを実行します。
2. メインネット立ち上げ時はオプトイン形式で量子耐性署名を導入し、ユーザーの円滑な移行経路を確保します。
3. SolanaやAptos、イーサリアムといった主要なブロックチェーンプロジェクトも、量子耐性技術の実装や評価を並行して進めています。
4. 2030年以前の「Qデイ」到来や、データの先行収集攻撃への対策として、金融規制当局もポスト量子暗号への移行を推奨しています。
5. 量子耐性の確保は、将来的な資産保護とネットワークの信頼性を維持する上で、Web3インフラの標準的な要件となる見通しです。