国内企業による非金融領域のオンチェーン活用事例と社会実装への課題

2026年3月19日に開催された「N.Avenue club Summit」において、国内の大手企業や団体がWeb3技術の非金融領域における具体的な活用状況を発表しました。不動産、エンターテインメント、マーケティングといった多岐にわたる分野で、実社会の課題解決に向けたオンチェーン(ブロックチェーン上での処理)活用が進んでいます。これらの事例は、ブロックチェーンが単なる投資対象ではなく、ビジネスの流動性向上や顧客理解を深めるための実用的なインフラとして定着しつつあることを示しています。

リアル資産の流動化とエンターテインメント領域での収益化

国内企業による非金融領域のオンチェーン活用事例と社会実装への課題

非金融領域におけるWeb3活用の代表例として、不動産とエンターテインメントの事例が挙げられます。

東急不動産ホールディングスは、ホテルやレジャー業界が抱える「高いキャンセル率による空室リスク」という構造的課題に対し、宿泊権のNFT化による解決を図っています。2026年1月にリリースされた「東急ステイ公式宿泊権リセールサービス」では、宿泊権をNFTとして発行することで、ユーザーが二次流通市場で容易に転売できる仕組みを構築しました。これにより、ホテル側はキャッシュ確保のタイムラグを軽減し、ユーザーはキャンセル時に転売利益を得られる可能性を持つという、両者にとってのメリットを創出しています。

エンターテインメント領域では、スカパーJSATがIP(知的財産)とWeb3を掛け合わせたマネタイズを推進しています。同社が提供する「スカパー!投票」や、ローソンチケットNFTを活用したイベントチケット販売では、チケット購入者の7割から8割がNFTを「ついで買い」するという結果が出ています。これは、リアルイベントとWeb3の親和性の高さを示すものであり、IPホルダーにとっての新たな収益源としての可能性を提示しています。

顧客データの統合とAIエージェントを見据えた技術選定

マーケティングやシステム開発の現場においても、オンチェーン技術の活用が具体化しています。

BIPROGY(ビプロジー)は、複数の企業やイベントで分断されている顧客データを、Web3ウォレットを介して統合するアプローチを取っています。顧客が保有するトークンを分析することで、その顧客が属するコミュニティや関心事を可視化し、従来のマスマーケティングでは困難だった「立体的な顧客像」の把握を目指しています。これまでにフェンシング協会やリテール領域での実証実験を通じて、LTV(顧客生涯価値)向上のための手応えを得ていると報告されています。

システムインテグレーターのCACは、パブリックブロックチェーンの基盤選定において、従来のAvalanche(アバランチ)やSolana(ソラナ)に加え、新たにBase(ベース:米コインベースが開発したイーサリアムのレイヤー2ソリューション)を主軸に据える方針を明らかにしました。その背景には、Base上でのAIエージェントによるトランザクション(取引)ボリュームが急増しているという実態があります。AIとブロックチェーンの融合という新たな潮流が、技術選定の重要な基準となっていることが伺えます。

グローバル展開と社会実装に向けた専門家の視点

日本企業の海外進出や、国家レベルでのWeb3誘致も活発化しています。

スイス大使館投資局は、スイスが「クリプト・ネーション」としてWeb3企業を惹きつける理由を説明しました。スイスは国の成り立ち自体が分散型(ディセントラライズド)であり、ツーク州などの「クリプトバレー」では実効税率を12%以下に抑えるなどの優遇措置を講じています。既に野村証券のLaser DigitalやNECなどが進出しており、2026年6月23日から25日にかけてはスイスで「Point Zero Forum」が開催される予定です。

一方、こうした取り組みに対するアドバイザリーボードの専門家からは、社会実装に向けた課題も指摘されました。

  • ユーザー体験の向上:マスアダプション(大衆への普及)のためには、Web3を意識させないUI(ユーザーインターフェース)の工夫が必要である。
  • コンテンツの継続性:トークン化によるコンテンツ制作はコストがかかるため、既存資産の効率的な活用やプラットフォーム的なアプローチが求められる。
  • IPの活用:強力なIPを持つ企業はWeb3領域への進出に慎重な傾向があるため、エコシステムへの巻き込み方が重要となる。

ポイント

  • 不動産領域での宿泊権NFT化により、キャンセルリスクの軽減とレジャー資産のセカンダリー市場創出が進んでいます。
  • エンターテインメント領域では、チケットとNFTのセット販売が7割以上の購入率を記録し、確実なマネタイズ手法として注目されます。
  • マーケティング領域では、ウォレット内のトークン情報を活用することで、分断された顧客データを統合し、顧客理解を深める試みが進んでいます。
  • 技術選定において、AIエージェントの活動が活発な「Base」などのチェーンが新たな選択肢として重要視されています。
  • マスアダプションのためには、技術的な複雑さを隠した「使いやすさ」と、強力なIP(知的財産)の活用が不可欠であると指摘されています。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

Pacific Metaマガジン編集部は、ブロックチェーン領域を中心に、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン(ST)、ステーブルコイン、NFTなどのトークン活用を専門とする編集チームです。Web3・ブロックチェーン領域に特化したコンサルティングファームである株式会社Pacific Metaが、国内外41カ国・150社以上のプロジェクトを支援してきた知見をもとに、記事の企画・監修を行っています。

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