スイスのデジタル資産銀行Sygnum(シグナム)が、AIエージェントを用いたオンチェーン決済のパイロット運用に成功しました。この試みでは、Anthropic社のAIモデル「Claude」と、AIと外部ツールを接続するためのオープン標準である「Model Context Protocol(MCP)」が活用されています。AIが単なる助言役に留まらず、実際の決済レイヤーで自律的に動作したことは、銀行業務におけるAI活用の新たな段階を示すものとして注目されます。
AIエージェントが決済レイヤーへ進出:パイロット運用の概要
今回の実証実験において、SygnumはAIエージェントを通じて実際のオンチェーン決済を実行しました。特筆すべき点は、AIが顧客からの自然言語による指示を受け取り、それに基づいてマルチステップのブロックチェーン取引を自律的に計画・準備したことです。
AIエージェントは、取引工程の策定だけでなく、関連するスマートコントラクトの確認や、取引に伴う潜在的なリスクの特定も行います。これまで銀行業務におけるAIの役割は主に情報の整理やアドバイスに限定されていましたが、今回の事例はAIが直接「決済レイヤー(取引の実行階層)」に関与したことを意味しています。
技術的背景:ClaudeとModel Context Protocolの活用
このシステムは、Sygnumの社内チームである「AI@Sygnum」が開発した独自のMCPサーバーを基盤としています。基盤となるAIモデルにはAnthropic社の「Claude」が採用されました。
ここで活用されているModel Context Protocol(MCP)とは、AIモデルをデータソースや外部ツールと安全かつ効率的に接続するためのオープン標準プロトコルです。MCPを利用することで、AIエージェントはブロックチェーン上のデータにアクセスし、スマートコントラクトを読み取り、取引を実行するための機能をシームレスに呼び出すことが可能になります。これにより、開発者は個別のツールごとに複雑な連携コードを書く必要がなくなり、AIによる高度なアクションの実行が容易になります。
セキュリティの担保と今後の商用化への展望
AIが決済を主導する一方で、資産の安全性と管理権限は厳格に維持されています。今回のパイロット運用では、顧客が資産のフルカストディ(自己管理)を維持したままプロセスが進められました。
AIエージェントが作成した取引案は、最終的に顧客自身のデバイス上にあるセルフカストディ・ウォレットを通じて署名されます。つまり、AIが勝手に送金を行うのではなく、最終的な承認権限は常に顧客が保持する仕組みとなっています。
Sygnumは、規制上の課題やセキュリティに関する懸念事項を解消した上で、このサービスの商用化を計画しています。規制下にある銀行がAIエージェントによるオンチェーン決済を実証したことは、Web3業界における金融実務の自動化を加速させる重要な一歩と見られます。
ポイント
- Sygnumが、規制下にあるスイスの銀行として初めてAIエージェントによるオンチェーン決済のパイロット運用を実施しました。
- Anthropic社のAIモデル「Claude」と、AIの外部連携を標準化する「Model Context Protocol(MCP)」を技術基盤に採用しています。
- AIエージェントは、自然言語の指示から取引の計画、スマートコントラクトの確認、リスク評価を自律的に実行します。
- 顧客は資産のフルカストディを維持し、最終的な取引の署名は顧客自身のデバイスで行われるため、安全性が確保されています。
- 銀行業務におけるAIの役割が、従来の「助言(Advice)」から「執行(Transaction Layer)」へと進化する可能性を示しています。