暗号資産金融サービス大手のギャラクシー・デジタルは、量子コンピュータによる将来的な脅威からビットコインのネットワークを保護するため、最大500万ドルの開発者向け助成金を提供する「ビットコイン量子対応イニシアチブ」を発表しました。この取り組みは、暗号解読が可能な量子コンピュータが登場する「Q-Day」が2030年にも到来するとの警告が研究者や取引所、米国政府から発せられる中で行われました。ビットコインのセキュリティ基盤を揺るがす量子脅威に対し、業界を挙げた早期の備えを促すことが期待されています。
イニシアチブの主な内容と3つの柱
ギャラクシー・デジタルが発表した「ビットコイン量子対応イニシアチブ」は、主に3つの柱から構成されています。
1つ目は、開発者助成金プログラムです。耐量子暗号(量子コンピュータでも解読が困難な暗号技術)ソリューションの開発に取り組む開発者や研究者に対し、最大500万ドルの資金を提供します。プログラムでは、耐量子トランザクションの提案、ポスト量子署名スキームの統合、ウォレットやカストディアンの移行ツールの開発、提案されたコードのセキュリティ監査などの取り組みが支援対象となります。申請の受付は即座に開始される予定です。
2つ目は、ギャラクシー・リサーチを通じた研究およびレポートの公開プログラムです。投資家や政策立案者、技術コミュニティに向けて、量子脅威の分析や開発者の対応状況に関する情報を発信します。
3つ目は、量子諮問委員会の設立です。量子コンピューティングや耐量子暗号分野の第一線で活躍する専門家や学者を招き、研究の指針を示したり、助成金の提案を評価したりします。
ビットコインが直面する「Q-Day」の脅威と背景
現在、ビットコインのセキュリティは楕円曲線暗号に依存しており、これにより秘密鍵とデジタル署名が保護されています。しかし、十分に強力な量子コンピュータが実用化されると、公開鍵から秘密鍵を逆算して署名を偽造し、ウォレットから資金を盗み出すことが可能になるとされています。
このような暗号解読が可能な量子コンピュータが登場する日は「Q-Day」と呼ばれており、早ければ2030年にも到来する可能性があると警告されています。また、2026年3月のGoogle Quantum AIとイーサリアム財団による共同研究では、最適な条件下であれば50万物理量子ビット未満で楕円曲線暗号が破られる可能性があると推定されました。
さらに、ビットコインの全流通量のうち約35パーセント(約690万BTC)は、過去の取引履歴などから公開鍵がブロックチェーン上に露出している状態であり、Q-Dayが到来した際に量子攻撃の標的となるリスクがあるとされています。これらには初期のビットコイン保有者の資産や紛失したウォレットなどが含まれており、所有者による安全なアドレスへの移行が困難なケースも多いと指摘されています。
業界およびビジネスへの影響
ビットコインは分散型のガバナンス体制をとっているため、ネットワーク全体のアップグレードに関する合意形成や、テスト、実際の導入には何年もの歳月を要するとされています。そのため、量子コンピュータの実用化が差し迫る前に、早期から耐量子暗号への移行準備を進めることが極めて重要視されています。
米国政府においても、2031年12月までに連邦政府機関のポスト量子暗号への移行を完了させるよう義務付ける大統領令が署名されるなど、国家レベルでの対策が進められています。ギャラクシー・デジタルによる今回の支援は、技術的な移行プロセスを加速させ、ビットコインネットワークの長期的な安全性を確保するための重要な一歩として注目されています。
ポイント
- ギャラクシー・デジタルが、ビットコインを量子コンピュータの脅威から守るため、最大500万ドルの開発者助成金を含む「ビットコイン量子対応イニシアチブ」を立ち上げました。
- 量子コンピュータが既存の暗号を解読できるようになる「Q-Day」は、早ければ2030年に到来する可能性があると専門家や米国政府から警告されています。
- ビットコインのセキュリティを支える楕円曲線暗号が破られた場合、公開鍵が露出している約35パーセントのビットコインが不正流出の危機に瀕するとされています。
- ビットコインのアップグレードには合意形成やテストなどで数年単位の時間がかかるため、早期の対策と業界全体の連携が求められています。