ネットワーク基地局の設置で稼げる話題のDePIN「Helium」とは?エコシステムやサブDAOの特徴を紹介

2024.10.02

  • ブロックチェーン

執筆者

くりぷとくりぷと

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ここ1年ほどでDePIN領域の注目度が高まっています。
その中で、特に注目を集めるプロジェクトの一つが今回ご紹介するHeliumです。

Heliumは、ネットワークの分散化を目指すプロジェクトで、専用デバイスを用いて個人が稼げる仕組みを導入しています。

既存サービスに対しても価格的な競争優位性を示すことができており、欧米を中心にIoTやモバイル向けのネットワークを拡大させています。

今回の記事では、Heliumについて下記の内容を紹介していきます。

目次

また、Pacific Metaは、Web3事業に取り組む企業様向けに、海外Web3プロジェクトの最新情報や、自社の支援事例をはじめとしたさまざまな情報をお届けしています。

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    前提:集権型通信サービスの課題

    インターネットは私たちの生活に既に欠かせないものになっていますが、現在の集権型ネットワークは、いくつかの課題を抱えています。

    一つ目に、ユーザーにとってネットワークサービスを利用するためのコストは、決して安くないということです。例えば、米国で展開されている主要なモバイル通信サービスの無制限プランは月額70ドル前後となっています。

    格安SIMも存在しますが、米国の格安SIM市場はデータ容量に対する価格がやや高めで、日本ほど価格競争が激しくないと言われています。

    このような高い利用料の背景には、通信会社の基地局やタワーの設置・維持に多大な資金が必要という事情があります。

    次に、都市部以外の地域では、採算が合わないために十分に品質の保証されたネットワークサービスが提供されないことが挙げられます。

    ネットワークを提供する通信事業者としても、既存のインフラを拡張するのは時間とコストがかかり、基地局の拡張や次世代通信技術に対応するための変更にも膨大なコストと時間がかかってしまいます。

    このようなこのような従来の通信インフラが直面する課題を解決しようとしているのが、今回ご紹介するHeliumです。

    Heliumの概要

    Heliumの立ち上げは2013年と古く、創業者のアミール・ハレム氏によって効率的で低コストなネットワークを提供することを目指して米国で立ち上げられました。

    画像:CoinDesk『Why DePIN Is Taking Off Now』

    Heliumは、「ホットスポット」という専用デバイスを個人で設置してもらうことで、ネットワークの基地局管理や運用を分散化し、より広範囲に低コストでネットワークサービス提供することを目指したプロジェクトです。

    そして、低コストのネットワークを利用できるだけでなく、このホットスポットを設置する人は、Heliumのトークンを稼ぐことができるというのがポイントです。

    画像:Messari『Understanding Helium: A Comprehensive Overview』

    ホットスポットによりカバレッジデータ(ホットスポットの電波が届く範囲のデータ)を収集し、中央サーバーとLNS(LoRaWAN Network Server)に転送されます。

    転送されたデータは、Heliumのプロトコルで管理・解析され、それに基づき、報酬トークンがホットスポットの管理者に支払われる仕組みです。

    このような物理的資源が必要なWeb3プロジェクトは、DePINと呼ばれており、2023年後半ごろから大きな注目を集めるカテゴリーになりました。Heliumは、そのDePINを代表するプロジェクトの一つです。

    画像:執筆者により作成

    Heliumは、現在2つの異なるネットワークを提供しています。

    • Helium IoT:低電力のLoRaWANネットワークを利用して、IoTデバイス間の長距離通信を提供する分散型ネットワークです。
    • Helium Mobile:現在のHeliumの主流ネットワークであり、モバイル向けの5Gネットワークを提供し、分散型インフラを構築しています。

    これらはサブDAOネットワークと呼ばれ、それぞれに独立したガバナンスと経済システムを持っており、これがHelium全体のエコシステムを支えています。

    これら各サブDAOについての詳細とトークノミクスは、記事の後半で詳しくご説明します。

    Heliumエコシステムの変遷

    ここでは、Heliumのプロジェクト開始から2024年に至るまでに発生した主要な出来事について紹介します。

    2013年:Heliumブロックチェーンの立ち上げ

    Heliumは立ち上げ当初、独自ブロックチェーンを使って、IoTデバイス向けのLoRaWANプロトコルを構築することからスタートしました。

    このブロックチェーンは、ホットスポットを設置してネットワークを提供するユーザーは、「Proof of Coverage(PoC)」というメカニズムに基づいてHNTトークンを報酬として受け取る仕組みです。

    さらに、報酬として受け取ったHNTをData Credits(DC)という二次トークンに変換することでネットワークサービスの支払いが可能になり、これが経済の持続可能性を支える基盤となっていました。

    その革新的な取り組みは、2021年にさらなる飛躍を遂げることになります。
    これが、現在のHelium Mobileの基となる5Gネットワーク設立の実現へとつながっています。

    2022年:サブDAOネットワークの構築

    2022年、Heliumエコシステムに「サブDAOネットワーク」が構築され、大きな転換点を迎えます。

    IoTデバイス専用のネットワークから進化し、Helium傘下に5Gネットワークを含む複数のサブネットワークが設立されることとなりました。

    これにより、Helium経済圏の傘下に、独自トークンを実装したサブDAO中心の経済圏とネットワークシステムが構築されます。

    2023年:Solanaへの移行

    2023年4月、Helium Mobileを、それまで使っていた独自チェーンからスケーラビリティの高いSolanaブロックチェーンへ移行させることになりました。これは、サブDAOネットワーク戦略によって拡大する需要やユーザビリティの変化に対応させるためです。

    この移行により、HNTトークンと5Gネットワーク用のMOBILEトークンがSolanaプラットフォーム上で活動を開始し、ホットスポット運営の権利をSolana上のNFTとして新たに発行することになりました。

    なお、LoRaWANプロトコルによるHelium IoTは、独自チェーンのまま運用されています(報酬はHNTからIOTに変更)。

    サブDAOネットワークとは

    Heliumエコシステムを理解する上で重要な、サブDAOネットワークについてここで改めて詳細な説明をしたいと思います。

    サブDAOネットワークとは、メインとなるHelium DAOとは別のDAOです。

    イメージとしては、Heliumというメインの大きなDAOの中に、複数の独立した分散型ネットワークプロトコルを持たせ、それぞれが独自のガバナンスと経済システムを運営できる仕組みです。

    これらを管理するのがサブDAOと言われるガバナンスシステム及び組織です。

    各ネットワークが独自のトークンを発行し、そのインセンティブを個別に管理するため柔軟性の高い分散的な運営体制を構築しています。

    Helium IoTの詳細

    Helium IoTは、IoTデバイスのための分散型ネットワークインフラを提供しているサブDAOです。
    LoRaWANは、2013年のHelium立ち上げ当初から提供されているネットワークで、省電力、長距離通信が特徴のIoT向けのネットワーク規格です。

    これを個人に専用デバイスを設置してもらうことでネットワークの管理と運用を分散化することを目指しています。

    参加者は、ホットスポットを設置することで、報酬を受け取ることができます。各ホットスポットは、長距離かつ低消費電力のネットワークを提供します。

    報酬提供の仕組みは、IoTデバイスがデータを送信するたびにHelium NetworkのProof of Coverage(PoC)というメカニズムを使ってカバレッジが正確であるかを確認し、報酬としてIOTトークンが付与されます。

    IOTトークンはHekium NetworkにステーキングすることでveIOTトークンを獲得でき、サブDAOのガバナンスに参加できます。

    Helium Mobileの詳細

    Helium Mobileは、2022年に設立された比較的新しいサブDAOで、個人所有の5Gホットスポットと大規模な通信事業者が共存する未来のモバイルネットワークを目指しています。

    画像:Helium Mobile™ Launches Nationwide $20/Month Unlimited Plans & Introduces Outdoor Helium Mobile Hotspots™

    Helium Mobileは、ユーザーに5Gネットワークを提供し、月額20ドルで無制限のデータ、通話、テキストを利用できるモバイルプランを提供しています。

    特定の事業者が提供しているわけではないので契約も必要ありません。アメリカ合衆国で利用可能な周波数帯に対応するデバイスであれば、このネットワークを使用することができます。

    さらに、Heliumは2022年に米国大手のT-Mobileと提携しており、Heliumのカバレッジが不十分なエリアについてはT-MobileのネットワークをMVMO(仮想移動体通信事業者)で利用することが可能になりました。

    これによりHelium Mobileは広範なエリアでサービスを展開できるようになっています。

    画像:Helium Mobile『Discover Helium Mobile Hotspot: Network Building, Simplified』

    ホットスポット参加者が、報酬としてトークンが支払われる仕組みは基本的にHelium IoTと変わりませんが、Helium Mobileでは報酬トークンにMOBILEを採用しています。

    この報酬となっているMOBILEトークンはHelium Mobileユーザーの通信収益から賄われています。

    例えば、ユーザーがホットスポットを通じて30GBのデータを使用すると、1GBあたり0.50ドルがそのホットスポットの運営者に支払われます。

    また、2023年7月にHelium MobileはDiscovery Mappingを導入しました。

    Discovery Mappingは、ユーザーが自分の位置データを共有することで、Heliumネットワークのホットスポットのカバレッジを検証し、カバレッジのギャップを特定する仕組みです。

    ユーザーは、この機能に参加することで、ユーザーとマッパーは追加のMOBILEトークンを獲得することができます。

    この仕組みにより、Helium Mobileは通信事業者の競争に対抗しつつ、分散型モバイルネットワークの構築と維持を支援しています。

    Heliumのトークノミクス

    Heliumネットワーク全体で3つの主要トークンが存在します。

    • HNT:Heliumネットワーク全体の基軸トークンであり、サブネットワークであるIoTやモバイルネットワークの運営者への報酬として使用されます。
    • IOT:Helium IoTネットワークサブDAOトークンです。
    • MOBILE:Helium MobileネットワークのサブDAOトークンです。

    これらの役割や機能を説明します。

    画像:Decrypt『Helium Crypto Wireless Network to Launch New Tokens Amid Expansion』

    Helium Network Token (HNT)

    HNTはHeliumの基軸トークンで、最大供給量はHIP 20で2億2300万HNTと設定されていますが、HNTのバーンにより現在の供給上限は2億1300万HNTに減少しています。

    トークンは2年ごとに半減し、現在は約1億6900万HNTです。

    画像:Messari『Understanding Helium: A Comprehensive Overview』

    HNTの主な機能には以下の3つがあります。

    1. Data Credits (DC)の生成: HNTをバーンしてDCに変換し、データ転送やネットワーク料金を支払います。
    2. ガバナンスへの参加: HNTをステーキングしてveHNTを取得し、Helium DAOのガバナンスに参加できます。
    3. サブDAOへの報酬分配: HNTはサブDAOのユーティリティスコアに基づいて分配され、各サブDAOのトークンに変換できます。

    バーンとミントの仕組み

    Heliumのトークノミクスでは、HNTを利用してDCが生成されると、その分のHNTがバーン(燃焼)される仕組みです。

    つまり、ネットワーク使用量とHNTの供給がバランスするように設計されています。

    そのような仕組みにより、ネットワークの使用量が増えると、HNTは供給量が減少するため、トークンの希少価値が高まるという仕組みです。

    DC(Data Credits)について

    DCは、HNTから変換できるトークンです。DCはHeliumネットワーク上でデータを送信する際の通貨として機能します。DCは譲渡不可能で、HNTをバーン(燃焼)してのみ生成できます。

    価格はUSDにペッグされており、1DCは$0.00001です。

    IoTネットワークでは24バイトのデータ送信ごとに1DCが消費され、モバイルネットワークでは1GBあたり50,000DC($0.50)がかかります。

    その他、専用デバイスの設置や運用にもDCが使用されます。

    サブDAOトークン(IOTとMOBILE)

    前項で2つのサブDAOがあることを説明しました。これらのサブDAOはそれぞれ異なる経済圏を持っているため使われるトークンも異なります。

    • IOTトークン: Helium IoTのトークンで、データ通信の報酬として発行されます。LoRaWANホットスポットの運営者は、IOTを獲得するためにPoCの証明を提供します。IOTトークンはHNTと交換可能で、交換されたHNTをDCに変換してネットワーク料金やデータ転送に使用します。IOTトークンをステーキングすることでveIOTを獲得でき、veIOTによりガバナンス権を得ることができます。
    • MOBILEトークン: Helium Mobileのトークンで、5G通信やWiFiホットスポットの運営者がデータ通信の証明により報酬を得ます。MOBILEトークンはHNTに交換でき、交換されたHNTでDCを生成するために使用されます。MOBILEトークンをステーキングすることでveMOBILEを獲得でき、veMOBILEによりガバナンス権を得ることができます。

    Heliumネットワークの利用状況

    Heliumは、これまでIoTデバイスのためのLoRaWANと5G接続を提供する分散型無線ネットワークを構築してきましたが、それぞれのネットワークは実際にどれくらいに使われているのかを見てみましょう。

    Helium IoTの利用状況

    まず、IoTネットワークを提供しているHelium IoTはこの記事を執筆している2024年9月現在、35万台のホットスポットが展開され、特にアメリカやヨーロッパの都市部で大きなカバレッジを提供しています。

    画像:Helium explorer
    画像:Helium explorer

    非常に多くのホットスポットが設置されていますが、その供給量に対して需要が追い付いていないのが現実です。現在のIoTネットワークの利用状況を確認すると、Helium全体の約3~4%程度を占めるに留まっています。

    このように、Helium IoTはインフラが整っていても、データ転送の実際の使用が限られているようです。

    Helium Mobileの利用状況

    画像:Helium explorer

    2023年に導入されたHelium Mobileは、やはり月額20ドルで提供される無制限のデータ、通話、テキストサービスはアメリカの他の通信サービスに比べて非常に競争力が持つと言えます。

    上の表の青い部分がHeliumの通信で支払われた金額を表しているのですが、ご覧のお通りそのほとんどがHelium Mobileの支払いであることがわかります。

    画像:Helium explorer

    現在、Helium Mobileのホットスポットの設置台数は、わずか2万台程度に留まっています。それにも関わらず、Helium全体の利用の95%以上がHelium Mobileとなっていることから、Heliumの主要サービスがモバイルネットワークであることが伺えます。

    Heliumについてのまとめ

    Heliumは、DePINプロジェクトを代表するプロジェクトであり、米国と欧州などの都市部を中心にIoTネットワークと5Gネットワークを拡大しています。

    Heliumの成長には、地理的リスクや政策リスクが伴い、特に5Gインフラの展開には国ごとの規制に対応する必要があります。

    また、ホットスポットのカバレッジの不均衡やT-Mobileのネットワークに依存する部分も課題として残っているものの、現在もっとも分散化されたネットワークインフラを持ち、既存の集権的なネットワークサービスと競争力のある数少ないプロジェクトです。

    まだ現時点では積極的な日本進出は行われていませんが、日本進出時には、資金決済法、電波法、電気通信事業法などの法的な制約に留意する必要があります。

    法的要件を満たすことは簡単なことではありませんが、それがクリアできると日本の街中でHeliumのホットスポットを見かける未来もあり得るかもしれません。

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