Biconomyチームはイーサリアム財団と共同で、ブロックチェーン取引における「スマートバッチ処理」のドラフト規格である「ERC-8211」を導入しました。この規格は、取引の署名時ではなく実行時にオンチェーンの状況を読み取って処理を確定させる「ランタイム解決(runtime-resolved execution)」を可能にするものです。動的で予測困難な出力が伴う複雑なDeFi(分散型金融)のフローにおいて、利便性と柔軟性を大幅に向上させることが期待されています。
実行時の動的な処理を可能にする「ランタイム解決」の導入
ERC-8211の最大の特徴は、取引の実行時にパラメータを確定できる点にあります。
従来のERC-4337(アカウント抽象化の標準規格)などの規格では、取引に署名する段階でパラメータをハードコード(固定)する必要がありました。しかし、DeFiの多段階の取引フローにおいては、前のステップの結果によって次のステップの最適な入力値が変化することがあり、署名時にすべての数値を確定させることは困難でした。
ERC-8211が導入する「ランタイム解決」により、取引が実際にブロックチェーン上で実行される瞬間の最新状態に基づいて処理を行うことが可能になります。これにより、価格変動やスリッページの影響を受けやすい複雑な取引を、より正確かつ効率的に一括処理できると見られています。
取引の柔軟性と安全性を支える3つのコンポーネント
ERC-8211では、動的なバッチ処理を実現するために以下の3つの要素が導入されています。
- Fetchers(フェッチャー):実行時の最新のオンチェーン状態を読み取る役割を担います。
- Constraints(コンストレイント):最小受け取り量などの実行条件を強制し、取引の安全性を確保します。
- Predicate entries(プレディケート・エントリ):クロスチェーン(異なるブロックチェーン間)の調整や特定の条件確認に使用されます。
これらの要素を組み合わせることで、例えば「トークンAをBに交換し、その結果得られた正確な量のトークンBを別のプロトコルに預け入れる」といった、動的な数値が介在する一連の操作を一つの取引として安全に実行できるようになります。
既存規格との互換性と開発環境の整備
ERC-8211は、既存の主要な規格との互換性を重視して設計されています。具体的には、モジュール型スマートアカウントの規格である「ERC-7579」や、EOA(外部所有アカウント)にスマートコントラクトの機能を持たせる「ERC-7702」との互換性があるとされています。
現在は、開発者チームがこの規格を容易に導入できるようにするためのSDK(ソフトウェア開発キット)が開発中であるとのことです。また、リファレンス実装(標準的な実装例)はオープンソースとして公開されており、コミュニティ全体での検証と採用に向けた準備が進められています。
ポイント
- Biconomyとイーサリアム財団が、スマートバッチ処理のための新規格「ERC-8211」を共同で発表しました。
- 署名時ではなく実行時にオンチェーン情報を参照する「ランタイム解決」により、DeFi取引の柔軟性が向上する見込みです。
- FetchersやConstraintsといった仕組みにより、動的な数値が関わる複雑な取引でも安全に一括実行が可能になります。
- ERC-7579やERC-7702といった既存の重要規格との互換性が確保されており、エコシステムへのスムーズな統合が期待されます。
- 開発者向けのSDKが開発中であり、今後の広範な採用に向けた環境整備が進んでいます。