米国司法省(DOJ)は、暗号資産ミキシングサービス「Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)」の共同創設者であるローマン・ストーム氏が、自身の刑事裁判において最高裁判所の著作権判例を引用した弁護について、これを「無関係である」として退けました。この動きは、分散型ツールの開発者がその悪用に対してどこまで刑事責任を問われるかという、Web3業界にとって極めて重要な法的争点に直結しています。
「中立的なツール」とする弁護側の主張
ローマン・ストーム氏の弁護団は、2026年4月2日に提出した書面において、最高裁判所の判決「Cox Communications v. Sony Music Entertainment」を引用しました。この判例は、インターネットサービスプロバイダーのような「正当な用途を持つサービス」を提供している場合、たとえ悪用の可能性を知っていたとしても、それだけで刑事上の意図を証明するには不十分であるという原則を支持するものです。
弁護側は、Tornado Cashはあくまで中立的なプライバシー保護ツールであり、第三者による悪用を理由に開発者が刑事責任を負うべきではないと主張しました。これは、オープンソースコードの提供と、それを利用した犯罪行為を切り離して考えるべきだという論理に基づいています。
司法省による反論:民事と刑事の相違を強調
これに対し、ニューヨーク州南部地区連邦検事のジェイ・クレイトン氏を中心とする司法省側は、4月7日付の回答書でこの主張を全面的に拒絶しました。司法省が挙げた主な理由は以下の通りです。
- 法体系の不一致: 引用されたCox事件は民事上の著作権侵害に関するものであり、ストーム氏が問われているマネーロンダリングや制裁違反といった刑事罰には適用されないと主張しています。
- 事実関係の相違: Cox事件の被告は違反を抑制するシステムを導入していましたが、ストーム氏は効果的なコンプライアンス措置を講じていなかったと指摘されています。
- 具体的な認識の有無: 司法省は、ストーム氏が「Ronin Network」のハッキング事件(約4億4900万ドルの被害)を発生当日に把握しており、Tornado Cashがその資金洗浄に利用されることを予見していたと主張しています。
今後のスケジュールと業界への影響
ローマン・ストーム氏は、2025年8月の裁判において「無許可の資金移動業」を運営した共謀の罪ですでに有罪判決を受けています。一方で、マネーロンダリングの共謀と制裁違反の共謀については陪審員の評決が一致せず、未解決となっていました。
今後の展開として、以下の日程が予定されています。
- 2026年4月9日: 無罪判決の申し立てに関する聴聞会
- 2026年10月(予定): 評決が一致しなかった2つの罪状に関する再審
この裁判の結果は、分散型プロトコルの開発者が、自らコントロールしていないスマートコントラクトを通じて行われる取引に対して、どの程度の法的リスクを負うべきかという業界の境界線を画定するものとして注目されています。
ポイント
- 最高裁判例の援用: 弁護側は著作権に関する民事判例を引用し、「ツールの提供のみでは犯罪意図は成立しない」と主張しましたが、司法省はこれを「無関係」と断じました。
- 開発者の法的責任: 開発者がコードを公開した後の第三者による悪用に対し、どこまで刑事責任を問われるかが最大の争点となっています。
- 具体的な犯罪認識の指摘: 司法省は、ストーム氏がRoninハッキングによる多額の不正資金流入を事前に認識していたと主張しており、これが「中立的なツール」という主張を覆す鍵と見られています。
- Web3ビジネスへの影響: 規制当局が「オープンソースの提供」を「金融サービスの運営」とみなす基準が、今後の再審を通じてより明確になる可能性があります。