暗号資産の金商法移行を見据えた産業構造の再設計:BGINが議論用ペーパーを提示

日本の暗号資産規制が、現行の資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移行することを見据え、ブロックチェーンの標準化団体BGIN(Blockchain Governance Initiative Network:ブロックチェーンのガバナンスに関する国際的なネットワーク)が、産業構造に関するディスカッションペーパーを提示しました。これは、銀行や証券業界のような共通の産業モデルが確立されていない暗号資産業界において、実効性のある制度設計を行うための土台作りを目的としています。規制コストの増大と産業の持続可能性のバランスをどう取るかが、今後の大きな焦点となります。

制度設計の前提となる産業の共通認識の確立へ

暗号資産の金商法移行を見据えた産業構造の再設計:BGINが議論用ペーパーを提示

日本の暗号資産規制は、第221回国会での審議を経て金商法への移行が見込まれています。今後は、情報提供規制やサイバーセキュリティ、不公正取引規制といった個別論点について、具体的なガイドラインや府令の策定が進む局面に入ります。

しかし、こうした制度が実効性を持つためには、産業構造の現状と課題を整理し、関係者間で共通認識を持つことが不可欠です。伝統的な金融業界とは異なり、暗号資産業界には交換業者(VASP:暗号資産サービスプロバイダー)だけでなく、カストディ(資産保管)、マーケットメーカー(流動性供給者)、ウォレット提供者、DeFi(分散型金融)など多様なプレーヤーが存在します。これらの役割分担や収益構造、リスクの所在が不明確なまま規制だけが先行すると、予期せぬ副作用が生じる可能性があると指摘されています。

BGINの総会「BGIN Block 14」で提示されたディスカッションペーパーは、産官学の多様なステークホルダーがオープンに議論し、産業の設計図を描くための素材として位置づけられています。

現行構造の課題と再設計に向けた3つの仮説

ディスカッションペーパーでは、日本の暗号資産産業の現状として、交換業者のスプレッド(売買価格の差額)依存による低収益性や、取引・審査・カストディが混在する垂直統合型の構造、グローバル市場との乖離(ガラパゴス化)といった課題が挙げられています。

これらの課題を解決し、健全で持続可能な産業を形成するための「再設計」案として、以下の3つの仮説が提示されました。

1. 機能分離と共有インフラ化

利益相反への対応として、カストディやトークン審査、清算などの機能を協調領域として共有インフラ化し、顧客獲得や投資助言を競争領域とする方向性です。

2. CeDeFiモデル

CEX(中央集権型取引所)とDeFiを融合させる可能性を検討します。

3. 民主的資本調達の可能性

仲介者に依存しない、ウォレットを中心とした新しい投資家と発行体の関係性を探るものです。

これらの提案は、単なる制度の遵守ではなく、産業そのものをどのように持続可能な形に作り変えるかという視点に基づいています。

規制コストの増大と産業の持続可能性への懸念

実務の現場からは、規制強化に伴うコスト増大への強い危機感が示されています。セキュリティ対策や監視体制の構築、責任準備金の確保など、利用者保護のためのコストが積み上がる一方で、収益機会が十分に確立されていないという現状があります。

このまま義務のコストが高まり続ければ、事業者の撤退や流動性の低下を招き、結果として産業規模が縮小する可能性があります。また、実際の市場ではグローバルなマーケットメーカーが価格形成を担っているにもかかわらず、規制が国内の交換業者に集中しているという、制度と実態の乖離も指摘されています。

今回の取り組みは、特定の立場から要望を出すものではなく、中立的な立場で産業の全体像を整理し、制度と実態の乖離を埋めることを目指しています。

ポイント

  • 日本の暗号資産規制が金商法へ移行する流れを受け、実効性のある制度設計のために産業構造の共通認識を確立する動きが加速しています。
  • 従来の垂直統合型のビジネスモデルから、カストディや審査などの機能を共有インフラ化する「機能分離」などの再設計案が議論されています。
  • 利用者保護のための規制コスト増大が、事業者の収益性や産業の持続可能性を圧迫する懸念があり、収益構造の改善が求められています。
  • BGINが提示したディスカッションペーパーは、2026年6月を目処に改訂版が提示される予定であり、産官学が連携して制度と実態の乖離を埋めるプロセスが進められています。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

Pacific Metaマガジン編集部は、ブロックチェーン領域を中心に、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン(ST)、ステーブルコイン、NFTなどのトークン活用を専門とする編集チームです。Web3・ブロックチェーン領域に特化したコンサルティングファームである株式会社Pacific Metaが、国内外41カ国・150社以上のプロジェクトを支援してきた知見をもとに、記事の企画・監修を行っています。

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