イランが世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡において、通過するタンカーに対し通行料を暗号資産で支払うよう要求していることが明らかになりました。イラン当局の担当者はビットコイン(BTC)を具体的な手段として挙げている一方で、分析企業は実務上の理由からステーブルコインが優先される可能性を指摘しています。この動きは、国際的な制裁を回避し、既存の決済システムに依存しない新たな収益源を確保する試みとして注目されています。
暗号資産による通行料徴収の仕組み
イランの石油・ガス・石油化学製品輸出業者組合の広報担当者であるハミド・ホセイニ氏は、ホルムズ海峡を通過するタンカーに対し、積載量1バレルあたり1ドルの通行料を暗号資産で課す方針を明らかにしました。この規定により、フル積載の大型タンカーでは最大200万ドル(約3億円)相当の支払いが必要になるとされています。
具体的な手順として、船舶側は積荷の詳細をイラン当局にメールで送信し、それに基づいた見積もりを暗号資産で受け取ります。ホセイニ氏によれば、支払いの猶予時間はわずか数秒間に設定されており、これは国際制裁による取引の追跡や資産凍結を防ぐための措置であると説明されています。なお、積荷のない空のタンカーについては、現時点では無料で通過できるとされています。
ビットコインとステーブルコインを巡る分析
イラン側は支払い手段としてビットコインに言及していますが、ブロックチェーン分析企業のChainalysis(チェイナリシス)は、実際にはステーブルコイン(法定通貨と価値が連動する暗号資産)が主に使用されるとの見方を示しています。
この推測の背景には、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が過去の資金移動においてステーブルコインを多用してきた歴史があります。ビットコインは中央集権的な発行者が存在せず凍結が困難という利点がある一方で、価格変動が激しいため、大規模な商業収益の管理には不向きと見られています。対して、米ドルに連動したステーブルコインは価値の保存に適しており、大規模な決済に必要な流動性を備えているため、実務上の優先度が高いと分析されています。
業界への影響と地政学的なリスク
この新たな通行料制度は、世界の石油および液化天然ガス(LNG)の約20%が通過するホルムズ海峡の地政学的な重要性を背景としています。暗号資産を用いることで米ドルを介さない決済を実現し、既存のペトロダラー(石油ドル)体制への挑戦や制裁回避を図る狙いがあると見られます。
一方で、海運企業にとっては重大なコンプライアンス上のリスクが生じています。米国による包括的な経済制裁下にあるイランに対し、暗号資産で支払いを行うことは制裁違反に該当する可能性が高く、大手海運企業などは慎重な姿勢を示しています。また、ステーブルコインを利用する場合、発行元によるアドレスの凍結というリスクも存在しており、イラン側と規制当局側の双方で技術的な駆け引きが続くことが予想されます。
ポイント
- イランがホルムズ海峡の通行料として、1バレルあたり1ドル相当の暗号資産支払いを要求しています。
- イラン当局はビットコインを名指ししていますが、分析企業は価値の安定性からステーブルコインが選ばれると予測しています。
- 支払いは追跡を避けるために極めて短時間で行うよう求められており、制裁回避の意図が明確です。
- 船舶1隻あたり最大200万ドルに達する支払いは、国際的な海運業界にとって大きなコストおよびコンプライアンス上のリスクとなります。
- この動きは、Web3技術が国家レベルの経済戦略や地政学的な対抗手段として活用されている事例として注目されます。