イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏は、分散型金融(DeFi)の合成資産市場における強制清算をなくすことを目的とした、オプション型の新たな枠組みを提案しました。この提案は、2026年6月第1週に暗号資産市場で約100億ドル規模の大規模な強制清算が発生し、ETFによる市場不安定化の懸念が高まる中で示されました。また、過去に発生した大手レンディングプロトコルでの不正利用問題も、従来の清算メカニズムが抱える脆弱性を浮き彫りにしており、今回の新提案はDeFiエコシステム全体の安定性を高めるアプローチとして注目されています。
強制清算とリアルタイムオラクルへの依存を排除する新枠組み
6月11日、ヴィタリック・ブテリン氏はSNS上で、イーサリアムエコシステム内の研究提案を取り上げ、リアルタイムの価格オラクルと強制清算に依存して支払い能力を維持する現在のDeFiレンディングプロトコルに代わる仕組みを支持しました。なお、この提案は2026年6月1日にイーサリアムの研究フォーラムに投稿されたものとされています。
従来のDeFiプロトコルは、通常の市場環境では機能するものの、資産価格が急激に変動した場合にはボラティリティを増幅させ、連鎖的な売りを引き起こすリスクがあります。
新提案では、債務を担保で支える従来型の構造を、オプション型の設計に置き換えます。このモデルでは、満期時に決済される完全に担保化されたオプションに近いポジションを利用します。これにより、価格変動に応じてポジションが自然にリバランスされるため、システムによる強制清算が不要になり、高頻度の価格フィードへの依存も低下します。本モデルは、法定通貨、インフレ指標、コモディティなど、幅広い指数に連動する合成資産への応用が想定されています。
100億ドル規模の市場清算とETFがもたらす影響
ブテリン氏の提案は、暗号資産市場が2026年最大級のレバレッジ解消に見舞われるタイミングで示されました。6月第1週だけで約100億ドルの清算が発生し、ビットコインとイーサリアムはともに30日間で30パーセントを超える下落を記録しました。この背景には、5月に米国のビットコインETFおよびイーサリアムETFから27億ドルの資金が流出したことがあります。
また、今回の清算は、暗号資産市場における機関投資家の高レバレッジポジションが市場に与える影響についての議論を再燃させています。2月5日に発生した過去最大となる25億ドル規模の清算においても、ブラックロックのビットコイン現物ETFであるIBITに関連したヘッジファンド等の大規模なオプション取引が発端となった可能性が指摘されています。
従来型DeFiの脆弱性を露呈したKelpDAOの不正利用事例
MakerDAOやAaveなどの従来型DeFiプロトコルは、担保価値が必要水準を下回ると自動的にポジションを清算する仕組みに依存しています。しかし、この仕組みは極端な状況下でシステム全体の脆弱性につながるとブテリン氏は主張しています。
その典型例が、2026年4月18日に発生したKelpDAOにおける2億9200万ドル規模の不正利用です。この事件は、LayerZeroブリッジの検証設定の不備を突かれたものであるとされています。攻撃者は不正に発行した裏付けのないrsETHトークンをAave V3に担保として預け入れ、多額の暗号資産を借り入れました。
この担保は実質的に無価値であったため、通常の方法で自動清算を実行すればシステム全体を揺るがす恐れがありました。そのため、Aaveは自動清算を防ぐために市場の凍結や緊急モードへの移行を余余儀なくされました。このハッキングの影響により、Aaveの総ロック額(TVL)はハッキング前の260億ドルから、6月11日時点で123億ドルへと50パーセント以上減少した状態が続いています。
このような事例からも、リアルタイムの価格データに依存し、急激な価格変動で連鎖的な清算を引き起こす従来の仕組みを見直す必要性が高まっています。
予測市場におけるイーサリアムの慎重な見通し
開発者からはブテリン氏の提案に対して前向きな反応が見られるものの、予測市場のトレーダーはイーサリアムの短期的な価格動向に対して慎重な姿勢を崩していません。
地政学的緊張の緩和などを背景に、イーサリアムの価格は一時的に反発したものの、予測市場プラットフォームであるPolymarketのデータによると、月末までにイーサリアムが2,000ドルを上回る確率の予測はわずか12パーセントにとどまっています。一方で、1,500ドルを下回ると予想する確率は41パーセントに上昇しています。
また、現物イーサリアムETFは6月第1週に1億5000万ドル超の純流出を記録しており、機関投資家の需要減退が懸念されています。トレーダーは現在、プロトコルレベルの技術革新よりも、マクロ経済環境やETFへの資金フローをより重視していると見られます。
ポイント
- イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏が、DeFiにおける強制清算をなくすためのオプション型モデルを提案しました。急激な価格急落時の連鎖的な売りを防ぐ新しいアプローチとして注目されます。
- 2026年6月第1週に市場全体で約100億ドルの清算が発生したことは、過度なレバレッジと自動清算システムが市場のボラティリティを増幅させるリスクを改めて示しています。
- 4月に発生したKelpDAOの不正利用とそれに伴うAaveのTVLの半減(50パーセント超の減少)は、従来のオラクルと自動清算に依存するシステムが極端な状況下で機能不全に陥る脆弱性を実証しました。
- 技術的な議論が進む一方で、予測市場におけるイーサリアムの回復期待は低く、トレーダーの関心は当面の間、マクロ経済やETFへの資金流出入といった外部要因に集まっていると見られます。