STO(Security Token Offering)とは、株式・社債・不動産の信託受益権などの権利をブロックチェーン上のトークンとして発行し、資金を調達する方法です。発行されるトークンはセキュリティトークン(ST)、またはデジタル証券と呼ばれます。

日本では2020年5月施行の改正金融商品取引法で法的な枠組みが整い、国内のST発行累計は2024年12月末時点で約1,751億円でした(日本STO協会公表)。証券をプログラムで扱えるようになると、分配や決済をステーブルコインやAIエージェントが自動で処理する金融の土台にもつながります。
- STOは、権利をトークン化して資金を調達する証券の発行方法
- 2020年5月施行の改正金商法による開示規制・業規制の対象
- 発行は証券会社・信託銀行・基盤事業者との共同作業
- ICOと異なり、投資家保護の枠組みの中での調達
- 不動産のほか映画の興行権や太陽光発電の収益も裏付け資産の実例
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STOとは
STOとは、有価証券に表示される権利をブロックチェーン上のトークンとして発行し、投資家から資金を集める方法です。紙の株券や証券保管振替機構の口座記録に代わり、権利の保有者と移転の記録をブロックチェーンに残します。

日本法では、この権利は「電子記録移転有価証券表示権利等」と総称されます。2019年5月31日に成立した資金決済法等の改正法により、2020年5月1日から私募の要件、有価証券届出書などの開示内容、金融商品取引業者による顧客資産の管理方法が整備されました。STOは金商法の開示規制と業規制が及ぶ証券の発行です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Security Token Offering(STO) |
| 発行されるもの | セキュリティトークン(ST)、デジタル証券 |
| 日本での法区分 | 電子記録移転有価証券表示権利等 |
| 根拠法 | 金融商品取引法 |
| 施行時期 | 2020年5月1日 |
日本STO協会の統計は、STを「電子記録移転権利等」(合同会社と匿名組合の出資持分・合同金銭信託・投資事業有限責任組合など)と「トークン化有価証券」(受益証券発行信託の受益証券・社債・株式など)に分けて集計しています。検討の窓口が暗号資産交換業者ではなく、証券会社や信託銀行になるのはこのためです。
企業がSTOに注目している理由
国内では大手金融グループ発の発行基盤が稼働しています。三菱UFJ信託銀行の社内で立ち上がったデジタルアセット基盤事業は、2023年10月2日に株式会社Progmatとして独立しました。株式会社BOOSTRYは野村ホールディングスやNRIなどの出資で2019年9月に設立され、ST向けのブロックチェーン「ibet for Fin」を複数社のコンソーシアムで運営しています。

二次流通の受け皿も生まれました。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は2023年12月25日、ST取引の私設取引システム(PTS)「START」の売買を始めています。日本初のSTの二次流通市場で、開始時の取引参加者はSBI証券と大和証券、野村證券とSMBC日興証券も2024年中の参加を予定していました。発行基盤と流通の場が揃い、STOは実証から事業会社が選べる資金調達の手段へ移っています。
企業にとっての論点は2つです。1つは権利を小口に分けて、従来は届かなかった個人投資家まで募集の対象を広げられること。もう1つは、名義管理や分配の事務をブロックチェーン上の記録とプログラムで処理できることです。2025年8月にはイグニション・ポイントがProgmat、Pacific Metaなどと金融領域の新事業の社会実装を支援する戦略的業務提携を発表しており、発行基盤と事業設計を組み合わせる動きも広がっています。
STOの仕組みと関係者
STOの仕組みとは、発行体1社ではなく複数の関係者が役割を分け、権利の発行から管理・流通までを担う構造です。国内のSTの主流は、不動産の受益権などを裏付け資産にした受益証券発行信託のST化受益証券です(日本STO協会)。

| 関係者 | 主な役割 |
|---|---|
| 発行体 | 資金使途と裏付け資産を決め、STを発行する |
| 証券会社 | 募集・販売、投資家の本人確認、顧客口座の管理 |
| 信託銀行 | 裏付け資産の受託と管理(信託スキームの場合) |
| 基盤事業者 | STの発行・移転を記録するブロックチェーンの提供 |
| 投資家 | STを取得し、分配や償還を受け取る |
ブロックチェーン上の契約をプログラムで自動実行する仕組み(スマートコントラクト)をSTに組み込むと、社債の償還日に自動で償還したり、本人確認が済んでいない相手への移転を制限したりできます(日本STO協会の税制改正要望書)。譲渡の条件をコードで担保できるため、関係者の選定と、どの制限をプログラムに載せるかの設計が発行準備の中心になります。
STOとICO・IPO・クラウドファンディングの違い
STOと混同されやすいのが、ICO、IPO、株式投資型クラウドファンディングです。違いは対象の権利、規制、募集の担い手に表れます。

| 項目 | STO | IPO | ICO | 株式投資型クラファン |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 証券に表示される権利 | 上場株式 | 発行体独自のトークン | 非上場株式 |
| 規制 | 金商法(開示・業規制) | 金商法・取引所の上場審査 | 内容により金商法等の対象 | 金商法 |
| 募集の担い手 | 証券会社など登録業者 | 証券会社(主幹事) | 発行体自身が多い | 登録した仲介業者 |
| 流通 | PTSまたは店頭取引 | 証券取引所 | 暗号資産交換業者など | 原則として限定的 |
ICOについて金融庁は2017年10月27日付の注意喚起で、企業がトークンを発行して公衆から資金を集める行為の総称とし、価格下落や詐欺の可能性を指摘しました。投資性のあるICOは金商法の規制対象になりうるとも述べています。
STOは、権利の内容をトークンで表しつつ、証券として登録業者が募集を扱います。IPOより小さな単位で調達でき、ICOと違い投資家保護の枠組みの中にある選択肢です。
STOのメリット
発行体にとってのメリットは、募集の広がり、事務の効率、対象資産の幅の3点に集約できます。

メリット①:投資家層が広がる
権利を小口に分けて発行できるため、大口の機関投資家だけでなく個人投資家まで募集の対象にできます。資産の規模に合わせて投資単位を設計できるのが、従来の私募ファンドとの違いです。

メリット②:管理と分配の事務を自動化できる
保有者の記録がブロックチェーン上にあるため、名義の書き換えや分配の計算を台帳と照合する手間を減らせます。譲渡制限や償還をプログラムに組み込み、人手の確認を減らせる点も発行体の負担を下げます。

メリット③:不動産以外の権利も対象にできる
裏付け資産は不動産に限られません。社債や事業収益の分配を受ける権利など、事業の性格に合わせて権利の形を選べます。

投資家にとっては、少額から不動産やインフラなどの資産に投資でき、一部のSTはPTSで売却の機会を持てる点が利点です。
国内のSTO事例
国内のSTは不動産の受益権が中心ですが、2024年には裏付け資産を広げる案件が出ました。いずれも日本STO協会が公表した業界の事例です。

| 案件 | 裏付け資産 | 発行時期 | 調達額 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 映画のST化匿名組合出資持分 | 映画の興行権 | 2024年 | 3億6,800万円 | 協会が「我が国初」とした |
| 太陽光発電のLPS | 発電施設からの収益 | 2024年 | 6億3,000万円 | 改正金商法施行後初の適用除外電子記録移転権利 |
| 不動産のST化受益証券 | 不動産の受益権 | 2024年までに35件 | 累計約1,301億円 | 国内STの主流 |
映画の案件は、匿名組合出資持分をSTとして公募した例です。映画の興行権を裏付けにしたSTは、日本STO協会が「我が国初」とした案件で、公募で3億6,800万円を集めました。
太陽光発電の案件は、発電施設の収益を分配する投資事業有限責任組合(LPS)の持分をSTとして発行しました。日本STO協会によると、適用除外電子記録移転権利としての発行は2020年5月の改正金商法施行以降で初めてでした。
不動産のST化受益証券は、2019年から2024年12月末までに35件・約1,301億円が発行されました(日本STO協会公表)。映画の興行権や発電収益の実例が示すとおり、裏付け資産は事業の性格に合わせて選べます。
STOに関するよくある誤解
STOを検討する初期段階で出やすい思い込みを、実際の制度と並べます。

| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| STOは暗号資産の一種である | STは有価証券であり、金商法の開示規制・業規制の対象 |
| STは誰でも24時間自由に売買できる | 二次流通はPTSのSTARTか店頭取引で、扱える種類と銘柄は限られる |
| 発行体がブロックチェーンに詳しくないと発行できない | 基盤は基盤事業者が提供し、発行体は資産と権利の設計に集中できる |
| 公募でも審査や開示は一切ない | 公募では有価証券届出書などの開示が求められる |
STOの課題とリスク
STOでは流動性、関係者の多さ、制度の変化が発行体の負担になり、調達コストが下がるかは案件の規模と資産で変わります。

課題①:二次流通の流動性が限られる
STARTで2024年12月までに扱われたのは受益証券発行信託の6銘柄で、2024年の売買代金は2億7,234万円でした(日本STO協会公表)。電子記録移転権利等はSTARTを使えず、店頭取引での買い入れに限られます。換金のしやすさを前提に募集を設計しないことが投資家への説明でも必要です。

課題②:関係者が多く準備の負担が大きい
証券会社・信託銀行・基盤事業者がそれぞれ役割を持つため、契約と調整の相手が増えます。発行規模が小さいと、関係者への支払いが調達額に対して重くなりやすい点に注意が要ります。

課題③:制度と実務の取扱いが変わる
2024年7月以降、信託協会の計算規則改正や税制上の取扱いの明確化作業の影響で、受益証券発行信託のST化受益証券の発行は実質的に停止状態となりました(日本STO協会)。合同会社と匿名組合の方式では、収益分配金が総合課税の雑所得になることが発行低調の主因とされています。スキームごとに制度の変化を追う体制が発行後も必要です。

自社でSTOを発行するまでの進め方
STOの発行は、資産の決定から発行後の開示まで6つの工程に分けて進めます。

- 資金使途と裏付け資産を決める
- スキームを選ぶ(信託受益権・社債・匿名組合出資など)
- 証券会社・信託銀行・基盤事業者を選ぶ
- スマートコントラクトと譲渡制限を設計する
- 募集と投資家の本人確認を行う
- 発行後の開示と二次流通に対応する
| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 資金使途と裏付け資産の決定 | 経営企画・新規事業 | 財務 | 調達額と資産の候補が社内で承認された |
| 2 | スキームの選択 | 財務 | 法務 | 法区分と税務の扱いを専門家と確認した |
| 3 | 関係者の選定 | 新規事業 | 法務・財務 | 証券会社・信託・基盤と役割分担を合意した |
| 4 | 譲渡制限と分配の設計 | 新規事業 | システム・法務 | 移転の条件と分配ルールの仕様が確定した |
| 5 | 募集と本人確認 | 証券会社と連携 | 広報 | 開示書類の提出と募集の開始 |
| 6 | 発行後の開示と流通 | 財務 | IR・法務 | 継続開示と流通先の運用手順が決まった |
工程のうち関係者の選定とスキームの選択は互いに影響し、信託を使うかどうかで選ぶ相手も変わります。着手前に部門ごとに確かめる論点は次のとおりです。

| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先(一次情報) | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 裏付け資産の適格性 | 分配の原資になる収益が継続的に生じるか | 資産の収支資料・評価書 | 分配の見込みを数値で説明できる |
| スキームと法区分 | 電子記録移転権利等かトークン化有価証券か | 金融庁の公表資料・弁護士 | 適用される開示と業規制を一覧にした |
| 関係者の選定 | 募集・受託・基盤を担う相手と費用の分担 | 証券会社・信託銀行・基盤事業者 | 役割と費用の分担表を合意した |
| 譲渡制限と二次流通 | 流通先をPTSと店頭のどちらにするか | ODXの公表資料・証券会社 | 投資家への換金方法の説明文を用意した |
| 開示と会計処理 | 発行後の継続開示と会計・税務の扱い | 監査法人・税理士 | 発行後の年間の作業と担当を決めた |
どの資産を、どのスキームで、どの関係者と発行するかは、財務・法務・システムの判断が互いに絡む論点です。制度の取扱いも変わり続けており、前例の少ない資産ほど社内の検討だけでは結論を出しにくくなります。資産の選定から関係者の組み合わせまでを一体で検討する場合の支援内容もあわせてご覧ください。
Pacific Metaのサービス
セキュリティトークンによる資金調達を検討段階から支援します。
スキーム選定・規制対応・パートナー選定まで、STO・デジタル証券の発行検討を伴走します。
STO支援サービスの詳細を見るよくある質問
STOで発行されたSTは個人でも買えますか
公募のSTは、取り扱う証券会社に口座を開けば個人でも取得できます。募集の窓口は証券会社で、本人確認を経て購入します。私募の案件は対象の投資家が限られます。
どんな会社がSTOで資金を調達できますか
業種の制限ではなく、分配の原資になる資産や事業収益を持っているかが出発点です。不動産のほか映画の興行権や太陽光発電の収益を裏付けにした実例があります。スキームによって発行体が満たす要件が変わるため、証券会社との協議が必要です。
セキュリティトークンとNFTは何が違いますか
セキュリティトークンは分配や償還の権利を表す有価証券で、金商法の規制を受けます。NFTは主にデジタル作品の保有記録などを表すトークンで、通常は証券として扱われません。ただし利益の分配を約束するような設計では、証券に当たるかの検討が必要になります。
STOの発行にはどのくらいの期間がかかりますか
資産の種類、スキーム、関係者の選び方で期間は大きく変わるため、一律の目安はありません。信託や開示書類の準備が重なるため、関係者の選定を早く始めるほど全体の見通しが立ちやすくなります。
STOのまとめと発行検討の次の一歩
STOは、証券の規制の中で権利をトークンとして発行し、小口化と事務の自動化を両立させる資金調達の方法です。国内では発行基盤と二次流通の場が揃い、裏付け資産も不動産から映画や再エネへ広がりました。一方で流動性と制度の変化は課題として残り、資産とスキームの組み合わせで採算が分かれます。

ここで扱った制度と統計は2026年10月16日時点の公表資料に基づく一般的な整理です。個別の事業スキームがどの規制を受けるかは、弁護士や当局への事前相談で確認してください。基準日以降の法令や税制の改正で、内容が変わる場合があります。
自社の資産がSTOに向くかは、裏付け資産の収益、スキーム、関係者の組み合わせを同時に見ないと判断できません。財務と法務とシステムの論点は、初期の段階ほど重なります。