デジタル社債とは、ブロックチェーン上の台帳で権利を記録・移転する社債です。証券保管振替機構(ほふり)の振替制度を使わず、ブロックチェーンで取引履歴を共有して管理する点が通常の社債と異なります。

2019年5月に成立した資金決済法等の改正法で、ブロックチェーン上の有価証券を扱う枠組みが整いました。2026年3月にはSBIホールディングスが発行総額100億円のST社債を発行し、同月に大阪デジタルエクスチェンジのPTSで売買が始まっています(発行体公表)。
発行体にとっては、投資家を直接把握し、ポイントなどの特典で関係をつくる資金調達手段が加わったことを意味します。権利の記録がオンチェーンに載ることで、利払いや特典付与をプログラムで処理する設計も視野に入り、AIエージェントを含む機械が金融取引を扱う流れとも接続する論点です。
- ブロックチェーン台帳で権利を管理し、信用リスクは通常の社債と同等
- 発行体の主なメリットは投資家の把握と、ポイント等の非金銭特典
- 発行には証券会社・社債原簿管理人・基盤運営者の組み合わせが必要
- 名称に「デジタル」とあっても、振替社債の場合がある点に注意
- 発行後の流通は限定的で、満期保有を前提とした商品設計が基本
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デジタル社債とは
デジタル社債は、権利の記録をほふりの振替制度からブロックチェーン台帳に移した社債です。法令上は、改正法で導入された「電子記録移転有価証券表示権利等」として扱われます。金商業等府令第1条第4項第17号が定める区分です。

SBI証券の説明では、既存の国内債券はほふりが取引履歴を管理するのに対し、ST社債はブロックチェーン技術で取引履歴を取引参加者間で共有して管理します。SBI START債の場合、ibet for Finのネットワーク上で社債原簿の記録が管理されました。
| 項目 | 通常の社債(振替社債) | デジタル社債 |
|---|---|---|
| 権利の管理 | ほふりの振替制度 | ブロックチェーン上の台帳 |
| 社債原簿 | 社債原簿管理人が管理 | ブロックチェーン上の記録を社債原簿として管理 |
| 投資家の把握 | 発行体からは把握しにくい | 投資家の同意に基づき発行体が把握しやすい |
| 特典の付与 | 金銭以外の利払いが難しい | ポイント等の特典を組み込みやすい |
一方で、SBI証券は基本的な商品性は既存の債券と変わらないとしています。仕組みが変わるのは権利管理であり、発行体の信用リスクの性質は変わりません。
デジタル社債で企業が得られるメリット
丸井グループは2022年以降、「応援社債」として自己募集のデジタル社債を4回発行し、利払いの一部にエポスポイントを充てています(Securitize Japanの事例紹介)。SBIホールディングスのSBI START債は、申込単位を1万円とし、特典は10万円以上の購入者に付ける設計にしました。

野村證券・Securitize Japan・丸井グループは2022年3月の発表で、既存の個人向け公募社債の課題を4つ挙げています。発行会社が投資家を把握しにくいこと、金銭以外の利払いが難しいこと、直接利払いできないこと、小口化すると管理コストがかかることです。
デジタル社債が発行体にもたらす主なメリットは次のとおりです。
- 投資家の把握。投資家の同意を前提に、誰が購入したかを発行体が直接把握できる
- 特典による顧客関係づくり。ポイントや自社サービスの優待を利払いや特典に組み込める
- 小口化。少額単位のオンライン販売を管理コストを抑えて設計できる
効果の大きさは商品設計と販売チャネルで変わります。デジタル社債は資金調達と顧客との関係づくりを同時に設計できる手段であり、どちらを主目的にするかを最初に決める必要があります。
デジタル社債の仕組みと発行の流れ
デジタル社債の仕組みは、社債の発行・期中管理・償還をブロックチェーン上の記録で処理する構成です。SBI START債は、発行から期中管理、償還までの業務プロセスを電子的方法で完結させました。

発行に関与する主なプレイヤーは次の表のとおりです。SBI START債の体制を例に整理しました。
| プレイヤー | 役割 | SBI START債での担い手 |
|---|---|---|
| 発行体 | 社債を発行し資金を調達する | SBIホールディングス |
| 主幹事証券会社 | 引受・販売を担う | SBI証券 |
| 社債管理者 | 社債権者のために債権を管理する | みずほ銀行 |
| 社債原簿管理人 | ブロックチェーン上の記録を社債原簿として管理する | みずほ銀行 |
| ブロックチェーン基盤 | 権利移転を記録するネットワークを提供する | ibet for Fin(BOOSTRY) |
自己募集型では役割分担が変わります。丸井グループのスキームでは、丸井グループが販売対象者の特定とポイント利払いの連携システムを構築し、野村證券がフィナンシャルアドバイザーを担い、Securitizeがプラットフォームを開発・保守しました。
発行の流れは次の5段階で整理できます。
- 資金使途と特典の方針を決め、発行形態(公募・自己募集等)を選ぶ
- 証券会社・社債管理者・社債原簿管理人・基盤の組み合わせを決める
- 募集条件(発行額・利率・申込単位・特典)を設計する
- 募集・払込を行い、ブロックチェーン上に権利を記録する
- 期中の利払い・特典付与と償還を、台帳の記録に基づいて処理する
公募型では証券会社と社債原簿管理人が基盤を含む体制を用意し、自己募集型では発行体が販売対象者の特定やポイント連携を自社で担います。どちらの型で進めるかで、発行体が自社で用意するシステムの範囲が決まります。
デジタル社債を支える主な基盤
国内のデジタル社債で使われてきた主な基盤は、ibet for Fin、Progmat、Securitizeです。

| 基盤 | 運営主体 | 主な用途・採用例 |
|---|---|---|
| ibet for Fin | BOOSTRYが事務局のコンソーシアム | SBI START債の発行・管理 |
| Progmat | Progmat, Inc.(ライセンス提供) | 不動産ST「KJRM・リアルティ・トークン 汐留シティセンター」(2025年9月発行完了) |
| Securitize | Securitize Japan | 丸井グループの自己募集デジタル社債 |
2025年8月には、イグニション・ポイントがProgmat社、Pacific Metaなどと提携し、金融領域の新事業の企画から社会実装までを支援する態勢を構築したと発表しました。Securitize Japanは自己募集デジタル証券やデジタル特典付社債などのソリューションを掲げています。
SBI START債はSBI証券とibet for Fin、丸井グループの社債は野村證券とSecuritizeの組み合わせでした。基盤は販売チャネルとなる証券会社がどの基盤に対応しているかと一体で決まります。
振替社債・特典付き社債との違い
振替社債も、2006年1月に一般債振替システムが稼働して以来すでにペーパーレスです。紙の券面がないことは、デジタル社債を見分ける基準になりません。

紛らわしいのが「デジタル特典付社債」です。近鉄グループホールディングスの「Les Saveurs 志摩 運行記念債」(2026年7月募集)は、デジタル特典付の個人向け社債ですが、社債等振替法の適用を受ける振替社債であり、セキュリティトークン社債ではありません。
| 区分 | 権利管理 | 特典 | 例 |
|---|---|---|---|
| 振替社債 | ほふりの振替制度 | 原則なし | 一般的な事業会社の社債 |
| デジタル特典付社債 | ほふりの振替制度 | デジタルの特典あり | 近鉄GHD「Les Saveurs 志摩 運行記念債」 |
| デジタル社債(ST社債) | ブロックチェーン台帳 | 設計次第 | SBI START債 |
見分けるには、目論見書や商品説明で社債等振替法の適用の有無を確かめます。SBI START債の商品ページには、同法の適用を受けない旨が記載されていました。
国内のデジタル社債の発行事例
国内の事例は、ほふりの振替からブロックチェーン台帳へ権利管理を移す試みとして、2020年の実証から始まりました。

| 発行体 | 時期 | 特典・特徴 | 基盤 |
|---|---|---|---|
| みずほFGほか(実証) | 2020年2〜3月 | 発行体と投資家の直接接点、特典、小口販売の検証 | みずほ系の実証基盤 |
| 丸井グループ | 2022年以降(4回) | 利払いの一部をエポスポイントで充当 | Securitize |
| SBIホールディングス | 2026年3月 | 10万円以上の購入者にXRPを付与 | ibet for Fin |
みずほフィナンシャルグループは2020年2月、「個人向けデジタル社債」の実証を発表しました。発行体はヤマダ電機、オリエントコーポレーション、ファミリーマート、みずほ銀行の4社で、投資家は参加企業の社員です。社債原簿をブロックチェーンで管理し、発行体が投資家と直接接点を持てるかを確かめました。
丸井グループは、投資家を把握しにくく金銭以外で利払いしにくいという個人向け社債の課題に対し、自己募集型のデジタル社債で応えました。資金使途は第1〜3回が発展途上国のマイクロファイナンス、第4回が太陽光発電施設への投資です(Securitize Japanの事例紹介)。
SBIホールディングスは2026年3月24日、同社初のST形式の社債を発行しました。発行総額100億円、利率年2.15%(税引前)の3年債で、SBI証券の商品ページには完売と掲載されています。SBI証券は2021年4月にも一般投資家向けのST社債を発行しています。
事例は実証から実用段階に入り、発行体も金融以外の事業会社に広がっています。
デジタル社債に関するよくある誤解
デジタル社債は新しい名称が先行しやすく、仕組みと商品性が混同されがちです。

| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| デジタルなので通常の社債より安全 | 信用リスクは発行体次第で、通常の社債と変わらない |
| 「デジタル特典付」ならブロックチェーンで管理されている | 振替社債にデジタル特典を付けた商品もある |
| ブロックチェーン上にあるのでいつでも売れる | 売買の場は限られ、取引機会が少ない可能性がある |
誤解の多くは、権利管理の方式と商品の安全性・流動性を同じものとして扱うことから生まれます。発行体として説明するときは、変わる点と変わらない点を分けて示すことが投資家の誤認防止になります。
デジタル社債のリスクと設計上の課題
デジタル社債のリスクは、投資家が被る損失と発行体の運営負担の両面で整理できます。

リスク①:デフォルトと金利変動
発行体の経営・財務状況が悪化すれば、投資元本を割り込むことがあります。償還前に換金する場合は金利変動で損失が出るおそれもあり、この点は通常の社債と同じです。

リスク②:流動性の低さ
社債の発行後の売買は証券会社との相対取引が一般的です。SBI START債は2026年3月25日に大阪デジタルエクスチェンジのPTS「START」で売買が始まりましたが、売買は1日2回の板寄せ方式に限られました。SBI証券も取引機会が多くない可能性をリスクとして記載しています。

リスク③:記録の改ざん・消滅
ibet for Fin上の社債では、サイバー攻撃などで記録が改ざん・消滅し復元できない場合に、元利金の支払いや譲渡ができなくなる可能性がリスクとして記載されています。

リスク④:システム連携の遅延
取引情報をネットワークに連携できない場合、元利金の支払い・譲渡・社債原簿の記録が大幅に遅れる可能性があります。発行体は、基盤と社債原簿管理人との連携体制を事前に確認しておく必要があります。

以上を踏まえると、流通性を前提にした商品設計は避け、満期保有を想定して設計するのが基本です。
企業がデジタル社債の発行を検討する進め方
発行検討は、資金使途と顧客施策の目的を先に固め、その目的に合うスキームとプレイヤーを選ぶ順で進めます。

| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 調達目的と特典の狙いの整理 | 財務 | マーケティング・IR | 主目的(調達額か顧客施策か)が1つに決まっている |
| 2 | 発行形態とスキームの選定 | 財務 | 法務 | 公募・自己募集のどちらで進めるか決まっている |
| 3 | 証券会社・基盤・社債原簿管理人の選定 | 財務 | システム | 組み合わせと役割分担が文書化されている |
| 4 | 募集条件と特典の設計 | 財務 | マーケティング | 申込単位・特典対象額・付与方法が決まっている |
| 5 | 会計処理と期中管理体制の確認 | 経理 | システム | 利払い・特典付与の処理手順が確定している |
PoCは「まず小さく試す」ためではなく、自社の顧客基盤で特典が購入動機になるかを確かめる判断材料として設計します。みずほの2020年実証も、直接接点・特典・小口販売という検証項目を先に定めていました。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先(一次情報) | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 資金調達目的の適合 | 調達額と期間がデジタル社債の規模感に合うか | 既発事例の発行条件(発行体公表資料) | 通常の社債との比較で採否を説明できる |
| スキームと業規制 | 自己募集か証券会社販売かで必要な体制が何か | 金融商品取引法・金商業等府令 | 採用スキームと必要な登録・委託先が特定できている |
| 基盤と証券会社の選定 | 販売を担う証券会社がどの基盤に対応しているか | 各基盤・証券会社の公表資料 | 基盤と販売チャネルの組み合わせが1案に絞れている |
| 社債原簿管理と会計処理 | 社債原簿管理人と経理処理の分担 | 社債原簿管理人・監査法人 | 期中の記録と仕訳の手順が合意されている |
| 投資家特典の設計 | 特典の対象額・付与時期・原資 | 自社の顧客施策の実績データ | 特典条件と費用上限が決まっている |
デジタル社債の検討では、スキームの選択、基盤と証券会社の組み合わせ、特典を含む募集条件が互いに影響します。財務・法務・システム・マーケティングの判断が同時に絡むため、どれか1部門の検討だけでは全体の設計が固まりにくいテーマです。
セキュリティトークンを使った資金調達の設計と進め方は、支援内容で紹介しています。
Pacific Metaのサービス
セキュリティトークンによる資金調達を検討段階から支援します。
スキーム選定・規制対応・パートナー選定まで、STO・デジタル証券の発行検討を伴走します。
STO支援サービスの詳細を見るよくある質問
Q. デジタル社債は個人投資家も購入できますか
個人向けに募集されたものがあります。SBI START債は1万円以上1万円単位で申し込める設計で、SBI証券が主幹事として販売しました。丸井グループの応援社債は、発行体が自社の顧客を対象に募集する自己募集型です。
Q. デジタル社債は通常の社債より金利が高いのですか
金利は発行体の信用力と年限、市場環境で決まり、デジタル社債であること自体で高くなるわけではありません。丸井グループはエポスポイントを利払いの一部に充て、SBI START債は10万円以上の購入者にXRPを付与しました。こうした事例では、特典を金銭の利払いとは別の要素として組み込んでいます。
Q. 発行までにどれくらいの期間がかかりますか
期間は既存の基盤と証券会社を使うか、自己募集の仕組みを新たに構築するかで大きく変わります。自己募集型では、ポイント連携など自社システムとの接続が工程の中心になります。
デジタル社債のまとめ
デジタル社債は、権利管理をブロックチェーン台帳に移すことで、投資家の把握と特典による顧客関係づくりを資金調達に組み込める社債です。信用リスクと流動性は通常の社債以上に丁寧な説明が要り、名称ではなく権利管理の方式で振替社債と区別します。

発行を具体化する段階では、調達目的と顧客施策のどちらを優先するかで、選ぶスキームと関与プレイヤーが変わります。特典の原資と費用上限、自社システムとの接続範囲、販売を担う証券会社の対応基盤は、財務とマーケティングとシステムの判断が重なる論点であり、社内の1部門だけでは決めきれません。