セキュリティトークン(ST)とは、株式や社債、不動産の信託受益権といった有価証券の権利を、ブロックチェーン上のトークンとして発行・管理するものです。金融商品取引法では「電子記録移転権利」として定義され、内閣府令ではこれを含めて「電子記録移転有価証券表示権利等」と呼びます。

主なデメリットは、二次流通市場の小ささ、発行・運用コスト、基盤と販売網への依存、法規制と税務の複雑さ、技術リスクの5点です。いずれも技術そのものの欠陥というより、市場インフラと発行実務がまだ育ちきっていないことに由来します。STは証券事務をオンチェーンへ移す動きであり、その先にはAIエージェントが24時間取引と決済を担う金融インフラが載っていきます。
- 主なデメリットは流動性、コスト、基盤依存、規制、技術リスク
- 投資家側は売りたい時に売れない換金性の低さが最大の課題
- 発行体側は関係者の多さによる準備期間と固定費の重さ
- 小規模・単発の調達は割高になりやすく向かない案件
- 対策は流通の出口と基盤の移行可能性をスキーム段階で決定
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セキュリティトークンのデメリットの全体像

セキュリティトークンのデメリットを正しく捉えるには、まずSTが法律上どう扱われ、STOとどう違うのかを押さえておく必要があります。STは新しい資産クラスではなく、従来からある有価証券の権利を、記録と移転の方法だけ変えて発行するものです。
そのため、デメリットの多くは「有価証券であること」と「ブロックチェーン上で発行すること」の両方から生じます。有価証券としての規制と開示は従来どおり掛かり、そのうえで新しい流通の場と基盤を整える負担が加わります。
| 立場 | デメリット | 主な対策 |
|---|---|---|
| 投資家 | 二次流通市場が小さく換金しにくい | PTS上場を前提にした商品を選ぶ |
| 投資家 | 価格と情報の透明性が低い | 目論見書と運用報告で裏付け資産を確認 |
| 投資家 | 元本保証がなく資産価格の変動を受ける | 裏付け資産の収益構造を確認 |
| 投資家 | 購入できる証券会社が限られる | 取扱証券会社の口座を事前に用意 |
| 投資家 | 課税関係が商品ごとに異なる | 目論見書と税務の専門家で確認 |
| 発行体 | 発行・運用コストが小規模案件で割高 | 継続発行で固定費を分散 |
| 発行体 | 準備期間と関係者調整が長い | 関係者と役割を初期に確定 |
| 発行体 | 基盤と販売網への依存 | 移行可能性と販売網を選定基準に入れる |
表の8項目のうち、発行体側の項目はスキームの設計で重さを変えられる点が、投資家側との大きな違いです。
違い①:STは金融商品取引法上の有価証券
金融商品取引法第2条第3項は、みなし有価証券にあたる権利のうち、電子情報処理組織を用いて移転できる財産的価値に表示されるものを「電子記録移転権利」と定めています。流通性などを勘案して内閣府令で定める場合は除かれます。
つまりSTは、暗号資産ではなく有価証券として金融商品取引法の規制を受けるものです。募集の際の開示や、販売する業者の登録といった従来の証券ルールがそのまま掛かります。ブロックチェーンを使うから規制が軽くなる、という性質のものではありません。
違い②:STOはSTを使った資金調達の手法
STO(セキュリティ・トークン・オファリング)は、STを発行して投資家から資金を集める資金調達の手法です。株式とIPOの関係にたとえると分かりやすく、STが発行される証券そのもの、STOがそれを売り出して資金を集める行為にあたります。

この区別は、デメリットを考えるうえでも意味があります。流動性や価格の透明性はST自体の性質に関わる論点で、準備期間や販売網の確保はSTOという調達行為の実務に関わる論点です。検討の場面では、どちらの話をしているのかを分けて整理すると判断を誤りにくくなります。
セキュリティトークンのデメリットが生まれる理由
従来の有価証券は、証券保管振替機構(ほふり)や名義書換代理人といった専門の機関を通じて、権利の帰属と移転が管理されてきました。STでは、この記録をブロックチェーン上に移します。

| 項目 | 従来の有価証券 | セキュリティトークン |
|---|---|---|
| 権利の記録 | 証券保管振替機構や名義書換代理人 | ブロックチェーン上の記録 |
| 流通の場 | 証券取引所 | ST専門のPTSなど限られた場 |
| 基盤の運営 | 既存の市場インフラ | 参加企業が共同運営するネットワークなど |
| 関係者 | 確立した分業 | 基盤事業者、信託、証券会社を新たに調整 |
国内の事例では、基盤が参加者を限定するコンソーシアム型として運営されています。たとえばibet for Finは2021年4月1日、SMBC日興証券、SBI証券、野村證券、BOOSTRYの4社で設立され、参加企業が共同運営するネットワークです。
参加者を限定する設計は、誰でも参加できるブロックチェーンに比べて管理が効く一方、流通の場も参加者の範囲に限られます。デメリットの多くは、新しい記録方式へ移る際の移行コストであり、既存の市場インフラほど厚みのある流通網がまだ無いことから来ています。
セキュリティトークンの投資家にとってのデメリット
投資家側のデメリットは、大きく換金性と情報の少なさの2つに集約されます。上場株式のように常に買い手と売り手がいる市場が無く、価格や裏付け資産の情報も、投資家が自分で集める必要がある場面が多くあります。

この2つは、商品を組み立てる発行体側の判断で改善できる部分が大きい論点です。発行を検討する企業にとっては、投資家が何を不安に感じるかを知ること自体が、商品設計の材料になります。
- 二次流通市場が小さく売りたい時に売れない
- 価格の透明性が低い
- 元本保証が無く裏付け資産の価格変動を受ける
- 購入できる証券会社が限られる
- 課税関係が商品ごとに異なる
デメリット①:二次流通市場が小さく売りたい時に売れない
大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は2023年12月25日、ST取引のPTS「START」で売買を始め、「日本初のSTの二次流通市場」と説明しています。開始時の取引参加者はSBI証券と大和証券の2社で、野村證券とSMBC日興証券は参加予定とされていました。取扱銘柄は不動産ST2銘柄でした。

二次流通の場はできたものの、上場株式と比べれば参加者も銘柄も限られます。そのため、売りたい時に希望の価格で売れない可能性があります。投資家側の対策は、PTSでの売買を前提にした商品かどうかを購入前に確かめることです。
デメリット②:価格の透明性が低い
取引量が少ない市場では、成立した価格が裏付け資産の価値を十分に映しているとは限りません。不動産のように評価に時間が掛かる資産では、価格の根拠を投資家が自分で確かめにくくなります。
対策として、目論見書や運用報告で裏付け資産の評価方法と開示の頻度を確認しておくことが挙げられます。発行体側から見ると、開示の厚みが投資家の安心材料になり、商品の選ばれやすさに直結します。
デメリット③:元本保証が無く裏付け資産の価格変動を受ける
STは有価証券であり、預金のような元本保証はありません。不動産STなら不動産の賃料や売却価格、社債型STなら発行体の信用力と、裏付けとなる資産や発行体の状況で価値が変わります。
ブロックチェーンで発行されているからといって、値動きが小さくなるわけではありません。投資家は裏付け資産の収益構造と発行体の信用力を、通常の有価証券と同じ基準で確認する必要があります。
デメリット④:購入できる証券会社が限られる
STを扱う証券会社は限られており、STARTの開始時点でも取引参加者は2社でした。興味のある商品があっても、取り扱う証券会社に口座が無ければ購入できません。
購入を考える投資家は、取扱証券会社の口座を事前に用意しておくと手続きが滞りません。発行体にとっては、どの証券会社の販売網に乗せるかが、届く投資家層を決めることになります。
デメリット⑤:課税関係が商品ごとに異なる
STの課税関係は、ブロックチェーンを使うかどうかではなく、裏付けとなる権利や商品の仕組みによって決まります。たとえば不動産STには、受益証券発行信託で発行する受益証券をデジタル証券化する仕組みがあり、社債型STとは前提となる権利が異なります。
そのため、STという呼び名だけで税金の扱いを一律に判断することはできません。目論見書の課税に関する記載と税務の専門家で、商品ごとに確認します。
セキュリティトークンの発行体にとってのデメリット
発行を検討する企業側のデメリットは、投資家側よりも多く、重さも案件によって大きく変わります。STの発行には、基盤事業者、信託銀行、証券会社、法律事務所など多くの関係者が関わり、従来の社債発行よりも調整の対象が増えます。

関係者が増えれば、準備期間が延び、案件ごとに掛かる固定費も膨らみます。発行体側のデメリットは、案件の規模と社内の体制によって負担の重さが変わる点を前提に読んでいく必要があります。
- 発行・運用コストが小規模案件で割高になる
- 準備期間と関係者調整が長くなる
- 特定プラットフォームへの依存が生じる
- 証券会社の販売網に依存する
- 法規制対応が複雑になる
- スマートコントラクトと鍵管理の技術リスクがある
デメリット①:発行・運用コストが小規模案件で割高になる
STの発行では、基盤の利用料、信託や引受の手数料、法務・会計の専門家報酬、システム連携の費用などが掛かります。このうち多くは調達額にかかわらず一定額が発生する固定費です。

固定費の割合が大きいため、調達額が小さい案件ほど1件あたりのコストが割高になります。対策は、単発で終えず同じスキームで継続して発行し、初期に掛けた費用を複数の案件で分散することです。
デメリット②:準備期間と関係者調整が長くなる
STの発行では、資産の選定、スキームの決定、基盤事業者や信託銀行、証券会社との役割分担、目論見書などの開示書類の作成を順に進めます。それぞれに別の関係者が関わり、意思決定が社内だけで完結しません。

準備期間が延びると、その間の人件費も積み上がります。対策として、関係者と役割分担を検討の初期に確定させ、誰がどの工程の完了を判断するかを先に決めておくことが挙げられます。
デメリット③:特定プラットフォームへの依存が生じる
国内では、Progmat社の「Progmat(SaaS)」やibet for Finといった基盤上でSTが発行されています。たとえばトヨタグループ初の公募型ST社債(トヨタウォレットST債)ではProgmat(SaaS)が使われます。Progmatのデジタルアセット共創コンソーシアムの参加企業は、2026年10月16日時点で363社でした(Progmat公表)。

基盤を選ぶと、発行後の名義管理や移転の仕組みがその基盤に結び付きます。後から別の基盤へ移すのは容易ではなく、ベンダーロックインと相互運用性の低さが課題になります。Pacific MetaもST発行基盤Progmatと戦略的業務提携を結んでおり、基盤の選定は発行後の運用まで見て判断する論点だと捉えています。対策は、基盤の機能だけでなく、移行のしやすさを選定基準に入れることです。
デメリット④:証券会社の販売網に依存する
STを投資家に届けるには、証券会社の販売網が欠かせません。ケネディクスの不動産STでも、受益証券をデジタル証券化したSTを引受証券会社が投資家に販売する仕組みが採られています。
発行体が自社で直接投資家を集めるのは難しく、どの証券会社が引き受け、どの顧客層に届くかで調達の成否が左右されます。対策は、資産の性格に合う顧客層を持つ証券会社を、スキーム検討の段階から巻き込むことです。
デメリット⑤:法規制対応が複雑になる
金融商品取引法第28条第1項第1号は、第一種金融商品取引業の範囲から除かれる「みなし有価証券」の中から電子記録移転権利を外しています。つまり、STの募集や売出しの取扱いは第一種金融商品取引業にあたります。

発行体が自ら販売まで担うことは現実的でなく、登録を持つ証券会社と組む必要があります。そのうえで開示書類の作成や、信託など他の制度との組み合わせも検討することになり、論点は多岐にわたります。対策は、検討の初期から金融規制に詳しい法律事務所と連携し、スキームごとの論点を洗い出しておくことです。
デメリット⑥:スマートコントラクトと鍵管理の技術リスクがある
STの移転や権利の処理はスマートコントラクトで自動化できますが、コードに不具合があれば、誤った処理がそのまま実行されるおそれがあります。トークンを管理する秘密鍵を失ったり盗まれたりした場合の手当ても必要です。

対策は、コードの第三者監査と、鍵の管理を専門のカストディ事業者に委ねる体制を分けて用意することです。複数の承認がそろわないと移転できないマルチシグを使い、1つの鍵の漏えいで資産が動かない設計にする方法もあります。
セキュリティトークンのデメリットがあっても発行が選ばれる理由
ここまで見たデメリットを抱えながらも、国内外でSTの発行は続いています。選ばれている案件には、資金調達だけでなく、顧客接点の強化や事務の効率化といった別の目的を持つものが目立ちます。

理由①:小口化で投資家層が広げられる
STでは、大きな資産を小さな単位に分けて販売できます。三井物産デジタル・アセットマネジメントが組成したイオンタウン鈴鹿を裏付けとする不動産STの発行価格は1口100,000円でした。
従来は機関投資家や富裕層が中心だった商業施設のような資産に、個人投資家が少額から投資できる商品設計ができます。発行体にとっては、これまで届かなかった投資家層から資金を集める手段になります。
理由②:ポイントや決済と組み合わせた商品設計ができる
大和証券グループ本社が2024年3月21日に発行した第1回無担保ST社債は、楽天証券が販売し、利金を現金ではなく楽天キャッシュで支払いました。販売は完売しています。
トヨタファイナンスなどが2025年2月10日に発行予定を発表したトヨタウォレットST債では、購入者にTOYOTA Walletアプリを通じて特典を贈ります。TOYOTA WalletとProgmatの情報連携で、発行者側が投資家情報をタイムリーに把握できる点も特徴です。
理由③:事務の一部をプログラムで自動化できる
STでは、権利の移転や名義の管理といった事務をブロックチェーン上の記録とプログラムで処理できます。三井物産デジタル・アセットマネジメントの不動産STも「デジタル名義書換方式」をうたい、名義書換をデジタル化しています。
関係者の間で同じ記録を参照できるため、照合や転記の手間を減らせる余地があります。発行を重ねるほど、この効率化の効果は大きくなります。
理由④:海外大手が金融インフラとして採用している
BlackRockは2024年3月20日、パブリックブロックチェーンで発行する初のトークン化ファンド「BUIDL」をEthereum上で公表しました。適格投資家がSecuritize Markets経由で申し込む仕組みです。
大手の資産運用会社がパブリックブロックチェーンでファンドを出したことで、トークン化は金融機関の商品として扱われる段階に入っています。国内の発行体にとっても、海外の動きは自社の検討を後押しする材料になります。
セキュリティトークンのデメリットを抑える設計の考え方
投資家側と発行体側のデメリットには、それぞれ個別の対策があります。ここでは、それらを横断して効く設計の原則を3つに絞って整理します。どれも発行の直前ではなく、スキームを決める段階で手当てすることが前提です。

対策①:流通の出口をスキーム段階で決める
流動性の低さは、発行後に対処しようとしても打てる手が限られます。PTSへの上場を前提にするのか、マーケットメイクの担い手を置くのかを、スキームを決める段階で確定させておく必要があります。
決済の面でも整備が進んでいます。Progmatは2026年10月6日、STの二次流通取引でステーブルコインを使うDvP決済の実証「Project Trinity」のフェーズ2までの完了を発表しました。流通の出口を描く際には、こうした決済手段の動きも検討材料になります。
対策②:基盤は移行可能性で選ぶ
基盤への依存を避けるには、機能の多さよりも、仕様が公開されているか、他の基盤とつなげられるかを重視します。参考になるのが、証券トークン向けのトークン規格であるERC-3643です。

ERC-3643は、オンチェーンIDによる適格性の確認で、証券トークンの移転をコンプライアンスに沿って管理する仕組みを定めた規格で、Ethereumの提案上のステータスはFinalです。こうした公開された規格に沿っているかを選定基準に入れると、将来の移行や相互運用の余地を残せます。
対策③:コード監査とカストディを分けて手当てする
技術リスクは、コードの不具合と鍵の管理という性質の違う2つのリスクから成ります。どちらか一方の対策でもう一方を補うことはできません。
コードは第三者の監査で、鍵はカストディ事業者への委託やマルチシグで、それぞれ別の担い手に手当てを任せることが基本です。発行体の社内では、どのリスクを誰が管理しているかを一覧にしておくと、監査や当局への説明もしやすくなります。
セキュリティトークンが向かない企業・資産
STは、すべての資金調達に向く手段ではありません。単発で小規模な調達や、価値の評価が難しい資産は、デメリットがメリットを上回りやすくなります。次の表で、自社の案件がどちらに近いかを確認できます。

| 条件 | 向く | 向かない |
|---|---|---|
| 案件規模 | 固定費を吸収できる規模 | 調達額が小さい |
| 継続発行 | 同じスキームで繰り返す | 1回で終わる |
| 資産のキャッシュフロー | 賃料や利息など見えやすい | 収益の予測が難しい |
| 販売チャネル | 組める証券会社がある | 届ける先が無い |
| 社内の法務体制 | 規制論点を検討できる | 担当者がいない |
向かない①:単発・小規模の調達
基盤や専門家に掛かる費用の多くは固定費で、調達額が小さいと1件あたりの負担が重くなります。1回きりの小規模な調達では、初期の準備に掛けた費用を回収する機会がありません。
継続して発行する計画があるかが、STを選ぶかどうかの最初の分かれ目です。単発の小口調達なら、銀行借入や従来の社債など他の手段と比べて判断するほうが合理的です。
向かない②:評価が難しい資産
裏付け資産の価値を投資家が確かめにくい場合、価格の透明性の低さがそのまま販売の難しさにつながります。キャッシュフローの見通しが立てにくい資産では、投資家に説明できる材料も限られます。
STARTの開始時の取扱銘柄が不動産ST2銘柄だったように、確認できる国内事例は賃料という見えやすいキャッシュフローを持つ資産が目立ちます。評価の根拠を示しにくい資産を扱う場合は、開示と評価の仕組みを先に設計できるかを確かめてから検討に進みます。
セキュリティトークンの国内外の事例と課題
STの課題は、実際の発行事例を見ると具体的に分かります。国内ではSTARTの開始時の銘柄を含め不動産STの事例があり、海外では大手金融機関がトークン化ファンドや決済の基盤として活用しています。

| 主体 | 資産 | 基盤・流通 | 旧→新 |
|---|---|---|---|
| 三井物産デジタル・アセットマネジメント | 商業施設(イオンタウン鈴鹿) | 受益証券発行信託 | 従来の名義書換からデジタル名義書換へ |
| ケネディクス、いちご | 不動産 | START(PTS) | 発行後の売却の場をPTSに用意 |
| BlackRock | MMF型ファンド(BUIDL) | Ethereum | 従来のファンド持分からトークンへ |
| UBS Asset Management | MMF(uMINT) | Ethereum | 従来のファンド持分からトークンへ |
| J.P. Morgan | 預金・決済・担保 | Kinexys | 営業時間内の資金移動から24時間の移動へ |
事例①:イオンタウン鈴鹿を裏付けにした不動産ST
三井物産デジタル・アセットマネジメントは、2007年竣工で店舗数40店の商業施設イオンタウン鈴鹿を裏付けに、受益証券発行信託の仕組みで不動産STを組成しました。第1期の計算期間は2024年11月28日に始まり、発行価格は1口100,000円、受益権発行届出目論見書を伴う募集です。
この事例は、賃料というキャッシュフローの見えやすい資産を選び、名義書換をデジタル化して小口で販売するというSTの典型的な使い方を示しています。一方で、流通の出口をどう確保するかは、不動産ST共通の課題として残ります。
事例②:STARTで売買が始まった不動産ST
ODXのSTARTが2023年12月25日に売買を始めた際、取扱銘柄は「ケネディクス・リアルティ・トークン ドーミーイン神戸元町」と「いちご・レジデンス・トークン」の不動産ST2銘柄でした。ケネディクスの不動産STは、グループ会社が不動産を拠出し、引受証券会社が投資家に販売する仕組みです。
二次流通の場ができたことで、発行後に売却できる出口が制度として用意されました。ただし、開始時の取引参加者は2社で、流通の厚みはまだ限られます。流動性の課題は、場の整備と参加者の拡大の両方で解消されていく性質のものです。
事例③:海外大手による金融インフラとしての活用
UBS Asset Managementは2024年11月1日、初のトークン化ファンド「uMINT」をEthereum上で公表し、当初は認可された販売パートナー経由に限りました。J.P. MorganはKinexys by J.P. Morganとして、JPM Coin、ブロックチェーン預金口座、トークン化MMFなどを提供し、24時間365日の資金移動を掲げています。
海外では、金融機関が自社の商品や決済の基盤としてトークン化を使う例が出ています。ただしuMINTのように販売先を限定する例もあり、国ごとに投資家保護の規制が異なる点は、国境をまたぐ発行を考える際の課題です。
セキュリティトークン発行検討の進め方とチェックリスト
ここまでのデメリットと向かない条件を踏まえると、発行検討は目的と資産を確定させてから、スキーム、基盤、販売の順で詰めていくのが筋です。次の工程表は、各工程の主担当と完了の判定を整理したものです。

| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 目的と資産の確定 | 経営企画 | 財務 | 調達以外の目的と対象資産が文書化されている |
| 2 | スキームと業者選定 | 法務 | 財務 | 信託・引受の担い手と役割分担が決まっている |
| 3 | 基盤と技術検証 | システム | 法務 | 基盤の選定理由と移行時の手順が説明できる |
| 4 | 販売と流通の設計 | 財務 | 経営企画 | 販売先の顧客層と二次流通の出口が決まっている |
進め方①:目的と資産の確定
最初に決めるのは、STで何を実現したいのかです。資金調達だけが目的なら、従来の手段と比べてSTが割に合うかを先に検証します。顧客接点の強化や新しい投資家層の獲得といった目的があるなら、それがSTでなければ実現できないかを確かめます。
あわせて、対象とする資産のキャッシュフローが見えやすいか、継続して発行できる資産かを確認します。この段階で向かない条件に当てはまる場合は、検討を先に進めない判断も必要です。
進め方②:スキームと業者選定
次に、受益証券発行信託を使うのか、社債型にするのかといったスキームを決めます。スキームによって関わる信託銀行や証券会社、必要な開示書類が変わります。
STの募集や売出しの取扱いには第一種金融商品取引業の登録が必要なため、引受を担う証券会社の選定はスキームと同時に進めます。法務部門は法律事務所と連携し、スキームごとの規制論点を洗い出します。
進め方③:基盤と技術検証
基盤は、発行後の名義管理や移転の仕組みを長く左右します。機能の比較だけでなく、仕様の公開の有無や他の基盤との接続性を確認し、移行が必要になった場合の手順まで説明できる状態にします。
あわせて、スマートコントラクトの監査と鍵の管理体制を、誰が担うのかを決めます。システム部門だけで判断せず、法務部門と規制上の要件を突き合わせることが欠かせません。
進め方④:販売と流通の設計
最後に、どの顧客層にどの証券会社を通じて届けるかと、発行後の売却の出口を決めます。PTSへの上場を前提にするのか、マーケットメイクの担い手を置くのかで、商品の設計も変わります。

流通の出口が描けていない商品は、投資家にとって換金しにくい商品になります。販売と二次流通をセットで設計し、投資家に示す開示の内容まで詰めた段階で、発行の判断材料がそろいます。
| 検討の論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 調達目的と資産の適合 | 調達以外の目的と、資産のキャッシュフローの見えやすさ | 経営企画・財務 | STを選ぶ理由が他の手段との比較で説明できる |
| 業登録と委託先 | 募集・売出しの取扱いを担う第一種金融商品取引業者 | 証券会社・法律事務所 | 引受を担う証券会社と役割分担が決まっている |
| 基盤選定と移行可能性 | 仕様の公開、他基盤との接続性、移行手順 | 基盤事業者・システム部門 | 選定理由と移行時の手順が文書化されている |
| 販売網と流通の出口 | 届けたい顧客層、PTS上場やマーケットメイクの有無 | 証券会社 | 販売先と発行後の売却手段が決まっている |
| 技術リスクの体制 | コード監査の担い手、鍵の管理方法 | 監査事業者・カストディ事業者 | 監査と鍵管理の担当が別々に決まっている |
| 税務・会計処理 | スキームごとの課税関係と会計処理 | 税理士・監査法人 | 投資家向けの課税の説明と社内の処理方針がそろっている |
チェックリストを埋めていくと、スキーム、基盤、販売網、規制の論点が互いに結び付いていることが分かります。基盤の選定は販売を担う証券会社に左右され、スキームの選択は課税関係と開示書類を変えます。法務、財務、システムのどの部門も単独では答えを出せないため、社内の検討が論点の洗い出しで止まりやすくなります。
スキーム設計から基盤選定、販売網の整理までを一体で進める場合の考え方は、ST発行の支援内容にまとめています。
Pacific Metaのサービス
セキュリティトークンによる資金調達を検討段階から支援します。
スキーム選定・規制対応・パートナー選定まで、STO・デジタル証券の発行検討を伴走します。
STO支援サービスの詳細を見るセキュリティトークンのデメリットに関するよくある質問
秘密鍵を紛失したらSTはどうなりますか?
証券会社やカストディ事業者が鍵を管理する形で提供される商品では、投資家が鍵を直接持たないため、紛失で資産を失う心配は小さくなります。発行体側では、鍵の管理を誰に委ねるかを発行前に決め、マルチシグなどで1つの鍵に頼らない設計にしておくことが重要です。
不動産STOと不動産クラウドファンディングは何が違いますか?
不動産STOは、受益証券発行信託などの仕組みで発行したSTを、証券会社が有価証券として販売するものです。STARTのような二次流通の場で売買できる商品もあります。投資の前提となる権利の種類や販売する事業者、途中で売却できるかどうかが異なるため、商品ごとの目論見書で確認します。
誰でもSTを発行・購入できますか?
購入は、STを扱う証券会社に口座を開けば個人でもできる商品があります。一方で発行は、STの募集や売出しの取扱いが第一種金融商品取引業にあたるため、登録を持つ証券会社と組むことが前提です。発行体が単独で投資家を集める形は取れません。
STには暗号資産と同じリスクがありますか?
STは金融商品取引法上の有価証券で、裏付けとなる資産や発行体の状況によって価値が決まります。価格の裏付けとなる資産や発行体を持たない暗号資産とは、価値を決める要因が異なります。また国内の事例では参加者を限定するネットワークが使われており、誰でも参加できるブロックチェーンとはリスクの性質が違います。
セキュリティトークンのデメリットのまとめ
セキュリティトークンの主なデメリットは、投資家側の換金性の低さと情報の少なさ、発行体側のコスト、準備期間、基盤と販売網への依存、法規制対応、技術リスクです。いずれも市場インフラと発行実務の未成熟から来るもので、STという仕組みそのものの欠陥ではありません。

デメリットの重さは案件によって変わり、単発・小規模の調達や評価の難しい資産ほど割に合いにくくなります。逆に、継続発行や顧客接点の強化といった資金調達以外の目的を持つ案件では、流通の出口と基盤の移行可能性をスキーム段階で決めることで、デメリットを抑えながら発行に進めます。
自社の案件が向く側か向かない側かは、資産の性格、継続発行の計画、組める証券会社の顔ぶれが組み合わさって決まります。この組み合わせは案件ごとに異なり、一般論の比較だけでは結論が出にくいのが実情です。
以上は2026年10月16日時点の公表資料に基づく制度の一般的な整理です。個別のスキームが登録や開示を要するかの判断は、弁護士や当局への事前相談で確認してください。基準日以降の法令改正や運用の変更によって、内容が変わる可能性があります。