金融業界におけるRWA(リアルワールドアセット)とは、不動産・債券・貸付債権など現実世界の資産をブロックチェーン上のトークンとして発行・流通させる取り組みを指します。海外では大手資産運用会社や銀行が本番稼働の段階に入り、国内でも公募セキュリティトークン(ST)の発行が積み上がったことで、金融機関は検討対象の業務を特定する段階に入りました。制度面でも改正資金決済法が2026年6月に施行され、金融商品取引法の改正法も同年7月に成立し、検討の前提になる枠組みが出そろいつつあります。トークン化された金融資産はプログラムから直接扱える資産クラスであり、AIエージェントが取引や運用を担う経済圏を見据えた布石としても検討が始まっています。
この記事では2026年8月時点の情報をもとに、金融文脈でのRWAの定義、銀行・証券・保険それぞれの活用領域、国内外の事例、規制・税制への対応、導入検討の進め方までを整理します。
この記事の要点です。
- 金融業界のRWAは、不動産・債券・貸付債権など現実資産のトークン化。海外はBlackRock・JPMorganが本番稼働の段階
- 国内は公募ST発行が累計3,333億円(BOOSTRY集計・2026年4月公表)に到達
- 業態別の入口は、銀行=発行基盤・信託・カストディ、証券=引受・販売と二次流通、保険=契約・リスクのトークン化
- 制度は改正資金決済法の施行(2026年6月)と金商法改正法の成立(同年7月・施行日未確定)で検討の前提が確定
株式会社Pacific Metaが運営する編集チームです。ステーブルコイン、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン、NFTなどのトークン活用や、オンチェーン金融、AI×ブロックチェーン領域の事業開発・実装、暗号資産の基礎知識と国内取引所の使い方まで、ブロックチェーン事業の支援で得た知見をもとに記事の企画・執筆・監修を行っています。編集部や運営会社の詳細は公式サイトと編集方針をご覧ください。
金融業界におけるRWA(リアルワールドアセット)とは
金融業界で語られるRWA(Real World Assets)とは、不動産・債券・株式・貸付債権など実在する資産の権利をトークン化し、発行・流通・管理をブロックチェーン上で行う仕組みのことです。国内で先行しているのは有価証券をトークン化したセキュリティトークン(ST)で、BOOSTRY(野村ホールディングス系)の市場総括レポートによると、国内の公募ST発行額は2025年度単年で1,650億円、累計では3,333億円に達しました(2026年4月2日公表)。金融機関にとってRWAは既存の証券・信託業務の延長線上にある商品カテゴリーになっています。

トークン化の仕組みや資産の分類など一般的な解説はRWA(リアルワールドアセット)とは?仕組み・活用事例を解説で扱っているため、本記事は金融機関の実務に関わる論点に絞って進めます。
リスク加重資産(自己資本比率規制のRWA)との違い
銀行実務でRWAといえば、まずリスク加重資産(Risk-Weighted Assets)を思い浮かべる方が多いはずです。こちらはバーゼル銀行監督委員会の枠組みに基づく自己資本比率規制上の概念で、本記事で扱うトークン化のRWAとは略称が同じだけの無関係な用語です。両者の違いを先に整理します。
| 観点 | RWA(リアルワールドアセット) | RWA(リスク加重資産) |
|---|---|---|
| 正式名称 | Real World Assets | Risk-Weighted Assets |
| 属する文脈 | ブロックチェーン・トークン化・デジタル証券 | 自己資本比率規制(バーゼル規制)・金融監督 |
| 指すもの | トークン化の対象になる現実世界の資産 | 保有資産をリスクに応じて加重評価した額 |
| 関わる部門 | 商品組成・デジタル戦略・市場部門 | リスク管理・財務・規制対応部門 |
社内の検討資料や会議で「RWA」と書くときはどちらの意味かを最初に明示しておくと議論の混線を防げます。以降、本記事のRWAはすべてリアルワールドアセットを指します。
なお海外ではトークン化資産をDeFi(分散型金融)の担保や運用対象に組み込む動きも進んでいます。価格変動の大きい暗号資産に依存しない利回り源として、トークン化国債などがそこで使われています。
金融機関がRWAに注目する背景
金融機関が検討の前提にできる材料は2026年に出そろいました。海外の稼働実績と国内の制度整備が同じ時期に重なったためです。海外ではBlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」の運用残高が2026年8月13日時点で26億9,671万ドル(約27億ドル)に達し(rwa.xyz集計)、トークン化米国債市場全体でも同時点の残高が162億4,000万ドル・対象87アセットまで拡大しました(同集計)。機関投資家向け商品として実際に資金が積み上がっている段階です。
国内では改正資金決済法が2026年6月1日に施行され、金融商品取引法等の改正法も2026年7月15日に参議院で可決・成立しました(施行日は未確定)。規制の方向性が定まったことで、金融機関側は「制度がどうなるか」ではなく「確定した枠組みにどう対応するか」を検討できるようになりました。
もう1つの背景がAI経済圏との接続です。トークン化された金融資産は権利の移転や償還条件をプログラムで扱えるため、AIエージェントが照会・約定・決済を担う取引環境が広がったとき、そのまま運用対象に組み込める資産クラスになります。既存の証券インフラに比べ、トークン化資産はより低い摩擦でプログラムから直接扱えるため、資産のトークン化はAI時代の金融インフラ整備という側面を持ちます。目先の商品組成だけでなく、この長期の構造変化を踏まえて経営アジェンダとして検討する動きも出ています。
デリバティブ市場の動きも背景の1つです。分散型デリバティブ取引所のHyperliquidでは、株式・指数・コモディティなどRWAを参照する無期限先物が週間取引金額の約6割を占める状態が続いています(当社集計・2026年8月時点)。決算や需給イベントに反応するもう1つの株式デリバティブ市場が、既存の取引所インフラを経由せずに動き始めた状況で、当社が毎週公表する週刊Hyperliquidで週次の数値を追えます。
銀行・証券・保険それぞれのRWA活用領域
金融機関がRWAを検討するとき、最初に決めるべきは「自社の業態でどの活用領域から入るか」です。銀行・証券・保険の3業態について、活用領域と実務の進み具合、検討時の主な論点を1つの表に整理します。個別事例の数字は後の事例章で扱います。

| 業態 | 主な活用領域 | 実務の段階 | 主な論点 |
|---|---|---|---|
| 銀行(信託含む) | ST発行基盤への参画、信託スキームの受託、裏付け資産のカストディ、預金を裏付けとするトークンの検討 | 国内で商用段階。大手信託銀行が発行基盤の中核を担う | 既存の信託・カストディ業務との役割分担、基盤を自前で持つか共用するか |
| 証券 | STの引受・販売、二次流通市場への参加、富裕層・個人向け商品ラインナップの拡充 | 国内で商用段階。公募STの引受・販売実績が累積 | 引受審査・販売態勢の整備、二次流通の流動性をどう確保するか |
| 保険 | 保険契約・再保険リスクのトークン化、責任準備金運用でのトークン化資産の活用 | 契約・リスクのトークン化は海外で実在。運用対象としての活用は検討段階 | 保険負債との整合、商品該当性の整理、運用規制・会計処理の確認 |
銀行が担う発行基盤・信託・カストディ
銀行グループの参入経路として最も実績があるのは、信託スキームの受託とST発行基盤への参画です。国内の公募STの多くは信託銀行が受託者となる仕組みで組成されており、発行基盤の側でも三菱UFJ信託銀行を筆頭株主とする株式会社Progmatに複数のメガバンク系信託・金融グループが出資しています(詳細は国内事例の章で扱います)。裏付け資産や秘密鍵のカストディも、既存の資産管理業務の延長として銀行が担いやすい領域です。
証券会社が担う引受・販売と二次流通
証券会社の活用領域はSTの引受・販売と流通です。国内の公募ST市場は2025年度に単年1,650億円まで拡大しており(BOOSTRY集計・2026年4月2日公表)、引受・販売の実務は既に回っています。二次流通では大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の私設取引システム「START」が2023年12月25日にセカンダリー取引を開始しており、販売した商品の換金経路をどう設計するかが商品企画の論点になります。
保険業界は契約のトークン化が先行
保険業態の活用は2段に分けて捉える必要があります。1段目は保険契約・保険リスクそのものをトークン化する動きで、海外に実在します。米国のinfineoは2024年8月29日、Provenance Blockchain上で累計1億ドル分の生命保険契約をトークン化したと発表しました。再保険の領域ではSurancePlus(Oxbridge Re Holdings子会社)が2026年6月10日、HCI Group子会社の再保険プログラムを裏付けとするトークン化再保険証券3シリーズをSolana上で発行すると発表しています(満額応募時の受入額は約1,200万ドル)。保険リンク証券のオンチェーン版といえる動きです。
2段目の、責任準備金など保険会社の運用資産としてトークン化資産を組み入れる活用はまだ検討段階です。国内保険会社による公表事例は本記事の基準日時点で確認できておらず、運用規制や会計処理の整理とあわせて今後の論点になります。保険会社が現時点で参照できる実例は1段目に限られます。
金融機関がRWAに取り組む5つのメリット
金融機関の経営視点でRWAのメリットを整理すると5つに分けられます。自社の損益計算書・貸借対照表のどこに効くかという観点で並べています。
- 新収益源の獲得:発行支援手数料・引受手数料・信託報酬・売買手数料
- 調達手段の拡張:小口化による投資家層の拡大と、自社・取引先の資金調達メニューの追加
- 業務効率の改善:権利移転・利払い・償還のスマートコントラクトによる自動執行
- 顧客接点の強化:特典連動型社債など、商品と自社サービスを組み合わせた設計
- バランスシート効率の向上:保有資産の流動化・売却経路の拡張
新収益源の獲得と調達手段の拡張
STの組成・引受・販売・管理はそれぞれ手数料収入を生む工程です。既存の証券・信託業務と同じ収益構造のまま、対象資産を不動産・社債からより広い資産クラスへ広げられます。発行体の側に立てば、小口化により従来は機関投資家に限られていた資産へ個人資金を呼び込めるため、調達手段の選択肢が増えます。
業務効率の改善と顧客接点の強化
配当計算・利払い・権利移転を自動執行に置き換えることで、バックオフィスの事務コストと人為ミスを減らす効果が期待できます。また決済アプリと連動した社債のように、購入から利払い・特典付与までを自社サービス内で完結させる商品設計が可能になり、金融商品が顧客接点の起点になります。
保有資産の流動化によるバランスシート効率の向上
貸付債権や不動産など流動性の低い保有資産をトークン化して売却できれば、資産の回転を高めて資本効率を改善する余地が生まれます。貸付債権のトークン化はこの効果を狙った取り組みです。
海外の金融機関によるRWA活用事例
海外では大手金融機関が本番稼働の段階にあり、検討の参照点になる実例がそろっています。ここでは金融機関が主体となった事例を、課題と解決の構図で整理します。数字はいずれも取得時点つきです。
BlackRockのトークン化MMF「BUIDL」
BUIDLは、世界最大の資産運用会社BlackRockが発行するトークン化マネー・マーケット・ファンドです。従来、機関投資家が暗号資産関連事業で待機資金を運用するには、オンチェーンの世界と証券口座を往復する必要がありました。BUIDLは米国債等で運用するファンドの持分をトークンとして発行し、オンチェーンのまま保有・移転できるようにしています。運用残高は2026年8月13日時点で26億9,671万ドルでした(rwa.xyz集計)。NAVは1トークン=1.00ドルに維持され、Moody’sからAaa-mfの格付を取得しています。主体はBlackRockで、置き換える対象は従来のMMF・待機資金の管理インフラです。なおBUIDLは米国の適格投資家向け商品であり、日本の金商法上のST制度とは規制枠組みが異なる点に注意が必要です。
Franklin Templetonのトークン化ファンド
Franklin Templetonは伝統的資産運用会社が自社ファンドの受益権をトークン化した先行例です。同社のトークン化ファンド(iBENJI)の残高は2026年8月13日時点で17億3,000万ドルで、トークン化米国債市場ではCircleのUSYC(30億1,000万ドル)、BlackRockのBUIDL、OndoのUSDY(21億4,000万ドル)と並ぶ上位4アセットの一角でした(rwa.xyz集計)。複数の運用会社が同じ市場で残高を競う構図が既にできており、商品カテゴリーとして成立している段階にあります。
JPMorganのブロックチェーン決済基盤「Kinexys」
Kinexysは、大手銀行が自ら運営するブロックチェーン決済・資産基盤です。国際送金や機関間決済は複数の中継銀行を経由し、時間とコストがかかるという構造的な課題がありました。JPMorganのKinexysは銀行預金をベースにしたオンチェーン決済を提供し、2026年4月28日の公表時点で1日あたり平均50億ドル超、累計3兆ドル超を取り扱ったとしています。2026年にはJPM Coin(JPMD)をパブリックチェーンのBase上で機関投資家向けに提供する段階まで進みました。主体はJPMorganで、置き換える対象はコルレス銀行網を経由する既存の決済インフラです。
これらの事例はいずれも既存業務の課題(待機資金の運用効率・決済コスト)を起点にしています。自社で検討する際も、どの業務のどの摩擦を減らすかから逆算する構図が参考になります。
国内の金融機関によるRWA活用事例
国内では銀行・証券が既に商用段階で動いており、市場統計も整備されています。BOOSTRY(野村ホールディングス系)の市場総括レポート(2026年4月2日公表)によると、2025年度の国内公募ST発行は単年24本・1,650億円、累計では82本・3,333億円で、累計額は前年度からほぼ2倍になりました。内訳は不動産裏付けが1,408億円と全体の約85%を占め、社債裏付けが204億円と続きます。100億円超の大型案件も7本ありました。この統計を前提に、国内の代表的なプレイヤーと案件を見ていきます。
PPIHの電子マネー特典付きデジタル社債
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は利息の一部を自社電子マネー「majica」のポイントで還元するデジタル社債を発行した事業会社です。小売業が自社の会員基盤に向けて社債を直接届け、投資リターンと顧客ロイヤリティ向上を両立させる設計で、金融機関から見ると「事業会社の顧客接点×STの商品組成」という引受・支援ニーズの型を示した事例です。
金融機関が共同出資する発行基盤のProgmat
株式会社Progmatは2023年10月2日に設立されたST発行基盤の運営会社で、設立時は三菱UFJ信託銀行(49.0%)を筆頭にNTTデータ・みずほ信託銀行・三井住友信託銀行・三井住友フィナンシャルグループ・SBI PTS・JPX総研・Datachainの計8社が出資しました。特定の金融グループに閉じない共用インフラとして設計されており、業態別マップで挙げた「銀行の発行基盤参画」の代表例です。個社がゼロからシステムを開発せず、共用基盤に乗ることで発行コストを下げる構造ができています。
国内初のST二次流通市場を運営するODX
大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は私設取引システム(PTS)「START」でセキュリティトークンの二次流通を担う取引所です。2023年12月25日に国内初のSTセカンダリー取引を開始し、2026年3月末時点で8トークン・時価総額336億円を取り扱っていました(BOOSTRY集計)。発行(プライマリー)だけでなく換金経路(セカンダリー)が整いつつあることは、販売する証券会社にとっても商品説明上の重要な前提です。
ケネディクスによる不動産STの大型案件
不動産アセットマネジメントのケネディクスが手がけた「ケネディクス・リアルティ・トークン 月島-リバーシティ21イーストタワーズⅡ」は2023年8月30日に発行総額134億円で発行を完了し、当時国内最大規模の不動産STとなりました。みずほ信託銀行・野村證券・みずほ銀行が協業しており、アセットマネジャー・信託銀行・証券会社の分業がそのまま業態別の参入ポイントを示しています。関連基盤では野村グループのBOOSTRYが運営するブロックチェーン「ibet for Fin」が2023年3月30日時点で15社の共同運営体制となっており、発行基盤が複数並び立つ市場構造です。
トヨタファイナンシャルサービスの決済アプリ連動型ST債
トヨタファイナンシャルサービスは決済アプリと連動したデジタル社債を発行し、購入から利払いまでを自社サービスの中で扱う設計を採った事例です。モビリティ企業の金融子会社が自社サービス経済圏の中で社債を流通させる形は、事業会社系金融機関の商品設計の参照例になります。
国内外の事例を横断で整理した資料としては、当社Pacific Metaがステーブルコイン・セキュリティトークンを中心としたトークナイズ領域の総括レポートを2026年2月に公開しています。
RWA導入の課題とリスク
導入検討では、メリットと同じ解像度でリスクを把握しておく必要があります。実務でつまずきやすい論点を、対応の方向とあわせて表に整理します。
| 課題 | 内容 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 法規制への適合 | トークンの法的性質(有価証券か、電子決済手段か、暗号資産か)でライセンスと義務が変わる | スキーム設計段階での該当性整理と当局相談(詳細は次章) |
| スマートコントラクトの脆弱性 | コードのバグや脆弱性が資産流出に直結する | 第三者機関によるコード監査、マルチシグ等の運用統制 |
| オフチェーン資産の管理と評価 | 裏付け資産のカストディ、価格情報の反映(オラクル)、流動性の枯渇 | 信託等による倒産隔離、評価プロセスの設計、換金経路の確保 |
法規制とコンプライアンス
発行するトークンがどの法律の規制対象になるかで、必要なライセンス・開示義務・販売規制が大きく変わります。分別管理やAML/CFT(マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策)をブロックチェーン上でどう実装するかも論点です。制度の全体像は次章で整理します。実務上の起点は、該当性の整理をスキーム設計の最初の工程に置くことです。
スマートコントラクトの脆弱性
権利移転や利払いを自動執行に委ねる以上、プログラムの欠陥は業務停止や資産流出に直結します。DeFiの領域では脆弱性を突いた資金流出事案が繰り返し起きており、金融商品として扱うなら第三者の専門機関によるコード監査と、単一の鍵に依存しない運用統制が前提条件になります。
オフチェーン資産の管理と価格評価
トークンの価値の源泉はブロックチェーンの外にある現実資産です。裏付け資産を誰がどう保全するか、不動産のような非流動資産の評価をどうトークン価格へ反映するかは、技術ではなく業務設計の問題として残ります。市況によっては買い手がつかず売却できない流動性リスクへの備えも必要です。
RWAに関する国内の規制・税制
国内の規制環境は、2026年に入って「枠組みが確定し対応を設計する」段階へ移りました。金融機関が押さえるべき法律を順に整理します。
金融商品取引法とセキュリティトークン
投資性のあるRWAの多くは金融商品取引法の規制対象です。トークン化された有価証券は金商法上の「電子記録移転有価証券表示権利等」、いわゆるセキュリティトークンとして位置づけられており、性質に応じて第一項有価証券(社債・受益証券など)と第二項有価証券(ファンド持分など)に分類されます。前者は開示規制と第一種金融商品取引業の登録、後者は第二種金融商品取引業や投資運用業の登録が発行・取扱いの前提になります。
さらに金融商品取引法等の改正法が2026年7月15日に参議院本会議で可決・成立しました。施行日は未確定で、公布から1年以内(2027年度中の施行見込み)とされています。暗号資産を金商法の枠組みへ取り込む内容を含み、登録業者の名称は「暗号資産取引業者」へ変わります。無登録営業には拘禁刑10年以下または罰金1000万円以下の罰則が定められ、規制執行の強度も上がります。トークン化商品を扱う金融機関は施行までの間に自社スキームへの影響を洗い出しておく段階です。
資金決済法とステーブルコインの枠組み
決済用途のトークンは資金決済法の領域です。改正資金決済法は2025年6月6日に成立・同6月13日に公布され、2026年6月1日に施行されました。電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の枠組み整備とステーブルコイン裏付け資産の厳格な管理義務が柱で、円建てステーブルコインをRWAの決済レッグに使う構想はこの確定した枠組みの上で設計できます。トークンが有価証券に該当しない場合でも、電子決済手段や暗号資産としてこの法律の規制対象になり得るため、金商法との切り分けが該当性整理の中心になります。
関連業法とAML対応
裏付け資産によっては金商法・資金決済法以外の業法も関わります。不動産を裏付けとするスキームは不動産特定共同事業法の許可対象になる場合があり、倒産隔離のために信託を使う場合は信託業法上の位置づけを確認する必要があります。
AML/CFTはどのスキームでも共通の実務要件です。オンチェーン取引の監視にはブロックチェーン分析ツールの導入が広がっており、当社Pacific Metaはキリフダ社とともにブロックチェーン分析大手Ellipticの日本市場導入支援を2026年7月に開始しています。取引モニタリング体制の設計は商品組成と並行して進めるべき論点です。
税務上の取り扱い
セキュリティトークンから得られる利益は裏付けとなる有価証券の性質に応じた課税関係に従います。一方、暗号資産の売却益は、現時点では原則として雑所得(総合課税)として扱われます。2026年7月に成立した金融商品取引法の改正法に伴い、暗号資産取引業者が取り扱う暗号資産の売却など一定の取引から生じる所得は、改正法の施行日の翌年1月以降に申告分離課税へ移行する予定です(施行日は本記事の基準日時点で確定していません)。取引時点の取扱いは国税庁の公表資料で確認してください。
本章の記載は2026年8月13日時点の情報に基づく一般的な整理であり、個別のスキームの法的性質や課税関係の判断を示すものではありません。実際の案件では弁護士・税理士等の専門家および所管当局への確認を前提にしてください。
金融機関がRWA導入を検討する進め方
導入検討は「戦略策定→法務・コンプライアンス→技術選定・PoC→ローンチ・運用」の4工程で進めるのが現実的です。担当部門と完了の判定まで含めて工程表にすると、社内の分担が明確になります。
| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 関与部門 | 期間の目安 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 戦略策定:対象資産・ターゲット顧客・提供価値・収益モデルの定義とビジネスケース策定 | 経営企画・デジタル戦略 | 商品企画・営業 | 1〜3カ月 | 収支シミュレーション付きの事業計画が経営会議に付議できる |
| 2 | 法務・コンプライアンス:スキームの該当性整理、必要ライセンスの特定、当局相談 | 法務・コンプライアンス | 外部法律事務所 | 2〜6カ月 | 適用法令・必要登録の一覧と当局相談の記録がそろう |
| 3 | 技術選定・PoC:自社開発/共用基盤/外部パートナーの比較、限定範囲での検証 | システム・デジタル戦略 | リスク管理 | 3〜6カ月 | 本番採用する基盤と、PoCで洗い出した課題の対応方針が決まる |
| 4 | ローンチ・運用:商品説明資料の整備、販売チャネル確立、運用・レポーティング体制の構築 | 商品企画・営業 | 事務・システム | 3カ月〜 | 初回案件の発行と、配当・報告の運用サイクルが1周回る |
期間はスキームの複雑さと当局相談の要否で大きく変わるため、上の数字はあくまで目安です。基盤の選択(自社開発か、Progmatのような共用基盤か、外部パートナー協業か)は工程3の中心論点で、コスト・規制対応・拡張性の3軸で比較することになります。
検討を始める段階では次のチェックリストで論点の抜けを確認できます。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先(一次情報) | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 自社の業態でどこから使えるか | 業態別の活用領域(本記事の業態別マップ)と自社の強みの重なり | 各発行基盤・市場運営者の公表資料 | 候補領域が1〜2件に絞れている |
| 法務・規制上の要否 | トークンの該当性(金商法/資金決済法/関連業法)と必要ライセンス | 金融庁の公表資料・法令原文 | 適用法令の一覧と登録要否の整理が文書化されている |
| 会計・税務の処理 | 保有・発行それぞれの会計処理と課税関係 | 国税庁・会計基準の公表資料 | 監査法人・税理士への確認事項リストが完成している |
| 体制・委託先管理 | 基盤・カストディ・監査の委託先評価と社内の運用体制 | 委託候補先の公表資料・監査レポート | 委託先評価の基準と社内分担表が承認されている |
ここまで整理しても、自社の業態でどの領域から入るべきか、既存業務やシステムとどう接続するかは、社内の情報だけでは判断しきれない部分が残ります。市場側のプレイヤー構造や先行案件の座組を踏まえた壁打ち相手を早い段階で確保しておくと、工程1〜2の手戻りを減らせます。
Pacific Metaのサービス
ブロックチェーンの事業構想・戦略設計を支援します。
業務課題の特定から適合性判断・PoC設計まで、導入検討の最初の一歩を伴走します。
事業構想・戦略設計サービスの詳細を見るRWAの金融商品へ投資する方法
国内の個人投資家がRWA関連の金融商品(主にセキュリティトークン)を購入する経路は、大手証券会社の募集参加と、不動産STなどを扱う専門プラットフォームでの口座開設の2つに大別されます。公募案件は通常の債券・投資信託と同様に目論見書を確認して申し込む流れで、発行後の売却はODXのSTARTのような二次流通市場が受け皿になります(2026年3月末時点で8トークン・時価総額336億円。BOOSTRY集計)。
投資する際は、裏付け資産の質(立地・稼働率・発行体の信用力)、スキームの信頼性(分別管理・信託による倒産隔離の有無)、流動性リスク(売りたいときに買い手がいるとは限らない)の3点を目論見書で確認する必要があります。取扱いは金融庁の登録を受けた金融商品取引業者を通じて行ってください。
金融機関・事業会社の立場ではこの購入経路の存在自体が論点になります。個人がSTを買える窓口が証券会社経由と直販プラットフォーム経由に分かれている以上、商品を組成する側は「どの流通経路に乗せるか」「自社の顧客基盤を販売チャネルにできるか」を商品設計の初期に決めることになるためです。
金融分野のRWAに関するよくある質問
リスク加重資産のRWAとは何が違いますか?
略称が同じだけで、指す中身はまったく別物です。リスク加重資産(Risk-Weighted Assets)はバーゼル規制の自己資本比率計算に使う用語で、本記事のRWA(Real World Assets)は現実資産のトークン化を指します。前者はリスク管理・財務部門が扱う規制上の計算概念、後者は商品組成・デジタル戦略部門が扱う資産のデジタル化で、関わる部門も論点も別系統です。
保険会社でもRWAを活用できますか?
活用領域は2段に分かれます。保険契約や再保険リスクをトークン化する動きは海外で実在し、生命保険契約のトークン化(infineo)や再保険リスクを裏付けとする証券のオンチェーン発行(SurancePlus)が公表されています。一方、責任準備金の運用対象としてトークン化資産を組み入れる活用は検討段階で、国内の公表事例は2026年8月時点で確認できていません。検討の起点は自社のどちら側(商品・負債側か、運用・資産側か)かを先に決めることです。
RWA導入時のセキュリティ対策はどうすればよいですか?
多層的な防御が前提になります。スマートコントラクトは複数の専門機関による監査を受け、資産を保管するウォレットは複数署名を必要とするマルチシグ構成にします。秘密鍵は信頼できるカストディアンへの委託か、ハードウェア・セキュリティ・モジュール(HSM)による厳格なオフライン管理を選びます。加えて、オンチェーン取引のモニタリング体制をAML対応と一体で設計しておくことが実務上のポイントです。
既存の勘定系システムとブロックチェーンは連携できますか?
連携できます。ただし勘定系にブロックチェーンを直接接続する構成は安定性の面で負担が大きく、間にAPIゲートウェイなどの中間サーバーを置き、権利移転などの取引データのうち会計処理に必要な情報だけを勘定系へ渡すアーキテクチャが採られる例が多くあります。勘定系側の改修を最小限に抑えられるため、既存システムの更改サイクルと切り離して検討できます。
金融ユースケースにはどのブロックチェーン基盤が適していますか?
ユースケースによって異なります。透明性と広い接続性を重視するならパブリックチェーン、参加者管理とプライバシーを重視するなら許可型チェーンが候補になります。国内のST発行では、個社開発ではなくProgmatやibet for Finのような共用基盤を利用する形が主流で、規制対応済みの機能を開発負担なく使えることが選定理由になっています。海外ではBUIDLのようにパブリックチェーン上で機関投資家向け商品を発行する例も広がっています。選定は対象顧客と規制要件から逆算する順序になります。
金融業界におけるRWA活用のまとめ
金融業界におけるRWAは、海外で大手運用会社・銀行の本番稼働が進み、国内でも公募ST累計3,333億円(BOOSTRY集計・2026年4月2日公表)という実績と2026年の制度整備がそろった段階にあります。銀行は発行基盤・信託・カストディ、証券は引受・販売と二次流通、保険は契約のトークン化が入口になり、業態ごとに参照できる先行事例が既に存在します。セキュリティトークンの制度と商品類型はセキュリティトークンとは?仕組み・種類から不動産STまでわかりやすく解説でも整理しています。
次の一歩は、業態別マップで自社の行を特定し、4工程の工程表に沿って戦略策定と該当性整理を並行で始めることです。判断材料は、発行基盤・市場運営者の公表資料、金融庁の法令情報、先行案件の座組の3つから集まります。どの活用領域から入るか、基盤を自前で持つか共用するかという初期の分岐では、これに市場側の最新動向を加えて比較することになります。公表資料だけでは埋まらない部分は、トークナイズ領域を横断的に見ている外部の知見で補うのが実務の進め方です。