日本円建てのステーブルコインは、発行済みのものと計画段階のものが並び、導入の検討で「結局どれを使うか」が決まらないまま止まりやすいテーマです。2026年10月時点で一般の法人がすぐに入手して使える中心はJPYCで、上限を気にせず大口を動かす用途は信託型の立ち上がりを待つ段階にあります。

地域や特定ネットワーク内の決済には、銀行が発行する預金型が選択肢になります。AIエージェントが支払いを担う場面でも、その支払い手段はブロックチェーン上の円の上に載るため、どの制度区分の円を選ぶかは決済インフラの設計そのものです。
- 少額の対外決済・送金を今始めるなら資金移動業型のJPYC
- JPYCの発行・償還は1回100万円が上限
- 大口決済は信託型(JPYSC・3メガバンク共同)が本命
- 地域・特定ネットワーク内の決済は預金型のトチカやDCJPY
- 総コストは手数料・ガス代・運用工数の合計で比較
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日本円ステーブルコインを用途別に選ぶ結論
日本円ステーブルコインとは、日本円と1対1の価値の連動を掲げ、ブロックチェーン上で発行・送金されるデジタルマネーです。選び方の結論は、用途と取引額で決まります。

| 用途 | 第一候補 | 理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 少額の対外決済・送金 | JPYC | 2025年10月27日に発行開始済みで、JPYC EXで発行を受けられる | 発行・償還は1回100万円が上限 |
| 企業間の大口決済 | JPYSC、3メガバンク共同 | 信託型は資金移動業型の100万円制限を受けない | JPYSCは口座内限定、3メガバンク共同は計画段階 |
| 地域・特定ネットワーク内決済 | トチカ、DCJPY | 銀行が預金として発行し、ネットワーク内で完結する | 利用者・利用先が限られる |
| 待機資金・資金管理 | JPYC(現時点)、信託型(今後) | 外部ウォレットで保有・移転できるのは現状JPYC | 大口の償還は分割が必要 |
今日動かせるのは資金移動業型のJPYCで、上限を外した大口は信託型の本格提供を待つという時間軸で選定を分けると、社内の議論が進みます。JPYSCは2026年6月24日に提供を開始しましたが、SBI VCトレードの口座内に限られ、外部ウォレットへの出庫には対応していません。
業界の動きも同じ方向を向いています。KDDI・Progmat・Pacific Metaの3社が主催し、2026年2月3日に開かれたJapan Stablecoin Summit #2では、金融庁・三井住友銀行・JPYC・Circleなどがパネルに登壇しました。
<!– image_todo: 用途別の選定フロー(用途と取引額の分岐から資金移動業型・信託型・預金型の候補へ。SVGコード描画) –>
日本円ステーブルコイン主要銘柄の比較一覧
ここでは、日本円と1対1の連動を掲げてブロックチェーン上で発行・流通している、または発行を公表している銘柄を比較対象にします。この範囲で数えると、比較の対象は次の6銘柄です。

| 銘柄 | 発行体 | 制度区分 | 提供状況 | 入手経路 |
|---|---|---|---|---|
| JPYC | JPYC株式会社 | 資金移動業型 | 2025年10月27日に発行開始 | JPYC EX(個人・法人) |
| JPYSC | SBI新生信託銀行 | 信託型 | 2026年6月24日に先行提供開始 | SBI VCトレードの口座内のみ |
| 3メガバンク共同 | 3行を委託者とする信託銀行等 | 信託型 | 2026年度中の実取引開始をめざす段階 | 未定 |
| EJPY | 日本ブロックチェーン基盤 | 信託型 | 2026年度内の発行・流通に向け準備中 | 電子決済手段等取引業者との連携が前提 |
| トチカ | 北國銀行 | 預金型 | 2024年4月1日にサービス開始 | 北國銀行の普通預金口座保有者 |
| DCJPY | GMOあおぞらネット銀行 | 預金型(トークン化預金) | 2024年8月に決済取引の開始を発表 | DCJPYネットワークの参加者 |
表の6銘柄は「発行済みで誰でも入手できる」「発行済みだが利用者限定」「計画段階」の3区分に分かれます。誰でも入手できるのはJPYCで、JPYSC・トチカ・DCJPYは発行済みでも利用者が限られます。3メガバンク共同とEJPYは計画段階です。
流通の実績はJPYCが先行しています。JPYC社の発表では、2026年7月10日時点のオンチェーン流通額は20億円を超え、JPYC EXの累計発行額は2026年9月18日時点で100億円を突破しました。累計発行額は発行の総量で、流通額とは別の指標です。
3メガバンク共同のステーブルコインは、みずほ銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行が2026年6月10日に発表した取組みです。3行を共同委託者とする信託契約で発行し、運営・ガバナンスを検討する協議会の設置に向けて基本合意しました。3行は2025年11月に金融庁の決済高度化プロジェクト(PIP)の支援決定を受けた実証実験を通じて協議を重ねてきました。
EJPYは、日本ブロックチェーン基盤が2026年5月13日に発行方針の正式決定を発表した銘柄です。Japan Open ChainとEthereum上での発行を予定し、発行時期・条件・取扱事業者は決定次第公表するとしています。
参考として、海外で発行された円建てのGYENがあります。発行体のGMO-Z.com Trust Companyは2026年5月15日に発行の終了手続きを開始し、同日から購入はできません。償還は口座保有者に限り2026年11月11日までの当初期間で受け付けています。
資金移動業型・信託型・預金型の違い
日本円ステーブルコインの比較では、まず制度区分の違いを押さえます。日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。3類型の差は、金額の上限と保有者の権利の設計にあります。

| 項目 | 資金移動業型 | 信託型 | 預金型 |
|---|---|---|---|
| 発行主体の例 | JPYC株式会社 | SBI新生信託銀行、3メガバンク共同 | 北國銀行、GMOあおぞらネット銀行 |
| 裏付けの守り方 | 発行残高を円の預貯金・国債で保全 | 信託財産として管理 | 銀行預金そのもの |
| 1回あたりの金額 | 発行・償還は100万円まで | 1回の送金・移動に金額制限なし | 各行の設計による |
| 保有者の権利 | 発行体への償還請求 | 信託の仕組みに基づく償還 | 預金債権のまま |
上限・償還・権利のうち、自社の用途がどれを要求するかで類型が決まります。以下では3類型をそれぞれ説明します。
資金移動業型
資金移動業型は、資金移動業者が発行する類型です。JPYCは2025年8月18日に第二種資金移動業者として関東財務局に登録され、資金決済法上の電子決済手段として発行されています。

JPYCは発行残高の100%以上を円の預貯金と国債で保全しています。発行・償還は1回あたり100万円が上限で下限は3,000円ですが、利用者間の送金に上限の規定はありません。対応チェーンはEthereum・Avalanche・Polygon・Kaiaの4つです。
Pacific Metaも2026年5月1日に、JPYCを活用した資産運用を自社で開始したと公表しました。自社の資金で資金移動業型の円を運用する場合の論点は、ステーブルコイン導入支援で整理しています。
信託型
信託型は、信託銀行・信託会社が発行体となる類型です。SBIグループの共同リリースによると、JPYSCは1回あたりの送金・移動に金額の制限がなく、口座内の残高にも制限がありません。

大口の企業間決済を想定するなら、信託型が本命になります。ただしJPYSCは先行提供の段階で、パブリックチェーン上での流通は関係法令・税務実務の整理と監督当局の確認を前提に移行を目指すとされています。
預金型
預金型は、銀行が預金をブロックチェーン上でトークン化して発行する類型です。保有者の権利は預金債権のまま残ります。

トチカは北國銀行が主体となって発行し、マイナンバーカードと同行の普通預金口座を持つ人が、トチツーカ加盟店で使えます。DCJPYはGMOあおぞらネット銀行が発行するトークン化預金で、DCJPYネットワーク上で発行・送金・償却ができます。利用範囲が決まったネットワーク内の決済では、預金型が候補になります。
日本円ステーブルコインの手数料比較
手数料は、発行・入手、償還・出金、送金の場面ごとに比べます。公表されていない銘柄は「非公表」と書いています。

| 銘柄 | 発行・入手 | 償還・出金 | 送金 |
|---|---|---|---|
| JPYC | 無料(将来徴収の可能性あり) | 無料(将来徴収の可能性あり) | チェーンのガス代 |
| JPYSC | 販売所の売買にスプレッドなし、クイック入金は無料 | 円出金は無料 | 外部への出庫は未対応 |
| 3メガバンク共同 | 非公表 | 非公表 | 非公表 |
| EJPY | 非公表 | 非公表 | 非公表 |
| トチカ | 非公表 | 換金は毎月1回まで無料、2回目以降は1回110トチカ | 加盟店側が決済手数料を負担 |
| DCJPY | 非公表 | 非公表 | 非公表 |
JPYCの発行・償還手数料は、契約締結前交付書面で無料とされていますが、将来徴収する可能性の注記があります。送金時にはチェーンごとのガス代が別にかかるため、「無料」はコストゼロを意味しません。
トチカは、利用者ではなく加盟店が決済手数料を負担する構造です。2024年4月1日時点の加盟店決済手数料は0.5%(税込)でしたが、北國銀行の加盟店向け資料には2026年夏頃に税込1%未満へ引き上げる予定と書かれています。
銀行振込と比べて安くなるかは、送金の頻度・金額・使うチェーンで変わります。公表手数料だけでは比較が閉じず、送金頻度とガス代、ウォレット管理などの運用工数を含めた総コストで判断します。
日本円ステーブルコインと混同されやすい用語の違い
日本円ステーブルコインと混同されやすい用語は、保有者の権利と発行主体の2軸で切り分けられます。4つの用語を同じ軸で並べます。

| 用語 | 保有者の権利 | 発行主体 | 日本円ステーブルコインとの違い |
|---|---|---|---|
| 預金トークン | 預金債権 | 銀行 | 預金型の日本円ステーブルコインと同じ考え方で、DCJPYが例 |
| CBDC(デジタル円) | 中央銀行への請求 | 日本銀行 | 日本銀行は発行するかどうかを決定していない |
| ドル建て(USDC等) | 発行体への償還請求 | 海外の発行体 | 連動する通貨が米ドル |
| 海外発行の円建て(GYEN) | 発行体への償還請求 | GMO-Z.com Trust Company | 2026年5月15日に発行終了の手続きを開始し購入は不可 |
日本銀行は2026年6月の報告書で、CBDCを発行するかどうかは現時点で決定しておらず、今後の国民的議論のなかで決まっていくとしています。GYENの発行体はニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の監督下で限定目的信託の認可を持つ米国の法人です。権利と発行主体の軸で切れば、検討資料での混同を防げます。
日本円ステーブルコインに関するよくある誤解
日本円ステーブルコインをめぐる誤解は、制度区分の違いとコストの見方に集中しています。代表的な4つを、実際の仕組みと並べます。

| よく見かける説明 | 実際 |
|---|---|
| どの日本円ステーブルコインも同じ制度 | 資金移動業型・信託型・預金型で上限と権利が違います。用途に合う類型を先に決める必要があります |
| 手数料無料ならコストはかからない | 送金にはガス代がかかり、JPYCの無料にも将来徴収の可能性の注記があります。総コストで見ます |
| 銀行が発行すれば元本保証と同じ | 預金型は預金債権ですが、信託型は信託の仕組みで守られます。銀行系でも類型により権利が違います |
| まだ実物はなく検討の段階 | JPYCは2025年10月に発行を開始し、流通額は2026年7月時点で20億円を超えました。動いている銘柄があります |
「計画段階のものしかない」という前提で検討を進めると、すでに使える選択肢を見落とします。
日本円ステーブルコインのリスク
日本円ステーブルコインのリスクは、発行体・準備資産・規制・スマートコントラクト・カウンターパーティーの5種に分けて評価します。銘柄選定は、リスクの種類ごとに受け入れられる発行体とチェーンを決める作業です。

発行体リスク
発行体の経営や事業継続に問題が生じると、償還の手続きが滞るおそれがあります。GYENのように発行体が発行の終了を決めた場合、保有者は期限内に償還を求める必要が出てきます。

準備資産リスク
裏付け資産の管理が不十分だと、償還時に満額が戻らない損失につながります。2026年6月1日に施行された改正資金決済法では、ステーブルコインの裏付け資産の厳格な管理義務が柱の1つになりました。

規制リスク
制度の改正や当局の判断で、取扱条件や流通の範囲が変わる可能性があります。JPYSCのパブリックチェーン移行も監督当局の確認が前提です。資金移動業型は発行・償還が1回100万円までのため、大口の償還は分割が必要になります。

スマートコントラクトリスク
トークンを動かすプログラムに不具合や脆弱性があると、資金の凍結や流出が起きるおそれがあります。複数チェーンに対応する銘柄は、使うチェーンごとに確認が要ります。

カウンターパーティーリスク
取引所・カストディアン・取引相手が債務を履行しない場合、受け取るはずの円建てトークンを受け取れない損失が生じます。口座内限定の銘柄では、流通を担う事業者への依存度が高くなります。

企業が日本円ステーブルコインを導入する進め方
導入検討の起点は、用途と取引額の確定です。進め方は次の順です。

- 用途と1回・1か月あたりの取引額を確定する
- 取引額に合う制度区分(資金移動業型・信託型・預金型)を当てはめる
- 会計処理・税務・AML(マネーロンダリング対策)の扱いを確認する
- ウォレットの管理方式と使うチェーンを選ぶ
- 小さな取引で運用を検証し、本格導入の判断材料にする
検討を進めるときは、目的ごとに確認すべき項目と完了の判定を表にします。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 用途と取引額 | 1回・月間の取引額と相手先 | 事業部門・財務部門 | 取引額のレンジが文書化されている |
| 制度区分の適合 | 取引額が100万円上限に収まるか | 各発行体の公表資料・契約締結前交付書面 | 採用する類型が1つに決まっている |
| 会計・税務の処理 | 保有・送金時の勘定科目と税務上の扱い | 経理部門・監査法人・税理士 | 処理方針の合意記録がある |
| AML・取引相手の確認 | 取引相手の本人確認と取引のモニタリング方法 | コンプライアンス部門・取扱事業者 | 確認手順が社内規程に入っている |
| ウォレット・チェーン | 管理方式・権限設定・対応チェーン | システム部門・カストディ事業者 | 管理責任者と承認フローが決まっている |
| 運用検証 | 少額取引での送金・償還・記帳の一連の流れ | 関係部門全体 | 検証結果を本格導入の判断に使える形でまとめている |
銘柄の選定は、取引額・会計処理・AML・ウォレット管理の条件がどう組み合わさるかで変わります。これらは事業部門・経理・コンプライアンス・システム部門にまたがる項目で、どこか1部門だけでは決めきれず、比較表づくりで検討が止まりやすいところです。
用途の確定からチェーン選定までを一体で進める場合の論点は、ステーブルコイン導入支援で紹介しています。
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ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。
自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。
ステーブルコイン導入支援の詳細を見るよくある質問
法人がJPYCを入手するにはどうすればよいですか
JPYCはJPYC EXを通じて発行を受けられます。発行は1回あたり3,000円から100万円の範囲です。対応チェーンは4つあるため、受け取るウォレットがどのチェーンに対応しているかを先に確認します。
JPYSCを外部のウォレットに送れますか
2026年10月時点では送れません。SBI VCトレードのJPYSCページでも入出庫には対応していないと表示されています。パブリックチェーン上での流通は、法令・税務の整理と当局の確認を前提に移行を目指す段階です。
3メガバンク共同のステーブルコインはいつ使えますか
3行は2026年度中の実取引の開始をめざすと発表しています。2026年6月10日の発表時点で基本合意したのは協議会の設置で、発行者となる信託銀行等や手数料はまだ公表されていません。
日本円ステーブルコイン比較のまとめ
少額の対外決済・送金を今始めるならJPYC、上限を外した大口の企業間決済は信託型、地域や特定ネットワーク内の決済は預金型が選択肢です。比較の軸は手数料の額ではなく、取引額の上限と保有者の権利です。

どの類型を選ぶかは、取引額や会計・AMLの条件に加え、今後のAIエージェント決済を自社の決済インフラにどう組み込むかでも変わります。複数の部門の判断が重なるため、社内だけで結論を出しにくい論点です。