オンチェーン金融構想は、自由民主党デジタル社会推進本部の「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」が2026年5月19日にまとめた提言で示された政策の構想です。送金・決済・預金・貸出をブロックチェーン上で動かし、AIが取引を自律的に実行しても止まらない、24時間365日の金融インフラを官民でつくることを掲げています。
この構想は政党の提言にとどまっていません。2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)は「オンチェーン金融の推進を図る」と明記し、金融庁は同年9月に「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の立ち上げを公表しました。人が銀行窓口や振込画面で行ってきた決済を、AIエージェントが商流と連動して24時間行う前提で、金融の基盤をつくり替える議論が政府側でも始まっています。
- 2026年5月の自民党PT提言が示した、AI時代の24時間365日の金融基盤
- 施策は成長投資分野化・公的ユースケース・トークン化預金とSCの拡大など6つ
- 骨太の方針2026に記載され、金融庁フォーラムで検討中
- 法制度の確定前の段階で、企業はユースケースと規制の論点整理から着手
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オンチェーン金融構想とは
オンチェーン金融構想とは、AIとブロックチェーンを前提に、決済・預金・貸出などの金融機能をブロックチェーン上で動かす経済の未来像と、その実現に向けた施策をまとめた自民党PTの政策提言です。用語としての「オンチェーン金融」は、骨太の方針2026の脚注で「ブロックチェーン上で、トークン化預金、ステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流等のデータ管理ともプログラムによって連動・一体化される金融」と定義されています。
構想を打ち出した主体
提言の正式名は「次世代AI・オンチェーン金融構想PT 提言」です。作成主体は自由民主党 政務調査会 デジタル社会推進本部の次世代AI・オンチェーン金融構想PTで、座長は木原誠二衆院議員が務めています。
デジタル社会推進本部(本部長は平井卓也衆院議員)は2026年5月20日に政策集「デジタル・ニッポン2026」を公表し、その中にPT提言を収載しました。提言には英語版のPDFもあります。
提言が描く未来像
提言1章が描くのは、選択・購入・支払・配送・契約・融資といった分断された経済行為が「連結化」「自動化」「24時間365日化」し、さらに人手を介さない「AIエージェント化」に進む姿です。これを技術面で担保するのがAIとブロックチェーンだと位置づけています。
人の意思決定を代替・補完してAIが取引を自律実行する「エージェンティック・コマース」が近い将来到来するというのが、提言の前提です。あわせて提言は「AIに選ばれる日本」を掲げ、製品やサービスが人ではなくAIに選ばれる場面が増えるとみています。耐改ざん性などブロックチェーンの特徴はAIと相性が良く、その利用拡大を「AIに選ばれる」環境整備の一環と捉えています。
オンチェーン金融構想が打ち出された背景
提言2章は、AIとブロックチェーンが広がる経済の推進力を、送金・決済・預金・貸出といった金融側のオンチェーン化に見出しています。その背景は次の4点に整理できます。
- AIエージェントが行う決済の拡大
- 海外で先行するステーブルコインとトークン化預金
- 国内の改正資金決済法による枠組みの整備
- オンチェーン金融主権の確保
背景①:AIエージェントが行う決済の拡大
提言は、人の意思決定を代替・補完してAIが選択から支払いまでを自律実行する「エージェンティック・コマース」が近い将来到来するとみています。そのうえで、AIとブロックチェーンが広がる経済の推進力を金融側に求める理由として、1つ目に、あらゆる取引の背景に決済や資金調達があることです。2つ目にコマース側の取り組みだけでは決済インフラの拡張性が必ずしも生まれないことを挙げています。
3つ目はトークン化した売掛債権などを担保に、トークン化預金やステーブルコインで貸し出すことで成長資金の供給が広がることです。AIエージェントが24時間取引をしても、支払いと資金調達が銀行の営業時間で止まれば自動化は完成しません。構想が金融を起点にしている理由はここにあります。
背景②:海外で先行するステーブルコインとトークン化預金
提言は、米ドル建てのUSDTやUSDCを中心にステーブルコインの発行残高が拡大し、米系銀行のJPモルガンがトークン化預金で先行していると記しています。ステーブルコインは法定通貨と価値が連動するように設計されたデジタル通貨で、トークン化預金は銀行預金をブロックチェーン上で扱えるようにしたものです。
提言はこうした海外の先行を、日本がオンチェーンの決済インフラを持たない場合のリスクを論じる前提として記しています。
背景③:国内の改正資金決済法による枠組みの整備
国内では、改正資金決済法が2025年6月6日に成立し、2026年6月1日に施行されました。電子決済手段や暗号資産サービス仲介業の新設、ステーブルコインの裏付け資産の厳格な管理義務が柱です。
日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。発行と流通の法的な土台はすでにあるため、次の論点は用途の拡大と金融インフラ全体への組み込みに移っています。
背景④:オンチェーン金融主権の確保
提言2章(2)は「官民連携によるオンチェーン金融主権確保の重要性」を掲げています。日本がオンチェーンの決済インフラを構築できずに後れを取ると、外国の決済システムへの依存による経済安全保障上のリスクと通貨代替リスクにさらされるという問題意識です。
一方で、全銀ネットを含む既存システムの維持も欠かせず、金融業界は既存システムと新しい基盤への二重投資を迫られます。だからこそ国家として未来像を示し、官民連携で投資を促すことが重要だと提言は述べています。
オンチェーン金融構想の経緯と今後の予定
構想はPTの発足から半年ほどで、政党の提言から政府の方針と金融庁の検討の場へと進みました。主な出来事は次の表のとおりです。
| 時期 | 出来事 | 主体 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月24日 | 次世代AI・オンチェーン金融構想PTの初会合 | 自民党デジタル社会推進本部 | 実施 |
| 2026年5月19日 | PT提言をまとめる | 同PT | 提言 |
| 2026年5月20日 | 「デジタル・ニッポン2026」を公表し提言を収載 | 同本部 | 提言 |
| 2026年5月21日 | デジタル大臣・総務大臣へ申し入れ | 同本部 | 申し入れ |
| 2026年7月21日 | 骨太の方針2026に推進を記載、金融戦略でフォーラム設置を決定 | 政府・金融庁 | 政府方針 |
| 2026年9月25日 | オンチェーン金融フォーラムの立ち上げを公表 | 金融庁 | 検討中 |
| 2027年初 | フォーラムの中間整理 | 金融庁 | 見込み |
表の状態の列が示すとおり、現時点のオンチェーン金融構想は「提言→政府方針に記載→検討中」の段階にあります。提言そのものを根拠とする法律の提出や成立は、一次資料に記載がありません。
これまでの流れ
2026年3月24日、党のデジタル社会推進本部と金融調査会がそれぞれPTを新設し、初会合を開きました。デジタル本部側の次世代AI・オンチェーン金融構想PTは、ステーブルコインの実証実験やトークン化預金の取り組みについて事業者からヒアリングしています。金融調査会側の決済・イノベーションPT(座長は村井英樹衆院議員)は、CBDCや決済高度化について政府から説明を受けました。
5月19日に提言がまとまり、5月21日には「デジタル・ニッポン2026」として松本尚デジタル大臣と林芳正総務大臣へ申し入れが行われました。その後、7月21日の骨太の方針2026が「オンチェーン金融の推進を図る」と明記し、政党の提言が政府の方針に取り込まれました。
今後の予定と未確定の点
金融庁は2026年7月21日の「成長投資を促進するための金融戦略」で、関係省庁とともに「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を夏に立ち上げるとしました。2026年7月時点で、2027年初に中間整理をまとめるとされていました(金融庁公表)。
9月25日に公表されたフォーラムは、内閣府特命担当大臣(金融)が座長を務め、有識者と関係省庁等がメンバー、金融庁が事務局です。検討項目には官民連携でのロードマップ作成、日銀当座預金のオンチェーン対応、ステーブルコインの諸法令上の取扱いの整理などが並びます。どの施策がいつ、どの法令や予算で実現するかは、中間整理以降に具体化するため、現時点では確定していません。
提言に盛り込まれた6つの具体的施策
提言5章は具体的な施策を6項目にまとめています。全体像は次の表のとおりです。
| 施策 | 主な中身 | 関係する主体 |
|---|---|---|
| (1)18番目の成長投資分野 | 金融分野を成長投資分野と位置づけ、5年間のロードマップを作る | 金融庁を中心に政府 |
| (2)公的主体のユースケース | 給付システムのオンチェーン化、国債等のトークン化 | デジタル庁、内閣官房、財務省など |
| (3)トークン化預金とSCの拡大 | 日銀当座預金のトークン化対応、銀行発行SCの論点整理 | 日本銀行、金融業界、内閣官房 |
| (4)決済高度化プロジェクト | 進行中の3プロジェクトと貿易決済等への拡大 | 金融機関、金融庁 |
| (5)アジア政策対話枠組み | 相互運用ルールづくりの官民対話の場を創設 | 政府、民間 |
| (6)その他 | 金融分野のAIのルールづくり、量子耐性の確保 | 金融庁、デジタル庁 |
施策①:18番目の成長投資分野への位置づけ
提言は、金融分野を18番目の成長投資分野と位置づけるよう求めています。金融庁を中心に政府が5年間のロードマップを作成し、金融業界への支援を含めて官民連携で投資を促す内容です。
投資のインセンティブの例として、マネロン対策の機能をオンチェーン上に集約して負担を軽くする案を挙げています。日本の遅れは経済安全保障上のリスクと通貨代替リスクに直結する、というのが提言の認識です。
施策②:公的主体のユースケース創出
公的主体を最初の大口利用者(アンカーテナンシー)として関与させ、需要を先につくる施策です。デジタル庁が年度内を目途に給付システムのオンチェーン化を検討することを求めており、特定の目的にだけ使えるトークンでの給付という海外の実験を例に挙げています。
あわせて、国債のトークン化対応、JBICなど財投機関によるトークン債の発行、GPIFなどによるトークン債の投資枠を例示しています。これらは内閣官房が財務省・厚生労働省・金融庁と連携し、年度内を目途に検討するよう求められています。期限はいずれも提言の要求であって、政府の決定ではありません。
施策③:トークン化預金とステーブルコインの拡大
トークン化預金(ブロックチェーン上の銀行預金)については、日銀当座預金のトークン化対応が、移転のファイナリティ(決済の確定)を確保するうえで必須だとしています。一方で、1日850万件を処理する全銀システムのブロックチェーンへの置き換えは、現時点で必須とまでは言えないとしています。預金を扱う金融機関によるプログラマブルなトークン化預金の開発についても、業務範囲規制や資本構造の見直しを含めて業界で検討の場を立ち上げるよう求めています。
ステーブルコイン(法定通貨連動のデジタル通貨)では、論点が4つ挙がっています。給与支払い・納税・出資への利用可否を省庁横断で整理すること、金融システムの安定やマネロン、量子コンピュータによる危殆化などのリスクを整理すること、銀行発行ステーブルコインの扱いをバーゼル規制や預金保険を含めて論点整理すること、他通貨建てステーブルコインとの互換性を「グローバルSCコリドー構想(仮称)」として確保することです。銀行発行ステーブルコインは資金決済法上禁止されていないものの、金融審議会のWG報告で「慎重な検討」とされてきた経緯があります。発行から決済までの実務を検討する場合の論点は、ステーブルコインの導入支援でも整理しています。
施策④:決済高度化プロジェクト(PIP)
決済高度化プロジェクト(PIP)は、提言の時点で3つが進んでいました。3メガバンク共同でのステーブルコイン発行に向けた検討、ブロックチェーン上での証券決済の推進の検討、トークン化預金を複数の銀行間で移転する仕組みの検討です。
提言は追加の候補として、貿易決済などへの拡大と、トークン化した売掛債権を担保にしたトークン化預金・ステーブルコインによる貸出の実証を挙げています。既存の実証を土台に、用途を商流側へ広げる設計です。
施策⑤:AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み
提言は、決済インフラを外国に委ねるリスクを背景に、アジア・オンチェーン金融プラットフォームの創設を目指すとしています。その第一歩が、官民対話の場「AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み(仮称)」の早急な創設です。
この枠組みでは、RWA(現実資産のトークン化)の定義、監査、KYC/AML/CFTの相互運用ルールづくりを進めるとしています。アジア諸国との輸出入決済の4〜5割が円建てであることを根拠に挙げ、2027年に愛知・名古屋で開催されるADB年次総会での発信も予定しています。
施策⑥:その他の施策
その他として2項目が挙がっています。1つ目は金融分野のAIに対するルールづくりで、AIエージェントによる取引判断が顧客の最善の利益にかなうか、市場が一方向に動くリスク、融資判断での金融包摂といった論点を、金融庁が監督と市場監視の観点で早急に整理するよう求めています。
2つ目は量子耐性の確保です。デジタル庁が業界と連携し、量子コンピュータによる暗号の危殆化リスクの把握と代替手段の検討を常時行うよう求めています。
検討にあたっての6原則
提言3章は、政府・中央銀行・全銀システム・民間金融機関が一体で対応するための「検討にあたっての6原則」を示しています。
| 原則 | 平易な言い換え | 実務での意味 |
|---|---|---|
| ①技術革新と実経済の一体検討 | 技術の発展と実取引での活用を両輪で進める | 技術の実証だけでなく実際の取引で使う場面を設計する |
| ②産業競争力と資産運用立国の一体検討 | RWAのトークン化と産業向けのプログラマブル金融を同時に進める | 資産側と決済側をつなぐオンチェーン融資が視野に入る |
| ③金融システムの安定性の維持 | 信用創造機能、AML/CFT、SCの流動性危機への対処を前提にする | 新しい仕組みでも既存の規律が求められる |
| ④アジアでの主導権確保 | 国内に閉じずアジアでの活用を視野に入れる | 国際取引での利用を想定した設計になる |
| ⑤正面突破の全面展開 | 特定の決済手段に将来を委ねず各手段の長所短所を勘案する | トークン化預金かSCかの二者択一にしない |
| ⑥国際的整合性 | ガラパゴス化を避け、他国やグローバル基盤との相互運用性を確保する | 独自仕様より相互運用を優先する |
6原則に共通するのは、業態をまたいだ相互運用を前提にしている点です。特定の銀行や企業だけで閉じた仕組みは、提言の方針と合いません。
提言4章の概念図もこの考え方に沿っています。産業(カレンシー)と資産運用(アセット)の両面でオンチェーン化を進め、法人の大口決済はトークン化預金、小中規模の決済とアセット側の即時決済はステーブルコインが担うという役割分担です。さらに銀行・証券・保険の区別が薄れ、将来は1つのマルチアセットウォレットで複数の金融商品を扱う時代を想定しています。ウォレット事業者を一体的に規制する仕組みは現在ないとも記しています。
オンチェーン金融構想で金融機関と事業会社に起きる変化
提言の施策と原則を業務に引き直すと、変化は金融機関だけでなく事業会社の決済や資金管理にも及びます。業態別の見取り図は次の表のとおりです。
| 業態 | 変わりうる業務 | 検討の起点 |
|---|---|---|
| 銀行・信託 | 預金のトークン化、銀行間の移転、SC発行の可否 | 業界の検討の場と日銀当座預金の対応 |
| 証券・資産運用 | 証券決済、トークン債、RWAの運用 | ブロックチェーン上の証券決済の検討 |
| 事業会社 | 受発注と連動した決済、売掛債権を使った資金調達 | 自社の商流データと決済の接点 |
| AIエージェントを使う企業 | AIが行う支払いの権限と記録 | 金融分野のAIのルールづくり |
変化①:銀行・信託の決済と預金
銀行にとって最も大きいのは、預金そのものをブロックチェーン上で動かす選択肢が政策課題になったことです。提言はプログラマブルなトークン化預金の開発について、業務範囲規制や資本構造の見直しまで含めた業界の検討の場を求めています。
提言はトークン化預金の検討で中小企業への配慮にも触れており、地域金融機関を含めた対応が論点になります。
変化②:証券・資産運用のトークン化資産
証券分野では、ブロックチェーン上での証券決済の推進がPIPの1つとして検討されています。国債のトークン化対応やトークン債の発行・投資枠の例示もあり、公的部門が資産側の需要をつくる方向が示されています。
提言はアセット側の即時決済をステーブルコインが担う姿も描いています。資産運用会社や証券会社は、トークン化資産を扱う決済手段と保管の方法を、既存業務と並べて検討する段階に入っています。
変化③:事業会社の決済と資金管理
事業会社に関わるのは、骨太の方針2026の定義にある「商流・物流等のデータ管理との連動」です。活用例として、製造業の受発注・納品データ管理、貿易書類の管理、証券決済が挙がっています。
納品データの確定と同時に支払いが走れば、照合や消込の手作業は減ります。売掛債権をトークン化して借入の担保にする仕組みもPIPの追加候補です。決済だけでなく、売掛債権を使った資金調達まで検討対象が広がります。
変化④:AIエージェントが行う決済
提言が想定する「エージェンティック・コマース」では、AIが選択から支払いまでを自律的に実行します。金融庁の金融戦略も、AI時代の決済に求められる要素として「24時間365日連続稼働」「商流・物流と繋がるプログラマビリティ」「決済基盤として信頼される安定性・安全性」の3つを挙げています。
企業がAIエージェントに支払いを任せるなら、どこまでの権限を与え、取引をどう記録・監査するかの設計が必要です。Pacific Metaも2026年4月に、ユースケース設計から法務・監査対応までを一気通貫で扱うステーブルコイン決済・AIエージェント決済の導入支援を始めています。
オンチェーン金融構想を受けて企業が今から検討すること
制度の細部が決まるのは2027年初の中間整理以降ですが、その前に企業側で整理できる論点は多くあります。政策の方向が「提言→政府方針→検討中」と進んだ今の段階では、論点を先に固めた企業ほど、制度が具体化したときの判断が速くなります。
検討①:自社のユースケース特定
最初に決めるのは、自社のどの取引でオンチェーン決済を使うかです。受発注と連動した支払い、グループ内の資金移動、海外取引先との決済、売掛債権を使った資金調達など、提言とPIPが挙げる用途と自社の業務を突き合わせます。
ユースケースが決まらないまま技術や発行方式を比べても、判断の軸が定まりません。効果を測る指標(照合の工数、決済にかかる日数、手数料など)も、この段階で決めておくと後工程が進めやすくなります。
検討②:規制上の位置づけ確認
次に、使う手段が法令上どの区分に当たるかを確認します。ステーブルコインであれば、改正資金決済法の電子決済手段の枠組みに当たるかどうかで、扱える事業者や必要な手続きが変わります。
提言が求める論点整理の多くは、まだ結論が出ていません。給与支払い・納税・出資への利用可否や、銀行発行ステーブルコインの扱いは、基準日時点で検討中の論点として扱い、確定した前提で計画を組まないことが大切です。
検討③:発行・接続方式の選択
自社で何かを発行するのか、既存のトークン化預金やステーブルコインに接続するのかで、必要な体制は大きく変わります。6原則の⑤が示すとおり、政策は特定の決済手段に将来を委ねない立場です。
法人の大口決済はトークン化預金、小中規模の決済はステーブルコインという概念図の役割分担を参考に、取引の規模と相手先で手段を使い分ける前提で比較します。原則⑥の相互運用性を踏まえ、接続先のチェーンや他の決済手段とつながるかも確認項目になります。
検討④:会計・税務・監査の処理
オンチェーンで決済や資金管理を行う場合、会計処理、税務上の扱い、監査での証跡の示し方を事前に決めておく必要があります。とくにAIエージェントが支払いを実行する場合は、誰の承認でいつ実行されたかを後から説明できる記録が欠かせません。
ブロックチェーン上の記録は改ざんしにくい一方、社内の承認フローや会計システムとどう突き合わせるかは別途の設計になります。監査法人との事前協議は、仕組みを作る前の段階で始めます。
検討⑤:社内体制と委託先
オンチェーン決済の検討は、事業部門、財務、法務、システム、リスク管理にまたがります。主担当の部門と意思決定の場を最初に決めることで、部門ごとの検討が並行したまま止まる事態を防げます。
ウォレットの管理、ノードやAPIの運用、マネロン対策のモニタリングなどを外部に委託する場合は、委託先の管理も論点です。提言が指摘するとおりウォレット事業者を一体的に規制する仕組みは現在ないため、委託先の選定基準は自社で定める必要があります。
| 検討の論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| ユースケース | オンチェーン決済を使う取引と効果の指標 | 事業部門、財務部門、提言のPIPの例示 | 対象取引と指標が1枚の資料にまとまっている |
| 規制上の位置づけ | 使う手段の法令上の区分と検討中の論点 | 金融庁の公表資料、社内法務、弁護士 | 確定事項と検討中の事項が区別して整理されている |
| 発行・接続方式 | 自社発行か接続か、使う手段と接続先 | 提言の概念図、発行体や金融機関の公表情報 | 取引の規模と相手先ごとに手段が決まっている |
| 会計・税務・監査 | 処理方法と証跡の残し方 | 監査法人、税理士、社内経理 | 監査法人との事前協議の論点表ができている |
| 体制と委託先 | 主担当部門と委託先の選定基準 | 社内リスク管理部門、委託候補先 | 意思決定の場と選定基準が社内で承認されている |
表の5つの論点は、どれか1つを決めると他の前提が変わる関係にあります。ユースケースによって規制の区分が変わり、規制の区分によって選べる発行・接続方式と会計処理が変わるため、事業・法務・財務・システムの各部門が別々に検討すると結論がそろいません。政策側の論点整理も進行中で、前提が動く中で部門をまたいだ判断を社内だけで下すのは難しい作業です。
オンチェーン金融構想で誤解されやすい点
政策の提言は報道で断片的に伝わることが多く、中身とずれた理解が広がりやすくなります。よく見かける誤解と実際は次のとおりです。
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 法律として決まった | 政党の提言が政府方針に記載され、金融庁フォーラムで検討中の段階 |
| 暗号資産投資を推す政策 | 決済・預金・貸出など金融インフラの基盤づくりが主題 |
| 銀行だけの話 | 事業会社の商流と連動した決済や公的主体の利用も対象 |
| すぐに使える仕組みがある | 多くの施策は検討や実証の段階で、中間整理は2027年初の予定 |
誤解①:法律として決まった
オンチェーン金融構想は自民党PTの提言であり、それ自体は法律ではありません。骨太の方針2026に「推進を図る」と記載され、金融庁のフォーラムで検討が始まった段階です。
提言が示す「年内」「年度内」の期限は、提言が関係機関に求めた期限です。政府が決定した施行日や義務ではないため、読み替えて社内計画に入れないよう注意が必要です。
誤解②:暗号資産投資を推す政策
構想の主題は、送金・決済・預金・貸出といった金融機能をブロックチェーン上で動かすことです。提言が中心に据えるのはトークン化預金とステーブルコインによる決済であり、価格の値上がりを期待する投資の話ではありません。
提言はむしろ、金融システムの安定性、AML/CFT、ステーブルコインの流動性危機への対処を原則に掲げています。既存の金融規律を保ったまま基盤を入れ替えるという立て付けです。
誤解③:銀行だけの話
トークン化預金の論点は銀行が中心ですが、構想全体は事業会社の受発注・貿易・資金調達や、公的主体による給付・国債にも及びます。骨太の方針の定義も、商流・物流のデータとの連動を明記しています。
業界の議論の場も、銀行だけで閉じていません。金融庁・三井住友銀行・JPYC・Circleなどが登壇したJapan Stablecoin Summit #2(Pacific Meta主催)のように、規制当局・銀行・発行体・事業者が同じ場で論点を議論する機会が増えています。
誤解④:すぐに使える仕組みがある
提言に並ぶ施策の多くは、検討や実証の段階にあります。PIPの3つのプロジェクトも、提言の時点では「検討」として進んでいました。
日銀当座預金のトークン化対応やステーブルコインの諸法令上の扱いも、論点整理を求められている段階です。構想が示すのは方向と論点の一覧であり、企業が今できるのはそれに沿った準備だと捉えるのが正確です。
オンチェーン金融構想の動向を追う際の注意点
構想の情報は提言、政府方針、金融庁の検討と、性格の違う文書に分かれて出てきます。動向を社内で共有するときに押さえたい注意点は2つです。
注意①:提言と制度の区別
自民党PTの提言は政策の要求であり、制度ではありません。情報を追うときは、その内容が提言・政府方針・検討中・法令の成立・施行のどの段階かを必ず書き添えて共有します。
金融庁のフォーラムは、環境整備に関する研究会(資産のトークン化、ステーブルコイン、DEXやDeFi、ウォレット提供業者)と、AIの健全な利活用に関する研究会でも検討を進めます。制度化の具体的な中身は、これらの研究会と中間整理の公表で順に明らかになります。
注意②:リスク5種の併記
オンチェーンの決済や資金管理を検討するときは、次の5つのリスクを並べて評価します。
- 発行体リスク(発行体の経営や償還対応に問題が生じるリスク)
- 準備資産リスク(裏付け資産の価値や管理に問題が生じるリスク)
- 規制リスク(論点整理や制度化で前提が変わるリスク)
- スマートコントラクトリスク(プログラムの不具合や攻撃のリスク)
- カウンターパーティーリスク(取引先や委託先が義務を果たせないリスク)
構想が進めば利用の選択肢は増えますが、5つのリスクが消えるわけではありません。提言自体も、金融システムの安定、マネロン、量子コンピュータによる危殆化などのリスク整理を施策に含めています。
ここまでの内容は2026年10月16日時点の公表資料に基づく一般的な整理です。個別の事業スキームが登録や届出を要するか、どの法令区分に当たるかの判断は、弁護士や当局への事前相談で確認してください。基準日以降の論点整理や制度改正により、内容が変わる場合があります。
よくある質問
オンチェーン金融構想はいつ実現しますか?
実現の時期は決まっていません。金融庁のフォーラムは2027年初に中間整理をまとめる予定とされており、どの施策がいつ制度や予算になるかはその後に具体化します。給付システムや国債のトークン化などは実証や検討から段階的に進むとみられ、一度に実現するものではありません。
オンチェーン金融とトークン化預金はどう違いますか?
オンチェーン金融は、決済・預金・貸出などの金融機能をブロックチェーン上で商流と連動させて動かす金融の総称です。トークン化預金は、その中で使われる決済手段の1つで、銀行預金をブロックチェーン上で扱えるようにしたものです。提言は法人の大口決済をトークン化預金、小中規模の決済をステーブルコインが担う役割分担を描いています。
自民党の提言と金融庁はどう関係していますか?
自民党PTの提言を受ける形で、政府は骨太の方針2026にオンチェーン金融の推進を記載し、金融庁が同日の金融戦略でフォーラムの立ち上げを決めました。フォーラムの座長は内閣府特命担当大臣(金融)で、事務局を金融庁が務めます。提言が挙げた日銀当座預金の対応や公金給付への活用などは、フォーラムの検討項目にも入っています。
中小企業にも関係しますか?
関係します。提言はトークン化預金の検討で中小企業への配慮に触れており、提言は売掛債権などのトークン化を担保にした貸出で成長資金の供給が広がるとしており、売掛債権を持つ企業の資金調達に関わる論点です。取引先の大企業が受発注と連動した決済を導入すれば、その商流に連なる中小企業も対応を求められる可能性があります。
オンチェーン金融構想のまとめ
オンチェーン金融構想は、自民党の次世代AI・オンチェーン金融構想PTが2026年5月にまとめた提言で、AIが自律的に取引しても止まらない24時間365日の金融インフラを官民でつくることを掲げています。施策は成長投資分野化、公的ユースケース、トークン化預金とステーブルコインの拡大、PIP、アジア政策対話、AIと量子耐性の6つです。
構想は骨太の方針2026に取り込まれ、金融庁のフォーラムで検討が進んでいます。中間整理を待たずに、ユースケース・規制区分・接続方式・会計・体制の論点を社内で整理しておくことが、制度が具体化したときの判断の速さにつながります。
政策の論点整理は2027年初にかけて動き続け、自社の判断の前提も変わっていきます。どの取引から始めるか、どの手段を選ぶかは、事業・法務・財務・システムの判断が重なるため、政策の動きと自社の業務を同時に見ながら決める必要があります。ブロックチェーン総研では、こうした政策と実務の動きを引き続き追っていきます。