オンチェーン資産運用とは、運用資産の発行・保管・取引・償還をブロックチェーン上のスマートコントラクトで実行し、その記録をチェーン上に残す運用の形です。
市場はまだ小さいものの、伸びは急です。暗号資産市場のマーケットメイカーKeyrockの集計では、同社が定義する4類型の運用残高は2025年9月のレポート公表時点で年初来2倍超に増え、350億ドル超(約5兆円)に達しました。BlackRockは2024年3月にトークン化ファンドBUIDLをEthereumで発行し、BNYとGoldman Sachsも2025年7月にトークン化MMFの取り組みを発表しています。
国内でも2026年7月に金融商品取引法等の改正法が成立し、暗号資産を金融商品取引法の枠へ移す準備が進んでいます。運用と決済の執行がチェーン上に載ると、その上でAIエージェントが資金配分を自動で執行する「経済の自動運転」も現実の設計対象になります。運用会社や金融機関にとっては、自社商品をオンチェーンで提供するかどうかを判断する時期に入りました。
- 運用の執行と記録の場所がチェーン上へ移る仕組み
- Keyrock集計の運用残高は350億ドル超(2025年9月時点)
- 類型は自動運用・裁量運用・信用・仕組み商品の4つ
- 日本では運用対象と提供形態で適用法令が変わる点に注意
- 導入はユースケースを定め、規制確認を最初に置く進め方
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オンチェーン資産運用とは
オンチェーン資産運用とは、運用の執行と記録をブロックチェーン上に置く運用の形です。Keyrockはこれを「暗号資産またはトークン化した現実資産を、スマートコントラクトで執行し、パブリックな台帳に記録して配分すること」と定義しています。
従来のファンドやMMFでは、持分の記録は運用会社・信託銀行・名義書換代理人の帳簿に分かれて置かれます。申込や解約の指図は各社の間を順に回り、反映までに日数がかかります。オンチェーン資産運用では、持分がトークンとして発行され、保有と移転の記録は共通の台帳に残ります。
BlackRockのBUIDLは、この形を大手運用会社が採った代表例です。ファンド持分をトークンとして発行し、事前承認済みの投資家間で24時間365日移転できる設計にしました。「暗号資産で稼ぐ運用」ではなく「運用の執行と記録の場所が変わること」と捉えると、社内での説明が通りやすくなります。
オンチェーン資産運用の市場規模と主な参入者
オンチェーン資産運用は急成長していますが、伝統的な運用市場と比べるとまだ小さい市場です。一方で、世界の大手運用会社と保管銀行がすでに商品と基盤を出し始めています。
市場規模の推移
Keyrockの集計では、自動運用・裁量運用・オンチェーン信用・仕組み商品の4類型を合わせた運用残高は、2025年9月のレポート公表時点で年初来118%増え、350億ドル超になりました。円に直すと約5兆円です。
伸びを主導したのは裁量運用で、同社集計では年初来738%増でした。Keyrockは2026年までに残高が416億〜850億ドルへ拡大すると予測していますが、これは予測値であり実績ではありません。数値はいずれもKeyrockの定義の範囲に限られる点を押さえておく必要があります。
主な参入者
参入の動きは、伝統金融の大手から始まっています。BlackRockは2024年3月20日、初のパブリックチェーン上のトークン化ファンドBUIDLをEthereumで発行しました。資産の100%を現金・米国短期国債・レポで運用し、1トークン1ドルの安定価値を目指す商品です。
BNYとGoldman Sachsは2025年7月23日、Goldman Sachsが開発したブロックチェーンGS DAP上でMMFの持分を表すトークンを扱う取り組みを発表しました。初期参加の運用会社はBlackRock、BNY Investments Dreyfus、Federated Hermes、Fidelity Investments、Goldman Sachs Asset Managementの5社です。海外大手が商品として出し始めた段階にあり、国内勢は先行事例を参照して設計できる時期にあります。
オンチェーン資産運用の仕組みと構成要素
オンチェーン資産運用は、運用ルールを書いたプログラムと、持分を表すトークンの2つが中心になって動きます。そこに資産を守る鍵の管理と、外部の価格を取り込む仕組みが加わります。
- スマートコントラクト:運用ルールの自動執行
- トークン化された持分:保有と移転の記録
- カストディと鍵管理:資産の保全
- オラクルと価格情報:外部データの取り込み
構成要素①:スマートコントラクト
スマートコントラクトは、条件を満たすと自動で処理を実行するブロックチェーン上のプログラムです。オンチェーン資産運用では、申込の受付、資金の配分、収益の分配、償還の支払いをこのプログラムが担います。
従来は運用会社と信託銀行の担当者が指図と照合を行っていた工程を、コードが同じ手順で実行する点が違いです。その分、コードの誤りはそのまま資産の損失につながるため、公開前の監査が欠かせません。
構成要素②:トークン化された持分
トークン化された持分は、ファンドやMMFの受益権をブロックチェーン上の単位として表したものです。誰が何口を持っているかは台帳に記録され、移転も台帳上で完結します。
BUIDLではSecuritizeが名義書換代理人とトークン化基盤を担い、事前承認済みの投資家だけが保有できる設計にしています。誰でも持てるトークンではなく、保有者を限定した持分として設計できる点は、金融機関が商品化を考えるうえで重要です。
構成要素③:カストディと鍵管理
カストディは、資産と、トークンを動かす秘密鍵を安全に保管する機能です。鍵を失えば資産を動かせず、鍵が漏れれば資産を持ち出されます。
BUIDLではBNY Mellonがカストディアン兼管理会社を務めています。伝統的な保管銀行がオンチェーン商品の保管を担う構図は、既存の受託責任の枠組みを残したままチェーンを使う設計の一例です。鍵の保管方式と承認手順は、商品設計の初期に決める必要があります。
構成要素④:オラクルと価格情報
オラクルは、ブロックチェーンの外にある価格や金利などのデータをチェーン上へ届ける仕組みです。スマートコントラクトは自分で外部の情報を取りに行けないため、基準価額の計算や担保の評価にはオラクルが要ります。
国債や不動産のように現実の資産をトークン化して運用する場合、オラクルの情報が正しいことが運用全体の前提になります。どのデータ提供元を使い、誤りが出たときに誰が止めるかを決めておくことが設計の一部です。
オンチェーン資産運用の主な類型
Keyrockは、オンチェーン資産運用を4つの類型で整理しています。伝統金融の商品に置き換えると次のとおりです。
| 類型 | 中身 | 代表例 | 伝統金融の近いもの |
|---|---|---|---|
| 自動運用ボルト | 預けた資産をルールに沿って自動配分 | Morpho | 投資一任・ラップ口座 |
| 裁量運用 | 運用者が判断して配分を変える | 個別名の記載なし | アクティブファンド |
| オンチェーン信用 | 機関向けに資金を貸し付ける | Maple Finance | 融資・私募債 |
| 仕組み商品 | 元本と利回りを分けるなど加工 | Pendle | 仕組債 |
類型①:自動運用ボルト
自動運用ボルトは、預けた資産をスマートコントラクトがあらかじめ決めたルールで配分する類型です。運用者の判断を挟まず、条件に応じて配分先を切り替えます。
Keyrockの集計では、この類型でMorphoが約96億ドルで首位でした(2025年9月時点)。ルールがコードとして公開されるため、投資家は配分の方針を事前に確認できます。
類型②:裁量運用
裁量運用は、運用者が市場を見て配分を判断し、その執行と記録をチェーン上で行う類型です。伝統金融のアクティブファンドに近い構造です。
Keyrockの集計では、2025年の伸びを主導したのがこの類型で、年初来738%増でした。運用者の判断と、執行記録の透明性を両立させる形として残高を伸ばしています。
類型③:オンチェーン信用
オンチェーン信用は、ブロックチェーン上で資金を集め、機関や事業者に貸し付ける類型です。融資の条件と返済の記録がチェーン上に残ります。
Keyrockのレポートでは、Maple Financeが機関向けの許可制融資プールとして挙がっています。借り手を審査済みの機関に限る点で、伝統金融の私募融資に近い設計です。
類型④:仕組み商品とトークン化ファンド
仕組み商品は、利回りを生む資産を加工して別の性質を持たせる類型です。Keyrockのレポートでは、Pendleが利回り資産を元本と利回りに分割する仕組みとして挙がっています。
Keyrockの4類型とは別に、BUIDLのようなトークン化された国債ファンドやMMFも、金融機関にとって最も身近な入口です。自社が組成するなら、どの類型の何をオンチェーン化するかで、検討範囲が大きく変わります。
オンチェーン資産運用と従来型運用・RWA・STの違い
オンチェーン資産運用は、従来型の運用と比べると記録と執行の場所が違います。RWAやSTとは、そもそも指している対象が違います。
| 項目 | 従来型運用 | オンチェーン資産運用 |
|---|---|---|
| 記録の場所 | 運用会社・信託・代理人の帳簿 | ブロックチェーンの共通台帳 |
| 解約・償還の速さ | 流動性の高いファンドでも1〜2日かかる場合 | 秒単位で執行 |
| 手数料構造 | 各社の事務手数料が積み上がる | 執行の一部をコードが担う |
| 透明性 | 定期報告で開示 | 取引記録を随時確認可能 |
| 規制の枠 | 投資信託・投資一任などの既存制度 | 運用対象と提供形態で異なる |
表の5つの違いは、記録と執行の場所がチェーン上へ移ることから生まれます。
違い①:従来型運用との違い
Keyrockは、オンチェーンでは決済が日単位でなく秒単位で執行されるのに対し、流動性の高い従来型ファンドでも解約に1〜2日かかる場合があると比較しています。
速さの差は、関係者の帳簿を照合する工程が減ることから来ます。運用会社にとっては償還の速さが商品の比較軸に加わるため、販売面の競争条件も変わります。
違い②:RWAトークン化との違い
RWA(リアルワールドアセット)のトークン化は、国債・不動産・債権などの現実資産をトークンとして表すことを指します。オンチェーン資産運用は、そうしたトークンを含む資産を運用する行為のほうです。
つまり、RWAは「載せる資産」、オンチェーン資産運用は「運用の手段」という関係です。BUIDLは、米国短期国債などの現実資産を運用する持分をトークン化しており、両方の要素を持つ例にあたります。
違い③:セキュリティトークン(ST)との違い
STは、有価証券をブロックチェーン上のトークンとして発行したものです。金融庁の審議会資料では、STは「電子記録移転有価証券表示権利等」と整理され、集団投資スキーム持分などをトークン化した「電子記録移転権利」は第一項有価証券として扱われます。
国内でファンド持分をトークン化して販売すれば、それはSTとして金融商品取引法の規制を受ける有価証券になります。運用の手段と法的な区分を混同すると、規制の確認を誤ります。
金融機関・事業会社のオンチェーン資産運用の活用領域
海外の大手は、運用そのものより、資金管理・販売・担保の業務改善からオンチェーン化に入っています。
活用領域①:トークン化MMFによる待機資金の管理
BNYとGoldman Sachsは2025年7月、GS DAP上でMMFの持分を表す「ミラートークン」を扱う取り組みを始めました。公式の帳簿・記録・決済はBNYが既存の枠組みで維持し、トークンは持分の価値を表す形です。
- 主体: BNY、Goldman Sachs、初期参加の運用会社5社
- 対象: 一部のMMF
- 設計: 公式記録は既存の枠組みに残す
既存の記録を残しながらチェーンを使う段階的な設計は、待機資金を管理する企業の財務部門が導入を考えるうえで参考になります。
活用領域②:ファンド持分のトークン化と販売チャネル拡大
BlackRockはBUIDLで、ファンド持分をトークンとして発行し、事前承認済みの投資家間で24時間365日移転できるようにしました。
- 主体: BlackRock(運用)、Securitize(トークン化基盤)、BNY Mellon(保管)
- 対象: 現金・米国短期国債・レポで運用するファンド
- 特徴: 移転の時間帯の制約が外れる
国内でファンド持分をトークン化する場合は、STの発行基盤を使うのが現実的な選択肢です。ST発行基盤の整備ではProgmatが知られており、Pacific MetaもProgmatと戦略的業務提携を結んでいます。販売チャネルを広げる手段として持分のトークン化を検討することが入口になります。
活用領域③:担保管理と即時決済
Goldman Sachsは2025年7月のBNYとの共同発表で、MMF持分を表すトークンにより、担保としての利用と将来の移転のしやすさを開けるとしています。これは将来の目的として語られたもので、実施済みの取り組みではありません。
- 主体: Goldman Sachs
- 狙い: MMF持分の担保利用と移転の円滑化
- 状態: 将来の目的として表明
持分がチェーン上で即時に移せれば、担保の差し入れと差し替えにかかる時間が短くなる可能性があります。市場取引の担保を扱う金融機関にとって、検討の価値が大きい領域です。
活用領域④:ポイント・預り金の運用
ポイント事業者は、利用者から預かった残高を長く抱えています。この残高をトークン化したMMFで運用する設計も考えられます。
- 主体: ポイント事業者
- 対象: 預り残高
- 設計: ステーブルコイン化とトークン化MMFの組み合わせ
ポイント事業者が預り残高の運用を検討する場面では、残高をステーブルコイン化してトークン化MMFで運用するバックエンドとして、Pacific MetaがPoint Yield Engineを提供しています。預り残高の運用をバックエンドの仕組みとして組み込む形も、事業会社にとっての選択肢になります。
オンチェーン資産運用に関するよくある誤解
オンチェーン資産運用は新しい言葉のため、断片的な情報から誤った理解が広がりやすい分野です。代表的な誤解と実際を対比します。
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 暗号資産の値上がりで稼ぐ運用である | 国債やMMFなど伝統的な資産を運用する商品もある |
| ブロックチェーン上なら規制の対象外 | 運用対象と提供形態に応じて既存の法令が適用される |
| スマートコントラクトなら安全 | コードの誤りが損失に直結し、監査が必要 |
| 個人向けの話で金融機関には関係ない | 海外の大手運用会社・保管銀行が商品を出している |
誤解①:暗号資産の値上がりで稼ぐ運用である
オンチェーン資産運用は、暗号資産の価格上昇を狙う運用と同じ意味ではありません。BUIDLは現金・米国短期国債・レポで運用し、1トークン1ドルの安定価値を目指す商品です。
運用対象は伝統的な資産でもよく、変わるのは執行と記録の場所です。価格変動の大きい暗号資産だけを思い浮かべると、検討の範囲を狭めてしまいます。
誤解②:ブロックチェーン上なら規制の対象外
ブロックチェーンを使っても、規制の対象から外れるわけではありません。国内でファンド持分をトークン化すれば、STとして金融商品取引法の規制を受けます。
何を誰に提供するかで適用される法令が決まるため、技術の選択より先に法務の確認が要ります。個別の当てはめは、弁護士や当局への事前相談で確かめる領域です。
誤解③:スマートコントラクトなら安全
スマートコントラクトは、決められた手順を人の手を介さず実行します。ただし、コードに誤りがあれば、その誤りも正確に実行されます。
自動で動くことと安全であることは別です。公開前の監査、異常時に処理を止める仕組み、権限を持つ鍵の管理を合わせて設計する必要があります。
誤解④:個人向けの話で金融機関には関係ない
オンチェーン資産運用は、個人の投資家だけの話ではありません。BNYとGoldman Sachsの取り組みには、BlackRockやFidelity Investmentsなど大手運用会社5社が初期から参加しています。
主な担い手はすでに伝統金融の大手に広がっています。国内の金融機関にとっても、競合がどう動くかを見ておく対象です。
日本のオンチェーン資産運用の法規制上の位置づけ
日本でオンチェーン資産運用を提供する場合、運用対象と提供形態によって適用される法令が変わります。主な論点を整理します。
| 論点 | 主な適用法令 | 状態(2026年10月16日時点) |
|---|---|---|
| ファンド持分・STを発行・販売する | 金融商品取引法 | 現行制度で運用中 |
| 暗号資産で運用する | 資金決済法から金融商品取引法へ移管予定 | 改正法は成立・公布済み、移管部分は未施行 |
| ステーブルコインを使う | 資金決済法 | 改正法は2026年6月1日施行 |
規制の論点①:ファンド持分・STは金融商品取引法
国内でファンド持分をトークン化する場合、その持分は金融商品取引法上のSTとして扱われます。金融庁の審議会資料では、集団投資スキーム持分などをトークン化した「電子記録移転権利」は第一項有価証券とされています。
第一項有価証券は、株式や社債と同じ区分です。発行や販売には、有価証券としての開示や業登録の論点が伴うため、商品設計の前に整理しておく必要があります。
規制の論点②:暗号資産で運用する場合
暗号資産を運用対象にする場合は、2026年の制度改正を前提に考える必要があります。金融商品取引法等の改正法は2026年7月15日に成立し、7月23日に公布されました。
暗号資産を金融商品取引法の枠へ移す部分は、本記事の基準日時点でまだ施行されておらず、施行日も決まっていません。施行は2027年度中と見込まれています。一部の規定、たとえば無登録業者への罰則の引き上げは2026年8月12日に施行済みです。施行前と施行後で求められる手続きが変わるため、施行時期を見ながら設計を進める必要があります。
規制の論点③:ステーブルコインを使う場合の資金決済法
運用や決済にステーブルコインを使う場合は、資金決済法の論点が加わります。日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。
改正資金決済法は2025年6月に成立し、2026年6月1日に施行されました。電子決済手段に関する制度の整備や、ステーブルコインの裏付け資産の厳格な管理が柱です。使うステーブルコインがどの区分に当たるかを確認することが、運用設計の前提になります。
本章の内容は2026年10月16日時点の公表資料に基づく一般的な整理です。基準日以降の改正や政令の制定で内容が変わる場合があります。個別の事業スキームが登録や届出を要するかの判断は、弁護士や当局への事前相談で確認してください。
オンチェーン資産運用のリスクと設計上の注意点
オンチェーン資産運用のリスクは、技術・取引相手・制度の3つの面から生じます。損失の形と、対策を担う部門を対応づけておくと判断が止まりません。
| リスク | 読者が被る損失の形 | 主な担当部門 |
|---|---|---|
| スマートコントラクトの脆弱性 | 資産の流出・処理の停止 | システム部門 |
| オラクル・価格情報の誤り | 誤った価格での清算・評価 | システム部門・リスク管理 |
| カウンターパーティーと準備資産 | 発行体や保管者の破綻による毀損 | リスク管理・法務 |
| 流動性と規制の断片化 | 換金の遅れ・国ごとの対応負担 | 事業部門・法務 |
リスク①:スマートコントラクトの脆弱性
スマートコントラクトに誤りがあると、資産の流出や処理の停止が起き、投資家への償還ができなくなります。一度公開したコードは簡単には書き換えられないため、公開前の対策が中心になります。
対策は、第三者によるコード監査、異常時に処理を止める機能、権限を持つ鍵の分散管理の3つを組み合わせることです。
リスク②:オラクル・価格情報の誤り
オラクルが誤った価格を届けると、スマートコントラクトはその価格で清算や評価を実行します。投資家は本来より不利な価格で持分を処理される損失を負います。
複数のデータ提供元を使う、急な価格の乖離を検知したら処理を止める、といった設計が対策になります。価格の誤りに誰が気づき、誰が止めるかを運用規程で決めておく必要があります。
リスク③:カウンターパーティーと準備資産
トークン化ファンドでは、発行体・保管者・トークン化基盤の各社が関わります。いずれかが破綻したり、裏付け資産の管理を誤ったりすると、トークンの価値が損なわれます。
BUIDLが保管銀行のBNY Mellonを置いているように、誰が資産を保管し、その資産がどう分別されているかは商品の信頼の土台です。準備資産の構成と開示の頻度も確認項目になります。
リスク④:流動性と規制の断片化
オンチェーンの持分は即時に移せても、買い手がいなければ換金はできません。チェーンごと、商品ごとに取引の場が分かれると、売りたいときに売れない損失が生じます。
規制も国ごとに異なり、同じ商品でも提供先の国によって必要な手続きが変わります。国内向けと海外向けで設計を分けるかを早い段階で決めておくと、後の手戻りが減ります。
オンチェーン資産運用の導入検討の進め方
導入は、ユースケースと類型を決め、規制・技術・事業性を並行で検証し、PoCの結果で事業化を判断する順に進めます。
- ユースケースと類型の決定。主担当は事業部門、関与は経営企画。期間の目安は1〜2か月。完了の判定は「対象資産・類型・提供先が1枚に書けている」
- 規制・登録の要否の確認。主担当は法務、関与はコンプライアンス。期間の目安は1〜3か月。完了の判定は「必要な登録・届出と当局相談の要否が決まっている」
- 技術とカストディの設計。主担当はシステム部門、関与はリスク管理。期間の目安は2〜3か月。完了の判定は「チェーン・鍵管理・監査の方式が決まっている」
- 会計・税務の整理。主担当は経理、関与は監査法人。期間の目安は1〜2か月。完了の判定は「会計処理の方針について監査法人と合意がある」
- PoCと事業化判断。主担当は事業部門、関与は全部門。期間の目安は3〜6か月。完了の判定は「事前に決めた判断基準で事業化の可否を決めた」
進め方①:ユースケースと類型の決定
最初に決めるのは、何をオンチェーン化するかです。待機資金の管理、ファンドの販売、担保の差し入れ、預り金の運用のどれを目的にするかで、必要な類型と関わる部門が変わります。
目的が決まれば、トークン化MMFを使う側に回るのか、自社でファンドを組成するのかも決まります。対象資産・類型・提供先を1枚に書ける状態にしてから次へ進むと、法務とシステムの検討がぶれません。
進め方②:規制・技術・事業性の並行検証とPoC
規制の確認、技術の設計、事業性の試算は、順番に進めると時間がかかります。3つを並行で走らせ、互いの前提を早めにすり合わせるほうが手戻りが減ります。
PoCは、試しに小さく作ること自体を目的にしません。事業化を判断するための材料を集める場として設計し、償還の速さ、運用コスト、監査の指摘件数など、判断基準を先に決めておきます。基準のないPoCは、終わっても次の判断につながりません。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| ユースケースと対象類型 | 目的・対象資産・提供先 | 事業部門・経営企画 | 1枚の企画書で説明できる |
| 規制・登録の要否 | 適用法令と必要な登録・届出 | 法務・金融庁の公表資料 | 当局相談の要否が決まっている |
| カストディと鍵管理 | 保管者・鍵の保管方式・承認手順 | システム部門・リスク管理 | 方式と責任分担が文書化されている |
| 会計・税務 | トークン化持分の会計処理 | 経理・監査法人 | 処理方針の合意がある |
| スマートコントラクト監査とリスク管理体制 | 監査の範囲・異常時の停止手順 | システム部門・リスク管理 | 監査計画と停止手順が承認されている |
オンチェーン資産運用の検討は、どの類型を選ぶか、どの法令が当てはまるか、鍵を誰が持つかが互いに影響し合います。類型を変えれば規制の論点が変わり、規制の論点が変わればカストディの設計も変わるため、事業・法務・システムのどれか1部門だけでは決めきれません。トークン化の進め方は支援内容にまとめています。
Pacific Metaのサービス
セキュリティトークンによる資金調達を検討段階から支援します。
スキーム選定・規制対応・パートナー選定まで、STO・デジタル証券の発行検討を伴走します。
STO支援サービスの詳細を見るよくある質問
個人でもオンチェーン資産運用はできますか
ブロックチェーン上の運用サービスには個人が使えるものもありますが、本記事で取り上げたBUIDLのように、事前承認済みの投資家だけが保有できる商品もあります。国内で使う場合は、金融庁に登録された事業者が提供しているかを確認することが前提です。
トークン化MMFは日本で買えますか
本記事の基準日時点で、海外のトークン化MMFを国内の個人が購入できるかは、商品ごとの販売対象と国内の登録状況によります。BUIDLは事前承認済みの投資家向けに設計された商品です。国内でファンド持分をトークン化して販売する場合は、STとして金融商品取引法の規制を受けます。
オンチェーン資産運用の会計処理はどうなりますか
会計処理は、保有するトークンが有価証券にあたるのか、暗号資産にあたるのかといった法的な性質によって変わります。同じ「トークン」でも扱いが異なるため、導入前に監査法人と処理方針を合意しておくことが確実です。
オンチェーン資産運用のまとめと次の一歩
オンチェーン資産運用は、運用の執行と記録の場所をブロックチェーン上へ移す仕組みです。Keyrockの集計では残高が350億ドル超に達し、BlackRock、BNY、Goldman Sachsなど伝統金融の大手が商品と基盤を出し始めています。
日本では、運用対象と提供形態によって金融商品取引法と資金決済法のどちらが関わるかが変わり、暗号資産の移管は施行前の段階にあります。類型と提供先を決め、規制確認を最初の工程に置くことが、検討を止めないための進め方です。
自社の商品や資金管理のどこからオンチェーン化するかは、規制の当てはめとカストディの設計を同時に見ないと決められません。施行日が決まっていない制度を前提に計画を立てる場面では、社内の情報だけで判断するのが難しい論点が残ります。