本文へスキップ
ブロックチェーン総研by Pacific Meta

犯収法とは?特定事業者の義務と2027年改正への企業対応

犯罪収益移転防止法(犯収法)とは、金融機関や暗号資産交換業者などの特定事業者に、取引時確認・記録の保存・疑わしい取引の届出を義務づける法律です。業法ではなく業種横断の法律で、列挙された業種に当たれば規模を問わず義務がかかります。

本人確認は、どう変わる?
従来は書類の提示や画像の送信で本人を確認していた。2027年4月1日施行予定の改正後はICチップ情報の読取りに原則一本化される。

本人確認の方法は、2027年4月1日施行予定の施行規則改正で大きく変わります。金融庁は2026年10月9日の注意喚起で、本人確認書類の画像を送ってもらう方法が廃止され、ICチップ情報の読取りに原則一本化されると示しました。暗号資産や電子決済手段の事業に参入する企業は、改正後の確認方法と移転時の通知義務を前提に体制を組むことになります。AIエージェントが支払いを担う取引が広がると、誰の取引として確認し記録するかも実務上の論点になります。

  • 列挙業種に当たれば規模を問わず犯収法の義務が発生
  • 義務は取引時確認・確認記録・取引記録・届出・体制整備の5区分
  • 確認記録と取引記録はいずれも7年間の保存義務
  • 2027年4月1日施行予定の改正で書類画像の送信方式が廃止
  • 暗号資産と電子決済手段の移転時は相手先への通知義務
監修:ブロックチェーン総研編集部

株式会社Pacific Metaが運営する編集チームです。ステーブルコイン、RWA(リアルワールドアセット)、セキュリティトークン、NFTなどのトークン活用や、オンチェーン金融、AI×ブロックチェーン領域の事業開発・実装、暗号資産の基礎知識と国内取引所の使い方まで、ブロックチェーン事業の支援で得た知見をもとに記事の企画・執筆・監修を行っています。編集部や運営会社の詳細は公式サイトと編集方針をご覧ください。

犯収法とは何を定めた法律か

犯収法の正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)です。法令上の略称として「犯罪収益移転防止法」と「犯収法」が登録されています。

特定事業者が確認、保存、届出を行い、犯罪収益の移転とテロ資金供与を防ぐ流れ。
犯収法が求める措置と目的

目的は、特定事業者に顧客の本人特定事項等の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出などを行わせ、犯罪による収益の移転とテロ資金供与を防ぐことです。法の概要資料は警察庁のJAFIC(犯罪収益移転防止対策室)が公表しています。

国際基準となっているのは、FATFが1990年に発表し2012年に改訂した「40の勧告」です。日本の犯収法も、平成23年改正(2013年4月1日全面施行)をはじめ、この基準に沿って改正が重ねられてきました。

所管業法とは別に、犯収法は業種を横断してかかります。そのため新規事業の検討では、業法上の許認可と並行して犯収法上の立場を確かめる必要があります。

犯収法の特定事業者に自社は当たるか

特定事業者とは、犯収法第2条第2項に列挙された、取引時確認などの義務を負う事業者のことです。列挙は第1号から第49号まであり、金融業だけでなく不動産・貴金属・士業まで含みます。主な業種は次の表のとおりです。

金融、決済、暗号資産と電子決済手段、非金融の事業者、士業に分かれる特定事業者の範囲。
特定事業者の主な業種区分
業種区分代表例
預金・保険・証券銀行等の預金取扱機関、保険会社、金融商品取引業者、信託会社
貸付・リース貸金業者、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者
決済・送金資金移動業者、前払式支払手段発行者(届出をした者)、両替業者
暗号資産・電子決済手段暗号資産交換業者、電子決済手段等取引業者
非金融の事業者宅地建物取引業者、貴金属等の売買業者、郵便物受取・電話受付代行業者、カジノ事業者
士業弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士

電子決済手段等取引業者は、令和4年6月改正(2023年6月1日全面施行)で特定事業者に追加されました。同じ改正で、高額電子移転可能型前払式支払手段発行者や電子決済等取扱業者等も加わっています。

自社が当たるかは、次の順で確認すると整理しやすくなります。

  1. 予定する業務に、資金決済法などの登録・届出が要る業務が含まれるか
  2. 自社の業種が第2条第2項の列挙に入っているか
  3. その業種で取引時確認の対象となる取引を行うか

資金決済法上の登録が必要な業務を始めると、同時に犯収法の特定事業者にもなるケースが多くあります。ただし事業スキームごとの当てはめは個別判断で、弁護士や所管行政庁への確認が前提です。

特定事業者に課される犯収法の義務

特定事業者の義務は、第4条・第6条・第7条・第8条・第11条の5区分です。次の表では、第4条のうちハイリスク取引の確認を別の行に分けています。

取引時確認、確認記録、取引記録、疑わしい取引の届出、体制整備の5つの義務と条文。
特定事業者の義務の5区分
義務中身保存期間・期限条文
取引時確認本人特定事項、取引の目的、職業(法人は事業内容)、法人の実質的支配者の4項目取引の際第4条第1項
ハイリスク取引の確認上記に加え、政令で定める額を超える財産の移転を伴う場合は資産・収入の状況取引の際第4条第2項
確認記録の作成・保存取引時確認の内容を記録直ちに作成し、契約終了日等から7年間第6条
取引記録等の作成・保存特定業務の取引を記録(少額取引等の除外あり)直ちに作成し、取引日から7年間第7条
疑わしい取引の届出収受した財産が犯罪収益である疑い等がある場合速やかに行政庁へ第8条
体制整備の措置情報を最新に保つ措置、教育訓練、規程、統括管理者、危険度調査書を勘案した措置継続的に(努力義務を含む)第11条

本人特定事項は、自然人なら氏名・住居・生年月日、法人なら名称と本店等の所在地です。弁護士は第4条の対象外で、第12条の別規定で扱われます。

届出の規模感として、疑わしい取引の通知件数は2025年に101万9,405件で過去最多でした(警察庁JAFIC年次報告書)。2024年は84万9,861件でした。

義務は確認だけで終わらず、記録・届出・体制まで一体で運用を設計する必要があります。確認の方法を決めても、記録の保存先や届出の判断手順が無ければ制度上の対応は完了しません。

犯収法の施行規則改正のステータス

犯収法は、ここ数年で暗号資産・電子決済手段と本人確認の方法を中心に改正が続いています。状態語を区別すると次のとおりです。

2023年6月の通知義務の施行から2027年4月の本人確認方法の見直しまでの改正。
犯収法の主な改正と施行日
改正主な中身状態発行機関
令和4年6月改正電子決済手段等取引業者の追加、電子決済手段の移転に係る通知義務2023年6月1日全面施行警察庁
令和4年12月改正(2023年施行分)暗号資産の移転に係る通知義務、外国所在の暗号資産交換業者との契約時確認2023年6月1日施行警察庁
令和4年12月改正(士業者関係)司法書士・行政書士・公認会計士・税理士の取引目的等の確認、一部士業の疑わしい取引の届出2024年4月1日施行(全面施行)警察庁
施行規則の一部改正命令(令和8年府省令第1号)本人確認方法の見直し公布済み、2027年4月1日施行予定警察庁・金融庁ほか

2027年4月1日には、預貯金取扱事業者の間で不正利用口座の情報を共有する施行規則改正も施行される予定です(金融庁2026年6月26日公表。預貯金取扱事業者の努力義務)。

施行日が確定しているため、そこから逆算してシステム改修や外部ベンダーとの調整の時期を決められます。金融庁は施行日を待たない前倒しの対応も金融機関等に求めています。

2027年改正で本人確認方式はどう変わるか

改正の中心は、書類の見た目ではなくICチップの情報で本人を確認する方向への移行です。金融庁は、本人確認書類の画像送信を受ける方法が廃止され、ICチップ情報の読取りに原則一本化されると示しています。

書類画像の送信、IC付き書類の対面確認、公的個人認証の扱いを改正前後で比べる。
改正前後の本人確認の方法

パブリックコメント時の改正案概要では、対面の確認も書類の種類ごとに次のように整理されました。

本人確認書類の種類改正後の対面での確認方法
ICチップ付きの写真付き書類提示に加えてICチップ情報を読み取る
ICチップの無い写真付き書類(身体障害者手帳等)提示に加えて取引関係文書を転送不要郵便物等で送る
写真の無いIC付き書類(16歳未満の在留カード等)提示、IC読取り、転送不要郵便を組み合わせる
IC・写真とも無い書類住民票の写しなど偽造対策のある書類に限り、提示と転送不要郵便を組み合わせる
非居住の外国人等写真付き書類の提示を受ける現行の方法を存置

マイナンバーカードの電子証明書を使う公的個人認証は、改正後の規則でも本人特定事項の確認方法として残り、対面でも使えます(警察庁Q&A)。改正で規則の号の記号が付け替わるため、社内資料では記号ではなく方法の中身で管理すると混乱を避けられます。

オンラインの本人確認(eKYC)を外部ベンダーに委ねている企業も、提供中の方式が改正後の方法に対応しているかを施行前に確かめる必要があります。

暗号資産・ステーブルコイン事業で上乗せされる犯収法対応

トラベルルールとは、暗号資産や電子決済手段を他の事業者の顧客へ移すときに、送る側と受け取る側の情報を移転先の事業者へ通知する義務のことです。犯収法では業種別の上乗せとして定められています。

依頼顧客の移転依頼を受けた事業者が、依頼顧客と受取顧客の情報を移転先の事業者へ通知する。
移転時の通知義務の流れ
  • 電子決済手段の移転(第10条の3): 電子決済手段等取引業者が、依頼顧客と受取顧客の本人特定事項等を移転先へ通知する
  • 暗号資産の移転(第10条の5): 暗号資産交換業者が、依頼顧客と受取顧客に係る情報を移転先へ通知する
  • 外国事業者との契約時確認(第10条の2・第10条の4): 外国所在の同種事業者と継続的な移転の契約を結ぶとき、相手方が取引時確認等に相当する措置を行う体制かを確かめる

通知の仕組みは移転先の事業者と接続して初めて機能するため、相手先の体制を調べる作業と一体で進みます。AML関連の取り組みでは、Pacific MetaもEllipticの日本導入を支援しています。

AIエージェントが送金の依頼主体になる場面が増えると、その取引を誰の取引として確認し記録するかが実務上の論点になります。現行の犯収法は顧客の確認と記録を前提に組まれているため、エージェント経由の決済を設計する企業も同じ枠組みで整理を始めることになります。

暗号資産・ステーブルコインの事業では、本人確認に加えて移転のたびの情報通知と相手先事業者の管理が運用負荷の中心になります。

犯収法対応の進め方とチェックリスト

着手は、自社の立場の確認から始めて、確認・記録・届出・体制の順に設計します。

該当の判定、確認方法の決定、記録と届出の設計、体制の整備の順に進める。
犯収法対応の着手順
  1. 予定する業務が特定事業者に当たるかを判定し、根拠条文を記録する
  2. 自社の取引に潜む危険度を評価し、リスク評価書にまとめる
  3. 取引時確認の方法と、eKYCを使う場合のベンダーを決める
  4. 確認記録と取引記録の保存先・保存期間・検索方法を設計する
  5. 疑わしい取引の検知基準と、届出までの社内判断フローを定める
  6. 規程の作成、統括管理者の選任、従業員の研修と内部監査を整える

暗号資産・電子決済手段を扱う場合は、3と4に通知義務と移転先事業者の確認を加えます。部門ごとの確認事項は次の表で整理できます。

検討の論点確認すること確認先(一次情報)完了の判定
該当の判定予定業務が第2条第2項のどの号に当たるかe-Gov法令検索の犯収法本文該当号と根拠を記した社内メモが法務の承認を得ている
確認方法2027年4月1日以降の方法に対応した確認手段か警察庁の改正Q&A、金融庁の注意喚起採用する方法ごとに対応状況をベンダーと書面で合意している
記録の保存確認記録・取引記録を7年間保存し取り出せるか犯収法第6条・第7条保存期間と検索手順がシステム要件書に明記されている
届出の判断疑わしい取引の検知基準と届出の担当者犯収法第8条、JAFIC公表資料検知から届出までのフローが規程に定められ担当者が決まっている
移転時の通知通知項目と移転先事業者の確認手順犯収法第10条の2〜第10条の5通知項目の送受信テストと相手先確認の記録様式が完成している
体制の整備規程・統括管理者・研修・監査の有無犯収法第11条規程が承認され、統括管理者の任命と初回研修が完了している

確認方法の選定、通知義務への対応、記録の設計は、法務部門の判断とシステム部門の実装が同時に決まらないと前に進みません。改正の施行日が固定されているため、どちらか一方の検討を待つ間に準備期間が短くなることもあります。ステーブルコインや電子決済手段を扱う事業で、規制対応と実装をまとめて検討する場合の進め方はステーブルコイン事業の支援内容で確認できます。

Pacific Metaのサービス

ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。

自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。

ステーブルコイン導入支援の詳細を見る

実務でつまずきやすい犯収法の論点

条文を読んだだけでは見落としやすい論点を4つ挙げます。

法人顧客、既存顧客、外部委託、疑わしい取引の判断の4つの観点で確認する。
見落としやすい4つの論点

論点①:法人顧客の実質的支配者の確認

法人との取引では、法人の名称や所在地に加えて、実質的支配者の本人特定事項の確認が取引時確認の4項目に含まれます。登記の情報だけでは支配の実態が分からないこともあり、確認の手順と記録の残し方を事前に決めておく必要があります。

法人顧客の確認で求められる項目と確認の対象、残す記録を並べる。
法人顧客の取引時確認の項目

論点②:改正前に確認した顧客の扱い

警察庁Q&Aによると、改正前に行った取引時確認の記録があれば、施行後の取引で「確認済み」として扱えます。既存顧客を一斉に確認し直す必要はありません。一方で、施行日以降に新しく行う取引時確認は改正後の方法で行います。

改正前に確認した顧客と施行日以降に新たに確認する顧客の扱いを並べる。
改正前後の顧客ごとの確認

論点③:外部委託しても義務は事業者に残る

eKYCや取引監視を外部のサービスに任せても、取引時確認や記録保存の義務を負うのは特定事業者自身です。委託先の方式変更や障害が自社の義務違反につながるため、委託先の管理を自社の体制整備に組み込む必要があります。

eKYCや取引監視の外部委託で誤りやすい点と実際を対にする。
外部委託と義務の所在

論点④:疑わしい取引の判断基準

届出の要否は、収受した財産が犯罪収益である疑いがあるかという事業者の判断に委ねられています。通知件数が2025年に過去最多となったなかで、自社の取引特性に合わせた検知基準と判断記録を残しておくことが、後で判断の妥当性を説明する材料になります。

疑わしい取引の届出件数と、事業者が整える検知基準、判断記録、担当者の3点。
届出の判断で残すもの

犯収法に違反した場合の是正命令と罰則

犯収法の義務違反は、行政庁による監督から始まります。監督の手段は4種類です。

報告徴求と立入検査、指導と勧告、是正命令、是正命令違反の罰則の順に進む。
監督から罰則までの段階
  • 報告徴求(第15条)
  • 立入検査(第16条)
  • 指導・助言・勧告(第17条)
  • 是正命令(第18条)

是正命令は、取引時確認(第4条)、記録の作成保存(第6条・第7条)、疑わしい取引の届出(第8条)、移転時の通知(第10条の3・第10条の5)などの違反が対象です。

是正命令に違反すると、第33条により2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科となります。両罰規定(第35条第2号)により、法人には3億円以下の罰金が科されます。

別に、本人特定事項を隠す目的で顧客が虚偽の申告をした場合の罰則(第25条)もあり、こちらは顧客側に向けた規定です。義務違反は直ちに刑事罰になるわけではありませんが、是正命令への違反と業法上の行政処分が事業の継続を左右します。

よくある質問

個人事業主でも犯収法の対象になりますか

犯収法の特定事業者は、法人か個人かではなく業種で決まります。第2条第2項に列挙された業種を営んでいれば、個人でも義務を負う可能性があります。列挙には宅地建物取引業者や士業も含まれます。

確認記録は何年保存すればよいですか

確認記録は契約が終了した日等から7年間、取引記録は取引が行われた日から7年間の保存が必要です。起算日が異なるため、システム上も別々に管理します。

eKYCベンダーに委託すれば義務は移りますか

義務は委託先に移らず、特定事業者に残ります。ベンダーが2027年4月1日以降の確認方法に対応しているかは、自社の責任で確かめる必要があります。

既存の顧客も改正後に確認し直す必要がありますか

改正前の取引時確認の記録があれば、施行後も確認済みとして扱えます。新規の顧客や、施行日以降に新たに取引時確認を行う場面では改正後の方法を使います。

本記事は2026年10月16日時点の法令と公表資料にもとづく一般的な整理です。個別の事業スキームが特定事業者に当たるか、どの義務がかかるかの判断は、弁護士や所管行政庁への事前相談で確認してください。基準日以降の法令改正や公表資料の更新により、内容が変わる可能性があります。

犯収法対応のまとめと次の一歩

犯収法は、列挙業種に当たる事業者に取引時確認・記録保存・届出・体制整備を一体で求める法律です。資金決済法上の登録が必要な新規事業では、同時にこの義務を負う立場になるケースが多くあります。

義務の一体運用、2027年の本人確認方法の見直し、暗号資産事業の通知義務の3点と、着手の順序。
犯収法対応の要点

2027年4月1日の施行規則改正で本人確認はICチップの読取りを中心とする方法へ移り、暗号資産や電子決済手段の事業では、2023年6月から施行されている移転時の通知義務への対応も並行して求められます。施行日から逆算し、該当判定と確認方法の選定を先に進めます。

確認方法の選定と通知義務への対応は、規制の解釈とシステムの実装が同時に決まらないと進みません。自社の事業計画に照らして、どこまでを社内で決め、どこで外部の知見を使うかを早めに切り分けます。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言・投資助言ではありません。暗号資産には価格変動リスクがあり、投資元本を失う可能性があります。個別の判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。

記事を検索する