バイナンス、WSJを名誉毀損で提訴:ニューヨーク州での訴訟がもたらす法的リスク

世界最大級の暗号資産取引所であるバイナンス(Binance)が、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の発行元であるダウ・ジョーンズ社を相手取り、名誉毀損訴訟を提起しました。この訴訟はニューヨーク州南部連邦地方裁判所で行われていますが、同州は報道機関に対する法的保護が極めて厚い地域として知られており、バイナンス側にとってのリスクも指摘されています。

ニューヨーク州の報道保護法と早期棄却のリスク

バイナンス、WSJを名誉毀損で提訴:ニューヨーク州での訴訟がもたらす法的リスク

ニューヨーク州には、報道の自由を守るための強力な法的枠組みが存在します。特に「Anti-SLAPP(スラップ訴訟防止法)」と呼ばれる規定は、有力な組織が訴訟を通じて批判的な報道を封じ込めることを防ぐ目的で制定されています。

この法律により、被告側(本件ではWSJ)は訴訟の早い段階でその正当性を争い、裁判を早期に棄却させる権利を有しています。もし裁判所がバイナンス側の訴えを不当、あるいは根拠不十分と判断した場合、バイナンスはWSJ側の多額の弁護士費用を負担する義務が生じる可能性があります。専門家の間では、あえて報道機関に有利なニューヨーク州を戦いの場に選んだバイナンスの戦略について、自社の潔白を証明する自信の表れとする見方がある一方で、法的リスクが高いとの指摘もなされています。

証拠開示手続き(ディスカバリー)に伴う内部情報の流出懸念

訴訟が継続された場合、バイナンスにとって大きなリスクとなるのが「ディスカバリー(証拠開示)」の手続きです。このプロセスでは、WSJ側の弁護士が報道の正確性を検証するために、バイナンスの内部文書や通信記録、コンプライアンスログ、経営陣のメールなどの開示を求める広範な権限を持ちます。

現在、米司法省(DOJ)がバイナンスを通じたイランの制裁回避の可能性について調査を進めていると報じられており、訴訟を通じて開示された内部資料が、規制当局による調査の「ロードマップ」として利用される懸念があります。バイナンス側は、WSJが報じた「制裁対象に関連する17億ドルの資金移動」や「内部調査の中止」といった内容は事実無根であると主張していますが、法廷での証拠提示が同社のコンプライアンス実態を白日の下にさらすことになります。

提訴の背景とバイナンス側の主張

本件の争点となっているのは、WSJが2026年2月23日に公開した記事です。この記事では、バイナンスがイランに関連する不適切な取引を検知した内部調査員を停職・解雇し、調査を打ち切ったと報じられました。

これに対しバイナンスは、当該記事が同社の評判を不当に傷つけ、政府当局による不必要な調査を誘発したと主張しています。同社は2023年に反マネーロンダリング(AML)および制裁違反で43億ドルの罰金を支払うことで米当局と合意しており、現在は独立した監査人の監視下にあります。バイナンス側は、現在のコンプライアンス体制は大幅に強化されており、制裁に関連するリスクへの露出も劇的に減少していると説明しています。今回の提訴は、ユーザーやパートナーからの信頼を守るための「必要な措置」であるとしています。

ポイント

  • バイナンスは、イラン関連の制裁回避を報じたWSJの記事を「虚偽で名誉毀損にあたる」としてニューヨーク州で提訴しました。
  • ニューヨーク州は報道機関の保護(Anti-SLAPP法)が非常に強力であり、敗訴した場合にはバイナンスが多額の訴訟費用を負担するリスクがあります。
  • 証拠開示手続き(ディスカバリー)を通じて、バイナンスの内部コンプライアンス資料が外部に公開される可能性があり、規制当局の調査に影響を与える可能性が注目されます。
  • バイナンス側は、2023年の当局との和解以降、コンプライアンス体制を大幅に改善したと主張しており、本訴訟を信頼回復のための重要なステップと位置づけています。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

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