OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏らが手がけるIDプロジェクト「World(ワールド)」は、2026年4月20日、東京大学の松尾・岩澤研究室との産学連携を発表しました。この提携は、AIの普及によってオンライン上での人間とAIの区別が困難になる中、実在する人間であることを証明するデジタルID基盤の構築を目的としています。日本国内初の学術提携として、匿名化マルチパーティ計算(AMPC)領域での共同研究や、世界で5番目となるノードパートナーとしての参画が柱となります。
国内初の学術提携と匿名化技術の共同研究
今回の提携により、東京大学は米カリフォルニア大学バークレー校などに続く、世界で5番目のノードパートナーとしてWorldのネットワークに加わります。主な協力分野は、匿名化マルチパーティ計算(複数の参加者が各自のデータを秘匿したまま計算を行う技術)の領域です。
プロジェクトのアプリ開発を担うTools for Humanity(TFH)の日本代表、牧野友衛氏によれば、今回の提携は2024年にTFHのアレックス・ブラニアCEOが松尾豊教授を訪問したことがきっかけとなりました。AI時代における人間証明の信頼性を確保するために、学術的な知見を取り入れることが重要視されています。
日本のAI研究の第一人者である松尾教授は、生成AIやAIエージェントの進展により、画面の向こう側が人間かAIか判別できない状況が現実になっていると指摘しています。このような背景から、グローバルに通用する人間証明の仕組みは不可欠であり、今回の連携は技術を安心して活用するための基盤として意義が大きいと述べています。
ブロックチェーンとゼロ知識証明を活用した人間証明の仕組み
Worldは、専用デバイス「Orb(オーブ)」を用いて個人の虹彩(目の組織)を認証することで、一意性を検証し「World ID」を発行します。この識別子により、ユーザーは匿名性を保ちながら「実在する人間であること」を証明できます。
このプロジェクトにおいて、ブロックチェーンは認証や暗号資産「ワールドコイン(WLD)」の発行を支える前提的なインフラとして位置づけられています。牧野氏と松尾氏の両名は、ブロックチェーンをすでに社会インフラの一部として普及した技術であるとの認識を示しています。
また、プライバシーを保護しながら本人確認を行うために「ゼロ知識証明(自分の持っている情報を明かさずに、その情報が正しいことを相手に証明する暗号技術)」が活用されています。こうした技術基盤は、マッチングアプリ「Tinder」との連携や、AIエージェントによる決済など、具体的なサービスへの応用が進められています。
日本国内での普及状況と今後の展望
日本国内において、認証に必要なデバイスであるOrbは、東京や神奈川を中心に約200カ所に設置されています。ユーザーは初回に限り、設置場所へ出向いて撮影を行うことでWorld IDを取得できます。
プロジェクト全体では技術の社会実装が進んでおり、2026年3月にはAIエージェント向けの人間証明ツールキットがリリースされたほか、4月にはWLDトークンのアンロック速度の調整が行われるなど、エコシステムの整備が継続されています。松尾教授は、日本での取り組みがAIとブロックチェーンが社会基盤として統合される初期事例になることに期待を寄せています。
ポイント
- サム・アルトマン氏が手掛ける「World」が、東京大学の松尾・岩澤研究室と日本初の学術提携を締結しました。
- 東京大学は世界で5番目のノードパートナーとなり、匿名化マルチパーティ計算(AMPC)などの領域で協力します。
- AIによるなりすまし対策として、虹彩認証を用いた「World ID」による人間証明の普及を目指しています。
- ブロックチェーンやゼロ知識証明を基盤技術として採用しており、Tinderなどの外部サービスとの連携も開始されています。
- AIエージェントの進展に伴い、人間とAIを区別するインフラとしての重要性が高まると見られています。