米国裁判所、Arbitrumによる7,100万ドルの資金回収を差し止め——北朝鮮関連の過去の判決が障壁に

Arbitrum(イーサリアムのレイヤー2ネットワーク)が、KelpDAOのハッキング被害を受けて凍結した7,100万ドル相当の資産に対し、米国裁判所が放出を禁止する命令を下しました。この命令は、2015年に北朝鮮に対して下された過去の判決に基づき、北朝鮮に関連する被害者らが資産の差し押さえを求めていることに関連しています。ハッキング被害者への補償を目指していたArbitrumのガバナンスプロセスは、この法的介入により予期せぬ困難に直面しています。

KelpDAOハックとArbitrumによる緊急対応の経緯

米国裁判所、Arbitrumによる7,100万ドルの資金回収を差し止め——北朝鮮関連の過去の判決が障壁に

2026年4月18日、リキッドステーキングプロトコルであるKelpDAOがハッキングを受け、約2億9,200万ドル相当の資産が流出しました。この攻撃は、北朝鮮の国家支援を受けるハッカー集団「Lazarus Group(ラザルス・グループ)」によるものとされています。

これに対し、ArbitrumのSecurity Council(緊急時にネットワークの安全を確保する権限を持つ、選出されたメンバーによる委員会)は、緊急権限を行使してハッカーに関連するアドレスから30,766 ETH(約7,100万ドル)を凍結し、中間ウォレットに移動させました。この措置は、流出した資金の約25%を確保し、DAO(分散型自律組織)の投票を通じて被害者への返済に充てることを目的としていました。

米国裁判所による差し止め命令と2015年の判決

凍結された資金の分配についてArbitrumのDAOで議論が進められていた中、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所が差し止め命令を発行しました。この命令の背景には、2000年に起きた北朝鮮による拉致事件(金東植牧師の事件など)に関連し、2015年に北朝鮮に対して下された損害賠償判決があります。

判決に基づく債権を持つ被害者側の弁護士は、凍結された資産が北朝鮮に関連するものであると主張し、過去の判決に基づく債権回収の対象に含めるよう求めています。この法的措置により、本来KelpDAOのユーザー補償に充てられるはずだった資金が、法廷での争いに巻き込まれる形となりました。

プロトコルのガバナンスと法的リスクの交差

今回の事態は、ブロックチェーンのガバナンスと既存の法制度が衝突するケースとして注目されています。ArbitrumのSecurity Councilが緊急権限を用いて資金を凍結したことで、結果として米国の裁判所が介入可能な「差し押さえ対象の資産」が特定されやすくなったという側面があります。

オンチェーンのセキュリティ専門家からは、今回のハッキングの直接的な被害者よりも、過去の判決に基づく債権者が優先される可能性について懸念の声が上がっています。ネットワークの分散性を守るための議論と、法的な資産回収の要請がどのように折り合いをつけるか、今後の法廷での判断がWeb3業界の資金回収のあり方に大きな影響を与える可能性があります。

ポイント

  • ArbitrumがKelpDAOのハッキング被害から回収・凍結した30,766 ETH(約7,100万ドル)の放出が、米国裁判所により差し止められました。
  • 2015年に北朝鮮に対して下された過去の損害賠償判決を持つ債権者が、この資金の差し押さえを求めています。
  • この法的介入により、KelpDAOの被害ユーザーへの補償を目的としたArbitrum DAOの計画が停滞しています。
  • ネットワークの緊急権限による資金凍結が、結果として法的な差し押さえの対象を生むという、Web3特有の法的リスクが浮き彫りになりました。
  • 資産の最終的な帰属先が、現在のハッキング被害者か過去の判決債権者か、法廷での判断が注目されます。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

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