イランにおいて、軍事的緊張と国際的な経済制裁による孤立が深まる中、ビットコイン(BTC)を中心とした暗号資産(仮想通貨)が実用的な経済ツールとして重要な役割を果たしています。2026年5月4日に発生したホルムズ海峡付近での軍事的事案を機に、同国は国際市場へのアクセスを維持するため、暗号資産を用いた独自の取引メカニズムを強化していると見られます。法定通貨や石油取引が制限される中、ブロックチェーン技術が国家経済の生命線となっている現状は、Web3業界にとっても無視できない地政学的リスクと技術的側面を浮き彫りにしています。
緊張高まるホルムズ海峡と「暗号資産通行料」の運用
2026年5月4日、イランはホルムズ海峡付近で米海軍艦艇に対してミサイルを発射したと主張しました。米国側はこの攻撃を否定していますが、この出来事によりイランに対する国際的な圧力は一段と強まっています。こうした金融的・軍事的な孤立が進む中で、イランは「テヘラン・トールブース」と呼ばれる独自の通行料徴収体制を運用しているとされています。
このシステムは2026年3月末に明文化されたものとされており、ホルムズ海峡を通過する船舶に対し、積載された石油1バレルあたり1ドル相当のビットコイン等による支払いを要求するものです。ビットコインが選ばれている主な理由は、その検閲耐性(政府や銀行などの第三者が取引を差し押さえたり停止したりすることが困難な特性)にあります。これにより、制裁下にあっても没収のリスクを避けながら国際的な決済を行うことが可能になっていると見られます。
制裁回避の手段としてのビットコインとステーブルコインの使い分け
イランの暗号資産戦略は、単なる決済手段に留まりません。同国は余剰エネルギーを利用した国家主導のビットコインマイニング(計算処理による通貨の新規発行・承認作業)を行っており、輸出が困難なエネルギーを液体資産であるビットコインに変換することで、国際貿易の資金源を確保しているとされています。
一方で、実務上の取引では米ドル連動型のステーブルコイン(価格が安定した暗号資産)であるテザー(USDT)も多用されています。しかし、ステーブルコインは発行体によるアドレスの凍結が可能です。実際に2026年4月には、イラン関連のアドレスに紐付く多額のテザーが凍結された事例も報告されています。そのため、凍結不可能なビットコインを「戦略的資産」として位置づけ、利便性の高いステーブルコインと使い分けることで、制裁の網をかいくぐる動きを強めていると考えられます。
米国による警告と企業への影響
こうしたイランの動きに対し、米国財務省の外国資産管理局(OFAC)は警戒を強めています。2026年5月1日には、ホルムズ海峡の通行に関連して暗号資産で支払いを行うことは、海運業者、金融機関、保険会社にとって重大な制裁違反のリスクになるとの警告を発しました。
暗号資産を利用したとしても、法的なリスクが軽減されるわけではなく、むしろ米国の金融システムからの排除を招く可能性があるとされています。イランがビットコインを「敵対国間でも通用する中立的な通貨」として利用しようとする一方で、米国側はそれを制裁対象の金融機関と同様に扱い、監視を強化しています。この対立構造は、暗号資産が地政学的な対立における新たなフロンティアとなっていることを示しています。
ポイント
- 2026年5月4日のホルムズ海峡での事案により、イランの国際的な金融孤立と経済的圧力がさらに強まった。
- イランは経済制裁への対抗策として、ビットコインを石油に代わる実用的な経済ツールおよび戦略資産として活用している。
- ホルムズ海峡を通過する船舶に対し、ビットコインやステーブルコインでの通行料徴収を行う独自の体制を運用しているとされる。
- ビットコインの検閲耐性が国家レベルの決済手段として機能する一方、ステーブルコインには発行体による資産凍結のリスクが存在する。
- 米国当局(OFAC)は、暗号資産を用いたイラン関連の取引が二次制裁の対象になるとして、国際的な企業に強い警告を発している。