世界最大級の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のラリー・フィンクCEOは、人工知能(AI)への需要急増に伴い、「コンピューティングパワー(計算資源)」が全く新しい資産クラス(アセットクラス)を形成するとの見解を示しました。フィンク氏は、将来的にトレーダーが原油や農産物と同じように、生の計算パワーを対象とした先物契約を売買する日が来ると予測しています。この発言は、計算資源が単なるITインフラの枠を超え、金融市場における戦略的なコモディティ(商品)として確立される可能性を示唆しており、Web3やAIインフラに携わるビジネスパーソンにとって重要な転換点となる可能性があります。
コンピューティングパワー先物市場の誕生
ビバリーヒルズで開催されたミルケン研究所(Milken Institute)のカンファレンスにおいて、フィンク氏は計算資源の希少性が独自のデリバティブ(金融派生商品)市場を必要とするレベルに達していると述べました。
同氏の構想では、計算資源は燃料や穀物といった既存のコモディティと同様に扱われます。具体的には、計算パワーの先物を購入することで、将来の利用枠を確保したり、価格変動のリスクを回避したりする仕組みです。例えば、航空会社が燃料価格の変動をヘッジ(回避)するように、AIモデルを運用する企業がコンピューティングコストをヘッジする手段として、これらの金融商品が活用されると見られます。
深刻な供給不足と「バブル否定」の見解
フィンク氏は、現在のAIブームを「投資バブル」とする見方を否定し、むしろ構造的な「供給不足」の状態にあると分析しています。同氏によれば、以下の4つの要素が世界的に不足しているとされています。
- 電力(Power)
- コンピューティングパワー(Compute)
- チップ(Chips)
- メモリ(Memory)
特に米国においては、予測されるAIのワークロードを支えるためのチップや電力容量が十分に確保できていないと指摘しました。需要の伸びは当初の予想を遥かに上回っており、供給が追いつかない現状が、計算資源の価値をさらに高めていると考えられます。
民間資本によるインフラ再構築の必要性
この巨大な需要に応えるためには、データセンターや電力網といったインフラの再構築が必要であり、その投資規模は今後数年間で数兆ドルに達すると予測されています。フィンク氏は、政府の赤字拡大を背景に、公的資金だけではこの拡張を賄うことはできず、民間資本が中心的な役割を果たすことになるとの見通しを示しました。
ブラックロック自身もこの分野への投資を強化しており、今週中にも大規模クラウド事業者(ハイパースケーラー)との新たなデータセンター・プロジェクトに関する提携を発表する予定であると報じられています。また、同社はインフラ投資部門を通じて、データセンター企業であるアラインド・データセンター(Aligned Data Centers)の買収を進めるなど、計算資源の供給基盤の確保に動いています。
ポイント
- 計算資源が原油などと同様の「新たな資産クラス」として金融市場で確立されるとの予測です。
- 「コンピューティングパワー先物」の登場により、AI関連企業が計算コストの価格変動をヘッジ可能になる点が注目されます。
- 現在の市場はバブルではなく、電力・チップ・メモリ・計算パワーの4領域における深刻な供給不足に直面していると分析されています。
- インフラ整備には巨額の資金が必要であり、民間資本による「世界の再構築」が進む可能性が高いと見られます。
- ブラックロックはデータセンターやエネルギーインフラへの直接投資を加速させており、金融とテクノロジーインフラの融合がさらに進むと推測されます。