DeFiのシステマティックリスクと救済の枠組み:Aaveの不良債権問題とDeFi Unitedの役割

2026年4月19日に発生したリキッドリステーキングプロトコル「ケルプ・ダオ(KelpDAO)」へのハッキングに端を発し、分散型金融(DeFi)最大手のレンディングプロトコルである「アーべ(Aave)」において約368億円の不良債権が発生しました。この危機に対し、複数の主要プロジェクトが連携して救済を目指す「DeFi United」の動きが加速しています。本件は、DeFi特有の相互接続性に起因するリスクを浮き彫りにした一方で、業界全体でレジリエンス(回復力)を高める重要な転換点として注目されています。

ハッキングの経緯とアーべにおける不良債権の発生

DeFiのシステマティックリスクと救済の枠組み:Aaveの不良債権問題とDeFi Unitedの役割

今回の問題は、ケルプ・ダオから約463億円相当(11.65万rsETH)の資産が流出したことから始まりました。ハッカーはこの盗み出したrsETHを担保としてアーべに預け入れ、約10万ETH(イーサリアム)を借り入れました。

その後、ハッキングの影響によるリスク回避売りでrsETHの価格が約17%下落したため、アーべにおける借入額が担保価値を上回る状態となり、約368億円の不良債権が発生しました。アーべは、TVL(預かり資産総額)においてDeFi最大級のレンディングプロトコル(資産の貸付・借入を行うプラットフォーム)ですが、今回発生した損失額は、アーべが不良債権カバーのために用意していたリスク管理システム「アンブレラ(Umbrella)」の補填能力を超える規模となりました。

この事態は、アーべを利用していた他のプロジェクトにも波及しました。例えば、ライド・ファイナンス(Lido)が提供する運用サービス「ライド・アーン(Lido Earn)」は、アーべを介した運用戦略をとっており、そのエクスポージャー(価格変動リスクにさらされている資産の割合)の約9%がrsETHであったことが判明しています。このように、一つのプロトコルの破綻が連鎖的に広がる「システマティックリスク」が現実のものとなりました。

「DeFi United」による業界横断的な救済措置

この未曾有の危機に対し、DeFi業界では「DeFi United」という名称のもと、プロジェクトの垣根を越えた救済ムーブメントが起きています。主要なプロジェクトによる支援表明は以下の通りです。

  • イーサファイ(EtherFi):5000ETHを提供
  • ライド(Lido):最大2500ETHを提供
  • マントル(Mantle):3万ETHのローンを提供
  • アーべDAO(Aave DAO):2.5万ETHを拠出
  • レイヤーゼロ(LayerZero):5000ETHを提供

また、レイヤー2ソリューションであるアービトラム(Arbitrum)は、ハッカーが保管していた30,765ETHを特殊な方法で凍結する措置をとりました。さらに、一般ユーザーからの有志による寄付も募られており、これまでに約597ETH(約2.14億円相当)やステーブルコインが集まっています。

これらの支援を合計すると、マントルによるローンを除いても約10.7万ETHに達しており、未発表のベンチャーキャピタルによる支援分などを含めると、損失を100%カバーできる見通しが立っています。

DeFiの相互接続性と今後の安全性向上への意義

今回の事象は、イーサリアム上の複数のスマートコントラクト(自動実行される契約プログラム)がレゴブロックのように組み合わさる「コンポーザビリティ(相互接続性)」の危うさを露呈させました。基礎となるプロトコルで問題が生じると、その上に構築されたエコシステム全体が崩壊しかねないというリスクです。

しかし、今回の「DeFi United」による迅速な対応は、DeFi業界が既存金融の歴史と同様の進化を遂げるきっかけになると見られています。既存金融においても、過去の世界恐慌や銀行破綻の経験を経て、連邦預金保険公社(FDIC)のような損失をカバーする仕組みが整備されてきました。

今回の事例は、個別のプロジェクトが自社の利益のみを追求するのではなく、エコシステム全体のリスクに共同で備えるための環境整備を数年かけて進めていく足がかりになると考えられます。特に、アービトラムによる資産凍結のような緊急対応の実施は、今後のレイヤー2およびイーサリアムエコシステムの成長と安全性向上に向けた重要な教訓となる可能性があります。

ポイント

  • ケルプ・ダオのハッキングを起点に、最大手レンディングのアーべで約368億円の不良債権が発生しました。
  • 複数のDeFiプロジェクトが「DeFi United」として連携し、損失の100%カバーが確実視される状況にあります。
  • アービトラムによる資産凍結など、レイヤー2特有の技術的・ガバナンス的介入が実施されました。
  • プロトコル間の相互接続性(コンポーザビリティ)による連鎖リスクが改めて浮き彫りになりました。
  • 本件は、DeFi業界が既存金融のような強固なセーフティネットを構築していくための転換点として注目されます。

監修者:Pacific Metaマガジン編集部

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