イングランド銀行(BoE)のアンドリュー・ベイリー総裁は、ステーブルコインの世界的な規制基準の確立に向けて、アメリカと他国の規制当局の間で意見の対立が生じるとの見通しを示しました。ベイリー氏は、ステーブルコインがグローバルな決済インフラとして機能するためには国際基準が不可欠であると強調しています。時価総額が約3200億ドルに達する市場の健全な発展と、金融システムの安定化をいかに両立させるかが今後の大きな焦点となります。
国際的な規制基準をめぐるアメリカとの見解の相違
ベイリー総裁は2026年5月8日の会議において、ステーブルコインを世界の決済アーキテクチャの一部として定着させるには、国際的な基準の確立が前提条件になると述べました。しかし、その実現については「アメリカの政権との今後の課題になる」と言及し、各国の規制当局との間で「攻防」が起こることを予想しています。
背景には、ステーブルコインに対する姿勢の違いがあります。ドナルド・トランプ大統領率いるアメリカ政権は、米財務省証券を裏付け資産とするステーブルコインの普及を後押しする姿勢を見せています。これに対し、イギリスを含む諸外国の当局は、ステーブルコインが既存の銀行システムを代替する可能性を注視しており、より厳格な監督が必要であるという立場をとっています。
金融安定性へのリスクと換金性の懸念
金融安定理事会(FSB)の議長も務めるベイリー総裁は、ステーブルコインを金融安定への潜在的な脅威と位置づけています。特に懸念されているのが、資産の「換金性(現金などへの替えやすさ)」の問題です。
現在、一部のステーブルコインは暗号資産取引所を介さなければ現金化が難しい仕組みになっており、市場環境が悪化した際に換金が制限されるリスクが指摘されています。また、米ドル建てのステーブルコインがクロスボーダー決済(国境を越えた決済)で普及した場合、危機時に資金が特定の地域へ急激に流入し、いわゆる「取り付け騒ぎ」のような事態を招く可能性も示唆されました。
ステーブルコイン市場の現状と重要性
現在のステーブルコイン市場は時価総額で約3200億ドル(約49兆6000億円)規模に成長しており、その大部分が米ドル建ての資産で占められています。
アメリカでは現在、ステーブルコインの規制枠組みを定める「クラリティ(CLARITY)法案」をめぐる議論が最終局面を迎えていると報じられています。一方で、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁もユーロ建てステーブルコインを金融安定のリスクとして指摘するなど、主要国の当局による監視の目は厳しくなっています。ステーブルコインが単なる暗号資産の枠を超え、次世代の金融インフラとして定着するかどうかは、これら国際的な規制の調和にかかっていると見られます。
ポイント
- ベイリー総裁は、ステーブルコインの国際基準策定においてアメリカとの間で意見の対立が生じると予測しています。
- アメリカが普及を推進する一方で、イギリスなどは銀行システムの代替リスクを懸念し、厳格な監督を求めています。
- 市場の混乱時に現金化が困難になる「換金性の低さ」が、金融安定上の大きなリスクとして挙げられています。
- 3200億ドル規模の市場の大半を米ドル建てが占めており、国際的な決済インフラとしての基準作りが急務とされています。
- 米国でのクラリティ法案の動向など、各国の法整備がステーブルコインの将来に大きな影響を与える可能性があります。