アメリカ商務省は、量子コンピューティング関連の企業9社に対し、総額20億1300万ドルの助成を行うことを発表しました。この投資は、暗号資産や金融システムを支える既存の暗号技術を将来的に脅かしかねない量子コンピューターの台頭に備え、アメリカの技術主導権を確保することを目的としています。ビットコインやイーサリアムなどの主要な暗号資産は、既存の暗号技術が突破されるQデーへの対応を迫られており、Web3業界にとっても極めて重要な動向です。
米政府による20億ドルの助成内容と各社への配分
アメリカ商務省は2026年5月21日、半導体製造や先端技術の研究開発を支援するために2022年にアメリカで制定されたCHIPS・科学法に基づき、量子コンピューティング関連の9社に対して総額20億1300万ドル(約3220億8000万円、1ドル=160円換算)の助成を行うと発表しました。アメリカ政府は出資の見返りとして、各社の少数・非支配株式を取得する予定です。
最大の投資先となるのはIBMで、10億ドル(約1600億円)が拠出されます。IBMはニューヨーク州オールバニーに新設する量子ウェハー製造拠点Anderonにおいて、300mm超伝導量子ウェハーの量産を目指します。また、GlobalFoundriesには3億7500万ドル(約600億円)が投じられ、超伝導、トラップイオン、光、トポロジカル、シリコンスピンといった複数の方式に対応するファウンドリーが米国内に整備される計画です。
このほか、Atom Computing、D-Wave、Infleqtion、PsiQuantum、Quantinuum、Rigettiの6社にはそれぞれ1億ドル(約160億円)が割り当てられ、シリコン量子コンピューターを開発するDiraqには最大3800万ドル(約60億8000万円)が割り当てられる見通しとなっています。
暗号資産を脅かすQデーと技術的な背景
今回の巨額投資の背景には、量子コンピューターが現在広く使われている公開鍵暗号を解読できるようになる転換点、いわゆるQデーへの強い警戒感があります。Qデーは、量子コンピューターの技術が発展し、既存のセキュリティが破られる日を指すとされています。
量子セキュリティ企業であるProject Elevenは、ビットコインやイーサリアムが用いる楕円曲線暗号を突破できる量子コンピューターが、早ければ2030年にも登場する可能性を指摘しています。また、Googleの研究者からも、解読に必要とされる量子ビット数が従来想定されていた数よりも少なくて済むという見解が示されています。さらに、カリフォルニア工科大学は2026年4月に、暗号の解読にはわずか1万個の量子ビットがあれば十分であるとの警告を発しており、量子コンピューターによる脅威の現実味が急速に増しています。
Web3業界およびビットコインへの影響と今後の課題
量子コンピューターの脅威は、暗号資産の安全性に直結する極めて深刻な課題です。
特にビットコインは、そのガバナンス構造上、システムのアップグレードに時間を要しやすいという特徴があります。Citiのアナリストによる分析では、ビットコインはイーサリアムと比較して長期的なリスクがより高いとされています。同分析によると、公開鍵が露出した状態のウォレットには最大で約700万BTC(総供給量の約3分の1に相当)が存在しており、これらが将来的に量子コンピューターの標的となるリスクが懸念されています。
これに対し、業界内でも対策に向けた議論が活発化しています。2026年4月には、量子脆弱性を抱えるビットコインを凍結する案がコミュニティ内で提案されたものの、これに対しては反発の声も上がっています。また、Coinbaseの量子コンピューティング諮問委員会は、一部のブロックチェーンにおいて耐量子化への準備が不足していることを指摘しています。ブロックチェーンの安全性を維持するための耐量子化への移行は、Web3ビジネスに関わるすべての人々にとって注視すべき重要な課題となっています。
ポイント
- アメリカ商務省がCHIPS・科学法に基づき、IBMなど量子コンピューティング関連9社に総額20億1300万ドルを助成することを発表しました。
- 助成の背景には、既存の暗号技術が突破されるQデーへの警戒があり、早ければ2030年にもビットコインやイーサリアムの楕円曲線暗号が破られる可能性があると指摘されています。
- ビットコインはガバナンス構造上アップグレードが遅れがちであり、公開鍵が露出したウォレットに存在する約700万BTC(総供給量の約3分の1)が長期的なリスクに晒されていると分析されています。
- 業界内では脆弱性のあるビットコインの凍結案などが議論されているもののコミュニティの反発もあり、耐量子化への対応は極めて重要な課題となっています。