創業300年を超える老舗トイレメーカーのアサヒ衛陶が、暗号資産のテスト運用において年利換算14.6%の実績を達成したことが明らかになりました。同社は上場企業としての厳格なガバナンスを維持しながら、分散型取引所(DEX)への流動性提供を通じて安定的な手数料収益の獲得を目指しています。テスト運用の手応えを得た同社は、今後最大26億円規模の本格運用を見据え、数カ月以内に約3億円の追加投資を行う計画を進めており、Web3時代における企業の新たな財務(トレジャリー)戦略として注目されます。
テスト運用で「年利14.6%」を達成も、社内評価は「期待外れ」の理由
東証スタンダード市場に上場するアサヒ衛陶(ASAHI EITOホールディングス)は、2025年11月に暗号資産トレジャリー(財務)事業への参入を発表したとされています。同社はその後、2026年5月に約1500万円相当の暗号資産を用いて19日間のテスト運用を実施したとされています。
このテスト運用において同社は、暗号資産を分散型取引所(DEX)の流動性プールに供給して取引手数料を得る「流動性提供(LP)」の手法を用い、手数料などを控除した同社帰属分で年利換算14.6%(暗号資産ベース)を記録しました。伝統的な金融市場の基準からすれば非常に高い利回りですが、同社社内の評価は「期待外れ」と冷静な受け止めがなされています。
同社管理本部経営企画部マネジャーの森本氏によると、本来の設計では年率20%以上のパフォーマンスを想定していたとされています。期待を下回った原因は、テスト運用に選定したネットワーク(EVM系チェーン)全体の取引量が極端に少なかった点にあります。流動性提供による収益はDEX内の取引高(出来高)に直結するため、取引量の少なさが利回りに影響しました。しかし、出来高の大きい活発なネットワークであればより高い利回りを得られるデータも確認できており、同社はこの結果に対して不安視していないと説明しています。
上場企業の壁を越えるガバナンスとPL重視の財務戦略
上場企業が暗号資産の運用を行うにあたっては、四半期決算ごとの時価評価というシビアな会計・ガバナンス上の課題が存在します。価格変動(ボラティリティ)の激しい運用を避けるため、同社は相対的に安定したイーサリアム(ETH)系の運用に一本化する方針をとりました。
同社が徹底しているのは、相場変動リスクを取引量に応じたインカムゲイン(手数料収益)でカバーする論理です。貸借対照表(BS)上の資産を単に保有するだけでなく、積極的に損益計算書(PL)上の収益(インカムフロー)へ転換していく戦略を描いています。
流動性提供に特有のリスクである「インパーマネントロス(価格変動によって発生する、保有し続けた場合との一時的な資産評価の差額)」についても、森本氏は手数料収益がロスを上回る自信があると言及しています。また、時価下落による一時的な評価損のリスクについても事前に社内で共有し、経営陣や監査法人に対して未知のリスクを論理的に分解して説明を尽くすことで、上場企業としてゼロからDeFi運用のガバナンスを構築したとしています。
約3億円の追加投資と最大26億円の本格運用計画
テスト運用を経て、アサヒ衛陶は次なる本格運用のフェーズへ移行します。資金調達(MSワラントの行使)によって得た資金を活用し、数カ月以内に約3億円の追加投資を行う計画です。最終的には約26億円規模の運用を見据えています。
次のフェーズでは、イーサリアムと互換性を持つ複数の主要ネットワークと通貨ペアを組み合わせ、20を超える多様なポートフォリオを構築します。ここで重要となるのが、流動性を提供する価格帯(価格レンジ)の設定です。レンジを狭く設定すれば、高い手数料が得られる一方で、相場変動によってレンジから外れる機会損失や資産目減りのリスクが高まります。逆にレンジを広く設定すれば、安全性は高まるものの利回りは低下します。
同社は20以上の組み合わせを同時に運用することで、最大26億円の資産を効率的に運用するための最適解を検証する方針です。このノウハウを蓄積することで、当初の目標利回りである年率20%(暗号資産ベース)の達成、さらには一部のポートフォリオで40%〜50%のパフォーマンスを出すことを目指しています。
ポイント
- 老舗トイレメーカーによる異例の挑戦:創業約300年の歴史を持つアサヒ衛陶が、暗号資産を用いたDeFi(分散型金融)領域に参入し、テスト運用で年利換算14.6%を達成した点で注目されます。
- 上場企業としての厳格な内部統制:監査法人や経営陣への説明を尽くし、リスクを論理的に分解することで、上場企業としてゼロからDeFi運用のガバナンスを構築したプロセスが評価されます。
- PL(損益計算書)を重視した財務戦略:単なる資産の長期保有ではなく、DEXへの流動性提供を通じてインカムゲイン(手数料収益)を積み上げる実利的なアプローチをとっています。
- 最大26億円規模への段階的拡大:MSワラントで調達した資金を活用し、数カ月以内に約3億円規模の追加投資を行い、20以上のポートフォリオ運用を通じて最適解を検証していく今後の展開が期待されます。