オーストラリアにおいて2026年7月1日(水)より、暗号資産の送金時に送金者と受取人の情報を義務付ける「トラベルルール」が施行されました。この規制は、金額の大小に関わらずすべての送金に対して適用されるのが特徴で、マネーロンダリングやテロ資金供与、詐欺の防止を目的としています。本規制の導入により、オーストラリアはEU、米国、英国、日本など国際的な規制基準に足並みをそろえることになります。
規制の概要と対象範囲
オーストラリア国内で規制を受ける暗号資産取引所を通じて暗号資産を送受金する場合、利用者は追加情報の提供を求められることになります。具体的には、暗号資産の送金先または受取元となる人物の氏名や、利用するプラットフォーム名などです。
トラベルルールとは、金融活動作業部会(FATF)が提唱する、資金移動の際に関係する事業者間で送金者と受取人の情報を共有する国際的な基準とされています。
今回のルールの大きな特徴は、送金金額の下限(しきい値)が設けられていない点です。取引額の大小を問わず、すべての送金について取引所は情報を収集しなければなりません。これはフランス、オランダ、日本などと同様の方式とされています。一方、米国など一部の国では一定金額以上(米国では3,000ドル以上、日本円で約48万8,000円以上)の送金のみを対象としており、オーストラリアの基準はより厳格なものとなっています。
自己管理型ウォレットへの対応とユーザーへの影響
取引所からコールドストレージ・ウォレットなどの自己管理型(セルフカストディ)ウォレットへ送金する場合も、利用者はそのアドレスが自分のものであると確認し、申告する必要があります。
暗号資産取引所スウィフトエックス(Swyftx)で詐欺・金融犯罪対策部門を率いるギャビー・ルイス氏は、多くの取引所利用者にとって影響は限定的であると指摘しています。必要な情報は一度入力すれば将来の利用に備えて保存されるため、手続きの負担はそれほど大きくないとされています。
しかし、暗号資産ユーザーの間では、技術本来の強みである匿名性が損なわれることや、個人情報と送金履歴が結びついたデータが流出するリスクに対する懸念も根強く存在しています。
国際基準への適合と今後の展望
今回のルールは、国際的な政策立案機関である金融活動作業部会(FATF)が2019年に暗号資産への適用を拡大したことを受けたものです。オーストラリア議会が2024年に成立させた法律に基づき、同国の金融情報機関であるオーストラリア取引報告分析センター(AUSTRAC:オーストラック)が執行を担います。
すでにシンガポール、米国、ニュージーランド、英国などでも同様のルールが導入されており、オーストラリアもこれに続く形となりました。一部の取引所(クラーケンやコインジャーなど)はすでに先行して対応を開始しており、今後は国内のすべての認可取引所において同様のコンプライアンス体制が標準化されていくと見られます。
ポイント
- オーストラリアで2026年7月1日(水)より、暗号資産の送金時に本人情報の提供を義務付けるトラベルルールが施行されました。
- 送金額に最低基準を設けない「ゼロ閾値」が採用されており、金額の大小にかかわらずすべての取引が情報収集の対象となります。
- 自己管理型ウォレットへの送金においても、アドレスの所有権を確認・申告する手続きが必要となります。
- 匿名性の喪失や個人データの流出を懸念するユーザーの声がある一方、マネーロンダリングや詐欺の防止に寄与するとされています。
- オーストラリアが国際的なFATFの規制基準に適合したことで、グローバルな規制環境との調和がさらに進むと見られます。