欧州証券市場監督局(ESMA)は2026年7月8日、欧州の暗号資産市場規制法(MiCA)に基づく初の共同監督行動(CSA)として、ライセンスを持つ暗号資産サービスプロバイダー(CASP)の資産管理(カストディ)体制に関する一斉調査を開始すると発表しました。これは2026年7月1日のMiCA全面施行と、その直後に発生した暗号資産取引所「AscendEX」の事業停止というタイミングに重なる形で実施されます。ESMAはこれら二つの出来事を直接関連付けてはいませんが、規制当局がカストディの不備によるユーザーへの損失を防ぐため、本格的な監督・執行フェーズへと移行したことを示す重要な動きとして注目されています。
暗号資産取引所「AscendEX」の突然の事業停止
シンガポールを拠点とする暗号資産取引所AscendEX(旧BitMax)は、2026年7月1日付で事業を停止したことを7月6日に公表しました。同社は停止の理由として、EUのMiCA規制への対応、予定されていた資金調達取引の不履行、および市場の圧力を挙げています。
現在、同取引所では自動出金が停止され、すべての出金申請が手動審査に移行しています。同社は審査の時間や出金可能額についての保証はできないとしており、出金が大幅に遅延したり、処理されなかったりする可能性があると通知しています。
また、オンチェーンアナリストのZachXBT氏は、同取引所の公開されているホットウォレットには、ユーザーから申請されている数百万ドル規模の出金要求を満たすための十分な流動資産が残っていないと指摘しています。同氏は影響を受けたユーザーに対し、各国当局への通報を促しています。
欧州当局による初のMiCAカストディ一斉調査
この事態とほぼ同時に、欧州の金融規制当局であるESMAは、MiCAライセンスを保有するCASPを対象とした初のカストディ調査を開始すると発表しました。この調査は、暗号資産の保管におけるデジタルオペレーショナルレジリエンス(運用のレジリエンス)をEU規模で検証するものです。
具体的な実施内容は以下の通りとされています。
- 調査主体と対象:EU各国の規制当局(NCA)が、認可済みのCASPからリスクベースで抽出したサンプル企業を対象に直接調査を行います。
- 実施スケジュール:2026年後半から2027年前半にかけて各国の調査が実施され、その結果を統合した最終報告書が2027年後半にESMAの監督委員会へ提出される予定です。
- 重点調査項目:分散型台帳技術(DLT)特有のリスクに焦点が当てられます。具体的には、ガバナンス体制、暗号鍵およびストレージの管理、取引管理、インシデントの検知と対応、スマートコントラクトのリスク、そして外部サービスプロバイダーへの依存体制などが検証されます。
この取り組みは、金融機関に対して2025年1月から施行されているデジタルオペレーショナルレジリエンス法(DORA)の枠組みにも基づいているとされています。
Web3ビジネスにおける重要性と影響
今回の出来事は、2026年7月1日にMiCAの移行期間が終了し、EU内での無認可の暗号資産サービス提供が全面的に禁止された直後に発生したという点で、今後の市場に大きな影響を与えると見られます。
ESMAはAscendEXの事業停止と今回のカストディ調査を直接関連付けてはいませんが、タイミング的に、カストディの失敗がユーザーにどのような代償をもたらすかを示す生きた事例に対する、規制当局の迅速なアクションであると捉えられています。
これまではMiCAのルール策定やライセンス取得といった「準備」の段階に焦点が当てられていましたが、今後は実際にライセンスを保有する企業がルールを遵守できているかを厳しく検証する「執行」のフェーズへ移行したことを示しています。EU市場での事業継続や進出を計画するWeb3事業者にとって、単なる法令遵守の宣言だけでなく、実務における技術的・運用的な安全性の実証が不可欠になると見られます。
ポイント
- 2026年7月1日のMiCA全面施行と同時に、暗号資産取引所AscendEXが事業を停止し、出金遅延のリスクが発生しています。
- ESMAは7月8日、ライセンス保有企業を対象とした初のEU規模のカストディ共同監督行動(CSA)の開始を発表しました。
- 調査は2026年後半から2027年前半にかけて各国当局が実施し、鍵管理やスマートコントラクト、外部委託リスクなどの体制を検証します。
- 今回の動きは、MiCAが制度設計から実際の「執行フェーズ」へと移行したことを示す象徴的な出来事として注目されます。
- EU市場に関わるWeb3事業者には、ライセンスの取得に留まらず、実務における高度なセキュリティと運用のレジリエンス構築が求められると見られます。