スポーツチームの収益向上やファンエンゲージメント強化は重要課題です。
しかし、従来の手法だけでは限界を感じていませんか。
ブロックチェーンやWeb3技術に注目しているものの、実際の導入事例や具体的な効果は見えにくいです。そのため、実務での活用に踏み切れない担当者も多いのが現状です。
今回、Pacific Meta Magazineでは、ブロックチェーン技術がスポーツ業界に与える影響について以下の内容を紹介します。
- ブロックチェーン技術のスポーツ業界での基本的な活用方法
- ファンエンゲージメント向上と収益化の具体的なメリット
- 国内外の最新導入事例とその成果
- 導入時の課題と対策方法
- 今後の発展性と将来展望
最後まで読むことで、自社チームでのブロックチェーン活用の可能性と具体的な導入ステップが見えてきます。ぜひ最後までご覧ください。
スポーツにブロックチェーンをどう活用するの?
ブロックチェーンは、スポーツチームやリーグ、選手とファンやチームの間で価値やデジタル資産を創出・共有する取り組みに大きな影響を与えます。
具体的には、ファントークン(クラブが発行するデジタル通貨)、スポーツNFT(選手カードやハイライト動画など唯一無二のデジタルコレクション)、ブロックチェーン上の電子チケット、選手支援のためのクラウドファンディングプラットフォームなど、多岐にわたる活用方法があります。
これらは従来のファンサービスを進化させた新たな手法です。
ファンはトークンやNFTを通じてクラブ運営に参加したり、貴重なデジタルグッズを所有したりできるようになります。
米NBAが提供するデジタルコレクション「NBA Top Shot」は、開始から1年足らずで売上高7億ドル(約760億円)、ユーザー数100万人を突破するなど、その市場ポテンシャルの大きさを示しています。
欧州サッカーでもパリ・サンジェルマンやユヴェントスなど強豪クラブがこぞってファントークンを発行し、グローバルで注目を集めています。
日本でも2021年にJ1湘南ベルマーレがトークン発行を開始して以降、複数のクラブやスポーツ団体が参入している状況です。
ブロックチェーンをスポーツに活用するメリットとは?
ブロックチェーン技術をスポーツビジネスに導入することで、チーム運営とファンエクスペリエンスの両面で大きなメリットが期待できます。
ファンエンゲージメントの向上と新たな収益モデルの構築
ファントークンやNFTの活用により、ファンとチームの関係性が従来の「観客」から「共創者」へと進化します。
トークン保有者には、クラブ運営に関する投票権や限定グッズ、VIP体験などの特典が提供されます。これにより、ファンは単なる応援者を超えてチームの意思決定に参加できるようになります。
例えば、スペインのFCバルセロナは2020年にファントークン($BAR)を発行し、わずか2時間で約130万ドル(約1.4億円)の売上を記録しました。
イタリアのインテルやフランスのPSGでは、トークン保有ファンによるユニフォームデザイン投票やMVP選出などが実施されています。
日本でも地域リーグの鎌倉インテルでは、トークン保有コミュニティがスタジアムの愛称やグッズ企画を提案・決定しています。さらに、地元企業と協力したオリジナルビールの味・ラベル投票やアパレルブランド立ち上げまで行われています。
これらの仕組みにより、ファンの熱量を「見える化」して還元することが可能となります。
そして、長期的なロイヤルティ向上につながります。
データの透明性と信頼性の向上による運営効率の改善
ブロックチェーンの改ざん困難な台帳機能を活用することで、チケットの転売防止やグッズの真正性証明、選手データの管理が透明化されます。
電子チケットをNFT化すれば、転売履歴が追跡可能となり不正転売の抑止になります。
そのほか、ファンは記念品(デジタルチケットstub)として半永久的に保有できます。
日本発の「Atleta(アトレタ)Network」は、スポーツデータを分散型レジストリで安全に保管します。そして、ファン投票やNFTマーケットプレイス等を実装した業界特化のブロックチェーン基盤を開発しています。
スマートコントラクトにより収益分配や報酬支払いを自動化できます。これにより、トランザクション手数料の削減や事務負担の軽減が期待できます。
また、選手とファンを直接結ぶクラウドファンディングでは、将来有望な若手選手にファンが投資します。そして、選手の成功時にトークン価値が上昇するといった「応援の見返り」が得られる可能性も議論されています。
このような透明性の確保は、ファンやスポンサーからの信頼醸成にも寄与します。また、従来は支援が難しかった草の根レベルの選手・チームへ資金が循環する仕組みとして期待されています。
ブロックチェーンを活用したスポーツの国内外最新事例
国内外でブロックチェーン技術を活用したスポーツプロジェクトが次々と立ち上がっています。その成果や取り組み内容から実務導入のヒントを得ることができます。
国内事例:FC大阪のトークン発行とクラウドファンディング

日本のスポーツブロックチェーン活用において、最も成功している事例の一つがFiNANCiE(フィナンシェ)のクラブトークンです。
2019年のサービス開始以来、約80のスポーツチームがFiNANCiE上でクラブトークンを発行しています。そして、ファン参加型の資金調達とコミュニティ運営を展開しています。
Jリーグでは湘南ベルマーレ(J1)が2021年にトークン発行第1号となりました。
続いて南葛SC(東京)、YSCC横浜、アビスパ福岡(J1)などプロ・アマ問わず多数のクラブが参入しました。
クラブトークン購入者はチーム強化資金の提供者となります。
それと同時に、グッズデザイン投票やイベント参加権など「共創型ファン」としてチームに関われる仕組みです。
卓球Tリーグの琉球アスティーダはトークン発行により年商約2倍増といった成果を上げ、経営再建に繋げたと報告されています。
FiNANCiEは2023年に独自トークン(FNCT)を国内取引所でIEO上場するなど事業拡大を続けています。
そして、「Web3×スポーツ」の代表的プラットフォームとなっています。
海外事例:ブラジルのBCSプロジェクトによる選手育成とファン支援

UAEを本拠にグローバル展開している「Blockchain Sports Ecosystem(BCS)」は、VR・AI・ブロックチェーンを融合させた国際的なサッカー育成プロジェクトです。
2024年には元日本代表監督のジーコ氏が参画し、日本サッカーへの技術導入アイデアを発表しました。
同プロジェクトは世界中の才能ある10代選手を発掘・育成するため、ブラジル国内に総額1,000万ドルの投資で先端アカデミーを3拠点設立しました。
そして、リアリティ番組で若手チームが競うなどユニークな試みを実施しています。
ブロックチェーンは選手のパフォーマンスデータ管理や、将来的な選手のトークン化による収益分配などに活用予定とされています。これは「スポーツ振興×Web3」の壮大なケーススタディと言えます。
日本でも2024年秋に東京オフィスを開設しイベントを開催するなど、国内外の投資家やファンを巻き込んだ展開が進行中です。
また、世界で最も成功しているスポーツファントークンプラットフォーム「Socios.com(ソシオス)」では、FCバルセロナ、パリSG、ユヴェントス、マンチェスターCなど128のチーム・リーグが参加しています。そして、累計220万人以上の利用者を獲得しています。
ブロックチェーンをスポーツに導入する際の課題
ブロックチェーン活用には多くのメリットがある一方で、実際の導入においては乗り越えるべき課題も存在します。
技術的な課題と導入コストの問題
現在、ブロックチェーンのプラットフォームは乱立気味です。
そして、相互互換性(インターオペラビリティ)の欠如が指摘されています。
異なるプロジェクト間でデータや資産のやりとりが難しいと、ユーザー体験が分断されます。
その結果、市場拡大の妨げとなります。
また、スケーラビリティ(処理性能)や手数料コストの問題も完全には解決していません。
人気クラブのトークン販売ではアクセス集中で取引遅延が発生した例もあります。そのため、大規模ユーザーを収容できるインフラ整備が課題です。
加えて、ブロックチェーン利用には専用ウォレットの管理や秘密鍵の取り扱いなど一般ユーザーにはハードルの高い面もあります。
これら技術・UX上の課題に対し、スポーツ専用ブロックチェーンの開発や、既存プラットフォーム同士の連携が進められています。
中小規模のチームにとっては、初期導入コストや運用体制の構築も大きな負担となる可能性があります。
法的・規制的な課題とファンの理解促進
日本においてトークン発行は「暗号資産」や「前払式支払手段」等に該当しうるため、資金決済法や金融商品取引法などの法的整理と遵守が不可欠です。
例えばトークンが投資性を帯びる場合、無登録で事実上の証券を販売すれば違法行為となるリスクがあります。
また、市場で取引される以上、クラブ内部者が未公表情報を元に売買するインサイダー取引の問題も懸念されます。
ファンの理解・受容に関しては、ブロックチェーンやNFTに馴染みのないファン層にとって、「トークン販売=金もうけ」と受け取られ反発を招く懸念もあります。
十分な説明や教育なくして導入すれば、誤解や投機目的の参加者ばかりが先行します。そして、肝心のコアファンが置いてけぼりになるリスクがあります。
したがって、ファンとの対話を通じて意義やルールを共有し、健全なコミュニティ文化を醸成することが重要です。
ブロックチェーンのスポーツへの活用は今後どうなる?
ブロックチェーン技術のスポーツ業界への浸透はまだ始まったばかりです。
しかし、その将来性は非常に大きいと考えられています。
デジタルネイティブ世代の台頭に伴い、「デジタルグッズを所有して応援する」文化が一般化すれば、トークンやNFTはファンクラブ会員証や記念グッズに取って代わる存在になる可能性があります。
欧州サッカー連盟(UEFA)は一部試合でブロックチェーンチケットを試験導入し、偽造防止や転売利益の適正還元に成果を上げています。
将来的には大会チケットがすべてNFT化され、入場と同時に限定グッズが配布されるといった新たな観戦体験も考えられます。
技術面でも進化が続いています。
ブロックチェーンのスケーラビリティ問題はイーサリアムのアップデートやLayer2技術で改善が進み、手数料高騰も抑制されつつあります。
将来的には、ファンが一つのウォレットでお気に入りチームのトークン管理からグッズ購入、選手への投げ銭、さらにはメタバース上のバーチャルスタジアム観戦まで完結できるような総合プラットフォームが登場する可能性もあります。
もっと先の展望としては、スポーツDAO(自律分散型組織)の実現が挙げられます。ファンがオーナーの一員となりクラブ運営を支える世界は、まさにスポーツの民主化と言えるでしょう。
スポーツ業界でのブロックチェーンの活用についてよくある質問
ここでは、スポーツ業界でのブロックチェーンの活用につよくある質問とその答えを紹介していきます。
ファントークンとNFTの違いは何ですか?
ファントークンはスポーツチームが発行するデジタル通貨です。
そして、投票権や特典アクセスなどに使用されます。
一方、NFTは選手カードやハイライト動画など、唯一無二のデジタル資産です。
ファントークンは代替可能(fungible)、NFTは非代替(non-fungible)という違いがあります。
ブロックチェーン導入の初期コストはどのくらいですか?
プラットフォーム利用料や開発費により大きく異なります。しかし、既存サービス活用の場合は数十万円からです。
独自開発の場合は数百万円から数千万円となることが一般的です。
FiNANCiEなどのプラットフォームを利用すれば比較的低コストでの導入が可能です。
ファンが高齢でデジタルに慣れていない場合の対応は?
段階的な教育とサポート体制が重要です。
まずは一部の若年層ファンから開始し、成功事例を見せながら理解を促進することが効果的です。
また、従来のファンサービスは継続しつつ、デジタル施策を追加する形で進めることを推奨します。
法的リスクを最小限に抑える方法は?
専門家による法的レビューを必ず実施し、関連法規制への適合を確認することが重要です。
また、実績のあるプラットフォーム事業者と提携することで、コンプライアンス面でのリスクを軽減できます。
トークンの設計時には投資性を排除し、ユーティリティ性を重視することも大切です。
ブロックチェーン×スポーツについてまとめ
今回、Pacific Meta Magazineでは、スポーツ業界でのブロックチェーンの活用について以下の内容を紹介してきました。
- ブロックチェーンスポーツはファントークンやNFTを活用した新たなファンエンゲージメント手法
- 収益化の多様化とファンとの関係性深化が主要なメリット
- 国内外で成功事例が増加し、市場規模も急速拡大中
- 技術的課題や法規制、ファンの理解促進が導入時の主な課題
- デジタルネイティブ世代の台頭により今後さらなる普及が見込まれる
ブロックチェーン技術は、スポーツ業界におけるファンエンゲージメントと収益化の新たな可能性を切り拓く重要なツールです。
一方で、技術的な複雑さや法規制への対応、ファンコミュニティの理解促進など、慎重に検討すべき課題も存在します。
成功のためには、段階的な導入と十分な準備、そして既存ファンとの対話を重視した健全なコミュニティ構築が不可欠です。
まずは実績のあるプラットフォーム事業者への相談から始め、自社チームに適した導入方法を検討することをお勧めします。
新しい技術を活用してファンとの絆をさらに深め、持続可能なスポーツビジネスを構築していきましょう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。