スマートコントラクトに関する基本的な知識はお持ちでも、その実行環境の中核である「EVM(Ethereum Virtual Machine)」の仕組みや、EVM互換チェーンの活用方法について、より深く理解したいと考えているのではないでしょうか。
EVMは、分散型アプリケーション(dApp)開発の可能性を広げ、ブロックチェーン間の相互運用性を高める上で不可欠な技術です。
今回、Pacific Meta Magazineでは、ブロックチェーンの”EVM”について以下の内容について紹介してます。
- EVMの基礎概念とブロックチェーンにおける重要な役割
- スマートコントラクトがEVM上でどのように実行されるかの詳細プロセス
- EVM互換チェーンの概念とブロックチェーン間の相互運用性技術
- 主要なEVM対応ブロックチェーンの比較と選定のポイント
- dApp開発におけるEVMのメリットと、ガス最適化・セキュリティに関する注意点
- EVMの将来展望と技術進化の方向性
本記事を最後まで読むことで、EVMに関する深い知見を得て、自社プロジェクトへの適用方法を具体的に把握できるようになります。
そして、より高度なWeb3戦略を立案するための確かな基礎を築けるでしょう。
ぜひ、最後までご覧ください。
EVMとは?ブロックチェーンにおけるその役割と重要性
Ethereum Virtual Machine(EVM)は、イーサリアムブロックチェーンの心臓部とも言える分散型実行環境です。
これは、スマートコントラクトのコードを、イーサリアムネットワークに参加するすべてのノードで統一的かつ安全に実行するための仮想マシンとして機能します。
各ノードはEVMを実行し、スマートコントラクトの命令を正確に処理することで、ブロックチェーン上の状態を更新します。
ブロックチェーンにおけるEVMの定義
EVMは、Ethereumブロックチェーンの「状態遷移関数」を担う存在です。
イーサリアムは、単なる分散台帳ではなく、任意のプログラム実行を伴う「分散状態マシン」として設計されています。
このマシンにおいて、すべてのアカウント残高、スマートコントラクトのストレージ、そしてその他の関連情報を含む巨大な世界状態は、新しいブロックが生成されるたびに変化します。
EVMは、この状態がどのように変化すべきかのルールを厳密に定義します。
そして、古い有効な状態にトランザクションの集合を適用したときに、決定論的に新しい状態を算出する役割を果たすのです。
これにより、イーサリアムネットワーク上のすべてのノードが同じトランザクションを処理し、同じ結果に到達することが保証されます。
ネットワーク全体の整合性と信頼性が維持されます。
EVMの役割と重要性
EVMの最も重要な役割は、スマートコントラクトの信頼性とセキュリティを保証しながら実行することにあります。
スマートコントラクトは、一度ブロックチェーン上にデプロイされると、その実行ロジックは不変です。
EVMの決定論的な性質により、誰がいつ実行しても同じ結果が得られます。
これは、中央集権的なシステムでは不可能な、改ざん耐性のあるプログラム実行環境を提供します。
また、EVMは「ガス(gas)」と呼ばれる概念を用いて、スマートコントラクトの実行にかかる計算資源を測定し、その使用量に応じた手数料を課します。
このガスモデルによって、ネットワークのリソースが過度に消費されること(例:無限ループ)を防ぎます。
そして、各処理に応じた公平な手数料負担を促し、ネットワーク全体の健全性を維持しています。
EVMはチューリング完全であり、理論的にはあらゆる計算を実行できます。
しかし、ガスによる制限があるため、現実的な時間とコスト内で計算が終了することが保証されます。
このように、EVMはイーサリアムネットワークにおける計算エンジンであり、ルール策定者として機能し、ブロックチェーン上でプログラム可能な契約を実現する基盤となっています。
EVMの登場により、ビットコインのような単純な送金機能に留まらず、多様な分散型アプリケーション(dApp)をブロックチェーン上で構築する道が開かれました。
EVMの仕組みとスマートコントラクトの実行プロセス
EVMは、イーサリアムネットワーク上でのスマートコントラクト実行の中核を担う仮想マシンです。
その内部動作は、スタックベースの設計とガスモデルによって支えられています。
ステートマシンとガスモデル
EVMは、深さ1024のスタックを持ち、256ビット幅のワードを使用してスマートコントラクトのバイトコードに含まれるオペコード(操作コード)を順次解釈・実行します。
スマートコントラクトは通常、SolidityやVyperといった高水準言語で記述され、EVMバイトコードにコンパイルされた上でブロックチェーン上にデプロイされます。
このバイトコードがEVMによって実行されることで、スマートコントラクトのロジックが具現化し、ブロックチェーンの状態が遷移します。
ガスモデルは、EVMにおける計算資源の消費を管理するための重要な仕組みです。
各オペコードにはあらかじめ規定されたガス消費量が割り当てられています。
トランザクションを発行する際には、その実行に必要なガスの最大量(ガスリミット)と、1ガス単位あたり支払う意思のあるETHの量(ガスプライス)を指定します。
EVMは、提供されたガスの範囲内で命令を実行し、ガスが不足した場合は実行を中断して状態を巻き戻します(Out-of-Gas例外)。
未使用ガスは発行元に返金されます。
このガスによる制限があるため、EVMはチューリング完全でありながらも、意図しない無限ループなどを実行できず、必ず計算が終了する性質を保ちます。
ガスは「ブロックチェーン上の計算燃料」として機能します。
計算資源に経済的価値を持たせることで、開発者に効率的なコードを書くインセンティブを与え、ネットワークへの攻撃やスパムを抑止する効果があります。
スマートコントラクトのコンパイルから実行まで
スマートコントラクトがイーサリアムネットワーク上で動作するまでのプロセスは、大きく分けて以下のステップで進行します。
- 高水準言語での記述: 開発者がSolidityやVyperといった高水準言語を用いて、スマートコントラクトのロジックを記述します。
- バイトコードへのコンパイル: 記述されたコントラクトコードは、Solidityコンパイラ(solcなど)によってEVMが直接理解できる形式であるEVMバイトコードに変換されます。
- ブロックチェーンへのデプロイ: 生成されたEVMバイトコードは、イーサリアムブロックチェーン上の特定のアドレスにデプロイされます。このデプロイも一つのトランザクションとして扱われ、ガスを消費します。
- EVMによる実行: ユーザーがデプロイされたスマートコントラクトの関数を呼び出すトランザクションを送信すると、ネットワーク内の各ノードのEVMがそのバイトコードを解釈し、命令を順次実行します。
- 状態の更新: コントラクトの実行結果に基づいて、イーサリアムブロックチェーンの全体状態(ステート)が更新されます。この状態更新もガス消費の対象となります。
このように、SolidityとEVMはちょうど高級言語とCPUの関係に近く、EVMが「ブロックチェーン上の仮想CPU」としてSolidity等で書かれたコードを実行していると言えます。
実装例とフローチャート
スマートコントラクトの実行フローは、以下のように表現できます。
- ユーザーがトランザクション(スマートコントラクト関数呼び出し)を生成し、ガスリミットとガスプライスを設定
- トランザクションはネットワークにブロードキャストされ、マイナー(現在はバリデータ)がそれを受け取る
- バリデータはトランザクションを検証し、自身のメモリプールに格納
- バリデータはトランザクションをブロックに含め、EVMがそのブロック内の各トランザクションを順番に実行
- EVMはコントラクトのバイトコードを読み込み、各オペコードの実行に必要なガスを消費しながら処理を実行
- 実行中にエラー(例:Out-of-Gas、Revert)が発生した場合、EVMは実行を中止し、状態を元のブロックを状態に戻す
- 正常に実行が完了すると、EVMはブロック内の最終的な状態を計算し、バリデータはそのブロックをネットワークに提案
- 他のバリデータが提案されたブロックを検証し、合意形成がなされると、そのブロックがブロックチェーンに追加され、状態が永続的に更新
この一連のプロセスを通じて、分散された環境下でスマートコントラクトが確実に実行され、ブロックチェーンの状態が安全に変化していくのです。
EVM互換性とは何か?ブロックチェーン間の相互運用性を解説
EVMの設計は、イーサリアム以外の多くのブロックチェーンにも採用されており、これが「EVM互換性」という概念を生み出しました。
EVM互換性の概念
EVM互換性とは、特定のブロックチェーンがイーサリアムのEVMと同じバイトコードを実行できる環境を提供することを指します。
これにより、イーサリアム向けにSolidityで開発されたスマートコントラクトや分散型アプリケーション(dApp)を、最小限の変更でEVM互換チェーンに移植したり、複数のEVM互換チェーンで展開したりすることが可能となります。
例えば、Binance Smart Chain(現BNB Chain)、Polygon、Avalanche C-Chain、Fantomといったブロックチェーンは、独自のコンセンサスアルゴリズムやネットワーク構造を持ちながらも、EVMと高い互換性を維持しています。
この互換性があることで、開発者はEthereumのエコシステムで培われた豊富なツール、ライブラリ、知識を他のEVM互換チェーンでも活用できます。
これにより、開発の生産性が向上し、より広範なユーザーベースにアプローチできるメリットがあります。
EVM互換性は、ブロックチェーン業界全体で「事実上の標準実行環境」となりつつあります。
Ethereumのエコシステムが持つ開発者コミュニティや技術的ノウハウを、他のネットワークが享受できる重要な要素となっています。
相互運用性の技術的仕組み
異なるブロックチェーン間での資産やデータのやり取りを可能にする「相互運用性(Interoperability)」は、ブロックチェーンエコシステム全体の発展において極めて重要です。
EVM互換チェーンの普及に伴い、この相互運用性を実現するための技術も大きく進化しています。
主要な技術の一つにブリッジ(Bridge)があります。
これは、異なるブロックチェーン間でトークンやメッセージを安全に転送するためのメカニズムです。通常、一方のチェーンで資産をロックし、もう一方のチェーンで対応する資産をミント(発行)する仕組みで機能します。
これにより、ユーザーは異なるチェーン間で資産を移動させ、そのチェーンのdAppやサービスを利用できるようになります。
クロスチェーン通信プロトコル例
近年は、単なる資産転送に留まらない、より高度なクロスチェーン通信プロトコルも登場しています。
代表的なものとして、Chainlink社のCCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol)が挙げられます。
CCIPは、EVM互換チェーン間でのトークンだけでなく、あらゆる種類のデータ転送を可能にする汎用的なプロトコルです。
各チェーン上にデプロイされたコントラクト(Router)がオフチェーンの中継ネットワークと連携し、異なるチェーン上のコントラクト間で安全にメッセージや資産をやり取りします。
その他にも、Wormhole、LayerZero、Axelarといったクロスチェーン技術が存在します。それぞれ独自の方法で複数ブロックチェーンの橋渡しを実現しています。
これらの技術は、EVM互換チェーンを基盤としつつ、チェーン間の垣根を越えたシームレスな体験をユーザーに提供することを目指しています。
そして、ブロックチェーンインフラの重要なテーマとなっています。
EVM対応ブロックチェーンの一覧と特徴比較
EVMはイーサリアムだけでなく、多くのEVM互換ブロックチェーンで採用されており、それぞれ異なる特徴を持っています。
ここでは、主要なEVM対応チェーンを性能、手数料、セキュリティの観点から比較し、プロジェクト選定の参考にしていただけるよう解説します。
主要EVMチェーン一覧(Ethereum,BSC,Polygonなど)
以下の表は、主要なEVM対応ブロックチェーンの概要と一般的な性能指標を示したものです。
ブロックチェーン | 特徴 | 一般的なTPS(秒間取引数) | 手数料(ガス代) | 主要なコンセンサスアルゴリズム |
---|---|---|---|---|
Ethereum(イーサリアム) | 最も分散性が高く、セキュリティが堅牢なL1。巨大なエコシステムと開発者コミュニティを持つ。 | 約30 TPS | 中~高(ネットワーク混雑度で変動) | Proof of Stake (PoS) |
BNB Smart Chain(BNB Chain) | 高速かつ低コストなEVM互換L1。DeFiやゲームで人気。分散性は限定的。 | 約100 TPS | 非常に安価(数円~数十円) | Proof of Staked Authority (PoSA) |
Polygon (ポリゴン) / Polygon PoSチェーン | Ethereumのサイドチェーン/L2。高速・低コストでNFTゲームや小口送金に適している。 | 数百~数千 TPS | 極めて安価(数十銭~数円) | Proof of Stake (PoS) |
Avalanche (アバランチ) C-Chain | 高速なファイナリティ(ほぼ即時確定)が特徴のEVM互換L1。サブネット機能がユニーク。 | 約4,500 TPS | 安価(数円) | Snowman Consensus |
Arbitrum (アービトラム) | Ethereumの主要なOptimisticロールアップL2。Ethereumのセキュリティを継承しつつ、高速・低コスト。 | 約40,000 TPS以上(理論値) | Ethereumの数十分の一以下 | Optimistic Rollup |
※上記のTPS値や手数料は参考値です。実際の性能はネットワークの状態や需要、特定のトランザクションタイプによって変動します。
また、セキュリティ評価は一般的なコンセンサスモデルとノード数に基づくものです。個々のチェーン固有のリスクも存在します。
性能・手数料・セキュリティ比較
プロジェクトの要件に応じて、これらのチェーンを適切に選定することが重要です。
性能(スループット: TPS):
秒間取引数(TPS)は、ブロックチェーンがどれだけのトランザクションを処理できるかを示す指標です。
例えば、NFTゲームや大規模なDeFiアプリケーションなど、大量のトランザクションを高速に処理する必要がある場合は、BNB Chain、Polygon、Avalanche、あるいはArbitrumのような高TPSのEVM互換チェーンやL2が適しています。
Ethereumメインネットは現時点ではTPSが比較的低いです。しかし、EIP-4844などのスケーリングアップグレードにより、将来的にはL2を介した処理能力が大幅に向上する見込みです。
手数料(ガス代):
ガス代は、ユーザーの利用コストに直結するため、dAppのユーザー体験に大きな影響を与えます。
Ethereumメインネットのガス代はネットワークの混雑度に応じて大きく変動し、高額になることがあります。
一方、BNB ChainやPolygon、AvalancheといったEVM互換L1や、ArbitrumのようなL2は、Ethereumと比較して圧倒的に低い手数料でトランザクションを実行できます。
特に小口決済や頻繁な操作を伴うアプリケーションでは、これらの低コストチェーンがユーザーにとって魅力的です。
セキュリティ/分散性
セキュリティと分散性はブロックチェーンの信頼性の根幹をなします。
Ethereumは、その膨大な数のノードと成熟したPoSコンセンサスにより、最も高い分散性とセキュリティを提供しています。
L2であるArbitrumは、Ethereumのセキュリティモデルを継承しているため、高い信頼性を誇ります。
BNB ChainやPolygon、Avalancheは、Ethereumほどではないものの、それぞれ数百人規模のバリデータによるPoSベースのコンセンサスで運用されており、一定水準以上のセキュリティを確保しています。
プロジェクトの性質(例:資産の規模や、検閲耐性の要件)に応じて、セキュリティと分散性のバランスを考慮してチェーンを選定することが重要です。
これらの要素を総合的に評価し、提供したいdAppの特性、ターゲットユーザー、予算に最も適したEVM対応ブロックチェーンを選ぶことが、プロジェクトの成功に繋がります。
EVMを活用したdApp開発のメリットと注意点
EVM(Ethereum Virtual Machine)ベースのブロックチェーンは、その成熟したエコシステムと開発ツール群のおかげで、分散型アプリケーション(dApp)開発において多くのメリットを提供します。
しかし、ブロックチェーン特有の注意点も存在するため、効果的かつ安全な開発のためにはそれらを理解しておくことが重要です。
dApp開発のメリット(エコシステム、ツールチェーン)
EVMを利用したdApp開発の最大のメリットは、広範で成熟したエコシステムと豊富な開発ツールチェーンにあります。
- 充実した開発フレームワーク: TruffleやHardhatのような主要なスマートコントラクト開発フレームワークは、コントラクトのコンパイル、デプロイ、テストといった一連のプロセスを統合的に支援してくれます。これにより、開発者は煩雑な作業を自動化し、迅速に開発を進めることができます。
- 再利用可能なセキュアなライブラリ: OpenZeppelinが提供するコントラクトライブラリは、ERC-20やERC-721といったトークン標準の実装や、アクセス制御、安全な数学演算など、監査済みで実績のあるコード部品を豊富に含んでいます。これらを活用することで、開発者は一からセキュアなコントラクトを実装する手間を省き、リスクを低減できます。
- 豊富な学習リソースとコミュニティ: Ethereumの開発者コミュニティは世界最大規模であり、公式ドキュメント、チュートリアル、フォーラム、オンラインコースなど、学習リソースが非常に充実しています。これにより、開発者は問題解決や最新情報のキャッチアップをスムーズに行えます。
- クロスチェーン展開の容易さ: EVM互換チェーンが多数存在するおかげで、一度習得したSolidityやEVM関連ツールは、EthereumだけでなくBNB Chain、Polygon、Avalancheなど、様々なネットワークでのdApp展開に活用できます。これにより、より多くのユーザーにリーチし、柔軟なマルチチェーン戦略を実行できます。
- 便利なSDKとAPI: Web3.jsやEthers.jsのようなJavaScriptライブラリは、フロントエンドとスマートコントラクト間の連携を容易にします。また、AlchemyやQuickNodeといったプロバイダーは、ブロックチェーンノードへのアクセスを簡素化するAPIを提供しており、開発者がインフラ管理の手間を省くことができます。
これらのメリットにより、EVMベースのdApp開発は比較的参入障壁が低く、高い生産性を実現できます。
開発時の注意点(セキュリティ、ガス最適化)
一方で、ブロックチェーン、特にEVM上でのdApp開発には、従来のWeb開発とは異なる特有の注意点が存在します。
セキュリティ対策の徹底
スマートコントラクトは一度デプロイされると、基本的に変更不能です(アップグレード可能なプロキシ契約を除く)。
そのため、バグや脆弱性があれば恒久的に残り、資金流出などの深刻な問題に直結する可能性があります。
典型的な脆弱性である再入可能性攻撃(reentrancy)、整数オーバーフロー/アンダーフロー、アクセス制御のミスなどに対する対策を講じる必要があります。
常に「Checks-Effects-Interactions」パターンに従い、外部コントラクトへの呼び出しよりも前に内部状態の更新を完了させるなどの防御策を徹底しましょう。 可能であれば、第三者機関によるセキュリティ監査やバグバウンティプログラムの実施を強く推奨します。
ガスコストの最適化
スマートコントラクトの実行にはガス(手数料)が伴うため、ガスコストを意識したコード設計が不可欠です。
ガス代が過度に高いdAppはユーザーに使われにくく、またブロックのガスリミットを超えるとデプロイや実行ができません。
主な最適化テクニックとしては、状態変数への書き込み回数を減らす、ループ処理を避ける、不必要なデータをオンチェーンに保存しない、ガス効率の良いデータ構造(例:配列よりマッピング)を使う、`constant`や`immutable`キーワードを活用するなどが挙げられます。
Solidityコンパイラの最適化オプションも有効活用し、テストを十分に行って適切な設定を見つけましょう。
アップグレード可能性の検討
スマートコントラクトは不変であるため、デプロイ後の機能追加やバグ修正が困難です。
この課題を解決するため、プロキシ契約(Proxy Contract)パターンなどを用いたアップグレード可能なスマートコントラクトの設計を検討しましょう。
これにより、ロジックコントラクトを置き換えることで、デプロイ済みコントラクトの機能を変更できるようになります。
EVM上でのdApp開発は、強力なエコシステムと柔軟性を提供する一方で、「セキュリティ最優先」の意識と、ガス効率を常に考慮する視点が求められます。
EVMの将来展望と技術的進化の方向性
Ethereum Virtual Machine(EVM)は、ブロックチェーン技術の進化とともに、その機能と性能を継続的に拡張します。
そして、Web3の未来を形作る重要な要素であり続けます。
イーサリアムコミュニティでは、プロトコル改良の提案(EIP: Ethereum Improvement Proposal)が活発に議論・実装されており、EVMの将来性を示唆しています。
次世代EVMアップグレード(EIP-4844,EIP-1559など)
EVMとその基盤となるイーサリアムネットワークは、以下のような主要なEIPによって継続的に進化しています。
EIP-1559(ロンドンハードフォークで2021年8月実装)
このEIPは、イーサリアムの取引手数料モデルを抜本的に改革しました。
従来のオークション形式から、ネットワークが動的に決定する基本手数料(ベースフィー)と、ユーザーが任意で支払う優先料金(チップ)の組み合わせに移行しました(Galaxy Digital Research)。
特にベースフィーの大部分が焼却(burn)される仕組みは、イーサリアムの供給量を減少させる「デフレ圧力」を生み出し、「超音波マネー(Ultrasound Money)」と称されるようになりました。
これにより、手数料の予測可能性が向上し、ユーザー体験が改善されるとともに、ETHの価値向上に寄与すると期待されています。
EIP-4844(プロトダンクシャーディング、Cancun/Denebアップグレードで導入予定)
2024年に予定されているCancun/Denebアップグレードで実装が見込まれるEIP-4844は、イーサリアムのスケーラビリティを大幅に向上させることを目的としています。
この提案は「プロトダンクシャーディング」とも呼ばれ、レイヤー2(L2)ロールアップが安価に大量のデータをメインネットに投稿できるよう、ブロックに一時的なデータ領域「ブロブ(blob)」を導入します。
ブロブの導入により、L2の手数料が現在の1/10以下、あるいは1トランザクションあたり1円以下にまで大幅に低下する可能性が指摘されています。
イーサリアム全体として秒間10万件規模の取引処理も視野に入ると言われています。 EIP-4844は、ロールアップを中心としたスケーリング戦略の本格的な始動を意味し、イーサリアムのユースケース拡大に大きく貢献すると期待されています。
代替VMおよびEVM拡張の動向
EVMは事実上の標準VMですが、その性能や互換性、セキュリティモデルに関して、他のアプローチも模索されています。
WASM VM(WebAssembly Virtual Machine)
WASMは、ブラウザ上の高性能なバイトコード実行環境として開発された技術です。
しかし、ブロックチェーン領域でもスマートコントラクト用VMとして注目されています。
WASMベースのVMは、EVMに比べて処理効率が非常に高く、10~100倍高速であるとも言われています。
また、RustやC++など多様なプログラミング言語からコンパイル可能であり、既存の開発資産を活用しやすいというメリットがあります。
PolkadotやCosmos (CosmWasm)、NEARなど、いくつかの新世代ブロックチェーンはWASM系VMを採用しており、高性能な次世代VMとして有望視されています。
zkVM・zkEVM(ゼロ知識系仮想マシン)
ゼロ知識証明技術と親和性の高い仮想マシンがzkVMです。
特にイーサリアムエコシステムではzkEVM(ゼロ知識版EVM)が大きな注目を集めています。
zkEVMは、EVMの動作をそのままゼロ知識ロールアップ上で再現します。
そして、各取引の計算結果に対するゼロ知識証明を生成することで、高スループットかつセキュアなスケーリングを実現します。
Polygon zkEVMやzkSync Era、Scrollといったプロジェクトがテストネットやメインネットβを公開しています。
既存のEVM資産(スマートコントラクトや開発ツール)を活かしつつ、イーサリアムのスケーラビリティとプライバシー拡張の切り札となることが期待されています。
これらの技術的進化は、EVMを中心とするブロックチェーンエコシステムが今後も拡大し、より多様なユースケースに対応していく未来を示しています。
ブロックチェーンのEVMについてよくある質問
EVMやブロックチェーン開発に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
EVMとWASMVMの違いは?
EVMとWASM VMは、スマートコントラクトを実行するための仮想マシンという点では共通しています。
しかし、設計思想や性能、対応言語に違いがあります。
EVMはスタックベースの仮想マシンで、Solidityなどの特定の言語に特化しています。
一方、WASM VM(WebAssembly Virtual Machine)はレジスタベースであり、EVMよりも処理効率が高く、RustやC++などより多様なプログラミング言語での開発が可能です。
WASM VMは高性能ですが、EVMエコシステムとの互換性がないため、既存のEVMベースのdAppを移行するには多くの労力が必要です。
ガス代を最適化する方法は?
スマートコントラクトのガス代を最適化するには、無駄な計算やストレージ操作を減らすことが重要です。
具体的には、状態変数への書き込み回数を最小化する、ガス効率の良いデータ構造(例:配列ではなくマッピング)を利用する、不要なデータをオンチェーンに保存しない、そして`constant`や`immutable`キーワードを活用するなどが挙げられます。
また、Solidityコンパイラの最適化オプションを有効にすることも有効です。
「チェーン上で実行する処理をできるだけ減らす」という意識を持つことがガス節約の鍵となります。
ネットワーク選定の指標は?
dAppを開発・展開するブロックチェーンを選定する際には、主に以下の指標を考慮します。
- 性能(スループット): 大量のトランザクション処理が必要な場合は、高TPSのチェーン(例:Polygon、BNB Chain、Avalanche C-Chain)やL2(例:Arbitrum)を検討します。
- 手数料の安さ: 頻繁なトランザクションや小口決済が多い場合は、ガス代が安価なチェーン(例:Polygon、BNB Chain、L2)が適しています。
- セキュリティと分散性: 資産の規模や検閲耐性への要件が高い場合は、最も分散性が高くセキュリティが堅牢なEthereumメインネット、またはそのL2が第一候補となります。
- エコシステムの充実度と開発者サポート: 開発ツール、ライブラリ、学習リソース、コミュニティの規模も、開発のしやすさに影響します。
プロジェクトのユースケースとユーザーのニーズに合わせて、これらの要素を総合的に評価することが重要です。
セキュリティ上の注意点は?
スマートコントラクトのセキュリティは極めて重要です。
一度デプロイされたコントラクトは基本的に修正できないため、再入可能性攻撃、整数オーバーフロー/アンダーフロー、アクセス制御のミスなど、既知の脆弱性への対策を徹底する必要があります。
OpenZeppelinのような監査済みのライブラリを活用し、綿密な単体テスト・統合テストを実施しましょう。
可能であれば、第三者機関のセキュリティ監査を受け、バグバウンティプログラムを導入することも推奨されます。
ブロックチェーンのEVMについてまとめ
今回、Pacific Meta Magazineでは、ブロックチェーンのEVMについて以下の内容について紹介してきました。
- EVM(Ethereum Virtual Machine)は、イーサリアムおよび多くの互換チェーンでスマートコントラクトを実行する中核的な仮想マシンです。
- EVMはガスモデルによって計算資源の消費を管理し、スマートコントラクトの決定論的かつ安全な実行を保証します。
- EVM互換チェーンの普及により、既存のスマートコントラクトや開発ツールを多角的に活用でき、クロスチェーン技術によってブロックチェーン間の相互運用性も高まっています。
- dApp開発においては、豊富なツールエコシステムがメリットとなる一方で、ガス最適化や厳格なセキュリティ対策が不可欠です。
- EIP-1559やEIP-4844といった継続的なアップグレードにより、イーサリアムEVMとそのエコシステムはさらなるスケーラビリティと効率性を追求し、将来性も非常に高いです。
EVMは、Web3におけるスマートコントラクト駆動型アプリケーションの基盤であり、その仕組みを深く理解することは、Web3関連事業を成功させる上で不可欠な要素です。
本記事で得たEVMに関する知見を活かし、貴社のプロジェクトにおけるブロックチェーン技術の適用、特にEVM互換チェーンの活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
詳細な導入手順や、貴社のビジネスモデルに合わせたカスタムソリューションの検討については、Web3専門家へのご相談もぜひご検討ください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。