CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは、中央銀行が発行し、法定通貨建てで中央銀行の負債となる電子的なお金です。現金と同じく中央銀行そのものが価値を裏付けるため、民間企業が発行するデジタルマネーとは信用の出どころが異なります。

日本銀行は発行を決めていませんが、2021年の概念実証を経て、2023年4月から民間事業者も参加するパイロット実験を続けています。BISが2025年8月に公表した2024年調査では、回答した93中央銀行のうち91%がいずれかの形態のCBDCを検討していました。
一般利用型が発行されれば、決済の仲介や銀行預金の構造が変わります。金融機関間で使うホールセール型はトークン化資産の決済に関わり、人間だけでなくAIエージェントが支払う決済レイヤーとも接点を持ちます。発行時期より先に、設計の方向性を読んでおく価値があります。
- CBDCは中央銀行の負債となる、法定通貨建ての電子的なお金
- 種類は金融機関向けのホールセール型と一般利用型の2つ
- 日本は2023年4月からパイロット実験中で、発行は未決定
- 違いの軸は技術でなく、誰の債務かと規制区分
- 企業の備えは発行時期より設計の方向性を見た論点整理
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CBDCとは中央銀行が発行するデジタルの法定通貨
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは、中央銀行が発行し、法定通貨建てで中央銀行の負債となるデジタル形式のお金です。日本銀行は2020年10月の「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」で、CBDCを銀行が日本銀行に預ける当座預金とは異なる、新たな形態の電子的な中央銀行マネーと説明しています。

同じ方針から読み取れるCBDCの要素は3つです。
- デジタル化された電子的なお金であること
- 円などの法定通貨建てで、価値の尺度として機能すること
- 中央銀行の負債であり、決済の手段として使われること
価値の裏付けが中央銀行そのものにある点が、電子マネーやステーブルコインとの根本的な違いです。民間の発行体が破綻するリスクを負わない点で、性質は現金に近くなります。
関心は日本だけのものではありません。BISが2025年8月に公表した2024年調査では、回答した93中央銀行のうち85行がCBDCを検討しており、全体としてはホールセール型の検討が一般利用型より進んでいました。3分の1を超える法域が、ステーブルコインなどの動向を受けて作業を加速したとも報告されています。
日本のCBDCはパイロット実験の段階で発行は未定
日本銀行は、CBDCを発行するかどうかを決めていません。そのうえで、2021年の概念実証から2023年4月のパイロット実験へと準備を進めてきました。2026年6月の進捗報告書でも、発行の判断は今後の国民的議論のなかで決まり、報告書の設計内容は社会実装時の設計を確定するものではないと明記しています。

| 時期 | 段階 | 中身 |
|---|---|---|
| 2020年10月 | 取り組み方針の公表 | 発行計画はないが、準備しておくことが重要と表明 |
| 2021年4月〜2023年3月 | 概念実証(フェーズ1・2) | 一般利用型の基本機能が技術的に実現できるかを検証 |
| 2023年4月〜 | パイロット実験 | 実験用システムの構築・検証とCBDCフォーラムの2本柱 |
| 2026年6月 | 進捗報告書の公表 | 台帳管理システムの技術的な検討を深める予定と記載 |
パイロット実験の柱の1つであるCBDCフォーラムは、2023年7月に設置されました。リテール決済に知見を持つ金融機関やスタートアップなどの事業者が参加し、2024年3月時点の参加者は64社でした。7つのワーキンググループで84回の会合を重ね、2026年度からは3つのディスカッショングループに再編されています(日本銀行の2026年6月公表資料)。
政府側でも「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議」が、2024年4月の中間整理、2025年5月の第2次中間整理、2026年6月の進捗報告を公表しました。企業が追うべきは、こうした場で固まりつつある設計の方向性です。
CBDCの仕組みと種類
CBDCの種類は、誰が使うかとどう配るかで整理できます。日本銀行はCBDCをホールセール型と一般利用型の2形態に分けて説明しています。

| 種類 | 利用者 | 主な用途 | 検討例 |
|---|---|---|---|
| ホールセール型 | 金融機関など一部の先 | 金融機関間の大口決済、証券取引の決済 | BISのProject Agorá |
| 一般利用型 | 個人・企業を含む幅広い利用者 | 日常の支払い・送金 | 日本銀行のパイロット実験 |
ホールセール型CBDC
ホールセール型CBDCは、利用者を金融機関などに限った電子的な中央銀行マネーです。日本銀行は、性質が銀行の当座預金と共通し、分散型台帳技術の活用で証券やデリバティブ取引の決済効率を高め得るとの指摘があると説明しています。

BISは2024年4月、日本銀行を含む7つの中央銀行と民間金融機関が参加するProject Agoráを発表しました。トークン化したホールセール中央銀行マネーとトークン化した銀行預金を共通の基盤で統合し、国際送金の改善を探る実験です。
一般利用型CBDC
一般利用型CBDCは、個人や企業が現金のように使えるデジタル通貨です。日本銀行は基本的な特性として、誰でも使えるユニバーサルアクセス、セキュリティ、強靭性、即時決済性を挙げています。強靭性にはオフライン環境での利用確保を含み、自然災害の多い日本で重要と明記しています。日本で検討されている一般利用型CBDCの経緯と仕組みは、デジタル円の解説で扱っています。

間接型(二層構造)の配り方
配り方には、中央銀行が利用者へ直接届ける直接型と、銀行などの仲介機関を通す間接型があります。日本銀行は一般利用型を発行する場合、中央銀行と民間部門による二層構造を維持し、間接型が基本になるとしています。銀行や決済事業者の仲介役は、CBDCが発行されても残る前提です。

CBDCとステーブルコイン・暗号資産・預金トークンの違い
デジタルなお金の違いは、誰の債務かで決まります。技術がブロックチェーンかどうかは、区別の軸になりません。

| 種類 | 発行主体 | 誰の債務か | 価値の安定 | 日本の状況 |
|---|---|---|---|---|
| CBDC | 中央銀行 | 中央銀行 | 法定通貨そのもの | パイロット実験中、発行は未決定 |
| 預金トークン | 銀行 | 銀行 | 銀行預金と同じ | 日本銀行が海外の取り組みを論文で整理 |
| ステーブルコイン(電子決済手段) | 銀行・資金移動業者・信託会社など | 発行事業者 | 償還の仕組みで法定通貨に連動 | 改正資金決済法の枠組みが施行済み |
| 電子マネー | 民間事業者 | 発行事業者 | 前払いした金額に固定 | 普及済み |
| 暗号資産 | 特定の発行体なし | 誰の債務でもない | 価格が変動する | 交換業者を通じて取引 |
日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。この枠組みを含む改正資金決済法は2026年6月1日に施行されました。預金トークンについては、日本銀行が2024年6月に論文「海外における『預金のトークン化』の取り組みについて」を公表しています。
CBDCは必ずしもブロックチェーンで動くわけではありません。日本銀行の2026年6月の報告書も、今後は台帳管理システムの技術的な考慮事項を検討するとしており、技術方式は決まっていません。決済手段を選ぶ軸は技術ではなく、信用の出どころと規制区分です。
海外のCBDCは欧州が次段階へ進み米国は否定
海外の動きは国によって方向が分かれています。主要な公表は次のとおりです。

| 国・地域 | 名称 | 公表された段階 | 基準時点 |
|---|---|---|---|
| 欧州 | デジタルユーロ | 準備段階を完了し次の段階へ移行。2029年中の最初の発行の可能性に備える | 2025年10月(ECB公表) |
| インド | デジタルルピー(e₹-R) | 一般利用型のパイロットを開始 | 2022年12月(RBI公表) |
| 米国 | 該当なし | 大統領令でCBDCの創設・発行・利用の禁止を含む措置を政策に掲げた | 2025年1月 |
欧州中央銀行(ECB)の政策理事会は2025年10月、2023年11月に始めたデジタルユーロの準備段階を完了し、11月から次の段階へ移ると決定しました。ただし、2026年に欧州の立法機関が設立規則を採択することが前提で、発行そのものは決まっていません。
インド準備銀行は2022年12月、限られた地域の顧客と加盟店を対象に、銀行を通じて配るデジタルルピーのパイロットを始めました。配布の仕組みは日本銀行が想定する間接型と近い形です。
米国は2025年1月の大統領令で、CBDCが金融の安定・個人のプライバシー・米国の主権を脅かすとして、米国の管轄内でのCBDCの創設・発行・流通・利用の禁止を含む措置を掲げ、否定的な立場を明確にしました。先進国のなかでも、前に進む欧州と慎重な米国で方針が割れています。
CBDCのメリットとデメリット
CBDCには決済の効率化や災害時の強さといった期待がある一方、プライバシーや銀行預金への影響という懸念もあります。設計次第で効果と副作用の大きさが変わる点が判断の前提です。

メリット①:決済の効率化とコスト低下
中央銀行のお金で即時に決済が完了すれば、銀行間の清算にかかる時間と手間を減らせます。ホールセール型では、証券取引の代金決済や国際送金を効率化する実験が各国で進んでいます。

メリット②:金融包摂と災害時の決済継続
日本銀行は一般利用型の特性として、誰でも使えることとオフラインでの利用確保を挙げています。停電や通信障害が起きた地域でも、支払いの手段を確保できる設計が検討対象です。
デメリット①:プライバシーと取引データの扱い
デジタルの支払いは記録が残るため、取引データを誰がどこまで見られるかが論点になります。米国の大統領令もプライバシーへの脅威を理由に挙げました。不正送金の監視とのバランスをどう取るかが、設計上の大きな課題です。

デメリット②:銀行預金の流出と金融仲介への影響
安全なCBDCへ預金が大量に移ると、銀行の貸出原資が減り、金融仲介が弱まるおそれがあります。日本銀行が一般利用型で間接型を基本とし、民間部門との二層構造を維持するとしているのは、銀行の役割を残す設計でもあります。

CBDCに関するよくある誤解
CBDCは新しい言葉で、暗号資産やステーブルコインの話題と一緒に語られることが多いため、実態と異なる理解が広がりがちです。代表的な誤解と実際を並べます。

| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| CBDCはブロックチェーンで動く | 技術方式は未定で、日本銀行は台帳管理システムの検討を続けている段階 |
| CBDCで現金はなくなる | 日本銀行の検討は現金と並ぶ新たな中央銀行マネーとしての整理で、現金の廃止を前提にしていない |
| CBDCは暗号資産の一種 | CBDCは中央銀行の負債で法定通貨建て。暗号資産は特定の発行体の債務ではない |
| 日本ではもうすぐ発行される | 日本銀行は2026年6月時点で発行を決めておらず、国民的議論で決まるとしている |
CBDCが企業・金融機関に与える影響と検討の進め方
CBDCの影響は、発行時期よりも設計の方向性で決まります。間接型で配るか、一般利用型とホールセール型のどちらが先に進むか、民間のデジタルマネーとどう連携するかが、自社への影響の大きさを左右します。

金融機関への影響
間接型が基本となれば、銀行は利用者へCBDCを届ける仲介役を担います。口座管理や本人確認の役割は残る一方、預金がCBDCへ移る分だけ資金調達の構造は変わります。Project Agoráのように、ホールセール型とトークン化した預金を同じ基盤で扱う実験は、トークン化資産の決済に銀行がどう関わるかの先行例です。

事業会社の決済・資金管理への影響
事業会社にとっての論点は、CBDC・ステーブルコイン・預金トークンをどう使い分けるかです。民間のデジタルマネーを扱う場には行政と銀行も加わっており、金融庁や三井住友銀行などが登壇したJapan Stablecoin Summit #2(Pacific Meta主催)もその一例です。決済手段はAIエージェントが自動で支払う仕組みにも使われ始めており、どのお金をどの業務の支払いに載せるかを早めに整理しておく意味があります。

| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 自社の決済フローへの影響 | 受取・支払のどの工程が中央銀行マネーや民間デジタルマネーに置き換わり得るか | 自社の決済フロー図、日本銀行のパイロット実験報告書 | 置き換え候補の工程が一覧になっている |
| 預金・資金管理への影響 | 間接型の配布や預金からの移動が自社の資金管理に与える影響 | 日本銀行の進捗報告書、取引銀行 | 影響の有無を設計案ごとに説明できる |
| ステーブルコイン・預金トークンとの使い分け | 用途別に誰の債務のお金を使うか、規制区分はどこか | 資金決済法の電子決済手段の枠組み、金融庁の公表資料 | 用途ごとの候補手段と規制区分が表になっている |
| 規制・制度動向の把握 | 関係府省庁・日本銀行連絡会議やECBなど海外の公表 | 日本銀行のCBDC関連ページ、各中央銀行の公表 | 確認する公表元と頻度が決まっている |
| 社内体制 | 決済・財務・法務・システムの担当と検討の主管部門 | 社内の関係部門 | 主管部門と関与部門が決まっている |
CBDCは発行時期が決まっていないため、社内では検討の優先度を決めにくいテーマです。一方で決済フロー、資金管理、規制区分の論点は財務・法務・システムの部門をまたぎ、ステーブルコインや預金トークンとの使い分けまで含めると、1部門だけでは判断がまとまりません。デジタルマネーを使う事業の構想から整理する場合の進め方は、支援内容にまとめています。
Pacific Metaのサービス
ブロックチェーンの事業構想・戦略設計を支援します。
業務課題の特定から適合性判断・PoC設計まで、導入検討の最初の一歩を伴走します。
事業構想・戦略設計サービスの詳細を見るよくある質問
CBDCはいつ日本で始まりますか?
開始時期は決まっていません。日本銀行は2026年6月の報告書でも、発行するかどうかは今後の国民的議論のなかで決まるとしています。パイロット実験の結果は、発行を判断するための材料として積み上げられている段階です。
CBDCを使うのに銀行口座は必要ですか?
日本銀行は一般利用型の特性として、誰でも使えるユニバーサルアクセスを挙げています。一方で配布は銀行などを通す間接型が基本とされており、口座との関係は今後の設計で決まります。
CBDCに利息はつきますか?
利息の扱いを含め、日本のCBDCの設計は決まっていません。日本銀行は2026年6月の報告書で、記載した設計内容は社会実装時の設計を確定するものではないとしています。
CBDCのまとめと企業が備える論点
CBDCは中央銀行の負債となる法定通貨建てのデジタルなお金で、ホールセール型と一般利用型の2つがあります。日本銀行はパイロット実験を続けながらも発行は決めておらず、欧州は次の段階へ進み、米国は否定的な立場を取りました。

企業にとって重要なのは、ステーブルコインや預金トークンを含めたデジタルマネーのなかで、誰の債務のお金をどの業務に使うかを整理しておくことです。間接型の採用や民間のデジタルマネーとの連携といった設計の方向性が、金融機関と事業会社の両方の業務に影響します。
CBDCに関するここまでの内容は、2026年10月16日時点の公表資料に基づく制度の一般的な整理です。個別の事業への当てはめは専門家や当局への事前相談で確認し、基準日以降の公表で内容が変わる可能性がある点にご留意ください。
CBDCの設計が固まる前でも、決済と資金管理のどこに影響が出るかは今の時点で整理できます。発行時期を待たずに論点を持っておくことが、制度が動いたときの判断を早めます。