トークン化預金とは、銀行が預金を裏付けにブロックチェーン上でトークンを発行し、預金のまま送金や決済に使えるようにする仕組みです。保有者が持つのは銀行への預金債権で、銀行が移転に関与します。

J.P. Morganは2025年11月、米ドル建ての預金トークンJPM Coin(JPMD)を機関顧客向けに提供開始したと公表しました。国内でも北國銀行のトチカやDCPの基盤、金融庁が支援する銀行間決済の実証が動いています。台帳上で条件を満たすと自動で支払う仕組みは、AIエージェントが人手を介さずに支払う決済の土台とも重なります。
企業にとっては、銀行振込の締め時刻に縛られない企業間決済やグループ内の資金移動を、預金のまま実現できるかどうかが論点です。
- トークン化預金は法的には銀行への預金債権のまま
- ステーブルコインとは発行主体と保有者の権利で区別
- 海外はJ.P. Morgan、国内は北國銀行やDCPの基盤が先行
- 国内は実証と地域限定サービスの段階で本格商用は未開始
- 検討の起点は支払い相手の参加銀行口座の有無
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トークン化預金とは銀行預金をブロックチェーンに載せたもの
トークン化預金とは、銀行が発行し移転にも関与する、ブロックチェーン上の預金です。預金トークンやDeposit Tokenと呼ばれることもあり、意味は同じです。

トークン化とは、資産の権利をブロックチェーン上のトークンで記録し、移転できるようにすることです。トークン化預金は、その対象を銀行預金にしたものといえます。
法的な扱いについて、金融庁金融研究センターのディスカッションペーパー(2025年12月)は、銀行が移転に関与するデジタル・マネーの決済手段を要求払預金に係る債権と理解するのが一般的と整理しています。J.P. Morganも自社のJPMDを、パブリックブロックチェーン上で発行した米ドル建ての預金トークンと位置付けています。保有者が持つのは銀行への預金債権のままで、この点がステーブルコインとの違いの根になります。
トークン化預金とステーブルコイン・CBDC・電子マネーの違い
デジタルなお金の違いは、誰が発行し、保有者が何を持ち、どこまで使えるかで決まります。

| 比較項目 | トークン化預金 | ステーブルコイン | CBDC | 電子マネー |
|---|---|---|---|---|
| 発行主体 | 銀行 | 資金移動業者・信託会社・銀行など | 中央銀行 | 事業会社など |
| 保有者が持つもの | 銀行への預金債権 | 発行者への償還請求権など | 中央銀行の債務 | 発行者へのサービス利用権 |
| 使える範囲 | 参加銀行の口座保有者の間 | 発行条件により広い相手へ流通 | 発行国の利用者を想定 | 加盟店など発行者の範囲 |
| 払戻し | 預金口座へ戻す | 発行者へ償還 | 未定 | 原則として払戻しに制限 |
| 日本での状況 | 地域限定サービスと実証 | 改正資金決済法の下で発行可能 | パイロット実験中 | 普及済み |
日本では、法定通貨建てで発行価格と同額での償還が想定される一部のステーブルコインについて、資金決済法上の「電子決済手段」として整理される枠組みが設けられています。改正資金決済法は2026年6月1日に施行されました。
CBDCについて、日本銀行は2023年4月からパイロット実験を行っています。2026年6月の進捗報告書では、発行するかどうかは現時点で決定していないとしていました。
使い分けの目安としては、取引先やグループ内に閉じた支払いはトークン化預金、不特定の相手への流通はステーブルコインが候補になります。
トークン化預金が注目される理由と国内外の事例
注目の起点は、大手銀行自身が実装に乗り出したことです。J.P. Morganは2025年11月12日、米ドル建て預金トークンJPMDを機関顧客向けに提供開始したと公表しました。

ウェルズ・ファーゴも2026年8月4日、法人・商業顧客向けトークン化預金の導入を発表しました。限定的な米ドル・英ポンド取引から始め、2027年にかけて顧客・国・通貨を広げる計画で、既存預金と同じ預金保険の適格性を掲げています。
国内の主な取組みは次のとおりです。
| プロジェクト | 主体 | 分類 | 状況 |
|---|---|---|---|
| トチカ | 北國銀行 | 名称は預金型ステーブルコイン、区分は預金側 | 2024年4月に地域通貨アプリで提供開始 |
| トークン化預金プラットフォームDCP(旧DCJPYネットワーク) | DCP | 民間銀行が発行するデジタル預金 | 2026年7月に名称変更 |
| トークン化預金の銀行間決済の実証 | DCP・GMOあおぞらネット銀行・アビームコンサルティング | 銀行間決済の検証 | 2026年4月に金融庁FinTech実証実験ハブの支援案件に決定、8月に43社参加を発表 |
なお、三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行が2026年6月に発表した共同発行は、信託契約に基づくステーブルコインで、トークン化預金とは区分が違います。
事例に共通するのは、銀行が発行し移転にも関与する点です。J.P. Morganはパブリックチェーン上で、DCPは銀行が運営するゾーンを含む基盤上で、それぞれ預金を移します。ただし国内は実証と地域限定サービスの段階で、企業間決済の本格商用はこれからです。
トークン化預金の仕組みと発行から払戻しまでの流れ
トークン化預金の仕組みは、銀行の預金残高とブロックチェーン上のトークン残高を対応させ、銀行の管理下で移すことにあります。流れは3段階です。

- 発行:利用企業の預金口座から、同額のトークンを銀行が発行
- 移転:参加銀行の口座を持つ相手へ、台帳上でトークンを送金
- 払戻し:受け取った企業がトークンを預金口座の残高へ戻す
参加者と移転できる範囲
トークンを受け取れるのは、原則として参加銀行に預金口座を持つ利用者です。金融研究センターの資料も、預金口座を持つ利用者の間で移転が行われ、銀行が移転に関与すると説明しています。支払い相手が参加銀行の口座を持てるかが、使える範囲を決めます。

スマートコントラクトで自動化できる支払い
台帳上のプログラム(スマートコントラクト)を使うと、条件を満たしたときに支払う処理を組み込めます。証券の引渡しと代金の支払いを同時に行うDVP(同時履行)も、同じ台帳上で設計しやすくなります。

企業におけるトークン化預金の活用領域
海外では、J.P. Morganが機関顧客向けにJPMDを提供しています。国内の銀行間決済の実証では、民間銀行1行が幹事行となる「TD幹事行方式」と、銀行間決済をステーブルコインで行う「TD-SC連携方式」の2方式を検証しています。これらを企業の業務に置き直すと、次の4領域が候補です。

| 業務 | 使う部門 | 置き換える既存の仕組み | 変わること |
|---|---|---|---|
| 企業間決済 | 財務・経理 | 締め時刻のある銀行振込 | 夜間・休日も決済可能 |
| グループ内資金管理 | 財務 | 営業日単位の資金移動 | 子会社間の即時移動 |
| 証券決済 | 財務・投資 | 引渡しと支払いの別処理 | DVPで同時に完了 |
| 条件付き支払い | 調達・経理 | 検収後の手作業の支払い | 条件達成で自動送金 |
定量効果を一次情報で公表した例は、基準日時点ではまだ少ない状況です。始める業務は、夜間・休日の決済やグループ内の即時移動が実際に要る業務から選ぶと、効果を測りやすくなります。
トークン化預金に関するよくある誤解
トークン化預金は新しい言葉で、似た名称と混同されがちです。

| よく見かける説明 | 実際 |
|---|---|
| ステーブルコインの一種 | 法的には預金債権で、電子決済手段とは別の区分 |
| 銀行が関わるデジタル通貨はすべてトークン化預金 | 銀行が移転に関与し預金を移すものに限られる |
| 信託型の発行基盤もトークン化預金 | 信託型はステーブルコインの発行方式 |
| すぐに誰でも使える | 国内は参加銀行の口座保有者に限る実証・地域サービスの段階 |
名称と区分がずれる例がトチカです。北國銀行は「預金型ステーブルコイン」と呼んでいますが、銀行が移転に関与して預金を移すデジタルマネーであり、金融研究センターの整理では預金債権の側に入ります。見分けるときは名称でなく発行主体と保有者の権利を見ます。
トークン化預金の法的な扱いと預金保険
トークン化預金は、法的には預金のままです。金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーは、銀行が移転に関与するデジタル・マネーを預金債権と整理し、同資料の執筆時点で発行が許容されているのはこの型に限られるとしています。

一方、銀行が移転に関与しないデジタル・マネーに関連するのが、資金決済法上の電子決済手段です。同資料は、法定通貨と連動した価格で発行され同額で償還を約するもの等を規制対象にした仕組みと整理しています。なお同資料は執筆者個人の見解で、金融庁の公式見解ではないと明記しています。
預金保険について、同資料は預金債権が預金保険制度などを前提に価値の安定が図られるとしています。トークン化預金は預金債権である以上含まれ得ますが、固有の扱いを確定的に示した当局の公式資料はまだありません。実務の論点は新しい業登録の要否より、参加スキームの規約と預金保険の扱いを取引銀行に確かめることです。
トークン化預金の導入検討の進め方とチェックリスト
導入の検討は、リスクを業務の言葉で把握し、部門ごとの着手順を決め、確認項目を潰す順で進みます。

導入で業務が困るリスク
- 流通範囲の制約:支払い相手が参加銀行の口座を持てず、旧来の振込と二重運用
- 効果が未確立な段階の投資:定量効果の公表例が少なく、投資判断の根拠が弱い状態
- 実証段階の仕様変更:方式や名称の変更に合わせた改修負担

着手順と担当部門
| 順番 | 作業 | 主担当部門 | 期間の目安 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 置き換える業務の特定 | 経営企画・財務 | 1〜2か月 | 対象業務と支払い相手が決定 |
| 2 | 参加銀行・スキームの確認 | 財務 | 1〜2か月 | 参加条件と規約を入手 |
| 3 | 法務・会計の論点整理 | 法務・経理 | 2〜3か月 | 預金保険・会計処理の見解を取得 |
| 4 | システム接続の設計 | 情報システム | 2〜4か月 | 接続方式と改修範囲が確定 |
| 5 | 事業化の判断 | 経営企画 | 1か月 | 本格導入の可否を決裁 |
期間は一般的な目安で、参加スキームや社内体制により変わります。検証項目と判断基準は、工程5の判断に向けて工程1の段階で決めます。

目的別チェックリスト
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 法務・規制 | 預金債権としての扱いと規約上の権利 | 取引銀行・弁護士 | 書面で見解を取得 |
| 会計・税務 | 現預金としての計上可否 | 監査法人・税理士 | 処理方針を合意 |
| システム接続 | 既存の会計・資金管理システムとの連携 | 参加銀行・社内情報システム | 接続仕様を確定 |
| 提携・参加先 | 支払い相手の口座保有と参加意向 | 主要取引先・グループ会社 | 対象相手の名簿を作成 |
| 自社業務の適合 | 24時間決済が要る業務の有無 | 財務・経理 | 対象業務と期待効果を文書化 |
トークン化預金の検討では、用途・規制・システム・提携先の4つの変数が別々の部門に散らばっています。どれか1つだけ進めても決まらず、4つを同時に動かす必要があるため、社内の検討が調査段階で止まりやすくなります。発行から決済までを一体で設計する場合の考え方は、ステーブルコインとトークン化預金の導入設計で確認できます。

Pacific Metaのサービス
ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。
自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。
ステーブルコイン導入支援の詳細を見るトークン化預金に関するよくある質問
トークン化預金と預金トークンは同じものですか
同じものを指します。英語ではDeposit Tokenと呼ばれ、J.P. MorganのJPMDも預金トークンと説明されています。
トークン化預金は預金保険の対象ですか
預金債権である以上含まれ得ますが、日本で固有の扱いを確定的に示した当局の公式資料はまだありません。米国ではウェルズ・ファーゴが既存預金と同じ預金保険の適格性を掲げています。
トークン化預金はいつから企業が使えますか
国内では北國銀行のトチカが2024年4月に地域通貨として始まっています。企業間決済は銀行間決済の実証が2026年4月から進行中で、本格的な商用開始の時期は公表されていません。
ステーブルコインとどちらを検討すべきですか
支払い相手が参加銀行の口座を持つ取引先やグループ内に限られるなら、トークン化預金が候補です。不特定の相手へ流通させたい場合は、電子決済手段として整理されるステーブルコインも並べて比べます。
トークン化預金のまとめ
トークン化預金は、預金のまま台帳上で24時間動く決済手段です。ステーブルコインとは発行主体と保有者の権利で区別され、国内は実証と地域限定サービスの段階にあります。

検討の出発点は、支払い相手が参加銀行の口座を持てるかの確認です。法務・会計・システム・提携先の論点を並行して確かめることで、本格導入の判断材料が揃います。
ここでの内容は2026年10月16日時点の公表資料に基づく一般的な整理です。個別のスキームの法的扱いや会計処理は、弁護士・取引銀行・監査法人に確認してください。基準日以降の制度改正や当局の公表で内容が変わる場合があります。
トークン化預金とステーブルコインのどちらを使うかは、支払い相手の範囲、規制の確認、既存システムとの接続が組み合わさって決まります。部門をまたぐこの判断を社内だけで詰め切るのは難しく、外部の知見を交えると論点の漏れを早く見つけられます。