オーストラリアにおいて、2026年7月1日より暗号資産の送金に関する規制「トラベルルール」が施行されます。この新しい規制は、取引金額の下限(しきい値)を設けず、すべての取引所における送金に対して本人確認情報の収集と共有を義務付けるものです。欧州などの主要市場における規制強化の動きに追従するものであり、グローバルなコンプライアンス基準の統一に向けた重要なステップになるとされています。
新たなトラベルルールの概要と背景
オーストラリアで導入されるトラベルルールは、マネーロンダリングやテロ資金供与、詐欺などの金融犯罪を防止し、取引の透明性を高めることを目的としています。この規制は、オーストラリアの金融インテリジェンス機関であるAUSTRAC(オーストラリア取引報告・分析センター)によって管轄されています。
このルールは、2024年11月に可決されたマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CTF)法の改正に伴うものであり、オーストラリア国内で規制対象となっている暗号資産取引所などのサービスプロバイダー(VASP)に対して適用されます。
取引規模に関わらずすべての送金が対象に
今回の規制における最大の特徴は、送金金額の下限(しきい値)が設定されていない点です。国際的な基準である金融活動作業部会(FATF)のガイドラインでは、一般的に1,000米ドルまたはユーロ以上の取引に対してトラベルルールの適用が推奨されていますが、オーストラリアでは金額に関わらず、すべての規模の送金に対して送信者と受信者の識別情報を添付することが義務付けられます。
これにより、ユーザーが取引所から暗号資産を送受信する際には、送金先の名称や利用している取引所などの追加情報の入力を求められるようになります。また、個人が管理する自己管理型(セルフカストディ)ウォレットへの送金についても、ユーザー自身がそのアドレスを管理していることを確認する手続きが導入されるとされています。ただし、未検証の自己管理型ウォレットに関する正式な報告については、2029年3月まで猶予される方針とされています。
業界およびユーザーへの影響と市場の反応
この規制の導入に伴い、一部の暗号資産取引所はすでに先行して対応を開始しており、Kraken(クラーケン)やCoinJar(コインジャー)などのプラットフォームでは、施行前から追加の本人確認手続きが導入されているとされています。
一方で、取引の匿名性が失われることへの懸念から、施行を前に中央集権型の取引所から自己管理型のコールドストレージなどへ資金を移動させるユーザーの動きも見られるとされています。規制の強化は、市場の安全性と信頼性を向上させる一方で、既存の分散型エコシステムにおけるユーザー体験や利便性に一定の影響を与える可能性があると見られています。
ポイント
- オーストラリアで2026年7月1日より、暗号資産の送金における「トラベルルール」が正式に施行されます。
- 取引金額の下限(しきい値)が設定されていないため、極めて少額の取引を含むすべての送金に対して本人確認情報の共有が義務付けられます。
- 自己管理型ウォレットへの送金時にも、アドレスの所有権を確認する手続きが追加されますが、一部の報告義務については2029年3月まで猶予されるとされています。
- 欧州のMiCA(暗号資産市場規制)など世界的な規制強化の流れと足並みを揃えるものであり、業界全体のコンプライアンス基準が引き上げられる契機として注目されます。