北國銀行のステーブルコイン「トチカ」は、北國銀行が預金を裏付けに発行する1トチカ=1円のデジタル通貨です。Digital Platformerと共同で提供するデジタル地域通貨サービス「トチツーカ」のアプリ上で使い、石川県内のトチツーカ加盟店での支払いに充てられます。

トチカの提供開始は2024年4月1日で、北國銀行は「日本初の預金型ステーブルコイン」と発表しました。国内では2023年6月施行の改正資金決済法で電子決済手段の枠組みが整い、その後に資金移動業者が発行するJPYC、信託銀行が発行するJPYSCが続きました。預金型・資金移動業型・信託型が並ぶ段階に入っています。
地域金融機関や自治体にとって、トチカは決済手数料と地域通貨事業の運用負担を下げる実例です。AIエージェントが支払い主体になる決済もこうしたデジタル通貨の上に載るため、どの決済インフラを持つかは中長期の事業判断になります。
- トチカは北國銀行が発行する預金型のデジタル通貨
- 加盟店の決済手数料は税込0.5%
- チャージ上限は1日50万円・1か月100万円
- 他方式との違いは発行主体と法的な扱い
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北國銀行のステーブルコイン「トチカ」とは
トチカとは、北國銀行が預金を裏付けに発行する1トチカ=1円のデジタル通貨です。北國銀行の商品説明書は「トチカは預金です」と明記しており、ブロックチェーン技術で発行される預金型ステーブルコインとされています。

基本情報①:発行主体と技術提供
トチカの発行主体は北國銀行です。サービスはDigital Platformer(以下DP)と共同で提供するトチツーカの一機能として始まり、ブロックチェーンの基盤はDPが提供しています。
北國銀行は2024年4月の発表で、DPのブロックチェーンを活用した決済インフラのファーストユーザーとして、全国の地域で相互に使える環境を目指すと説明しました。銀行が発行し、技術会社が基盤を担う分業がトチカの基本の形です。
基本情報②:1トチカ=1円の価値の仕組み
トチカの価値は1トチカ=1円で固定されています。利用者がトチツーカアプリでチャージ用の銀行預金口座を登録するとトチカ口座が開設され、登録口座から入金した金額がそのままトチカになります。

トチカは預金なので、価値の裏付けは銀行預金そのものです。価格が変動する暗号資産とは仕組みが異なり、換金すれば登録口座に円で戻ります。換金手数料は当月2回目以降にかかり、換金額から差し引かれます。トチカには利息は付きません。
基本情報③:トチツーカアプリで使う
トチカはトチツーカアプリの中で使います。支払いは、加盟店に掲示された二次元コードをアプリで読み取るか、アプリに表示したコードを店舗に読み取ってもらう方式です。
利用者の操作は一般的なQRコード決済と大きく変わりません。トチカの利用額に応じてトチツーカポイントが0.50%付与されるため、利用者側にも使う動機が用意されています。
基本情報④:自治体ポイントトチポとの違い
トチツーカのアプリには、トチカのほかに自治体が発行するポイント「トチポ」があります。両者は同じアプリで扱えますが、発行主体と換金の可否が違います。

| 項目 | トチカ | トチポ |
|---|---|---|
| 性質 | 預金型ステーブルコイン(1トチカ=1円) | ポイント(1トチポ=1円相当) |
| 発行主体 | 北國銀行 | 自治体 |
| 使える店舗 | トチツーカ加盟店 | 当該自治体内の加盟店 |
| 換金 | 可能 | 不可 |
トチカは銀行預金を決済に使える形にしたもので、トチポは自治体の施策で配るポイントです。社内で説明するときは、この2つを分けて話すと誤解が起きにくくなります。
北國銀行がトチカを発行した背景
北國銀行は、決済手数料の負担でキャッシュレス決済を導入していない事業者や、紙ベースの地域の商品券事業にトチツーカを活用すると説明しています。トチカの発行は、地域の決済と地域通貨事業の両方をデジタルに移す取り組みの一部です。

発行の理由①:中小店舗の決済手数料負担
石川県内にも、決済手数料が負担になってキャッシュレス決済を入れていない店舗があります。北國銀行はトチカの加盟店手数料を税込0.5%とし、「国際的にも最低水準」と表記しました。
手数料が低ければ、利益率の薄い小規模店舗でもキャッシュレス決済を受け付けやすくなります。トチカは、こうした店舗にデジタル決済を広げる入口として設計されています。
発行の理由②:紙の地域振興券の運用負担
自治体の商品券やポイント事業は、紙やシールで配ると印刷、配布、換金の事務が発生します。珠洲市は2023年10月、自然共生ポイント制度のポイントをシール配布から「珠洲トチポ」へ移しました。

ポイントをアプリで配れば、自治体は配布と精算の事務を減らせます。同じアプリで預金型のトチカも使えるため、住民は一つのアプリで自治体ポイントと日常の支払いをまとめて扱えます。
発行の理由③:地域内でお金を循環させる
トチツーカの加盟店は、主に石川県内の店舗で構成されています。トチカで支払われたお金は地域の加盟店の売上になり、県内での消費が県外の決済事業者に流れにくくなります。
北國銀行は、トチツーカを地域のデジタルシフトを進める手段と位置付けています。地域経済の支援と決済事業を一体で進められる点が、地域金融機関が発行主体になる意味です。
発行の理由④:全国の地域で相互に使える基盤づくり
北國銀行は、石川県外では他の金融機関による預金型ステーブルコインの発行に協力すると発表しました。自行の地域通貨で終わらせず、同じ基盤を他地域の金融機関も使える形にする構想です。
地域ごとに別々の仕組みを作ると、利用者も加盟店も地域をまたいで使えません。共通の基盤に複数の金融機関が乗る形にすれば、地域通貨同士の相互利用が設計しやすくなります。
預金型ステーブルコインと他方式の違い

預金型ステーブルコインは、銀行が預金として発行するデジタル通貨です。日本では、一部のステーブルコインを資金決済法上の「電子決済手段」として扱う枠組みが設けられています。トチカは北國銀行の預金であり、電子決済手段とは別の枠組みで発行されています。
電子決済手段の枠組みは、2022年6月に成立した改正資金決済法で整備され、2023年6月1日に施行されました。2026年6月1日には、裏付け資産の管理を厳しくするなどの追加改正も施行されています。
| 方式 | 発行主体 | 法的な扱い | 代表例 | 償還 |
|---|---|---|---|---|
| 預金型 | 銀行 | 銀行預金 | トチカ | 登録した預金口座へ換金 |
| 資金移動業型 | 資金移動業者 | 電子決済手段 | JPYC | 発行体が償還 |
| 信託型 | 信託銀行など | 電子決済手段 | JPYSC | 発行体が償還 |
| CBDC | 中央銀行 | 中央銀行が発行する通貨 | 方式の一般説明のため省略 | 制度設計による |
違い①:発行主体と法的な扱い
預金型は銀行が発行し、法的には預金として扱われます。資金移動業型のJPYCは、関東財務局に資金移動業者として登録したJPYC株式会社が発行し、資金決済法上の電子決済手段に当たります。
信託型の例は、SBI新生信託銀行が2026年6月に提供を始めたJPYSCで、利用はSBI VCトレードの口座内に限られます。発行主体が違えば適用される法律も違い、自行で出す場合の免許や登録の要否も変わります。
違い②:預金保険との関係
北國銀行の商品説明書には、トチカは決済性預金として預金保険制度の保護対象と記載されています。同じアプリで扱うトチツーカポイントは対象外です。

電子決済手段の場合は、発行体が裏付け資産を保全する仕組みで利用者を守ります。JPYCは日本円の預貯金と国債で発行残高の100%以上を保全すると公表しています。利用者保護の仕組みが方式ごとに異なる点は、社内説明でも押さえておきたい違いです。
違い③:使える範囲と送金の上限
トチカを使えるのはトチツーカの加盟店で、利用者は提携金融機関と預金取引がある日本居住の個人です。チャージと支払いには1日50万円・1か月100万円の上限があります。

JPYCは発行と償還で1回あたり上限100万円・下限3,000円を設けています。預金型は地域の加盟店網の中での日常決済に向き、電子決済手段はブロックチェーン上で広く流通させる用途に向くという違いがあります。
違い④:他方式との交換
トチカは現時点で、北國銀行などの提携金融機関の口座との間でだけ出し入れできます。JPYCなど他のステーブルコインと直接交換する仕組みは、共同検討の段階です。
北國銀行、DP、JPYC社は2024年5月に、トチカでJPYCを購入できるようにする共同検討を始めました。方式をまたぐ交換が実現するかは、預金型の使い道を広げるうえでの大きな論点です。
トチカの使い方と利用条件
トチカの利用は、アプリの登録から換金まで6つの手順で進みます。

- トチツーカアプリをスマートフォンに入れる
- マイナンバーカードの署名用電子証明書で本人確認をする
- 提携金融機関の預金口座を登録し、トチカ口座を開設する
- 登録口座からトチカをチャージする
- 加盟店で二次元コードを読み取るか提示して支払う
- 必要に応じて登録口座へ換金する
| 区分 | 条件(2026年3月2日時点の商品説明書) |
|---|---|
| チャージ | 1,000円以上1円単位。1回・1日50万円、1か月100万円まで。手数料無料 |
| 支払い | 1回・1日50万トチカ、1か月100万トチカまで |
| 残高 | 100万トチカまで |
| 換金手数料 | 当月初回無料、2回目以降110トチカ |
利用条件①:対象者と本人確認
トチカを使えるのは、提携金融機関と預金取引がある日本居住の個人です。口座開設には、マイナンバーカードを読み取れるスマートフォン、マイナンバーカードと署名用電子証明書の暗証番号、メールアドレス、提携金融機関の口座情報が必要です。
開設時には所定の審査があります。申し込みはアプリで行い、本人確認はマイナンバーカードで行う設計です。北國銀行の窓口で確認を求められる場合もあります。
利用条件②:チャージと上限額
チャージは1,000円以上1円単位で、上限は1回・1日あたり50万円、1か月あたり100万円です。回数に制限はなく、チャージ手数料はかかりません。

残高の上限は100万トチカで、トチカに利息は付きません。発行時は北國銀行の口座保有者に限られていましたが、2026年3月時点では北國銀行以外の提携金融機関からもチャージできるようになっています。
利用条件③:店舗での支払い
支払いは加盟店の二次元コードを読み取るか、アプリのコードを店舗に提示して行います。上限は1回・1日あたり50万トチカ、1か月あたり100万トチカです。
毎週月曜の深夜2時から5時は全機能が停止します。日常の買い物で使う範囲なら一般のQRコード決済と同等の使い勝手で、違いは発行主体と裏付けにあります。
利用条件④:換金と手数料
トチカは、連携済みの提携金融機関の口座へ換金できます。北國銀行の口座へは即時、他の金融機関の口座へは翌営業日に入金されます。
換金手数料は当月初回が無料で、2回目以降は1回110トチカです。月に何度も換金する使い方では手数料がかかるため、利用者は換金の回数をまとめると負担を抑えられます。
加盟店と地域にとってのメリット
石川県が発行主体の「いしかわトチポ」は2025年2月に始まり、北國銀行の公表では石川県内全域の2,000店舗以上のトチツーカ加盟店で使えました。自治体の施策と銀行の決済を同じアプリに載せた事例として、加盟店と地域のメリットを見ていきます。

メリット①:決済手数料0.5%
トチカの加盟店手数料は税込0.5%です。この水準は2024年の発行時から、DPの2025年11月の発表まで同じ値で公表されています。
手数料率が低いほど、少額の買い物が多い店舗の負担は小さくなります。キャッシュレス決済を手数料の理由で見送ってきた店舗にとって、導入の判断材料になる数字です。
メリット②:専用端末に頼らない受付
トチカの支払いは、店舗に掲示した二次元コードを利用者が読み取る方式に対応しています。

北國銀行は2025年7月、Soft Space社と、国際ブランドのタッチ決済とトチカ決済に対応する専用端末不要のSoftPOSの共同開発に着手しました。Androidのスマートフォンなどで受け付ける仕組みで、提供開始は2025年度中の予定と発表されました。
メリット③:自治体ポイントと組み合わせた販促
いしかわトチポは換金できないポイントで、トチカとの合算払いができます。自治体が配ったポイントと住民の預金を一度の支払いで使えるため、自治体施策がそのまま加盟店の売上につながります。

自治体にとっては、ポイントの配布と利用の記録をアプリ上で把握できます。紙の商品券のような印刷や回収の事務が要りません。
メリット④:売上の入金と現金管理の手間の削減
トチカの支払いはアプリ上で完結し、店舗は現金を受け取りません。現金での支払いが減れば、釣り銭の準備や売上金の入金作業も減ります。
小規模店舗ほど、こうした日々の事務の負担は大きくなります。加盟店への入金の時期や方法は、加盟時の条件として事前に確認しておく項目です。
トチカの発行後の展開と現状

トチカは2023年の自治体ポイントから始まり、預金型の発行、他方式との連携の検討へと段階的に広がっています。主な出来事を時系列で並べます。
| 時期 | 出来事 | 主体 |
|---|---|---|
| 2023年10月 | トチツーカ開始、珠洲トチポ提供開始 | 北國銀行・珠洲市・興能信用金庫・DP |
| 2024年4月 | 預金型ステーブルコイン「トチカ」提供開始 | 北國銀行・DP |
| 2024年5月 | トチカでJPYCを購入可能にする共同検討を開始 | 北國銀行・DP・JPYC社 |
| 2025年2月 | いしかわトチポ提供開始 | 石川県・北國銀行・DP |
| 2025年7月 | トチカ対応のSoftPOS共同開発に着手 | 北國FHD・北國銀行・Soft Space社 |
| 2025年11月 | JPYCとトチカの相互連携の共同検討を開始 | DP・JPYC社 |
展開①:トチツーカとトチポの開始
トチツーカは2023年10月2日、北國銀行、珠洲市、興能信用金庫、DPの共同で始まりました。最初に提供されたのは、珠洲市が発行する珠洲トチポです。
珠洲トチポは1トチポ=1円で、珠洲市内の加盟店で使えます。自治体ポイントで利用者と加盟店の基盤を先に作ったことが、翌年のトチカ発行の土台になりました。
展開②:トチカの発行開始
2024年4月1日、北國銀行は発行主体としてトチカの提供を始めました。北國銀行の注記によれば、ブロックチェーンを利用した預金資産を裏付けとするデジタルマネーとして、2024年4月時点で日本初です。
発表時点では、県内に利用者を持つ他の金融機関の口座からのチャージ連携と、個人間送金機能の実装を進める計画も示されました。2025年2月の発表では、北國銀行はこの2つについて実装を進めている段階と説明しています。
展開③:JPYCとの交換の共同検討
2024年5月23日、北國銀行、DP、JPYC社は、トチカでJPYCを購入できるようにする共同検討を始めました。将来の展望として、JPYC社が開設予定の取引所で各種の電子決済手段へ交換する構想も掲げています。
JPYCは2025年10月27日に発行が始まりました。2025年11月18日にはDPとJPYC社が、JPYCとトチカの相互連携に加え、地方金融機関がJPYCの発行と償還を担うモデルの共同検討を始めています。
展開④:他金融機関への広がり
2026年3月時点の商品説明書では、トチカのチャージ元は北國銀行以外の提携金融機関に広がり、提携先は今後順次拡大する予定とされています。発行時の「北國銀行の口座保有者に限る」条件から一歩進みました。

DPとJPYC社の検討では、店舗のJPYC決済の手数料やスキーム、円預金とJPYCの連携、国内外の送金も論点に挙がっています。預金型は単独の地域通貨ではなく、他行や他方式とつながる前提で設計が進んでいます。
金融庁・SMBC・JPYC・Circleなどが登壇したJapan Stablecoin Summit(Pacific Meta主催)でも、発行形態の異なるステーブルコインをどう組み合わせて使うかが論点になりました。Pacific Metaは、こうした発行や決済の事業設計をステーブルコイン事業の支援内容として整理しています。
トチカに関するよくある誤解
トチカは新しい仕組みのため、暗号資産や一般のポイントと混同されやすい面があります。よく見かける説明と実際を対にして整理します。

| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 暗号資産と同じもの | 北國銀行の預金で、1トチカ=1円で換金できる |
| 誰でも全国どこでも使える | 提携金融機関と取引がある個人が、トチツーカ加盟店で使う |
| ブロックチェーンなら何でも安全 | 発行体、委託先、システムのリスク管理が別に要る |
| 銀行なら自由に発行できる | 預金の枠組みで出すか、電子決済手段で出すかで制度が変わる |
誤解①:暗号資産と同じもの
トチカはブロックチェーン技術で発行されますが、法的には北國銀行の預金です。価値は1トチカ=1円で固定され、値上がりや値下がりはしません。
暗号資産は市場で価格が決まり、交換業者を通じて売買します。トチカはアプリでチャージして支払いに使い、登録口座へ戻すだけの仕組みです。
誤解②:誰でも全国どこでも使える
トチカを使えるのは、提携金融機関と預金取引がある日本居住の個人です。支払いに使えるのもトチツーカの加盟店に限られます。
加盟店は主に石川県内の店舗です。全国で使える決済手段になるかどうかは、他の金融機関や他方式との連携がどこまで進むかで決まります。
誤解③:ブロックチェーンなら何でも安全
ブロックチェーンは記録の改ざんを防ぐ仕組みですが、それだけでサービス全体が安全になるわけではありません。アプリ、本人確認、基盤を運用する委託先、口座連携の各所に別々のリスクがあります。
トチカの場合も、基盤はDPが提供し、発行と預金の管理は北國銀行が担います。技術とは別に運用と委託先の管理が問われます。
誤解④:銀行なら自由に発行できる
銀行が預金型で発行する場合でも、預金としての管理、本人確認、マネーロンダリング対策など銀行に求められる義務がそのまま適用されます。電子決済手段として発行するなら、資金決済法の枠組みに沿った別の手続きが要ります。
どの形態で出すかの判断は、自行の業務範囲と当局との確認を踏まえて決める論点です。個別のスキームが登録や認可を要するかは、弁護士や当局への事前相談で確認するのが前提です。
預金型ステーブルコインの課題とリスク
預金型ステーブルコインには、銀行預金の仕組みを使う安心感がある一方で、方式固有の課題があります。リスクは5つの種類に分けて確認します。

リスク①:発行体リスク
預金型の価値は、発行する銀行の信用に依存します。トチカは預金保険制度の保護対象とされていますが、保護には上限があり、発行体の経営状況は利用者と加盟店の双方に影響します。
地域金融機関が発行する場合、利用者は地域に集中します。発行体の信用と地域経済の状況が連動しやすい点は、地域通貨ならではの論点です。
リスク②:準備資産リスク
預金型は銀行のバランスシートの中で管理されるため、電子決済手段のように裏付け資産を別に保全する仕組みとは異なります。電子決済手段では、JPYCのように預貯金と国債で発行残高の100%以上を保全する形が採られています。
自行で発行する場合は、トチカ残高が預金としてどう管理されるかを、利用者に説明できる形で示すことが求められます。
リスク③:規制リスク
ステーブルコインの制度は改正が続いています。2023年の電子決済手段の枠組み創設に続き、2026年6月には追加の改正が施行されました。
預金型で始めても、他方式との交換や送金機能を足すと、別の制度が関わる可能性があります。預金型と電子決済手段では適用される制度が違うため、機能を足すたびに制度上の整理を見直す体制が要ります。
リスク④:スマートコントラクトとシステムのリスク
トチカの基盤は、DPが提供するブロックチェーンです。基盤の障害や不具合は、アプリでの支払いや換金に直接影響します。
トチカは毎週月曜の深夜に全機能を停止する時間帯を設けています。停止時間や障害時の代替手段を加盟店にどう伝えるかも、設計に含める論点です。
リスク⑤:カウンターパーティーリスク
トチカは、北國銀行、DP、提携金融機関、加盟店がつながって成り立っています。どこか一社の業務が止まると、チャージや換金が滞ります。
チャージ元は北國銀行以外の提携金融機関に広がりつつありますが、提携先が増えるほど連携先の管理も増えます。導入の難所は技術より、利用範囲と相互運用性、委託先管理の設計にあります。
地域金融機関が預金型ステーブルコインを検討する進め方
最初に決めるのは、発行形態と用途です。トチカの事例は、自治体ポイントで利用者と加盟店の基盤を作り、その上に預金型の決済を載せ、他方式との連携へ進む順序をとりました。

進め方①:用途と対象地域を決める
まず、何の決済に使うかと、どの地域で使うかを決めます。地域の店舗での日常決済なのか、自治体の給付やポイント事業なのか、企業間の決済なのかで、必要な機能と加盟店の集め方が変わります。
トチカは、石川県内の店舗での支払いと自治体ポイントを組み合わせる用途から始めました。用途が決まらないまま技術選定に進まないことが、検討を止めないための前提です。
進め方②:発行形態を選ぶ
次に、預金型で出すか、電子決済手段として出すかを選びます。預金型は既存の預金の枠組みと預金保険を使えますが、使える範囲は自行と提携先の口座網に依存します。
電子決済手段は流通範囲を広げやすい一方、資金決済法の別の枠組みに沿った体制が要ります。法務、企画、システムの各部門で前提をそろえてから比較します。
進め方③:自前基盤か既存基盤かを決める
北國銀行はDPの基盤を使い、自らはファーストユーザーとして全国の地域で相互に使える環境を目指しました。自行で基盤を作るか、他行と共通の基盤に乗るかで、費用と期間と相互運用性が大きく変わります。

共通基盤に乗れば、他地域の金融機関との相互利用を設計しやすくなります。自前で作る場合は、将来の他行連携の受け口を最初から設計に入れておく必要があります。
進め方④:自治体・加盟店との体制を組む
地域通貨は、利用者と加盟店が揃わなければ使われません。トチツーカは珠洲市、興能信用金庫、石川県と組み、自治体のポイント事業から利用者を集めました。
加盟店には手数料、入金のタイミング、受付方法を具体的に示します。自治体の施策と加盟店開拓を同時に進める体制が、立ち上げの成否を分けます。
進め方⑤:将来の接続先を設計する
最後に、他方式や他行とどうつなぐかを決めます。トチカはJPYCとの交換や、地方金融機関がJPYCの発行と償還を担うモデルの共同検討に進んでいます。

将来は、AIエージェント(人の代わりに支払いを実行するソフトウェア)が決済の主体になる場面も想定されます。人の買い物だけでなく、機械同士の少額決済にも使える設計にしておくと、後から接続先を広げやすくなります。Pacific Metaは2026年4月に、ステーブルコイン決済とAIエージェント決済の導入支援を始めています。
| 検討の目的・論点 | 確認すること | 確認先 | 完了の判定 |
|---|---|---|---|
| 用途と対象地域 | 対象の決済、地域、利用者層、想定する加盟店数 | 自治体、地元商工団体 | 用途と対象地域を1枚の企画書で説明できる |
| 発行形態と法的整理 | 預金型か電子決済手段か、必要な免許や登録 | 法務部門、弁護士、金融当局 | 採る形態と根拠条文を社内で合意している |
| システム基盤と委託先 | 自前か共通基盤か、委託先の管理体制、停止時の対応 | システム部門、基盤提供事業者 | 委託先の評価と障害時の手順が文書化されている |
| 自治体・加盟店との体制 | 手数料、入金タイミング、受付方法、ポイント施策の分担 | 自治体、加盟店候補 | 自治体と加盟店に示す条件が確定している |
| AML・本人確認 | 本人確認の方式、取引モニタリング、上限額の設定 | コンプライアンス部門 | 上限額とモニタリングの基準が決まっている |
| 他方式との接続 | 他行や電子決済手段との交換の可否、送金機能 | 提携候補の金融機関、発行体 | 接続の順序と時期の見通しを示せる |
預金型で出すか電子決済手段で出すか、自前で基盤を作るか共通基盤に乗るかは、法務、システム、営業の各部門の前提が絡み合う判断です。自治体や加盟店との条件も同時に決める必要があり、一つの部門だけでは結論を出しにくい論点です。発行形態と事業設計を並べて比べたい場合は、支援内容で検討の進め方を確認できます。
Pacific Metaのサービス
ステーブルコイン事業を構想から実装・運用まで。
自社でもステーブルコインを保有・運用し、決済まで実践しています。要件が固まっていない段階のご相談も歓迎です。
ステーブルコイン導入支援の詳細を見る北國銀行のステーブルコインに関するよくある質問
北國銀行の口座がなくてもトチカは使えますか
2026年3月時点の商品説明書では、北國銀行以外の提携金融機関と預金取引がある個人も使えるとされています。発行時は北國銀行の口座保有者に限られていました。提携金融機関は今後順次拡大する予定です。
トチカは預金保険の対象ですか
北國銀行の商品説明書では、トチカは決済性預金として預金保険制度の保護対象と記載されています。同じアプリで付与されるトチツーカポイントは対象外です。
他の銀行も同じ仕組みを使えますか
北國銀行は石川県外の金融機関による預金型ステーブルコインの発行に協力すると発表しています。DPとJPYC社も、地方金融機関との業務提携モデルの共同検討を2025年11月に始めました。
トチカとJPYCは交換できますか
2024年5月にトチカでJPYCを購入できるようにする共同検討が始まり、2025年11月には相互連携の検討も始まりました。交換の開始時期は公表されておらず、共同検討の段階です。
北國銀行のステーブルコインのまとめ
トチカは、北國銀行が預金を裏付けに発行する1トチカ=1円のデジタル通貨で、電子決済手段とは別の預金の枠組みで動いています。加盟店手数料は税込0.5%で、自治体ポイントのトチポと同じアプリで使える点が地域での広がりを支えています。

発行から2年半で、チャージ元は他の提携金融機関へ広がり、JPYCとの連携の検討も進みました。預金型は他行や他方式とつながる前提で設計が進んでいます。
自行や自地域で同様の仕組みを検討するなら、用途、発行形態、基盤、自治体や加盟店との体制を一度に決める必要があります。どの組み合わせが自地域に合うかは制度と実装の両方を見ないと判断できず、社内の検討が形態の比較で止まりやすいところです。