自由民主党の「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」は、2026年5月19日に次世代の金融インフラ整備に向けた提言を公表しました。この提言は、AIとブロックチェーン(オンチェーン)の融合により、決済や融資などの自動化、連結化、24時間365日化が実現する未来の社会像を描いています。国内の金融主権や通貨主権の確保に加え、決済を起点とした銀行の「プラットフォーマー化」を掲げ、金融を新たな成長産業として位置づける方針が示されています。
AIとブロックチェーンがもたらす次世代金融の全体像
今回の提言の最大の目的は、ステーブルコイン(法定通貨などと価値が連動するデジタル通貨)、トークン化預金、RWA(現実資産。不動産や売掛債権などの現実世界の資産)のトークン化など、各企業が個別に取り組んでいる技術やサービスの全体像を提示することにあります。AIとオンチェーン金融がシナジーを生み出すことで、契約や配送、決済が自動で連動する新しい世界観が示されました。
自民党PTの座長を務める木原誠二衆議院議員は、金融を単なる成長のインフラにとどめず、それ自体が新しい産業を生み出す「成長産業」として位置づけています。提言では、伝統的な金融システムと新しいオンチェーンシステムとの間で発生する「二重投資」の問題を国がサポートしていく必要性を指摘し、金融を「18番目の成長投資分野」とすることを掲げています。
金融主権の確保とデジタル人民元への対抗を視野に入れたアジア連携
提言の背景には、急速に進展する世界のオンチェーン化に対する強い危機感があります。2026年3月末に日本の代表的な商社が、米金融大手のJPモルガンが提供するオンチェーン決済サービスを利用して国際送金を行ったニュースが、提言の取りまとめを急ぐ直接のきっかけとなりました。海外の巨大な決済プラットフォームに日本企業が依存するようになれば、国内からの預金流出や銀行の信用創造機能の低下、さらには日本の金融主権や通貨主権が脅かされる懸念が生じるためです。
この課題に対し、日本円ベースのステーブルコインやトークン化預金を整備するとともに、アジア諸国との連携を強化することが重要視されています。アジアでは貿易決済において日本円が半分近くを占めるなど、日本はリアルな世界での強みを持っています。提言では「AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み(仮称)」の創設を掲げており、量子暗号通信との組み合わせで脅威となり得る「デジタル人民元」に対抗し、アジアの国々に新たな選択肢を提供することを狙いとしています。
銀行の「プラットフォーマー化」と今後のロードマップ
提言では、銀行の従来の役割を大きく変革し、預金や融資、決済といった機能の提供にとどまらず、商取引契約や配送、貿易における船荷証券などの実務をオンチェーンで一体的に提供する「プラットフォーマー」への進化を促しています。これにより、自社でのオンチェーン化が難しい中小・零細企業でも、銀行のサービスを通じてその恩恵を享受できるようになるとされています。
今後の具体的なスケジュールとして、本提言は2026年6月に策定される「骨太の方針2026」に盛り込まれる見通しです。さらに、予見可能性を確保するために政府が五カ年計画のようなロードマップを作成することを期待しています。また、オンチェーン決済を完結させるために不可欠な「日本銀行当座預金のトークン化対応」については、年内に論点を整理し、一定の方向性を示すことを政府や関係当局に求めています。
ポイント
- 自民党のプロジェクトチームが、AIとブロックチェーンを融合させた次世代金融インフラの整備に向けた提言を公表しました。
- 海外の決済プラットフォームへの依存による預金流出や金融主権の低下を防ぐため、円ベースのステーブルコインやトークン化預金の早期整備が重要とされています。
- 決済や送金を起点に、商取引や物流、貿易実務をオンチェーンで一体提供する銀行の「プラットフォーマー化」を提唱し、金融を成長産業へと変革することを目指します。
- アジア地域における日本円の強みを活かし、「AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み(仮称)」の創設などを通じた主導権の確保や、デジタル人民元への対抗を視野に入れています。
- 2026年6月の「骨太の方針2026」への反映を予定しており、日銀当座預金のトークン化対応については年内の論点整理と方向性の提示を求めています。