全米経済研究所(NBER)が公表した研究論文によると、分散型金融(DeFi)に預け入れられたステーブルコインは、米国債市場と連動する安全資産としての性質を強めていることが分かりました。投資家はオンチェーン上で迅速に運用できる「通貨に近い金融商品」としてステーブルコインを活用しており、伝統金融と暗号資産市場の統合が進んでいることが示されています。一方で、ハッキングやスマートコントラクトの脆弱性といった暗号資産特有のリスクや市場の混乱が、流動性の脆弱さにつながる懸念も指摘されています。
米国債供給の減少とステーブルコイン需要の連動性
全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー「Demand for Safety in the Crypto Ecosystem」の分析によると、米国債への需要が高まり投資家のリスク回避姿勢が強まる局面では、暗号資産エコシステム内でも安全性と流動性の高い資産を求める動きが強まることが明らかになりました。実証分析では、米国債プレミアムが1標準偏差上昇するとステーブルコイン預金のプレミアムが約0.63ポイント上昇し、米国債の供給量が1標準偏差減少するとステーブルコインのプレミアムが約0.73ポイント上昇すると推計されています。
また、業界データによると、ステーブルコインの総供給量は2026年5月に約3220億ドルでピークに達した後、3000億から3120億ドル程度で推移しています。USDTとUSDCが全体の約83%を占めており、調整後の月間取引高は約1兆8000億ドルに達しています。2026年の主要プロトコルにおけるレンディング利回りは2から4%程度まで低下しており、同期間の短期米国債利回りを下回るケースも見られますが、これは投資家がリターンの最大化よりも流動性や安全性を優先している姿勢を表していると見られます。
暗号資産エコシステムに潜む流動性の脆弱性と課題
米国債市場との関連性は、AaveやCompoundといった長期間の運用実績を持つ大規模なプロトコルや、Ethereumなどの成熟したブロックチェーンで特に強く表れています。しかし研究者らは、政府が発行する米国債とは異なり、ステーブルコイン預金にはスマートコントラクトの脆弱性悪用、オラクル障害、ガバナンス攻撃、ディペッグなどの本質的なリスクが存在すると警告しています。
実際、Terraの崩壊やFTXの破綻といった重大な混乱が発生した際には、米国債市場とステーブルコイン預金の間の強い連動性が大幅に弱まることが確認されています。例えば2026年4月18日にKelp DAOでエクスプロイト(脆弱性の悪用)が発生した際、DeFiレンディングプロトコルのAaveでは総供給額が458億ドルから4月28日までに257億ドルへ減少しました。その後の復旧対応を経ても、8月7日時点の総供給額は264億ドルにとどまり、事故前の水準を約200億ドル下回っています。DeFi全体の預かり資産総額(TVL)も、2025年10月の1660億ドルから55%減少して750億ドルまで落ち込んでおり、市場の安定性が課題とされています。
ポイント
- DeFi上のステーブルコイン預金は、米国債市場の状況と連動して安全性や流動性を確保する「デジタル安全資産」として機能していることがNBERの研究で示されました。
- 米国債の供給量が減少すると、暗号資産市場の需要が高まり、ステーブルコイン預金のプレミアムが上昇する波及効果が確認されています。
- 投資家が利回りよりも流動性や安全性を重視する傾向を強めており、USDTとUSDCが供給量の約83%を占めるなど主要ステーブルコインへの集中が進んでいる点で注目されます。
- 一方でスマートコントラクトの悪用やハッキングなどのリスクが顕在化すると連動性が弱まり、資金流出が生じるという暗号資産特有の脆弱性が浮き彫りになっています。