2026年5月24日、東京の恵比寿にて開催されたイベントOrbsCafe Tokyo Special 2026において、パネルディスカッション暗号資産交換所のリアルと未来が行われました。本セッションでは、日本の暗号資産市場が直面する金融商品取引法(金商法)への移行、日本版ビットコイン上場投資信託(ETF)の議論、そしてステーブルコインの決済利用といった主要テーマについて、国内取引所の関係者が議論を交わしました。暗号資産が単なる投機対象から金融や決済のインフラとして再定義される中、業界が抱える可能性と実務における課題が浮き彫りとなっています。
金商法移行がもたらす市場活性化の期待と情報開示の課題
現在、日本の暗号資産は資金決済法に基づいて規制されていますが、投資対象としての性格が強まっているのが実態です。モデレーターを務めたXWIN Group代表の荒澤文寛氏は、今後はインサイダー規制や情報開示義務など、株式市場に近いルールが求められる方向性を整理しました。
これに対し、OKJマネージングディレクターのSunny Wang氏は、金商法への移行はユーザー目線で非常にポジティブであると述べました。その最大の理由として税制を挙げ、現在は総合課税である暗号資産が将来的に分離課税化されれば、株式と同じ感覚で投資しやすくなり、取引所のユーザー増加にもつながるという期待を示しました。
一方で、新たな課題として情報開示責任の所在が挙げられています。株式市場とは異なり、暗号資産市場ではコミュニティ主導のプロジェクトや発行主体が曖昧なミームコインなども存在するため、それらに対してどこまで開示義務を求められるかは非常に難しい問題であるとSunny Wang氏は指摘しました。なお、BitTradeマーケット運用部顧問のKB氏(小林大輔氏)は、自社が第一種金融商品取引業ライセンスをすでに保有していることから、金商法移行の流れに向けた準備を進めていることを説明しました。
日本版ビットコインETFとステーブルコインが拓く新たな金融・決済インフラ
米国で巨額の資金流入を記録しているビットコインETFについて、日本での実現は既存金融資産の流入を促す契機として期待されています。Sunny Wang氏は、ETFが実現すれば保険会社や年金資金などの大規模な機関投資家がポートフォリオの一部をビットコインに振り向けることが可能になり、市場に大きなインパクトを与えると説明しました。ただし、その実現における最大のボトルネックとして、誰が暗号資産を安全に保管し責任を持つかというカストディ(保管)の問題を挙げています。KB氏も、ETFによって市場が一気にメジャー化し、既存の証券会社の参入が加速するとの見方を示しました。
また、もう一つの重要テーマであるステーブルコインについても具体的なユースケースが語られました。Sunny Wang氏は、USDCやUSDGなどの米ドル連動型ステーブルコインが国内で少しずつ活用され始めており、羽田空港での決済実験などを例に、決済領域での実用化が始まっていることを紹介しました。KB氏は、JPYCのような日本円連動型ステーブルコインが国内ビジネスで大きな可能性を秘めていると強調し、貿易や企業間決済、Web3決済といった送金インフラとしての役割が今後さらに拡大するとの見通しを示しました。
華やかなイメージの裏にある取引所運営と規制対応の現実
暗号資産取引所は自由で最先端な業界というイメージを持たれがちですが、実際には非常に緊張感のあるオペレーションと厳しいコンプライアンス対応が求められています。
OKJのSunny Wang氏は、世界中から日々サイバー攻撃を受けている環境だからこそ強固なセキュリティ体制を構築していると話し、取引コストの低さやステーキングサービスを強みとして挙げました。一方で、BitTradeのKB氏は、セキュリティにおいて事故を起こさないことがすべてであるとし、不要なSNS露出を避けるなど保守的な運営を徹底していることを明かしました。
両氏は、取引所で働く現実について、外から見る華やかさとは裏腹に実際は泥臭い業務が多いと口を揃えました。海外イベントではRWA(現実資産)やトークン化、銀行ライセンス、ステーブルコインへとトレンドが急速に変化している楽しさがある反面、広告の準拠対応や社内承認、資格取得、ガバナンス変更といった日々の細かい規制対応に追われている実態があります。また、業界がまだ成熟していないため少人数の現場で運用を回しており、張り詰めた状況で業務を行っているリアルな現状が語られました。
ポイント
- 暗号資産の金商法移行は、分離課税化によるユーザー増加が期待される一方で、発行主体が曖昧なプロジェクトに対する情報開示責任の所在という課題があります。
- 日本版ビットコインETFの実現は大規模な機関投資家マネーの参入を促す可能性がありますが、安全な保管を担うカストディ体制の整備がボトルネックとなっています。
- 米ドル連動型のUSDCやUSDG、日本円連動型のJPYCなどのステーブルコインは、決済や送金インフラとして国内での実用化と今後の可能性が期待されています。
- 最先端のイメージとは異なり、取引所の現場は世界中からのサイバー攻撃への対処や厳密なコンプライアンス対応、少人数での運営といった泥臭い実務に支えられています。